ロアルド・ダール「キス・キス」

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文法力をつけたいが、無味乾燥な文法書など読みたくない。
 そんな読者のために、人気小説の翻訳書にみる誤訳をとりあげ、文法面から解説してゆく。題材は最近映画化された『チョコレート工場』の原作者で、日本がロケ地になった映画『007は二度死ぬ』の脚本家でもあるロアルド・ダール(Roald Dahl)の短編集『キス・キス』(KISS KISS)。全11編を丁寧に点検してゆく。俎上にのせる邦訳は開高健・訳『キス・キス』(早川書房)。
 冒頭に誤りの種別と誤訳度を示したうえ、原文と邦訳、誤訳箇所を掲げます。どう間違っているのか見当をつけてから、解説を読んでください。パズルを解く気分で、楽しみながら英文法を学びましょう。
誤訳度:*** 致命的誤訳(原文を台無しにする)
    **  欠陥的誤訳(原文の理解を損なう)
    *   愛嬌的誤訳(誤差で許される範囲)
第一回 『女主人』The Landlady その@
            by柴田耕太郎
 [ストーリー]
 バースの町に赴任した青年ビリーは、ちよっとかわった中年婦人の家に下宿する。ほかにも二人下宿人がいるはずなのに、その気配がない。女主人との会話の中で、何年か前に失踪した学生たちとこの二人に共通項があるのに気づく。女主人を問い詰めようとすると、飲んだばかりの紅茶のせいか、意識が朦朧としてきた…。
・イディオム:*
…it was about nine o’clock in the evening and the moon was coming up out of a clear starry sky over the houses opposite the station entrance.
(バス駅へ着いた時にはもう)夜の九時、駅の出口の、向い側に並んだ家々のかなたから澄み切って星星の輝く夜空へと、月が上ってゆく所だった
[解説]
「家々のかなたから…夜空へと」では、家並のずっと奥から夜空目指して月が出てくる、みたいだ。
overは、「全面的に覆って」の意味の前置詞。芝居の書割のような家並みの上に大きく夜空が広がっている様が感じられる。
come upは、「(太陽・月が)上る」の意味もあるが、ここは次のout of 「(運動・位置)中から外へ」と合わさり、「浮かび出る」ととるのが順当。「屋根の連なりの上に広がる夜空、その中から月がグイっと浮き出そうとしている」のだ。
直訳「家々を覆う、星いっぱいの澄んだ夜空で、月がグイっと浮き出ようとしているところだった」
意訳「家々のうえに広がる澄み切った夜空に月がぽっかりと浮かんでいた
・冠詞:**
Briskness, he had decided, was the one common characteristic of all successful businessmen.
てきぱきした態度こそは、成功した実業家すべてに共通した、ひとつの性格なのだと心に決めていた。
[解説]
one+名詞は、「ひとつの…」。the one +名詞は、「唯一の…」。これ、混同されがちだが、大きな違い。
「唯一の性格」
・副詞句:**
名詞句:*
Suddenly, in a downstairs window that was brilliantly illuminated by a street-lamp not six yards away, Billy caught sight of a printed notice propped up against the glass in one of the upper panes.
と、六ヤードも進まぬうちに、街灯にあざやかに照らされた、ある家の階下の窓、その上段の仕切りガラスにとめてある、印刷した文字が、ビリイの眼にとまった。
[解説]
not six yards awayは、副詞句でa street-lampを制限する。
「六ヤードと離れていない(ところにある)街灯に」
素人下宿がわざわざ「印刷した文字」を刷る必然性は感じられない。このa printed noticeは、「活字体の宣伝文」とととるのが自然。
・イディオム:*
He had stayed a couple of nights in a pub once before and he had liked it.
彼は前にも一晩か二晩、パブに泊まったことがあったが、それは悪くない経験だった。
[解説]
a couple of nightsは、二晩とは限らず「二、三の」「いくつかの」(四ぐらいまでの数字)の意味。「一晩か二晩」ではすこし足りない。
「何度か」
・名詞:**
The name itself conjured up images of watery cabbage, rapacious landladies, and a powerful smell of kippers in the living-room.
下宿屋という名前自身が、水っぽいキャベツや、強欲なおかみ、さては下宿人たちのものすごい臭いを彷彿とさせる。
[解説]
確かにkipperには「若僧、ガキ」という意味もあるが、並列の具合からして「ニシンの燻製の臭さ」(英国ではよく朝食に出る)ととるのが筋。
・名詞:***
The old girl is slightly dotty, Billy told himself. But at five and sixpence a night, who gives a damn about that?
このおばさん、少しおかしいな、とビリーは思った。一晩五シリング六ペンスだなんて、そんなバカな話がどこにある
自分にとってうれしいことに「バカな話」というのは日本語としていただけないが、まあ驚きの強調表現として許すとしても、原文と照らし合わせると流れを読み違えた誤訳であるのがわかる。
a damnは、名詞だが副詞的に働き、通常否定文で用いられ「少しも」「全然」の意味となる悪態表現。give a damnは、否定表現とともに用いられるイディオムで「全然気にかけ(ない)」。thatは、前文の内容をさす。tell oneselfは、イディオム「自分に言い聞かせる」。who以下は、反語。
全体の直訳:「このおばさん、少しおかしいな」とビリーは自分に言い聞かせた。「でも、一晩五シリング六ペンスという点において、一体誰がそのことについて気にかけるだろうか、いや気にかけはしない」
全体の意訳:「このおばさん、ちょっとおかしいな、とビリーは思った。でも一泊五シリング六ペンスだぜ、そんなことどうでもいいや。」
・仮定法:***
I should’ve thought you’d be simply swamped with applicants,’he said politely.
「泊る人が殺到してお困りなんじゃないかと思いましたが」と彼はていねいにいってみた。
[解説]
should have p.pは、(1)…すべきだったのに(過去の反実仮想) (2)…したことだろうに
(過去の仮定推量)で、ここは(1)。simplyは強調(=very)。
直訳「泊まりたい人が殺到するはずだと、思いやるべきでしたのに」
意訳「忙しくしてらっしゃるのに僕なんかが来てすみません」
・代名詞:*
And it is such a pleasure, my dear, such a very great pleasure when now and again I open the door and I see someone standing there who is just exactly right.
ときどき、扉をあけてみると、誰かがちゃあーんとそこに立っているのを目にした時は、そりゃあ、とてもうれしいの。
[解説]
someoneは、who以下で限定される要素を持つ「誰か」のことで、誰でもいいわけではない。justもexactlyも強調。rightは、「ふさわしい」「適切な」の意味。
直訳「(この家に)ぴったりふさわしい誰かが立っている」
意訳「思ったとおりの人がい(てくれ)る」
・動詞:*
I’ve put a water-bottle between the sheets to air them out, Mr Weaver.
わたし、空気を暖めるために、湯たんぽをシーツの間に入れときましたわ。
[解説]
air outは、「乾かす」。themは、sheets。「(シーツを)温めようとして」
第二回 『女主人』The Land Lady そのA
             by柴田耕太郎
[ストーリー]
 バースの町に赴任した青年ビリーは、ちょっとかわった中年婦人の家に下宿する。ほかにも二人下宿人がいるはずなのに、その気配がない。女主人との会話の中で、何年か前に失踪した学生たちとこの二人に共通項があるのに気づく。女主人を問い詰めようとすると、飲んだばかりの紅茶のせいか、意識が朦朧としてきた…。
・動詞:**
‘I’m so glad you appeared,’ she said, looking earnestly into his face. ‘I was beginning to get worried.’
 That’s all right,’ Billy answered brightly. ‘You mustn’t worry about me.’
「あなたが入ってくださって、うれしいわ」じいっと彼の顔をのぞきこみながら、彼女がいった。「そろそろ心配になっていた所だったんですの」
大丈夫ですよ」ビリーはほがらかに答えた。「ぼくのことなら、心配はいりません
[解説]
前のworriedは、形容詞「心配な」。後のworry aboutは、自動詞+前置詞「…を気にする」
ここ、おかみが「自分の家にふさわしい人がやってこないのではと、不安になりだしていたところへ、この家にぴったりのあなたが来た」とめぐり合わせをよろこんだのに対し、ビリーが謙遜し、「そんなことないですよ」(That’s all right.は、感謝・謝罪に答えていう言葉:どういたしまして、気にしないで、といったニュアンス)、さらに「あなたは僕のことを気にしてはいけない」→「僕は (来てくれるものかどうか) あなたが気をもむに値するほどの人間ではない」と答えたところ。この論理が通るように訳さねばならない。
意訳:「そんな」ビリーは明るく答えた。「僕でよかったんでしょうか」
・名詞:*
Everyone has to do that because it’s the law of the land, and we don’t want to go breaking any laws at this stage in the proceedings, do we?
ここらでは、それがきまりになってますので、誰でもそう願っていますのよ。わたしたち、たとえこんな形式みたいな法律でも、破りたくありませんもの、そうでしょ?
[解説]  
「訴訟手続きにおけるこの段階」と読んで、「こんな形式みたいな法律」の訳が出来たのだろうか?
at this stageは、「現段階では」。proceedingsは、(1)広くは「出来事」 (2)狭くは「訴訟手続き」。前後の流れから、ここは(1)で、theと限定される内容は、素人下宿関係のことと思われる。
「今こうした(仕事の)ことで法律を」
・形容詞:**
‘They sound somehow familiar’ he said.
They do? How interesting.’
「何か聞いたことのある名前ですね」と彼はいった。
そうお?それはすばらしいわ
[解説]
interestingは、他動詞の現在分詞形の形容詞で「人に興味を起させる」の意味。この「人」とは自分も含まれるわけだから、「あなたの言ったことは何とわたしに興味を起させることか」。doは代動詞(=sound)
直訳「そう聞こえます?興味深いことね」
意訳「あら、どうしてかしら」
・代名詞:***
‘I’m almost positive I’ve heard those names before somewhere. Isn’t that queer?…’
「どこかでこの名前を耳にしたことは、確かなんですが。変ですか?…」
[解説]
thatは、前の文全体を指す。これは相手に掛けているセリフで、反語になっている(変ではないですか、いや変です)。
「それっておかしくありませんか」
・固有名詞:*
Christopher Mulholland…wasn’t that the name of the Eaton schoolboy who was on a walking-tour through the West Country, and then all of a sudden …’
クリストファー・マルホランドと…ウェストカントリイを、ずっと徒歩旅行していて、突然いなくなった、あのイートン校の生徒じゃなかったっけ…
[解説]
「ウエストカントリイ」では地名みたいだ。the West Countryで、イングランド南西部地方を指す。語頭(w,c)の大文字が、固有名詞化の印になっている。
「西部地方」
・間投詞:**
‘Milk?’ she said. ‘And sugar?’
‘Yes, please. And then all of a sudden…’
「ミルクは」と彼女の声。「お砂糖は?」
「ええ、どうぞ。あの生徒は、突然いなくなって…」
[解説]
このpleaseは、相手に何かを勧める「どうぞ」ではない。お願いをしているのである。
「お願いします」または「すいません」。
・副詞:*
‘Eton schoolboy?’ she said. ‘Oh no, my dear, that can’t possibly be right because my Mr mulholland was certainly not an Eton schoolboy when he came to me.…
「イートン校の生徒ですって?」と彼女はいった。「いえいえ。ここへいらしたとき、マルホランドさんは確かにイートン校の生徒じゃありませんでしたもの、そんなはずはありませんわ。…
[解説]
not possiblyは、「先ず…でない」。日本語でも「そういうことは先ずないですね」と言った場合は、「絶対にない」の婉曲な言い方であるが、このnot possiblyも同じで内容的には「絶対に…ない」。これとcannnot+動詞「…のはずがない」が合わさったもの。
「どうしたってイートン校の生徒じゃありません」
・仮定法:***
‘That parrot,’ he said at last. ‘You know something? It had me completely fooled when I first saw it through the window from the street. I could have sworn it was alive.
「あのオウムですけど」と、とうとう彼は口をだした。
「どうでしょう?ぼくは窓からのぞいてみた時から、だまされてたような気がするんですが、あれ、生きてるんでしょう
[解説]
後半のセリフの訳全体が間違っている。You know something?は話を切り出す決まりきった言い方で、「あのね」「いいですか」。had fooledだから、「わたしを完全にだました」→「わたしはだまされた」のだ。この仮定法過去完了は、過去の仮定の推量「(人にあのオウムのことを生きているかどうかと問われていたら)生きていると誓ったことだろうに」
「いいですか。僕は窓から覗いたときすっかりだまされました。生きていると言われれば、そう信じたでしょう」
 第三回 『ウィリアムとメアリイ』William and Mary その@
                      by柴田耕太郎
[ストーリー]
ウィリアムはオックスフォードの哲学教授。癌に侵され、余命いくばくもなくなったとき、医師のランディに、脳だけを生かす実験に協力するよう頼まれる。これを受け入れる苦衷の決断をして死んでいったウイリアム。遺書で事の次第を読んだ妻のメアリイは、ランディ医師の病院に赴く。そこで彼女が見たものは…
・代名詞***
If this is about what I am beginning to suspect it is about, she told herself, then I don’t want to read it.
これが、どんなことを書いているのかしらとわたしが疑うようなものなら、と彼女はひとりごちた。わたしは読みたくない。
[解説]
下線部の意味が不明。原文を正確に読み取れないので、誤魔化したと思える訳文だ。whatをthe thing whichに置き換えた上で、二文に分解するとよくわかる。
This is about the thing. I am beginning to suspect that it is about the thing.となる。itは抽象性が高く、代名詞thisを受けるいわば代・代名詞(これはその事柄に関してのものだ。私はこれがその事柄に関してのものだとうすうす感じ始めている《ひょっとしたらそうかなと思っているまさにそのこと》)。suspectは、「(よくない事について)…だと思う」。こう理解した上で、自然な日本語にすればよい。なお、別項で触れるがtell oneselfは「自分に言い聞かせる」。
意訳「あのことだったらイヤだなと私が思っていることが書かれてあるのだったら、」
・間投詞*
Can one refuse to read a letter from the dead?
Yes.
Well
「死人の手紙を読むのを拒絶していいものかしら?
いいわ。
しょうがない…」
[解説]
ここだけでは分からないが、このあと、今でも夫の幻影に怯えることがあるとの叙述があって、ようやく手紙(遺書)を読もうとすることから、このwellは、ためらい、または思案を示しているものととるのがよいだろう。
「さて…」「でも…」
・形容詞**
…, every now and then a pair of eyes would glance up from the book and settle on her, watchful, but strangely impersonal, as if calculating something.
「…、ときたま二つの眼が書物から、油断なく、けれど何かを計算するかのように、異常なほど無関心にそそがれるのだった。」
[解説]
impersonalは「非人間的に」。無関心なのでなく、感情を殺している、その様が異常に思えるのだ。
意訳「おそろしく無機的に」
・形容詞**
Do not be alarmed by the sight of all this writing.
「この手紙を読んで、心配したりしてはいけない。」
[解説]
「心配」よりもっと強い。何しろ脳だけ生き永らえさせようという試みなのだから。
「驚いてはいけない」
・否定***
This, as I have already told you, is a very foolish attitude to take, and I find it not entirely an unselfish one either.
「これは、すでにお前にいったことだが、非常に愚劣な態度で、私が見るところ、他人に対してとるべき態度ではないと思う。」
[解説]
itは(your) attitude。oneはattitude。not eitherは、肯定文に続いて用いられる場合、前節を補強し「といっても…ではない」の意味になる。それに部分否定not entirely「全く…というわけではない」が重なったもの。findは「気づく」「認識する」の意。
全文直訳「これは、私が既にお前にいったように、とるにはとても愚かな態度であり、といっても私はその態度が全面的に非利己的態度であるというわけではない、と思う」
全文意訳「これは前に言ったように非常に愚かな態度だが、かといって利他的な気持ちばかりともいえまい」→「これは前に言ったように愚かな態度だが、ある部分で自己中心的でもあると思う」
・動詞*
‘Well,’ he said, and I could see him watching me carefully, ‘personally, I don’t believe that after you’re dead you’ll ever hear of yourself again---unless…’
「まあ」と彼はいったが、注意深く私を見ているのが私にはよくわかった。「わし個人の考えをいえば、死後のきみが自分の噂を聞くというような話は信じないね---もっとも…」
[解説]
believeは、意味の幅が広い言葉。「信じる」一点張りだと、大げさに感じられることがある。例:I believe that Mary will arrive.(マリーは来ると思う)。ここも、そうしたほうがよいところ。
「ことになるとは思わない」→「ことができるとは思わないね」
・形容詞**
---provided, of course, that a supply of properly oxygenated blood could be maintained.
「それも酸化した血液の補給が維持できればのばあいだがね。」
[解説]
「酸化した」では、物が悪くなったみたいだ(その場合oxide、oxidizedを使うだろう)。ここは「酸素をきちんと供給された血液」のこと。
「血液への酸素の供給がきちんと」
・前置詞***
…; and my plans would not involve touching you at all until after you are dead.
きみが死んだあとまで、きみに干渉するといったことは、わしの計画には入っておらん。」
[解説]
「死んだあとまで干渉しない」でなく、「死んでしまうまで干渉しない」→「死ぬまでは一切手をつけない」といっている。
afterがうるさい感じだが、you are deadだけでは「死んでいる」のか「死んだ」のかがあいまいなので、時間の前後関係をあらわす前置詞afterを前に入れたもの(この場合after以下は、名詞句。untilは前置詞と取るのがよいだろう)。例:until after dark(日が暮れてしまうまで)。wouldは仮定法過去(現在から未来にかけての仮想)で、条件に当る部分が省略されている形。
全文直訳すれば「私の計画は(それがもし実行された場合)、きみが死んでしまうまで、絶対にきみに触れないことを伴うことになるはずだ」。
全文意訳「君が完全に死んでしまうまで、指一本触れはしないさ」
     イディオム***
‘It seems to me there’d be some doubts as to whether I were dead or alive by the time you’d finished with me.’
きみがわたしと絶交するまでに、わたしが生きているか死んでいるかということに、いささか疑問があるように思えるが」
[解説]
there’dの’dはwouldの縮約形で仮定法。doubtは可算名詞化され、具体的な「疑問点」に転化。whether 〜 or −は、〜か−かどちらかの選択を示すが、訳文は意味があいまい。finish withを「私と終える」ととり、「絶交」としたのだろうが、「…を処理する」「…を片付ける」のイディオム。ここは、脳を生きたまま取り出す手術の可否をやりあっている場面なので、状況がわかるように訳す。
全文直訳「(もしそうなった場合)きみが私に対して(手術を)やり終えてしまうまで、私が死んでいるか生きているかどうかについていくらかの疑問点が存在することになるものと、私には思える」
全文意訳「きみの手術が終るまで果たしてぼくの命がもつだろうか」
第四回 『ウィリアムとメアリー』William and Mary そのA
                       by柴田耕太郎
・否定**
For one thing, you’d certainly lose consciousness when you died, and I very much doubt whether you would come to again for quite a long time---if indeed you came to at all.
「まず第一に、きみは死ねば、ぜったいに意識を失う。それに、長い時間がたったあとでも、果たしてきみが意識を回復するかどうか---回復すればの話だがね---もはなはだ疑わしい。
[解説]
訳文からは「長い時間がたっても、意識は回復しない」と読める(それに「回復すればの話」と挿入があるのは矛盾)が、原文が言っているのは(回復するにしても)「長時間のあいだ、意識は回復しない」ということ。come to は「正気づく」。
直訳「よしんば元通りになるとしたって、長いこと、元通りになるものかどうか、はなはだ疑わしい」
意訳「ともかくも意識が戻るにしたところで、長いこと意識は回復しないのではないかと思う」。
・形容詞*
‘Like hell, you wouldn’t,’ I said.
‘You’d be out cold, I promise you that, William.
「まさかそんな」と私はいった。
「いや、きみは完全に冷たくなっているんだ、ほんとだよ、ウィリアム。…」
[解説]
このcoldは形容詞「死んだ」。outは副詞「すっかり」
「完全に死んでいるんだ」
・間投詞*
You know,’ he went on, ‘it’s extraordinary what sometimes happens…’
わかってるだろうが」と彼は話をつづけた。「ときによっては、とんでもないことが起こる。…」
[解説]
You knowは、相手に同意を求めたり、念を押したりする、いわば間投詞として使われることが多い。その場合、重い訳語をつけぬこと。
「あのね」「いいかい」
・比較***
‘Well, Wertheimer has constructed an apparatus somewhat similar to the encephalograph, though far more sensitive, and he maintains that within certain narrow limits it can help him to interpret the actual things that a brain is thinking.
「とにかく、ワァーゼイマーは脳波電位記録器にいくらか似た器械をつくりあげた。もっとも記録器のほうははるかに敏感だがね。」
[解説]
下線部の省略を復元すると、 , though the apparatus is far more sensitive than the encephalograph,
「似たといってもはるかに感度はよいものだがね」
・名詞*
Another thing that bothered me was the feeling of helplessness that I was bound to experience once Landy had got me into the basin.
もうひとつのことは、ランディが私を容器に入れたときに、かならず味わうはずの絶望感だった。
[解説]
helplessは「自分の力ではどうしようもないこと」。「絶望感」でも間違いではないが「無力感」のほうがよいだろう。
・間投詞**
…, and a few minutes later, I might easily get the feeling that my poor bladder---
you know me---was so full that if I didn’t get to emptying it soon it would burst.
それから二、三分たって、私の膀胱---お前は知っているだろうが---いっぱいになりすぎて、もし膀胱をからっぽにしなければ、爆発してしまいそうだといった感じをかんたんに持つかもしれない。
[解説]
これも、そんなに重い意味ではない。はしたないことを言及するので、緩衝的に入れたあまり意味のない言葉。
「いいかい」「そうだ」「うん」など
・助動詞***
But really! You would think a widow was entitled to a bit of peace after all these years.
でも、まったくだわ!未亡人ならば、いままで送ってきた生活のあとで、ささやかな平和をたのしむ資格があると、あなたは考える
[解説]
夫からの細かい戒めが列挙された追伸を読んで、うんざりした気持ちになった描写のあとに続くことば。中間話法になっているが、直接話法なら ‘But really! You will think a widow is entitled to a bit of peace after all these years.’となるところ。
亡き夫に対し、自由の身になった妻の気持ちをぶつけたもの。
このwouldは、義務をあらわすwillが、中間話法のためwouldになったもの。このreallyは、驚き・失望・不承知などを示す間投詞的な使われかた「まったく、もう!」。butは、発話に勢いをつけるもので、意味はない。
ちなみにwillは大きく分けて次のような役割がある。文脈依拠の場合が多く、またどちらともとれそうなこともある。(1)確定的未来:I will be twenty tomorrow.(明日、二十歳になります)---客観的事実 (2)確信的未来:He will come tomorrow.(彼は明日来ますよ)---主観的確信 (3)意志未来:I will study hard.(これからまじめに勉強しよう) (4)義務:You will leave tomorrow.(明日出発しなさい) (5)現在の推測:He will be upstairs.(彼は上にいるはずだ) (6)現在の習慣:Boys will be boys.(男の子は男の子《やんちゃで当然》)
「考えなさいよ」→「思ってみてほしいものだわ」
・イディオム*
You know what, she told herself, looking behind the eye now and staring hard at the great grey pulpy walnut that lay so placidly under the water,…
なんだかわかる気がするわ、と彼女はひとりごちながら、水の中にじっとしている、大きな灰色のどろんとしたくるみをいっしょうけんめいに見た
[解説]
you know whatは、発話で相手の注意を引くために発する間投詞的なもの。ふつう「いいですか」「あのね」といった具合だが、ここは…以下のセリフを導くもの。
tell oneselfは「自分に言い聞かせる」。ひとりごつ、はtalk to oneself。心の中で考える、はsay to oneself。考えごとを口に出す、はthink aloud。
前の下線部を削除し、あとの下線部を次のように変える。
「見て、彼女は思った。そうね、…」
・イディオム***
…,I’m not at all sure that I don’t prefer him as he is at present. In fact, I believe that I could live very comfortably with this kind of a William.  I could cope with this one.
現在の彼のほうが好きかどうか、ちっともわからない。じつをいうと、こんなウィリアムとなら、たいへんたのしく暮してゆけると思う。このウィリアムになら勝てるわ
[解説]
not at allは「全く…でない」。be sure that 〜 は「〜を確信して」。〜内が否定になっているので、全文は否定の否定→強い肯定になる「全然好まなくない」→「とても好む」。asは関係代名詞でwhoの役割(非標準:本来ならsuchまたはthe same − asとなるところ)「彼が現在の在り様で存在するところの彼自身」→「今の彼」。in factは前後のつながりで(1)「実際に」(前文を肯定強調)(2)「実際は」(前文を否定強調)(3)「それも」(前文を肯定補強)(4)「それどころか」(前文を否定補強)などの訳語が与えられる。ここは(4)(いやでないどころか…)。a Williamと不定冠詞がついているのは、Williamのひとつの面・姿をいっているから。
cope withは「勝てる」でなく「対処する」。折り合いをつけて暮らしてゆける、と言っているのだ。
「今の彼はちっとも嫌じゃない。それどころか気持ちよく一緒に暮らせると思う。このウィリアムとならやってゆける」
・形容詞**
‘Isn’t he sweet?’ she cried, looking up at Landy with big bright eyes. ‘Isn’t he heaven? I just can’t wait to get him home.’
「かわいいじゃありません?」彼女は、大きな輝く眼でランディを見上げながら、そう叫んだ。「かわいらしいでしょう?あたくし、家へ連れて帰りたくてしょうがありませんわ」
[解説]
heavenが、「すばらしい」とか「しあわせ」といった意味で形容詞として使われている反語(heは、脳髄と目玉だけになっている夫)。この台詞で小説が終るので、オチになるようなことばが欲しい。
意訳「あの人って、素敵」
 第五回 『天国への登り道』The Way up to Heaven
                  by柴田耕太郎
 [ストーリー]
フォスター夫妻はニューヨークに住む富豪。なに不自由ない暮らしに見えるが、夫の底意地の悪さに妻は辟易している。その妻がパリにいる娘に会いに出かける当日のこと。フライトの時間に間に合わないと焦る妻は、まだぐずぐず屋敷内にいる夫を呼びに玄関まで来た。そこで、夫が乗っているはずの奥のエレベータが中空で停まっているのに気づく。瞬時ためらったが、知らないそぶりで、そのまま夫を置き去りにして空港へと急いだ。それから3週間。妻が自邸に戻ってみると、どうやら夫は…。
・@形容詞** A形容詞* B形容詞**
フォスター夫人には奇妙なくせがある。何かの時間に遅れると思った途端、目の隅がピクピクと痙攣するのだ。このくせをよく知っているはずの夫が、わざと遅れようとするかのように見受けられることも時々あった…。という内容に続く記述。
Assuming (though one cannot be sure) that the husband was @guilty, what made his attitude Adoubly unreasonable was the fact that, with the exception of this one small irrepressible foible, Mrs Foster was and always had been a good and Bloving wife.
本当にフォスター氏が、こんなことを@企んだのだとしたら(これとてはっきり断言できるわけではないが)、Aこの態度たるや、まさに非難さるべきものだ。というのは、このささいな、不可抗力のやまいが玉にキズで、その他の点では、フォスター夫人はまことに申し分ない、B可愛い奥さんだったからである。
[解説]
assuming thatは「…だと仮定して」(=if)。guiltyは、この場合「生じたまずい事に対して責任がある」(→非難されて然るべき)の意。つまり、「本当にわざと意地悪していること」。doublyは「一層」、unreasonableは「不当な、不合理な」。lovingは、他動詞の現在分詞形の形容詞「人を愛する」(この場合、人とは夫のこと)。さらにそれが形容詞化した「愛情に満ちた」。
全体の直訳:「(確かとは言い切れないが)夫に責任があると仮定して、その夫の態度を一層不当にしたものは、このささいな抑制できない欠点の例外はあるが、フォスター夫人はその時も、それまでもずっと良き愛情あふれる妻であったことだ。」
全体の意訳:「どうも夫は確信犯であるように思えるのだが、このささいな欠点はあるにせよ、フォスター夫人は申し分ない妻であることが、夫の分をさらに悪くする。」
・間投詞*
今日は、フォスター夫人がパリにいる娘と孫に会いに行く日。その間、夫はクラブに宿泊するので、召使一同が荷物のまとめに大童となっている。表面はともかく、夫婦の間は決してうまくいっているわけではない。妻が夫に、半分はお愛想で尋ねる。
‘Will you write to me?’ she asked.
I’ll see,’ he said.  ‘But I doubt it. You know I don’t hold with letter-writing unless there’s something specific to say.’
「お手紙はくださいます?」
そのつもりだが」と彼はいった。「どうかな。なにかよほど重要なことでもないかぎり、わたしが手紙を書かんことぐらい、わかっておるはずだろう」
[解説]
I’ll seeは、即答をさける言い方「考えておこう」
・仮定***
Be sure to miss it now if it goes. We can’t drive fast in this muck.’
飛行機がでるとしたら、間違いなく乗りおくれたろうよ。この霧じゃ、車のスピードをあげるわけにもいくまい。
[解説]
if節が現在形、帰結節が現在形なので、仮定法でなく単なる仮定。このifにはevenの気持ちが入っている。Be sure to は、You are sure toの略形。
「飛行機が出るにしても、今じゃ間違いなく乗り遅れるさ」
・動詞**
Other lights, some white and some yellow, kept coming out of the fog toward them, and there was an especially bright one that followed close behind them all the time.
ほかの車の白や黄色のヘッドライトが、霧の中からこちらへと向かってくる。そして、そのずっとうしろには、ひときわ目立つ大きなライトが見えていた。
[解説]
元訳では、「ひときわ目立つ大きなライト」は何なのだろうかと考えてしまう。themはother lightsでなく車の中のフォスター夫妻のこと。対向車線から次々ヘッドライト流れてくる一方、後ろから(渋滞のため)ぴったり後続車がついてくる、その灯りがまぶしいのだ。all the time(四六時中)、close behind(ぴったりうしろに)。bright oneのoneは、light。
「後ろにはずっとぴったり」
・仮定法*
‘And what’s wrong with combs, may I ask?’ he said, furious that she should have forgotten herself for once.
「櫛で悪かったな、え」一瞬、夫人がわれを忘れるほど、良人は怒った。
[解説]
so 〜 thatのsoが略されている。forget oneselfは、この場合「気を失う」「呆然自失する」の意。should have forgottenは(1)過去の反実仮想(《本来であれば》気を失ってしまったことだろうに) (2)過去の推量(気を失ったのだろう)、のうち(1)。「彼女が意識を失ってしまいかねなかったほど怒って、彼は言った」のだ。for onceは、「一瞬」でなく「この場限りは(いつもと違って、例外として)」。
意訳:「その言い方があまりに凄かったので、このときばかりは夫人も思わず気を失いかけた」
・イディオム*
Arriving at Idlewild, Mrs Foster was interested to observe that there was no car to meet her. It is possible that she might even have been a little amused.
空港に着き、フォスター夫人は迎えの車が来ていないのを見て、どきどきした。いや、むしろ、それがうれしい気分だったのかもしれない。
[解説]
be interested to do(…に興味をもつ)。observe thatは、…ということに気づく。
「来ていないのがわかって、興味がわいた。」
例:I’m interested to know more about it.(そのことについてもっと詳しく知りたいと思います) I was interested to learn the fact.(その事実を知って興味がわいた)
*to不定詞が「目的」か「結果」かは文脈による。
第六回 『牧師のたのしみ』Parson’s Pleasure その@
                    by柴田耕太郎
 [ストーリー]
ロンドンの古物商であるボギス氏は、掘り出し物を見つけるため、いかにも公的に聞こえそうな「骨董家具保存協会会長」を名乗り、田舎の旧家を巡っている。今回はすごいカモが引っかかった。名人チッペンダール作の衣装戸棚だ。大金持ちになり、業界での名声も得られると有頂天だったが、安く買い叩こうと「脚だけがほしいのだが…」とケチをつけたのが運のつき。車を取りに行っている間に、売主は親切心から、戸棚の躯体部分を解体してしまう…。
・@前置詞* A副詞**
The hawthorn was exploding white and pink and red @along the hedges and the primroses were growing Aunderneath in little clumps, and it was beautiful.
山査子は生け垣にそって、白い花、桃色の花、赤い花、が咲き乱れ、桜草は小さな茂みの下で伸びてきて、それがまたなんともいえない。
[解説]
山査子の生け垣なのだから「そって」はおかしい。このalongは(1)…の側を 例:There are trees all along the banks.(両岸に沿って並木がある) (2)…(の中)を(ずっと) 例:sail along the river(川を航行する)、のうち(2)。「生け垣の山査子にはずっと」 
「下で伸びてきて」はunderneath、inを共に前置詞ととったためのあやふやな訳(特例を除き、前置詞が重なることはない)。自動詞+副詞+前置詞+名詞の形は、副詞で大まかな位置、前置詞句以下で具体的な場所を示すのが通例。「下のほうに」具体的には「小さな塊で」。「茂みとなって、(生け垣の)下に生えてきている
・前置詞***
Not many of his Sunday sections had a nice elevation like that to work from.
日曜日に出かけるところで、こんなに見事な眺めの土地はざらにない。
[解説]
二文に分解してみる。Not many of his Sunday sections had a nice elevation like that.  He is to work from the nice elevation. 直訳:「彼の日曜の区域の多くが、その場所から始めるべきこのようなよい高度をもっているわけではない」 
意訳「いつもやる日曜の仕事が、こんなにすばらしい眺めのところから始められることはめったにない
・副詞**
He drove up the hill and stopped the car just short of the summit.
彼は丘を登りきると、村のはずれにある頂上の手前で車を停めた。
[解説]
このupは副詞で「上へ」。「すっかり」とはとれない。例:He climbed the mountain. (登山した《頂上まで登った》 He climbed up the mountain.(山を登った《上に登っていった》)。「丘を登ってゆき」
・イディオム**
The people there could probably do with some money.
住んでいる人間はおそらく、なにがしかの金でも欲しいのだろう。
[解説]
do withは「…で満足する」。couldは仮定法。
「なにがしかの金をやれば満足するだろう」
・相関詞***
; and often, at the end of an unusually good performance, it was as much as he could do to prevent himself from turning aside and taking a bow or two as the thundering applause of the audience went rolling through the theatre.
そして、われながら稀にみる名演技にこたえて、思わず傍らを向いて、一、二度頭を下げる役者みたいな苦労を味わった
[解説]
全体的にちょっとずれている。as much as 〜 canは「…の最大限」の意味。itはto
以下。
直訳「そしてしばしば、いつになくうまくいった演技の最後には、観客の歓呼の轟きが劇場中をゆるがす時、脇にのいて一、二度お辞儀することから自らを阻むことが、彼ができうる最大限であった」。
意訳「そしてうまくいった時などは、劇場の万呼の声に応え脇により頭を下げる役者よろしく、あいさつをしたい衝動を抑えるので精一杯だった」
・名詞***
He spent two minites delivering an impassioned eulogy on the extreme Right Wing of the Conservative Party, then two more denouncing the Socialists.
彼は熱狂的な極右保守党礼賛を二分ばかりまくしたてると、こんどはまた二分間ほど労働党をこきおろしにかかった。
[解説]
「極右保守党」というものがあるのでなく、「保守党」の「極右派」。「保守党の極右派」
・@名詞** A形容詞**
It was a favourite test of his, and it was always an intriguing sight to see him lowering himself delicately into the seat, waiting for the ‘give’, expertly gauging the precise but infinitesimal degree of shrinkage that the years had caused in the mortice and dovetail joints.
それは彼得意の試験法であったし、@結果を待ちながら、上品な座り方をして、年代もののためにほぞ継ぎにできた、A正確な、ごく微小の収縮具合まで玄人らしく測る彼を見るのは、興味をそそられる光景だった。
[解説]
giveは名詞で「たわみ」。「たわむがままに」。このpreciseは、限定用法で「はっきりした、明瞭な」の意味。次のinfinitesimalと対比され「ごくわずかだがはっきりとわかる縮みぐあい」といっている。「明らかにある」
・接続詞*
They had seen him stop and gasp and stare, and they must have seen his face turning red, or maybe it was white, but in any event they had seen enough to spoil the whole goddamn business if he didn’t do something about it quick.
三人はボギス氏が立ちどまって、喘ぎ、眼を丸くするのをその眼で見たし、ボギス氏の顔が赤くなるか、あるいは、まっさおになるところをきっと見たにちがいない。が、いずれにしろ、はやくこちらがなにか手を打たなければ、折角のぼろ儲けをふいにするほどの光景を、三人に見られてしまったのだ。
[解説]
orは、言い換え。「、いやたぶん蒼白になったのだろうが、」
・名詞***
It was a most impressive handsome affair, built in the French rococo style of Chippendale’s Directoire period, a kind of large fat chest-of-drawres set upon four carved and fluted legs that raised it about a foot from the ground.
チッペンデールが監督だったころのフランス的なロココ・スタイルでつくられた、うっとりするほどみごとなもので、模様と溝が彫られた四本の脚のついた、一種の大きな、たっぷりした箪笥だが、その脚の長さは約一フィートである。
[解説]
語頭の大文字は固有名詞化のしるし。フランス史でいう総裁政府期(1795-99)のこと。家具・衣装の分野では、新古典主義傾向を指す。「チッペンデールの新古典主義作風時代」
・掛かり方
The men were staring at this queer moon-faced clergyman with the bulging eyes, not quite so suspiciously now because he did seem to know a bit about his subject.
三人の男はこのおかしな、お月さまみたいな顔をした牧師を、だいぶ疑惑の色のうすれた、いまにもとびだしそうな眼で凝視している。というのも、ボギス氏が家具の世界に少々明るいように思われてきたからだ。
[解説]
「いまにもとびだしそうな眼」をしているのは、牧師。withは「…を持った」。カンマは以下情報を付け加えるしるし(主体はthe men)。全文「三人は、おかしなな奴だなとこの出目で丸顔の牧師を見つめていたが、家具について一家言あるのがわかったので、胡散臭さそうに見る態度は消えていた。」
第七回 『牧師のたのしみ』 Parson’s PleasureそのA
                    by柴田耕太郎
 [ストーリー]
ロンドンの古物商であるボギス氏は、掘り出し物を見つけるため、公的に聞こえそうな「骨董家具保存協会会長」を名乗り、田舎の旧家を巡っている。今回はすごいカモが引っかかった。名人チッペンダール作の衣装戸棚だ。大金持ちになり、業界での名声も得られると有頂天だったが、安く買い叩こうと「脚だけがほしいのだが…」とケチをつけたのが運のつき。車を取りに行っている間に、売主は親切心から、戸棚の躯体部分を解体してしまう…。
・イディオム ***
‘Oh dear,’ Mr Boggis said, clasping his hands. ‘There I go again. I should never have started this in the first place.’
いや、私は帰ります。はじめからこんなことをするべきではなかった」
[解説]
これは、嬉しくないことが、言ったとおり、または懸念したとおりに実現してしまったときにいう紋切り型表現「ほら見たことか」「だから言ったでしょう」「やっぱりね」「こんなことになると思ってた」など。
・イディオム ***
What wouldn’t a newspaperman give to get a picture of that!
新聞記者はただで、この写真をとるだろうなあ
[解説]
これはイディオム「…を手に入れるためには(人は)どんなことでもしたい」
意訳:「新聞記者はさぞかしこの写真をとりたがるだろうな」
今回は誤訳が少ないので、表現で検討したい部分をいくつかとりあげます。
・表現
コロケーション
Just the right amount for a leisurely afternoon’s work.
悠長な午後の仕事にはちょうどいい数だ。
[解説]
「悠長な午後」または「悠長な仕事」(「悠長な仕事振り」ならよい)とはいわない。「悠長」ときたら「に構える」とか、「なことを言う」といったコロケーションになる。
元訳を生かすなら「ゆったりした」。語順を並べ替えるなら「午後ゆったりと仕事をするには」
誤用
He could become grave and charming for the aged, obsequious for the rich, sober for the godly, masterful for the weak, mischievous for the widow, arch and saucy for the spinster.
老人には勿体らしく気に入られるように、金持にはさからわずに追従し、信心深い者には落ち着きはらい、弱い者には横柄に、未亡人には胸にいちもつありげに、オールドミスにはずるく、厚かましくといった具合になれる男なのだ。
[解説]
「勿体らしい」は「重々しげに見える」という形容詞。「勿体らしく」は副詞になるが、「気に入られる」とはつながらない(勿体らしく振舞う、というように使う)。
語順を変えて「老人には気に入られるように重々しく」としてはどうか。
表現が大げさ
The idea behind Mr Boggis’s little secret was a simple one, and it had come to him as a result of something that had happened on a certain Sunday afternoon nearly nine years before, while he was driving in the country.
ボギス氏のささやかな秘密の鍵は簡単なものだった。九年ほど前のある日曜日の午後、田舎をドライヴしていたときに、たまたまあったある事件の結果、思いついたのだった。
[解説]
「ある事件」とは、このあと出てくるのだが、車のラジエターがこわれ、水をもらいに立ち寄った旧家で珍品家具をたまたま眼にしたこと。「たまたまのめぐり合わせから」
意味のズレ
Each of these squares covered an actual area of five miles by five, which was about as much territory, he estimated, as he could cope with on a single Sunday, were he to comb it thoroughly.
それらの正方形はそれぞれ、実際には、五平方マイルの面積にあてはまり、彼の計算では、日曜日一日でくまなく歩きまわれるくらいの地域だったから、徹底的に探して歩くことも可能だった。
[解説]
「その面積にはめ込まれる」と読めてしまうが、「面積相当」ということ。「五平方マイルほどの面積であり」
並列が不自然
It was the comparatively isolated places, the large farmhouses and the rather dilapidated country mansions, that he was looking for;
比較的に人里離れた地方や、大きな農家、かなり荒れ果てた田舎屋敷といったところこそ彼が求めているものだった。
[解説]
1, 2 and 3の並列。「地方」という抽象的なものと建物のように具体的なものは並列できない。するとこのplacesは、farmhouses、mansionsと同義語の「屋敷」ととるべき。またisolatedは「人里離れた」でなく「孤立した」。comparativelyは「比較的」との訳がつくが、比較の対象がみられぬときは「割と」の感じになる(ここもそう)。
「ぽつんとある邸宅」
時制
From now on, it was all farmhouses, and the nearest was about half a mile up the road.
こんどからは、農家という農家にみんなあたってみよう。いちばん近い農家は、ほぼ半マイルも行ったところにあった。
[解説]
「こんどから」では「次回から」と読めてしまう。実はここ、中間話法になっていて、主人公の今の意志を示す心のつぶやき。「このあとは」。ついでながら、「農家に片端から当る」のではなく、「訪ねる先は全部、農家に定めよう」ということで、この部分は訳にズレがある。
誤用
When the men caught sight of Mr Boggis walking forward in his black suit and parson’s collar, they stopped talking and seemed suddenly to stiffen and freeze, becoming absolutely still, motionless, three faces turned towards him, watching him suspiciously as he approached.
三人の男は、黒い僧服に牧師のカラーをつけたボギス氏がやって来るのを見つけると、話を止めて、急によそよそしい、凍りついたような表情になり、身じろぎもせず、一様にボギス氏に顔をむけて、近づいてくる彼を胡散な眼で見た。
[解説]
「胡乱な眼」の間違い。
正確さ
‘Oh dear me, no. It’s just my heart. I’m so sorry. It happens every now and then. …’
「とんでもないことです。私の心臓ですよ。どうも申し訳ありません。ときどきかかる病気でしてな。…」
[解説]
「心臓病にときどきかかる」と読めてしまう。会話ではこうしたカジュアルな表現をすることもあるが、書き物としては正確な表現を心がけたい。持病の発作がときどき起こるのだと、わかるように訳さねばならない。「ときどき、こうなるんです」
カタカナ語
He knew their history backwards---that the first was ‘discovered’ in 1920, in a house at Moreton in Marsh, and was sold at Sotheby’s the same year;
彼は三つの家具の、その後の歴史についても知っていた---最初のものは、モアトン・オン・ザ・マーシュのある家で、一九二〇年に発見されて、同じ年に、サズビイの競売で売りに出された。
[解説]
定訳で「サザビーズ」。
意味不明
The serpentine front was magnificently ornamented along the top and sides and bottom, and also vertically between each set of drawers, with intricate carvings of festoons and scrolls and clusters.
箪笥のねじれたようなフロントは、上下左右、抽斗のあいだの垂直のあきと、花づなや渦巻や花の房の精緻な彫刻で、目もあやな装飾が施してある。
[解説]
「垂直のあき」とはどこに対する訳語だろう?ここ原文もあいまいだと思う。以下、私の解釈。andが前置詞句along 〜とbetween−を並列させている。with以下は、直前にカンマがあること、〜と−の両方に掛けて不自然でないこと、から両方に掛かるとするのがよいだろう。betweenの前に動詞(過去分詞)がないのは嬉しくないが、前と同じornamentedが省略されたととる。直訳すると「花綱装飾と渦巻装飾と総房装飾の複雑な彫刻でもって、曲線を描く前面は、天辺・各面・底部に沿って素晴らしく飾られ、かつまた引出し相互の間は垂直に飾られていた」。意訳:「優美な曲線を描く前面には上下脇に渡って美しい装飾が、そしてまた引出しと引出しの間には縦飾りが施されていた。花綱、渦巻、総房などの文様が浮き出ていた」。
語義選択
 I’ve got a rather curious table in my own little home, one of those low things that people put in front of the sofa, sort of a coffee-table, and last Michaelmas, when I moved houses, the foolish movers damaged the legs in the most shocking way.…
私の家にはたいへん不思議なテーブルがありましてね、ソファの前に置いたりする、高さの低いやつで、コーヒー・テーブルみたいなものですが、去年のミカエル祭に引越しをし
ました時、頓馬な運送屋がテーブルの脚をすっかりめちゃくちゃにしてしまった。
 [解説]
「不思議」とcuriousはちょっとズレる。curiousは(1)それについて強く知りたいという興味を人に起こさせる (2)尋常でなく一風変わった、のうち、ここでは(2)。ratherの幅は広い(「とても」「かなり」「わりと」などの訳語がつくが、思いのほか、とか、強いて言えば、といった気分がこもっている)。大げさに聞こえぬような訳をつけるのがよい。
「ちょっと面白い」
俗表現
‘Take a look at that. Notice the exact evenness of the spiral? See it? …’
「これを見なさい。螺線がぜんぜん一様なことに気がつきましたか?
[解説]
俗な表現では「ぜんぜん」が「とても」の意味で使われるが、小説のなかの会話としては、正しい言葉遣いをさせたい(牧師のふりをしているボギス氏は多少のインテリなのだろうし)。「きちっと均一」
誤用
In ten minutes it’s worth fifteen or twenty thousand! The Boggis Commode! In ten minutes it’ll be loaded into your car---it’ll go in easy---and you’ll be driving back to London and singing all the way!
そうしたら、お前は途中のべつに歌を歌って、ロンドンにお帰りあそばすわけだ!
[解説]
「のべつ歌を歌う」とはいっても、「のべつに歌を歌う」とはいわないだろう。
「途中のべつ歌をうたって」
第八回 『ビクスビー夫人と大佐のコート』Mrs Bixby and the Colonel’s  Coat
 その@
                                by柴田耕太郎
[ストーリー]
ビクスビー夫人はニューヨーク在住の歯科医の妻。月に一度、伯母の介護という名目でボルチモアに出かけ、そこで「大佐」と呼ばれる渋い中年男と逢瀬を楽しんでいた。やがて別れがやってきてが、手切れ金代わりに高価なミンクの毛皮をもらったビクスビー夫人は、質札を拾ったことにして夫への説明を切り抜けようとする。ところが、夫のほうが一枚上手だった…。
動詞 *
Divorce has become a lucrative process, simple to arrange and easy to forget; 
離婚は儲かる事業になって、かんたんに成立し、あっさり忘れ去ることができる商売になった。
[解説]
lucrative は「儲けを生む」processは「ある特定の結果にたどりつくためになされる一連の事柄」。arrangeは「何かの段取りをつける」simpleは、to arrangeにかかる副詞。simple to arrange以下全体は、前の本文に対する修飾語。カンマがあるのでいったん意識が切れ情報を補足する感じ(文法的には、前のprocessに掛かる不定詞の形容詞的用法)。直訳:離婚は儲けを生むための手段となり、簡単に仕掛けられ、さっさと忘れられる。
意訳:離婚は金儲けの手段と化し、仕組むのもた易く、後腐れもない。
動詞 *
; and ambitious females can repeat it as often as they please and parlay their winnings to astronomical figures.
そして、野心的な女性たちは、好きなだけ離婚をくり返し、天文学的な数字の賞金を獲得できる
[解説]
parlay A to Bは「Aを元金として、Bへとまた掛けに出る」Bを到達点として訳し→「Aを元手にBに至る」。their winningsは、離婚による慰謝料の例え。canは、理論的可能性(…しうる)。「慰謝料を元手に、莫大な財産を築く」
形容詞 *
They know that the waiting period will not be unduly protracted, for overwork and hypertension are bound to get the poor devil before long, and he will die at his desk with a bottle of benzedrines in one hand and a packet of tranquillizers in the other.
彼女たちは、待つ期間が途方もなくのびはしないことを承知しているのだ。過労と高血圧が遠からず、確実に、哀れな亭主を捕えるはずなので、彼は、片手にベンゼドリンの瓶を、もう一方に精神安定剤の包みを持って、デスクで昇天する運命にある。
[解説]
心情をあらわす形容詞は副詞化するとよい。「可哀想に亭主を」
名詞 *
Young men marry like mice, almost before they have reached the age of puberty, and a large proportion of them have at least two ex-wives on the payroll by the time they are thirty-six years old.
彼らは、ほとんど思春期の年齢に達しもしないうちに、さながらネズミのように妻をめとり、三十六歳になったころには、すくなくも二人の先妻を雇っているのが大部分である。
[解説]
養育費を払い続ける比喩であるのがわかるように訳す。
直訳:給与支払い名簿に少なくとも二人の先妻を持っている。
意訳:先妻二人分の生活費も見る羽目になる。
関係詞 ***
To support these ladies in the manner to which they are accustomed, the men must work like slaves, which is of course precisely what they are.
かねがねやりつけているやりかたでこれらのご婦人連を養っていくために、男性どもは奴隷のごとく働かねばならないのだが、むろん正確にいえば、彼らはけっして奴隷ではない
[解説]
ここ先行詞と、whatの中身(the thing which)の指すものが分裂している(こういうことは、ママある)。先行詞は、like slaves。the thingにあたるのはslaves。
直訳:これらの婦人を彼女たちが慣れ親しんでいるやり方で扶養するために、男たちは奴隷のように働かねばならないのだが、奴隷状態こそ当然彼らがまさしくそうであるところのものなのだ。
意訳:結婚していたときと同じ生活レベルを維持してやるため、男たちは女のために奴隷のように働かねばならない、いや実際男たちは奴隷そのものなのだ。
形容詞 **
These are many of these stories going around, these wonderful wishful thinking dreamworld inventions of the unhappy male, but most of them are too fatuous to be worth repeating, and far too fruity to be put down on paper.
これらは、不幸な男性が生む希望的観測にあふれたすばらしい夢の世界であるが、その大部分があまりにも空虚すぎて、くり返して語るほどの値打ちもなく、また、あまりにも話がうますぎて、とても書きしるせるものではない。
[解説]
このfruityは「正常でない」「やばい」「きわどい」の意。「あまりにきわどすぎて」
イディオム *
So far so good.
それでいままでのところは、うまくいったのである
[解説]
これはイディオム「ここまではよかった」
接続詞 **
As it turned out, however, the aunt was little more than a convenient alibi for Mrs Bixby.
しかし、やがて、伯母さんはビクスビー夫人に都合のいいアリバイだということがわかった
[解説]
力点が異なる。時制を現在にずらせて考えるとよくわかる。As it turns out, however, the aunt is little more than a convenient alibi for Mrs Bixby.(しかしながら、判明するように、伯母というのはビクスビー夫人にとってのほとんど都合のよいアリバイなのである。)
「アリバイ」が重要なのであって、「わかった」ことが重要なのではない。
「あとでわかるのだが(…アリバイ)なのであった」「結局のところ(…アリバイ)なのであった」
第9回 『女主人』The Land Lady の気になる表現
                 by柴田 耕太郎
前回、『ビクスビー夫人と大佐のコート』に見る表現上の誤りを指摘したが、見直してみると他の短編にも結構ある。今回は第1回、第2回『女主人』の、表現として気になる部分を取り上げる。
[ストーリー]
 バースの町に赴任した青年ビリーは、ちょっとかわった中年婦人の家に下宿する。ほかにも二人下宿人がいるはずなのに、その気配がない。女主人との会話の中で、何年か前に失踪した学生たちとこの二人に共通項があるのに気づく。女主人を問い詰めようとすると、飲んだばかりの紅茶のせいか、意識が朦朧としてきた…。
・言い回し
He was wearing a new navy-blue overcoat,
「…、まあたらしい茶色のフェルト帽を一着に及び、…」
[解説]
「一着に及び」は、「衣服を着用すること」の意味だが、ちょっと古い。読者にわかるだろうか。
「かぶって」
・ひらがな
He went right up and peered through the glass into the room, and the first thing he saw was a bright fire burning in the hearth.
「彼はまぢかまで近寄って、…」
[解説]
漢字にしたほうが読みやすい。
「間近まで」
・意味の重複
He was in the act of stepping back and turning away from the window when all once his eye was caught and held in the most peculiar manner by the small notice that was there.
「彼がちょうどくびすをかえし、窓からふりむこうとした時、彼の眼はそこにある注意書きに釘づけになってしまったのだ。」
[解説]
「窓からふりむく」では、室内にいて窓辺から室内に目を移したかのようだ。これに眼をつぶるにしても、「くびすをかえす」と「窓からふりむく」は、意味が重複しており、おかしい。
ここは、外から窓辺を見ていたのを止め、後戻りし(stepping back)、窓辺から向きを逆に変え立ち去ろう(turning away from the window)としていた、のである。
「後戻りし、くびすをかえし窓辺から去ろうとしたその時、彼の目は何ともおかしなことだが、そこにある小さな張り紙に釘付けになってしまった。」
・不自然な表現
Each word was like a large black eye staring at him through the glass, holding him, compelling him, forcing him to stay where he was and not to walk away from that house, and the next thing he knew, he was actually moving across from the window to the front door of the house, climbing the steps that led up to it, and reaching for the bell.
「そして、あっと思うまに、彼は本当に窓を横切ると、その家の玄関の方へ行き、…」
[解説]
「窓を横切る」では、「窓から侵入したのか」と思われかねない。「外の窓辺に沿って玄関に移動した」のである。
「そして、気づいてみると、実際に窓辺をたどって玄関の下までゆき、階段をのぼり…」
・原文と意味の誤差を生じる表現
‘I should like very much to stay here.’
「ぼく、よろこんでここへ泊らしてもらいますよ」
[解説]
very muchを訳したのだろうが「よろこんで」では、相手の誘いに答えたかのようだ。should like to(…したい)の強調。
「ぼく、ぜひここへ泊まらせてもらいたいです」
・コロケーション
Billy took off his hat, and stepped over the thresh-old.
「ビリイは帽子をぬぎ、敷居をまたいだ。」
[解説]
「帽子」は「ぬぐ」とは、あまりいわない。
「帽子をとり」
・誤字
It’s such a comfort to have a hot water-bottle in a strange bed with clean sheets, don’t you agree?
「清潔なシーツを敷いた始めてのベッドに、暖かい湯たんぽが入っているのは気持ちがいいものよ。」
[解説]
誤字「始めての」→「初めての」
・表現の強さ
Now, the fact that his landlady appeared to be slightly off her rocker didn’t worry Billy in the least.
「さて、この女主人がいささか常規をいっした所があることも、別にビリイの心をなやますほどのことはなかった。」
[解説]
off one’s rockerは、「ばかな」「気の狂った」だから、「常軌をいっした」でもだめではないが、訳としてはちょっと表現がきつい(そこまで狂っていそうにない)。またその場合「いっした」を「逸した」と漢字にしないと、収まり具合が悪い。
「すこし変なところがあるにしても」
・展開が面白くなくなる
Such charming boys’ a voice behind him answered, and he turned and saw his landlady sailing into the room with a large silver tea-tray in her hands.
みんな、すばらしいひとたちでしたわ
[解説]
過去形でいっているが、ここではまだこの青年たちは下宿にいることになっている(殺されたのは伏せられている)。体言止にしておく。
「ステキなひとたちよ」
・並列が不自然
The back was hard and cold, and when he pushed the hair to one side with his fingers, he could see the skin underneath, grayish-black and dry and perfectly preserved.
灰色を帯びた黒で、乾燥し、完全に保存されている。」
[解説]
grayish-blackを「灰色を帯びた黒」とするのは、よくない。黒も灰色も無彩色で同類だからだ。このpreservedは「保存加工されて」の意味。三つの並列がうまくされていない。
「濃い灰色で、すっかり乾いて、保存加工が施されている」
第10回 『ウィリアムとメアリイ』William and Mary の気になる表現
                           by柴田 耕太郎
 今回は第1回、第2回『ウィリアムとメアリイ』の、表現として気になる部分を取り上げる。
 [ストーリ]
ウィリアムはオックスフォードの哲学教授。癌に侵され、余命いくばくもなくなったとき、医師のランディに、脳だけを生かす実験に協力するよう頼まれる。これを受け入れる苦衷の決断をして死んでいったウィリアム。遺書で事の次第を読んだ妻のメアリイは、ランディ医師の病院に赴く。そこで彼女が見たものは…
・誤用
The solicitor was pale and prim, and out of respect for a widow he kept his head on one side as he spoke, looking downward.
顔色の悪いとりすました様子の事務弁護士は、未亡人のご機嫌をうかがうように、伏し目になりながら、小首をかしげて話をした。
[解説]
「小首をかしげる」は「疑問、思案」を想起させるが、原文は「遠慮、ためらい」を含意している。それがわかるように、意訳するしかないだろう。
「未亡人への配慮からか、眼を見ずにうつむき加減で切り出した。」
・意味ない強調
I haven’t even begun and already I’m falling into the trap. So let me get started now;
私はまだ話をはじめてもいないのにすでに罠にかかっているのだ。だから、私もこれからはじめるとしよう。
[解説]
誰に対する「私も」なのかわからない。「だから」も因果が読めない。自分の気持ちを切り替える表現にすると流れがよくなるだろう。
「さあ、さっさと」
・誤用
I am sure he was expecting me to jump when he said this, but for some reason I was ready for it.
そういったとき、彼はきっと、私がとびあがるとでも思ったにちがいないが、どうしたわけか、私はそれを予期していた
[解説]
「予期」は「前もっての予想」。ここは「ひどいことを言われても取り乱さない覚悟」のこと。「私の心構えはできていた」
・ことばのズレ
I’m at the stage now where I’m ready to have a go with a man. It’s a big idea, and it may sound a bit far-fetched at first, but from a surgical point of view there doesn’t seem to be any reason why it shouldn’t be more or less practicable.’
いまや、わしは人間に試してもいい段階まで来ている。大した研究だよ、これは。そりゃ、はじめはちょっと無理に思われるかもしれんが、外科の立場からみれば、まだ実行の段階でないという理由は、どこにもないようなのだ。
[解説]
far-fetchedは「信じがたい」「荒唐無稽な」。「無理に」と意訳する必要はない。「最初はちょっと信じがたく思われそうだが」
・色の感覚
There were some blue grapes on a plate beside my bed.
ベッドの横の皿に、青い葡萄がのっている。
[解説]
greenとblue、青と緑は、日英語で範囲が微妙にずれる。葡萄の色は、我々日本人にすれば「暗紫色」(blue)または「淡緑色」(green)。「紺色の葡萄」
・擬人化の是非
“Just lie still. Don’t move, I’m nearly finished.”
‘”So that’s the bastard who’s been giving me all those headaches,” the man said.’
「じっとしずかにねていたまえ。うごかしたりしちゃいかんよ。すぐ終るからね」
「『するとあの野郎のおかげで、頭が痛かったのだな』とその男はいった」
[解説]
the bastardは、この文の前にある「血のかたまり」を指す。擬人化するのはどうだろう。「それのせいで」「そいつのおかげで」
・多義の形容詞の語義選択
The whole thing was just too awful to think about. Beastly and awful. It gave her the shudders.
一切のことがただただ、あまりのおそろしさに、考えることもできなかった。獣じみている上に、おぞましいことだ。
[解説]
亡き夫が脳だけを生かす実験に身を提供したことを知った妻の内面描写。
beastlyは(1)獣のような (2)野蛮な、下品な (3)嫌な、など多義。ここでは(2)。
「下劣な」
・慣用表現
‘I want to speak to Mr Landy, please.’
‘Who is calling?’
‘Mrs Pearl. Mrs William Pearl.’
「ランディ先生にお話があるのですけれど」
「どなたですか?」
「パール夫人です。ウィリアム・パール夫人ですわ」
[解説]
たとえば山田太郎・花子夫妻の細君のほうを正式に呼ぶには英語ではMrs Taro Yamadaとするので、訳は間違っていないが、ふつうの日本人に抵抗ない呼びかたにしたほうが、翻訳としてはよいだろう。「ウイリアム・パールの妻です」
・リズム
What a queer little woman this was, he thought with her large eyes and her sullen, resentful air.
なんておかしな、小さな女なのだろう、と彼は思った。眼がでかくて、ぶあいそうな、怒りっぽい様子をして。
[解説]
訳語が長すぎて、意味が重くなってしまう。littleは意味範囲が広いが、ここは軽蔑的に
「けちな、チンケな、つまらない」に力点がある(queerを強調)ので「小ささ」をいいたいわけではない。
「変なばあさんだ」「変な女だ」といった所。
・語義選択
She was studying the eye closely, trying to discover what there was about it that gave it such an unusual appearance.
彼女は眼をしげしげと見ながら、このように異常な印象を眼に与えている原因を探ろうとした。
[解説]
夫が脳髄と目玉だけになって生きながらえている様を見ての、夫人の感懐を叙した部分。what(the thing which)以下が、二重連鎖節(the thing which 〜 that −:〜でいて−であるもの)になっている。
直訳すると「彼女は二つの眼を細かく調べた。眼のまわりに存在しているもので、眼にこのような尋常でない様子を与えるものを、発見しようとしながら。」
「異常な印象」では、強すぎる。語義を広げて、訳語をつける。「なんともおかしな感じ」
・ことば足らず
‘And he can see me?’
‘Perfectly.’
‘Isn’t that marvelous? I expect he’s wondering what happened.’
「では、あたしが見えますの?」
「そりゃもう」
すてきじゃありません?どんなことになったのか、不思議に思っているんじゃないかしら
[解説]
間違いではないが、和文和訳しないと頭に入ってこない。
「すごいことね。彼、なにが起こったんだろうって、きっと思っているわ」
・訳のズレ
‘It’s my husband, you know.’ There was no anger in her voice. She spoke quietly, as though merely reminding him of a simple fact.
That’s rather a tricky point,’ Landy said, wetting his lips.
「あたしの良人ですのよ」その声に怒りはこもっていなかった。まるで、ひたすら彼に単純な事実を思い出さようとするかのように、静かにいうのだ。
そこが、どちらかといえば、まぎらわしいところですね」とランディはいって、唇をしめした。
[解説]
ratherは通例、(1)あまりよくないことに関し (2)強いて選べといわれれば、の感じで (3)ふつうに思われるより意外と程度が高い、を示し、「かなり」「わりと」「むしろ」などの訳語を得る。trickyは「したり、扱ったりするのが、厄介である」こと。訳文は、少しズレている。
「そこがちょっと微妙なんですが」
第11回 『天国への登り道』The Way up to Heaven の気になる表現
                         by柴田 耕太郎
今回は第5回『天国への登り道』の、表現として気になる部分を取り上げる。
[ストーリ]
フォスター夫妻はニューヨークに住む富豪。なに不自由ない暮らしに見えるが、夫の底意地の悪さに妻は辟易している。その妻がパリにいる娘に会いに出かける当日のこと。フライトの時間に間に合わないと焦る妻は、まだぐずぐず屋敷内にいる夫を呼びに玄関まで来た。そこで、夫が乗っているはずの奥のエレベータが中空で停まっているのに気づく。瞬時ためらったが、知らないそぶりで、そのまま夫を置き去りにして空港へと急いだ。それから3週間。妻が自邸に戻ってみると、どうやら夫は…。
・ことばの強さ
Mr Foster may possibly have had a right to be irritated by this foolishness of his wife’s, but he could have had no excuse for increasing her misery by keeping her waiting unnecessarily.
フォスター氏が、こういった夫人の馬鹿馬鹿しい仕打ちに腹をすえかねたのは、もっともだとしても、だからといって、必要以上に彼女を待たせ、いっそう夫人にみじめな気持ちを味わせていいというわけのものではあるまい。
[解説]
「腹にすえかねた」なら、何をしてもよいことになってしまいかねない。「いらだって当然だったにしても」
・正確性
He had disciplined her too well for that.
こういう点については、実に良人はきびしかった
[解説]
訳はこれでよいだろうが、意味は「良人はよくしつけていた」
・誤用
She reached over and pulled out a small paper-wrapped box, and at the same time she couldn’t help noticing that it was wedged down firm and deep, as though with the help of a pushing hand.
と同時に、それが誰かの手で、奥の方へむりやりおしこめられてあったのだということが夫人の頭にひらめいた
[解説]
wedgeは状態動詞(くさびを入れて状態を保つ)、動的動詞(押し込む)のどちらにもとれるが、「…押し込められてあったのだ」と状態に訳すより「…押し込められた」と行為に訳すほうが自然ではないか。「ひらめく」は「思いつきが頭に浮かぶ」ことで、cannot help 〜ingの意味「《しまいと思っても》どうしても《つい》…してしまう」とはちょっとずれる。「押し込められたのだと、思わずにはいられなかった」
・比喩の適正さ
The new mood was still with her.
あの新しい興奮はまだ、夫人の内部に息づいている。
[解説]
「内部に」では物みたいだ。「夫人の心(の中)に」
・ことばの古さ
She waited, but there was no answer.
しばらく待ってみたが、何のいらえもない。
[解説]
「いらえ」が「答え」「返事」の意味であることがわかる人がどれだけいるだろうか。
「何の返事もない」
*今回は表現に文句をつける箇所が少なかった。訳者が気合を入れて訳したのか、それとも下訳者が優秀なのか…
第12回 『ビクスビー夫人と大佐のコート』Mrs Bixby and the Colonel’s Coat 
 そのA
            by柴田耕太郎
[ストーリ]
ビクスビー夫人はニューヨーク在住の歯科医の妻。月に一度、伯母の介護という名目でボルチモアに出かけ、そこで「大佐」と呼ばれる渋い中年男と逢瀬を楽しんでいた。やがて別れがやってきたが、手切れ金代わりに高価なミンクの毛皮をもらったビクスビー夫人は、質札を拾ったことにして夫への説明を切り抜けようとする。ところが、夫のほうが一枚上手だった…。
前置詞 ***
‘Tally-ho!’ the Colonel would cry each time he met her at the station in the big car.
「タリホウ!」大佐は駅に彼女を出迎えるたびに大型の自動車から叫ぶのだった。
[解説]
「…から」なら、fromかout of を使うはずだし、cryと離れた文末には来まい。このinは、「…に乗って」の意味。交通手段としての乗り物はおおまかに言って、立っていられる大きなものならonを、座ってすっぽり収まるものならinを使う。
大型車に乗って、駅で彼女を出迎える、そのたび毎に、大佐は「タリホウ!」と叫ぶのを常とした、ということ。
訳:「タリホウ!」大佐は大型車に乗ってきて、駅に彼女を出迎えるたび、こう叫ぶのだった。
名詞 ***
But then the Colonel’s company always did that to her these days. The man had a way of making her feel that she was altogether a rather remarkable woman, a person of subtle and exotic talents, fascinating beyond measure; 
しかし、最近は、大佐の仲間がいつも彼女をそんな気持にしてくれるのだ。その男は、彼女に、自分は人眼を惹く女で、繊細な、異国風の魅力に恵まれた、はかり知れないほど魅惑的な女性だという気持にさせてくれる。
[解説]
ここで初登場の「大佐の仲間」「その男」が、この後まったく出てこないのを、訳者は不思議に思うべきだった。companyは、集合名詞的に使われ無冠詞。「だれだれさん」といった具体的な人を指しはしないで、「仲間づきあい(またはその相手)」といった意味合い。didは本動詞で「もたらす」、thatは直前に述べられた「今回の密会が楽しかったので、ウキウキしていること」。
下線部の直訳:とはいえ、大佐との仲間づきあいは、このごろ彼女にとっていつも気分のよさをもたらした。この大佐という男は、…
下線部の意訳:とはいえ、大佐といるとこのごろはいつもそうなのだ。この男は、…
代名詞 ***
; and what a very different thing that was from the dentist husband at home who never succeeded in making her feel that she was anything but a sort of eternal patient, someone who dwelt in the waiting-room, silent among the magazines, seldom if ever nowadays to be called in to suffer the finicky precise ministrations of those clean pink hands.
自分はいつまでたっても患者みたいなものだという気持にしかしてくれない歯科医の良人とは、なんと大きな違いだろう。ちかごろは、あの清潔な桃色の手で気むずかしい、几帳面な診察をしてもらう患者もめったに訪れず、待合室で雑誌にかこまれて押し黙っている誰かさんとは、なんと大きな相違だろう。
[解説]
someoneがa sort of eternal patientの言いかえなのがわかっていないので、訳がおかしくなっている。元訳では、「歯科医の夫」=「誰かさん」と読めてしまう。
全体の直訳:自分はある種の永遠の患者、つまり、雑誌に埋もれ静かに待合室に居住し、あの夫の清潔なピンクの手の難しい繊細な施術を受けるために中に呼ばれることが、最近ではあったにせよめったにない人間でしかない、と彼女に感じさせてしまう、家にいる歯科医の夫とはそれはなんと大きく違ったことであることか。
全体の意訳:家にいる歯科医の夫とはなんと大きな違いだろう。夫といると、自分は待合室で雑誌に埋もれ永遠に順番を待つ患者ではないかと思ってしまう。内に呼ばれあの清潔なピンクの手で施される繊細なご奉仕も受けることも、そういえばこのところとんと無いのだ。
名詞 **
There was some tissue paper on top;
上にティッシュ・ペイパーがのっている。
[解説]
この場合のtissue paperは「薄葉紙」(高級薄物衣料品を傷つけぬよう覆う紙)。いわゆるティッシュペーパーはtissue (paper)、facial tissue。
修正訳:上に薄紙がのっている
名詞 *
And the sense of power that it gave her! 
そして、そのコートは彼女に魅力を感じさせたのである!
[解説]
ちょっと、ずれる。
直訳:そしてそのコートが彼女に与えた力の感覚!
意訳:これを着ると、なんと力がみなぎることか!
イディオム ***
What you lose on the swings you get back on the roundabouts.
ひとがあっさり失うものを、あたしはもってまわったような失いかたをする
[解説]
元訳では、意味がわからない。
これはイディオム「悪いことがあればよいこともある」「苦あれば楽あり」
形容詞 **
‘It’s purely personal.’
「ほんとうにわたしのものなんだから」
[解説]
ミンクのコートを質入れする際、店主に住所・氏名を求められ、無記名にしてほしいと頼んだあと、ビクスビー夫人がいう台詞。
このpersonalは、「所有」でなく「かかわりごと」の意味。
修正訳:全く個人的なことですから。
イディオム * 名詞**
But Mrs Bixby knew better. The plumage was a bluff.
しかし、ビクスビー夫人のほうが一枚うわてだった。羽毛ははったりなのだ。
[解説]
省略されたthan以下(夫が自分の身につけるものに腐心すること)に対し、それより知識・経験などが優れている、ということ。
直訳:しかしビクスビー夫人は夫より良く物事を心得ていた。
修正訳:しかし、ビクスビー夫人はお見通しだった。
また、「羽毛」とあるがthe plumageは(夫の)「儀式張った服装」のこと。
修正訳:凝った服装ははったりなのだ。
代名詞 ***
‘I think it’s terribly exciting, especially when we don’t even know what it is. It could be anything, isn’t that right, Cyril? Absolutely anything!’
‘It could indeed, although it’s most likely to be either a ring or a watch.’
「ほんとうに、品物はあるんでしょうね、シリル?いいえ、ぜったいにあるんだわ!
「そりゃあるとも。もっとも指輪か時計らしいけどね」
[解説]
このanythingは「何でも」が辞書的な意味だが、「何でも」のうち「自分が期待できるもの」の気持ちが入るので、実質的に「たいしたもの」の意味。
直訳 :「何でも考えられ得るわね、シリル?全くどんなものでも!」
    「実際、考えられ得るさ、でもたいていは指輪か時計のことが多い」
修正訳:「きっとすごいものよ、そうじゃないシリル?ぜったいにすごいもの!」
「確かにすごいものかもね。でもたいていは指輪か時計のことが多いけど」
副詞 ***
‘Because I’m too busy. You’ll disorganize my whole morning schedule. I’m half an hour behind already.
「だって、ぼくはすごく忙しいんだ。きみが来れば、ぼくの午前のスケジュールがすっかり狂っちゃう。あと三十分しかないからね
[解説]
このbehindは「(時刻に)遅れて」の意味。
修正訳:今だって30分遅れてるんだから
名詞 前置詞 
‘Isn’t it a gorgeous day.’ Miss Pulteney, the secretary-assistant, came sailing past her down the corridor on her way to lunch.
「すばらしい日じゃありません?」バルトニイ嬢はちらりと微笑をうかべながら、そういってすれちがった
[解説]
ここ、名前が重要なわけではないのでこのままでもよいが、正しくは「パルトニー」。
past herの前後の位置関係がわかりにくいが読み解くと、こうだ。(パルトニー嬢が)やってきて、ビクスビー夫人の傍らを颯爽と過ぎ、昼食をとりに出かけるべく廊下を遠ざかってゆく。訳はこのままでよいだろう。
第13回『ビクスビー夫人と大佐のコート』Mrs Bixby and the Colonel’s Coatの気になる表現
                   by柴田耕太郎
 今回は『ビクスビー夫人と大佐のコート』の表現があやしい部分を取り上げる。
・言葉の幅
There is one, however, that seems to be superior to the rest, particularly as it has the merit of being true.
けれどもひとつだけ、とくに真実という長所があるので、ほかの物語よりもすぐれているように思われる話がある。
[解説]
パブロフの犬みたいにtrueとくると「真実」と訳すのが、プロ・アマを問わずよく見られる。
だがtrueの幅は広い。「ありのまま」「…そのまま」とするとピタッとくることが結構ある(true to life ありのままの人生、人生そのまま)。
ここは「真実」とすると、あいまい、あるいは大げさに響くところ。「事実」「本当」の語を当てるとよさそう。
修正訳:「事実であるという長所」「実話だという取り柄」
・難字
---that there was little or no chance of their growing bored with one another. On the contrary, the long wait between meetings only made the heart grow fonder, and each separate occasion became an exciting reunion.
それどころか、尾生の辛さがひたすら恋しい気持をつのらせ、おたがい、はなれて暮らしていることが、心ときめく再会とはなった。
[解説]
「尾生」を「びせい」と読める人がどれくらいいるだろうか。まして、言葉の意味を知っている人は。とくにこれはエンタテイメントなのだ、一般人の教養の程度に訳文もあわせねばならない。
修正訳:「会う約束」それでは情緒がないというなら「またの逢瀬」
*参考:尾生の信(広辞苑より)
荘子 (尾生が女と橋の下で会う約束をしたが女は来ず、大雨で増水してきたのに待ちつづけ、ついに溺死したという故事に基づく)固く約束を守ること。愚直なこと。
・他動詞
I’d almost forgotten how ravishing you looked. Let’s go on earth.
「わたしはきみのうっとりするような姿を忘れかけていた。さあ、夢からさめよう」
[解説]
こののままだと、「君自身がうっとりする」ようにとられかねない。他動詞の現在分詞形の形容詞は「ひとを…させる」の意味だから、「ひとをうっとりさせる」
修正訳:「魅力あふれる姿」
・語義  ・掛かり方
; and even a man like Cyril, dwelling as he did in a dark phlegmy world of root canals, bicuspids, and caries, would start asking a few questions if his wife suddenly waltzed in from a week-end wearing a six-thousand-dollar mink coat.
根管、二頭歯、虫歯といった暗い、無気力な世界住んでいるとはいっても、たとえシリルのような男でも、自分の妻が六千ドルもするミンクのコートを着て週末の旅行から踊るような足どり帰宅したとすれば、あれこれと質問してくるだろう。
[解説]
phledgmyは、本来慌てるような時でも変わらずにいること、だから「無気力な」ではまずい。人間なら「冷静な」だが、ここは世界をいっているので訳語を工夫する。
修正訳:「無感動な世界」
つづく箇所、日本語の掛かり方がわかりにくい。「…ても」「…でも」のように両方が強調される場合は、並列が自然に読めるものでなくてはならない。例:雨が降っても、休みの日でも、彼は会社に出かける。ここがおかしいのは、「…ても」の部分はシリルの状況、「…でも」の部分はシリル自身をあげており、並列されるべきものが適当でないことから起こっている。
修正訳:「(無感動の世界)に住んでいるシリルのような男でも」。
・言葉のつづき具合
But the thought of parting with it now was more than Mrs Bixby could bear.
しかし、これを手離すかと思うと、ビクスビイ夫人には到底耐えられなかった
[解説]
「には」を生かすなら、「ビクスビー夫人には苦痛しか浮かばなかった」のようにする。
直訳は「だが、それを手離すという考えは、ビクスビー夫人が耐えることのできる以上のものだった」。
修正訳:「だがこれを手離すのかと思うと、ビクスビー夫人は耐えがたかった」
・イディオム
‘l’ve got to have this coat!’ she said aloud.
「ぜがひでもこのコートを持っていなければ!」と彼女は思わず大声が出た
[解説]
これは誤訳に分類した方がよいかもしれない。say aloudは「声に出して言う」。 say loudが「大声でいう」。
修正訳:「思わず声が出た」または「夫人は思わず口にした」
第14回 『ローヤル・ジェリイ』Royal Jelly 
                 by柴田耕太郎
[ストーリー]
アルバート・テイラーは若き養蜂家。子宝に恵まれたばかりだが、その乳飲み児の娘の食が細くて、妻ともどもとても心配している。アルバートの案じた一計で、目出度く娘の食欲を回復させることができた。ローヤル・ジェリイを大量に飲ませたのだ。これで一安心と喜んだのも束の間、よくよく見ると、乳児であるはずの娘は、女王蜂さながらに変身中!?…。
比較級 ***
‘You can’t tell me it’s natural for a six-week-old child to weigh less, less by more than two whole pounds than she did when she was born! Just look at those legs! They’re nothing but skin and bone!’
「もう六週間もたっているのに、二ポンドにも充たないなんて、生まれた時より目方がへってるなんて、あたりまえじゃないじゃありませんか!あの足をごらんなさいな!まるで骨と皮だわ!」
[解説]
比較級については、次の視点をつねに持つことが大切。
何と何を、何の点で比較しているか。
ここでは、赤ん坊について、その産まれたときと六週間たった現在の体重を、増減の点で比較している。
該当部分だけ抜き出して一文にすると、She(the six-week-old child) weighs less (by more than two whole pounds) than she did when she was born.
つまり、「生後6週間の赤ん坊」について(she)、その生まれたときの体重(did《=weighed》when she was born)と、現在の体重(weighs)を、増減(less than )の点で比較。
by more than two whole poundsが挿入的に入って(前のlessに掛かる副詞句)、わかりにくくしているが、ここのbyは単位を示す前置詞で「…分」、more than two whole poundsは「まるまる2ポンド以上」で、by以下の全体は「まるまる2ポンド以上分」が直訳。
修正訳:「2ポンド以上も」
間投詞 *
‘Yes?’
「そうかな?」
[解説]
これは、相手の呼びかけについて、それを受けるあいずち。日本語でも同じ。
「はい?」
助動詞(まがい) *
He picked up the magazine that was still lying on his lap and glanced idly down the list of contents to see what it had to offer this week.
彼はひざの上においたままになっている雑誌をとりあげ、今週眼を通しておかねばならないものを探すために、目次をぼんやりと眺めた。
[解説]
had toを「…しなければならない」と取ったのだろうが、「…おかなければならない」ことを「ぼんやりと」するのはおかしい。ここは、hadとtoの間は区切りがあると考えるべき。whatの中に含まれる先行詞をthe thingで置換え、it had the thing to offer this week(雑誌は今週提供すべきものを有する)と読む。直訳「雑誌に今週乗っているものに目を通すために」。
修正訳:「今週の内容を見ておこうと」
名詞 **
Regurgitations
『修復論』
[解説]
じつはこの前後にThe Healing Power of Propolis, British Beekeepers Annual Dinnerとあって、いかにも養蜂家雑誌の目次を思わせる。そこに突然「修復論」が出てくるものだから、読んでいるほうは面食らう。なるほど、辞書によっては「修復」の訳語を載せたものもあるが、ここはミツバチが「吐くこと」「もどすこと」ととりたい。
修正訳:「反芻」
名詞 ***
He never had to use smoke when there was work to do inside a hive and he never wore gloves on his hands or a net over his head.
彼は巣箱の中での仕事があるときには、決して煙草を吸おうとはしなかったし、手袋もはめず、頭にネットをかぶるようなことも、決してなかった。
[解説]
何で、やぶからに「煙草を吸う」ことに焦点が当てられるのだろう。刺されないよう用心して、煙をたいて燻すことを意味しているのだ。
修正訳:「煙を焚こうとは」
動詞 ***
He doubted very much whether there would be anything in this that he didn’t know already:
彼がまだ未知のこの分野に何か意義があるのか、彼は大いに疑問だった。
[解説]
主人公のアルバートは、少年時代からの天才的養蜂家なのだ。「未知」とか「疑問」とかは無縁だという自負があるはず。
doubt whetherは「半信半疑」だが very muchで修飾され「whether以下のことはない」に可能性が移動する。that以下はanythingに掛かる。thisは、ここだけでは分からないが、いま読もうとしている雑誌記事を指す。
修正訳:「この記事のなかに、自分がまだ知らないことなんて出ているわけがあるまい、と彼は思った。
名詞 ***
Albert Taylor took the pipe out of his mouth and examined the grain on the bowl.
アルバート・テイラーはパイフを口から離すと、鉢の中に入っている穀物を調べた。
[解説]
このbowlは「パイプの鉢」。the grainはここでは「木目」の意味。
修正訳:「鉢の木目模様に目をやった」
動詞 **
Will you come in and watch the next one and see if she does it again, Albert?’
He told her he wouldn’t miss it for anything, and she hugged him again, then turned and ran back to the house, skipping over the grass and singing all the way.
ぼくのやること間違いなんかあるものかと、彼はいってきかし、彼女はもう一度彼を抱きしめると、身をひるがえしてスキップをふみ、ずっと歌を唄いながら家の方へ走っていった。
[解説]
直訳すると「絶対にそれを逃しはしない」といっている。itは「二人の愛児がちゃんと食事をとること」。for anythingは否定形と結び「少しも…ない」の意。missは「…しそこなう」→この場合「見損なう」。
修正訳:「ぜったい見逃すものか」または意訳して「何があっても家に戻るさ」
イディオム *
‘Albert, stop pulling my leg.’
「アルバート、ごまかさないでよ
[解説]
pull one’s legは、イディオムで「からかう」。
修正訳:「からかわないで」
イディオム *  動詞 *
They mix a tiny pinch of it into a big jar of face cream and it’s selling like hot cakes for absolutely enormous prices.
連中は大きな美顔クリームのカンの中に、ほんのちょっぴりこいつを混ぜ合わせて、とんでもなく馬鹿高い値段のホット・ケーキみたいに売るのさ
[解説]
like hot cakesはイディオムで「飛ぶように」。
修正訳:「馬鹿高い値段で飛ぶように」
このsellは自動詞で「売れる」。
修正訳:「売れているのさ」
動詞 *
‘and quite apart from that, we had a shocking honey corp last year, and if you go fooling around with those hives now, there’s no telling what might not happen.’
「それに、その話はともかくとして、去年の蜜の収穫量はぜんぜんひどかったわ。だから、あなたがあの巣箱をいいかげんにしておくつもりなら、どうなったって知らないわよ」
[解説]
fool aroundは「バカな真似をする」。
修正訳:「あの巣箱にへんなことをするなら」
名詞 *
‘What the hell are you talking about, Mabel?’
‘Albert,’ Mrs Taylor said. ‘Your language.
「なにをばかみたいなことをいってるんだ、メイベル?」
「アルバート」と彼女はいった。「なんてことを
[解説]
the hellなどと品のない言葉を夫が口にしたので、とがめたのだ。
修正訳:「その言い方って」。
名詞 ***
Three times the normal amount! Isn’t that amazing!’
三回も定量だけ飲んだんだ!こいつはおどろきじゃないか!」
[解説]
このtimesは「…回、倍」
修正訳:「定量の三倍飲んだんだ」
名詞 ***
She weighs a ton.
一トンもふえてるぞ!」
[解説]
このweighは自動詞「…の重さがある」。赤ん坊の目方を計っているのだ、一トンにもなるわけがあるまい。a tonは口語で「たくさん」。
修正訳:「すごく増えてる」
イディオム **
I thought that might surprise you a bit. And I’ve been making it ever since right under your very nose.’ His small eyes were glinting at her, and a slow sly smile was creeping around the corners of his mouth.
きみにはちょっとおどろきだったかもしれんが、きみの反対は予想の上で、つくってみたんだ」彼の小さなひとみは、きらきらしながら彼女をみつめ、かすかな微笑みが口の端から、ゆっくりと顔にひろがってゆく。
[解説]
mightはmayの過去形で可能性を示している。ever sinceは副詞句で「以来」。rightは強調の副詞「まさに」
直訳:「君を驚かすかもしれなと思ったんだ。それで以来、君の目と鼻の先でそれを作ってきた」
意訳:「驚かすといけないと思って、なにも言わずに作ってきたんだ」
第15回 『ローヤル・ジェリイ』Royal Jelly  の気になる表現
                          by柴田耕太郎
[ストーリー]
アルバート・テイラーは若き養蜂家。子宝に恵まれたばかりだが、その乳飲み児の娘の食が細くて、妻ともどもとても心配している。アルバートの案じた一計で、目出度く娘の食欲を回復させることができた。ローヤル・ジェリイを大量に飲ませたのだ。これで一安心と喜んだのも束の間、よくよく見ると、乳児であるはずの娘は、女王蜂さながらに変身中!?…。
・表現
She lifted the bottle out of the saucepan of hot water and shook a few drops of milk on to the inside of her wrist, testing for temperature.
彼女はお湯の入っているシチューなべから、壜をとりだすと、二、三滴ミルクをふりだして、手首の内側にかけ、熱さをみた。
[解説]
「振って中から出す」のが「ふりだす」の意味だから、よさそうな気になるが、これはコロケーション(言葉と言葉の親和性)の問題。「ふりだす」だと、ずいぶん力が加わる感じだし、対象が固形物のようだ。例:瓶から味の素をふりだし…。
修正訳:ミルクをたらして
But the mother said it was a gift given him by God, and even went so far as to compare him with St Francis and the birds.
けれども、母親は、これはこの子が神からもらったさずかりものだといい、彼を聖フランシスと小鳥たちにたとえたりまでしたのだった
[解説]
このcompare A with Bは、「喩える」より「比較する」のほうがよいだろう。慈愛あふれる人柄から、説教に小鳥までもが集まってきたという、イタリアはアッシジの聖フランチェスコ(名前は現地語読みとする)と小鳥の親密さを、若き養蜂家ロバートと蜂の親密さと比べたのだ。
修正訳:彼を小鳥に好かれる聖フランチェスコと比べたりもするのだった
‘And we just finished the last feed ten minutes ago.…’
「それで、十分ほど前に最後のお乳を終ったところだ。…」
[解説]
「最後の」では、もうお乳は永久にあげないみたいだ。「直近の」の意味がはっきりわかるように訳す。
修正訳:すぐ前のお乳は十分前に終った。…
‘It’s curing her, isn’t it?’
I’m not so sure about that, now.
「あの子は元気になったじゃないか、そうだろ?」
それがもう、何だかあやしい気持ちになってきたわ
[解説]
「あやしい気持ち」では、気分が危険なほうへ傾くみたいだ。be sure aboutは、…を確信する。赤ん坊が本当に元気になったのかどうか、わからなくなったといっている。
修正訳:もう、わからなくなったわ。
‘Don’t be a fool, Albert! You think it’s normal for a child to start putting on weight at this speed?’
「へんなこといわないで、アルバート!こんなに、体重をふやして、それで子供には正常だと思っているの?
[解説]
主語がねじれている。体重を増やしたのは、子供。「それで」は、前の節を受けにくい。
修正訳:子供がこんなに体重を増やすことが、あっておかしくないって思ってるの?
第16回『ジョージ・ポーギー』Georgy Porgy 
               by柴田耕太郎
[ストーリー]
 ジョージ・ポーギーは青年副牧師。女性と付き合ったことがまだ無い。だが、劣情は人一倍強く、かつまた教区の独身女性たちの誘惑もはげしく、それらを押し留めるのに苦慮している。そんなとき、めずらしく清楚ではつらつ、インテリジェンスのある中年のローチ嬢に巡り会った。勧められるまま、アルコールらしき飲み物を一口啜る。気分が高揚し勢いでローチ嬢に迫ったのはよいのだが、そのプロセスが拙かったらしく、彼女はいたくおかんむり。ジョージは思わず彼女の口の中に飛び込み、今やその十二指腸の上に小部屋を作って、ほとぼりが醒めるまでしばらくのんびりを決め込んでいる。
イディオム * 
Without in any way wishing to blow my own trumpet, I think that I can claim to being in most respects a moderately well-matured and rounded individual.
自画自賛しようという気持ちをぜんぜん持たずとも、私は、ほとんどあらゆる点で、温厚円満な人物であるといってさしつかえないと思う。
[解説]
blow one’s own trumpetは「大法螺を吹く」の意。
修正訳:自慢するわけではないが
冠詞 *** 
And even then I always tried to ensure that I touched only the shoulder or the waist or some other place where the skin was covered, because the one thing I never could stand was actual contact between my skin and theirs.
しかも、手を貸してやるときですら、私は、皮膚がかくされている肩とか胴とかほかの部分にしかさわらないことにいつも気を使った。私に到底耐えられないことのひとつは、自分の皮膚と他人の皮膚がじかに触れ合うことだったのである。
[解説]
the+one(形容詞)+名詞、の場合のoneは「唯一の」の意。
修正訳:私が唯一耐えられないのは→こればかりはどうしても我慢できないのは
形容詞 ** 
My features were regular,
私の容貌は人並みである
[解説]
regularは多義だが、ここは「均整のとれた」。例:regular feature整った目鼻立ち。「人並み」はaverage、ordinary、commonなど。
修正訳:整ったほうだ
動詞 ** 
My flock, you understand, contained an inordinate number of ladies.
ご承知のように、私の会衆には途方もなくたくさんの婦人が含まれていた。
[解説]
「ご承知のように」はおおげさ。それほど重い意味ではない。あいずちを求める間投詞に近い。
修正訳:実は
仮定法 *** 
One would have thought that with all the careful training my mother had given me as a child, I should have been capable of taking this sort of thing well in my stride; 
子供のころ、母が私に与えた慎重な教育をもってすれば、私がこういったことを始末できるのではないか、とひとは考えるだろう
[解説]
would have thoughtは、仮定法過去完了(過去における反実仮想)「(考える機会がもしあったとすれば)思ったことだろう」。should have been capable of takingは、仮定法過去完了で(1)…すべきであったのに(過去の反実仮想) (2)…したことだろうに(過去の推量)のうち、(2)。
修正訳:たやすく処理することができたはずだ、と誰でもが思っただろう。
副詞 **  冠詞**
It always ends at precisely the same place, no more and no less, and it always begins in the same peculiarly sudden way, with the screen in darkness, and my mother’s voice somewhere above me, calling my name;
それはつねに正確に同じところで終り、多くなることも少なくなることもなく、また始まるときはいつも、闇のなかのスクリーンのように妙に唐突で、どこか私の頭上あたりから母の声が私の名前を呼んでいるのだ。
[解説]
「正確に」ではendsに掛かってしまう。preciselyは強調的に、the same placeに掛かる→修正訳:まさに
「闇のなかのスクリーン」では、なにも見えまい。
inは状態を示す前置詞、darknessは総称用法で暗闇(であること)。「闇のなかのスクリーン」なら闇は特定化されるので、the screen in the darkness。 the screen in darknessは、暗闇状態にあるスクリーン→修正訳:「真っ暗なスクリーン」
*前後で文がねじれている(主語が一文内で分裂)が、ここでは取り上げない。
副詞 **
We creep back around the cage to keep the baby in view.
私たちは赤ん坊から眼をはなさずに、檻のまわりを這うようにして元の位置にもどった
[解説]
「元の位置に」とは書かれていない。creep back aroundは、自動詞+副詞+前置詞の形。副詞で大状況を、前置詞句で小状況を示す。creepは(1)這う (2)忍び足で歩く、のうち(2)のほうがよいだろう。忍び足する→後ろにさがって→檻の周りを
修正訳(全体):私たちは赤ん坊が見えるように、檻を後ずさりしてそっと回り込んだ。
名詞 *** 
I would see them eyeing me covertly across the room at a whist drive, whispering to one another, nodding, running their tongues over their lips, sucking at their cigarettes, plotting the best approach, but always whispering, and sometimes I overheard snatches of their talk---
私は、部屋からこっそりと私を見ている彼女たちの存在に、静かなドライヴウェイで気がついたものだった。彼女たちはおたがいに囁きをかわし、うなずき合い、忙しく唇を舌でなめて、煙草を吸い、うまい手を考えるのだが、いつも囁きあうばかりで、その話の断片が聞こえてくることもあった---
[解説]
whist driveは、トランプゲームの一種「ホイスト・ドライヴ」。acrossは貫通を示し、「部屋の向こう側からこっち側にいる自分を見ている」こと。
修正訳:彼女たちが)トランプ遊びをしながら、部屋の向こうからこっそり私を見ているのに気がついていた。
代動詞 ***
Nothing stimulates them quite so much as a display of modesty or shyness in a man.
And they become doubly persistent if underneath it all they happen to detect---and here I have a most difficult confession to make---if they happen to detect, as they did in me, a little secret gleam of longing shining in the backs of the eyes.
男が遠慮や内気を示すほど女性を刺激するものはない。しかもその裏でたまたま---ここで私はもっとも難しい告白をしなければいけないが---たまたま彼女たちが私にいったように、眼の奥に輝く渇望のひそやかな光を発見しようものなら、そのしつこさは倍になる。
[解説]
直訳は「彼女たちが私の中に見て取ったごとく」。このdidは代動詞で、detectの代わり。
修正訳:彼女たちがズバリ私の内面を見抜いたごとく
代名詞 ***
I first isolated the sexes, putting them into two separate cages, and I left them like that for three whole weeks. Now a rat is a very lascivious animal, and any zoologist will tell you that for them this is an inordinately long period of separation.
私はまず雄と雌を隔離して、別々の檻に雄と雌を入れ、まるまる三週間そのままにしておいた。ところでネズミは非常に色好みの動物であるが、動物学者ならば、これを甚しく長い期間にわたる隔離のせいだ、というだろう
[解説]
thisは、直前のことを指す。ここでは「三週間、ネズミのオスとメスを隔離しておいたこと」。
修正訳:さてネズミは非常に色好みの動物であって、動物学者なら、これは長すぎる隔離期間だというはずだ
冠詞 **
A Miss Montgomery-Smith came next, a small determined woman who had once tried to make me believe that she had been engaged to a bishop.
次はモンゴメリイ・スミスとかいう雌だった。これは自分が僧正と婚約していることをかつて私に信じこませようとした小柄な頑固女である。
[解説]
一見よさそうだが、どこが悪いのだろうか。自分みずから、旧知の女性の名前をネズミに名づけたのだ。「…とかいう」ではおかしいだろう。
修正訳:次はモンゴメリイ・スミスと名づけた雌だった。
前置詞 **
She died trying to creep on her belly under the lowest wire, and I must say I thought this a very fair reflection upon the way in which she lived her life.
彼女は、腹を上にしていちばん低い電線の下を通ろうとして死んだ。この死にかたは、彼女が生きた一生の姿をみごとに反映したものだ、と私は思った。
[解説]
前置詞onは、接触を示す。腹の上に体を置いている、また、腹と地面が触れ合っている、と理解する。
体を腹の上に乗せて→修正訳:腹這いで
名詞 **
; not thin and stringy like the necks of a lot of these so-called modern beauties, but thick and strong with a slight ridge running down either side where the sinews bulged. 
いわゆる現代美人の項のようにほっそりとして筋ばってはいない。筋肉が張っている背筋がいかにもがっしりとして丈夫そうである。
[解説]
項(うなじ)を比べている箇所。
修正訳:太くがっしりしていて、筋肉の盛り上がった両肩につながり背はシャンとしている。
形容詞 **
But here I was now, the same old me, actually relishing the contact of those enormous bare arms against my body!
しかし、いまここにいる私は、昔ながらの私なのだが、自分の身体と巨大なむきだしの腕との接触を実際にたのしんでいるのだ!
[解説]
女嫌いのはずの自分が女性との接触を楽しんでいることを、自分でも面食らっている場面、「昔ながらの私」はないだろう。「いつもと変わらぬ」の意味。例:the same old excuse(いつもの口実)
修正訳:前と同じ私なのだが
仮定法 ***
Had it been a red-hot iron someone was pushing into my face I wouldn’t have been nearly so petrified, I swear I wouldn’t.
もしそれが、私の顔に押しつけようとしている真赤な熱い鉄だったら、私だって我慢できなくなるはずである。
[解説]
仮定法過去(現在の反実仮想)ではなく、仮定法過去完了(過去の反実仮想)。それに譲歩の気持ちも含まれている。「…だったとしても、−だったことだろうに」。
修正訳:自分の顔に真っ赤に燃えた鉄を押し付けられてきたとしても、あれほど驚愕することはまずなかっただだろう、誓ってそう思う。
前置詞 *  名詞 **
I was right inside this enormous mouth, lying on my stomach along the length of the tongue, with my feet somewhere around the back of the throat;
私はこのばかでかい口のなかに吸いこまれ、胃が長い舌の上に、脚は喉の奥あたりにあった。
[解説]
lying on my stomach(腹這いになっている)。また、the lengthは「全長」→「端から端まで」。alongは(1)…に沿って (2)…のところをずっと、のうち(2)。
修正訳:舌の上に腹這いとなり
動名詞 ** 否定語 **
I remember screaming for help, but I could hardly hear the sound of my own voice above the noise of the wind that was caused by the throat-owner’s breathing.
私は助けを求める悲鳴をいまでも記憶していたが風の音よりも大きい自分の声のひびきが耳に入ってくるだけだった
[解説]
初歩的な文法ミス。remenber 〜ingは「〜したことを覚えている」。元訳では誰の悲鳴かわからない。
hardlyは、準否定語「ほとんど…ない」。aboveは、優越を示す前置詞(…に勝って)。例:Her voice could be heard above the noise. (彼女の声は騒音の中でも聞きとれた)。
修正訳:私は助けを求める叫びを上げたのを覚えている。だがその自分の声は、喉の持ち主が呼吸する音にほとんどかき消されてしまっていた。
動詞 **
I also sing madrigals in the evenings, but I miss my own harpsichord terribly.
私はまた晩になるとマドリガルを歌うけれど、ハープシコードをひくのがひどく下手だ
[解説]
このmissは「…がなくてさみしく思う」の意味。
修正訳:ハープシコードがそばにないのがとても残念だ。
第17回 『ジョージ・ポーギー』George Porgy  の気になる表現
                               by柴田耕太郎
・表現
Josephine has just started having her babies,’ my mother says.
ジョジフィンがたったいま赤ちゃんを生みはじめたのよ」と母がいった。
(解説)
人名、地名は現地語読みが原則。ここNapoleonに対するJosephineだから、フランス皇帝ナポレオンの后である「ジョセフィーヌ」の名で呼ばなければならない。
Josephine is reclining on a help of straw inside the low wire cage in one corner of the room---large blue rabbit with small pink eyes that watch us suspiciously as we go towards her.
ジョジフィンは車庫の片隅にある低い檻のなかの藁山に寄りかかっている---私たちが近寄っていくと、大きな青いウサギは小さな赤い眼で警戒するように私たちを見た。
(解説)
本当に「青い」わけでなく、薄い灰色を「青」と呼んでいるのだ。くすみを感じさせる「蒼」の語を充ててはどうだろう。訳:蒼いウサギ
, and I scream again, and this time I can’t stop. 
私はまた悲鳴をあげ、こんどは、それを抑えることができなかった
(解説)
元訳では「それを」が指すものがあいまい。このstopは自動詞「(作業《この場合、悲鳴をあげること》)をやめる」。
訳:それが止まらなかった。
I run down the drive and through the front gates, screaming all the way, and then, above the noise of my own voice I can hear the jingle of bracelets coming up behind me in the dark, getting louder and louder as she keeps gaining on me all the way down the long hill to the bottom of the lane and over the bridge on to the main road where the cars are streaming by at sixty miles an hour with headlights blazing.
私はドライヴウェイを走り、門を抜けていきながら、その途中ずっと叫びつづけていた。
(解説)
「ドライヴウェイ」が、「道路から玄関・車庫に通じる私設車道」だとわかる読者がどれほどいるだろうか。訳:私は玄関から引き込み車道を走り
---she must have come tip-toeing up behind me---all at once I felt a bare arm sliding through mine, and one second later her fingers were entwined in my own, and she was squeezing my hand, in out, in out, as though it were the bulb of a throat-spray.
きっと爪立ちで背後からそっと寄ってきたに相違ない。
(解説)
「爪立ち」との言葉はたしかにあるが、あまり使わないのでは。訳:「爪先立ち」
Miss Foster was a woman in the village who bred cats, and recently she had had the effrontery to put up a large sign outside her house in the High Street, saying FOSTER’S CATTERY.
フォスター嬢というのは猫をなん匹も飼っている村の女で、最近、厚かましくもハイ・ストリートの家の前に「フォスターの猫飼育所」という大きな看板を出した。
(解説)
「ハイ・ストリート」が何か、読者にわからない。町の中心の目抜き通りのこと、がわかるように訳す。訳:本通り
Your poor throat sounded hoarse today during the sermon, it said.
「お気の毒に、今日の説教では、あなたの声はかすれておりました」その手紙にはそう書いてあった。
(解説)
「かすれておりました」は自分がへりくだる謙譲語。相手を立てる言い方に直す。訳:かすれておられました
Mens sana in corpore sano.’
メンス・サノ・イン・コルポリ・サナ
(解説)
ラテン語は原則ローマ字読み。訳:メンス・サーナ・イン・コルポレ・サーノ
‘The fruit cup is only made of fruit, Pardre.’
「フルーツ・カップはフルーツしか入ってませんのよ、牧師さん
(解説)
このあと、「Padreということばの軍隊的な厳しい感じが気に入った」と言う意味が続くのだから、「牧師さん」ではまずいだろう。そのままカタカナで感じがわかると思う。
訳:パードレ
‘Listen,’ she said softly. ‘How about the two of us taking a little stroll down the garden to see the lupins?’
「あたしたち二人でちょっと庭園を散歩して、ルピナスでもごらんになりません?」
(解説)
前後で文がねじれている。前半の、散歩するのはあたしたち、後半の、ルピナスを見るのはあなた。主語をあたしたちに統一する。
訳:ルピナスでも見ませんこと
I could feel my legs being drawn down the throat by some kind of suction, and quickly I threw up my arms and grabbed hold of the mouth-entrance, and I could actually look right out between the lips and see a little patch of the world outside---
私は、ある種の吸引力によって私の脚が喉をひきこまれていくのを感じて、すぐさま腕を思いきりふりほどき、下の前歯をつかむと、命かわいさにしばらくそのままにしておいた。
私の顔は口の入り口の近くにあったが、その唇のあいだから眼をやると、ほんのわずか外の世界が見えた---
(解説)
「脚が喉をひきこまれていく」とはどんな状態だろう?
訳:私の脚が喉の下のほうにひきこまれてゆく
「ふりほどく」というよりも「腕を上げる」。「命かわいさにしばらくそのままにしておいた」は原文にないし、不必要。
訳:すぐさま腕を伸ばし、前歯をつかんだ
Oh dear, oh dear. Looking back on it now, some three weeks later, I don’t know how I ever came through the nightmare of that awful afternoon without taking leave of my senses.
三週間ばかりたったいま、振り返ってあのときのことをつらつら考えてみると、私は、自分の感覚を失うことなく、どうやってあの恐ろしい午後の悪夢をくぐり抜けてきたのか、いまもってわからない。
(解説)
これは誤訳。take leave of one’s sensesは、イディオム「血迷う」「気が狂ったように振舞う」(sensesは「五感」)。訳:気も狂わずに
He is civil and dignified, and I imagine he is lonely because he likes nothing better than to sit quietly in my room and listen to me talk.
礼儀正しく、威厳のある男で、彼が孤独なのは、私の部屋に静かに座って私の話を聞くのがなにより好きだからではないかと想像している
(解説)
何で「孤独」なのかがわからない。このlonelyは「孤独」でなく「社交ぎらい」「一人でいることを愛する」の意味。imagineは、以下全文に掛かるのでなく、he is lonelyに掛かる。
訳:わずらわしい人との付き合いを嫌っているらしいのは、…好きなことからわかる。
第18回 『誕生と破局』Genesis and Catastrophe
                        by柴田耕太郎
[ストーリ]
ドイツの国境に近い町で、一人の男の子が生まれる。母親にとっては4人目の子だが、これまでは皆幼くして亡くなってしまっていた。健やかに育ってと母親は祈るような気持ちだが、様子を見に来た酔っ払いの税官吏の夫は、子供の小ささを指摘する。見るに見かねた医者がふたりの仲をとりもち、子供の未来をともに祝福するようにと諭す。さてその子とは、のちのヒトラーなのであった…
副詞 *
His voice was miles away in the distance and he seemed to be shouting at her.
なんマイルも遠くからつたわってくる声だが、そのくせ彼は、女をどなりつけているような気がした。
[解説]
milesは名詞だが副詞的に働き「遥かに」。awayは「離れて」。in the distanceは「遠くに」。意味の似た言葉を重ねて気分的な遠さを示しているので、実際に遠方から声がしたわけではない。
修正訳:彼の声はずっと離れたところにあって、彼女をどやしているようだった。
形容詞 **
And she was very sad.
それにまた、非常に哀れでもあった。
[解説]
やさしそうな単語にこそ配慮が必要。she本人が「悲しい状態」なのでなく、人から「悲しく見える」のだ。しつこくいえば「悲しみを誘う」こと。
修正訳:「そして彼女はとても寂しげだった。」
動詞 ** 形容詞 **
Also there was a rumour that this was the husband’s third marriage, that one wife had died and that the other had divorced him for unsavoury reasons.
前の細君は、ひとりは死に、もうひとりはつまらないことから離婚してしまったというのである。
[解説]
divorceは「…と離婚する」(彼を離婚したわけではない)。unsavoury reason(s)は「まともな感じのしない」(unpleasant or morally unacceptable)こと。「訳ありの」「よからぬ理由で」など。
修正訳:これが三度目の結婚で、前の一人とは死に別れ、もう一人とは訳ありの理由で別れた、との噂があった。
形容詞 *
But he was always ill.
でも病気ばかりしている子でした。
[解説]
「いつも病気」より意味範囲を広くとったほうがよい。「病気がち」「いつも具合が悪い」。
修正訳:でもいつも具合が悪かった。
強調 *
But the small ones are often a lot tougher than the big ones.
しかし柄は小さくても、柄の大きな赤ん坊よりはるかに芯が強いですからな。
[解説]
onesは「赤ん坊」。a lotは名詞だが副詞的に働き「ずいぶん」「大層」。
一般論をいっている。「小さくても」では、特定の赤ん坊をいっているように聞こえる。
修正訳:でも小さい子は大きい子より丈夫なことが多いですからな。
名詞 *
‘You must forget about the others, Herr Hitler. Give this one a chance.
「ほかのお子さんのことはみんな忘れなさい、ヒットラーさん。このお子さんにだって希望はあるんですよ
[解説]
このchanceは「機会」の意。例:Give me a chance!(私にやらせてください)。
修正訳:他のお子さんのことは忘れなさい、ヒットラーさん。この子の可能性を見てやってください。
表現
今回、誤訳が少ないので、あやしい表現もいっしょに取り上げます。
文のねじれ
‘Your baby is being made to look pretty for you,’ the doctor said.
「赤ちゃんはね、あなたに見てもらうために、きれいにしているところですよ」と医者はいった。
[解説]
「…見てもらうために、」の前後で主語が違っている(前は赤ちゃん、後は関係者)ので、統一する。
修正訳:赤ちゃんはね、きれいにされて、あなたにこれから見てもらうんですよ。
人名の呼び方
‘My little girl was called Ida. She died a few days before Christmas. That is only four months ago. I just wish you could have seen Ida, Doctor.’
「娘はアイダといいました。その子はクリスマスの二、三日前に亡くなりました。それも、四ヶ月前のことですわ。アイダを先生にお見せしたかったですわ」
[解説] 
人名、地名は現地語読み。
修正訳:「アイダ」でなく「イダ」。
指示語
When she died…I was already pregnant again when that happened, Doctor.
あの子が死んだとき---わたしがまた妊娠したとき、あんなことになったのです、先生。」
[解説]
元訳では「あの子が死んだとき」=「わたしがまた妊娠したとき」に、「何か(あんなこと)が起こった」と読めてしまう。
修正訳:あの子が死んだとき---それが起こったとき、私はすでに再び妊娠していました。
近親語
‘I don’t know. I’m not sure. I think my husband said that if it was a boy we going to call him Adolfus.’
‘That means he would be called Adolf.’
‘Yes. My husband likes Adolf because it has a certain similarity to Alois. My husband is called Alois.’
「わかりませんわ。はっきり存じません。主人の話ではもし男の子ならアドルフスにしようということだったと思いますわ」
「するとアドルフというわけですな」
「はい。主人はアドルフという名前が好きなんです、アロイスにいくらか似ているんで。主人はアロイスという名前なんです」
[解説]
元訳では名前相互の関係がわからない。Adolfは「狼」の意味で、高貴さイメージする。Adolfusはその異名。Aloisはそれらに響きが似ている。こういった情報を会話に盛り込まねば、読者は戸惑ってしまう。
修正訳:「さあ、どうでしょうか。主人は、男の子だったらアドルファスとつけよう、と言ったと思います。」
「すると、アドルフって呼ばれるんですね」
「はい。アドルフは、アロイスに似た感じがあるので、主人は好きなんです。主人は、アロイスって名前なんです。」
A small man in a dark-green uniform stepped softly into the room and looked around him.
濃い緑の制服を着た小男がそっと部屋に入ってきて、ぐるりと見まわした。
[解説]
色の感じ方は日欧な微妙に異なる。日本は青が緑の上位概念(青信号:緑。青リンゴ:緑)だが、欧米では緑が青の上位概念(The light went green.信号が青になった  green field青々した野原)。
修正訳:濃い青の制服を着た小男が、そっと部屋に入ってきて、まわりをぐるっと見回した。
テニオハ
‘Every day for months I have gone to the church and begged on my knees that this one will be allowed to live.
「何ヶ月も、毎日、教会に行って、この子に永生きさせてくださいとひざまずいておねがいしたの」
[解説]
「この子」が、何かを「長生きさせる」わけではあるまい。
修正訳:この子を長生きさせてくださいと…
第19回『暴君エドワード』Edward the Conqueror その@
                             by柴田耕太郎
[ストーリー]
ルイザとエドワードは初老の夫婦。あるとき庭仕事をしていて、見慣れぬネコに出会う。ネコを家に入れたまま、ルイザがピアノの稽古をしていると、ネコは曲によって異常な反応を示す。またあろうことか、ネコの顔には大作曲家リストと同じ位置にホクロがある。ルイザはこのネコがリストの生まれ変わりに違いないと思い込むが、エドワードはこの話に取り合わない。ルイザがネコいやリストのために晩餐を用意している間、エドワードはネコを伴って庭に出ていたようだ。肝心のリストはどこにいったのか、問い詰めるルイザがエドワードの腕に眼をやると、手首に一条の鋭い傷がある。あなた、まさか…、と逆上しそうになるルイザ。
並列 **
It was blazing fiercely, with orange flames and clouds of milky smoke, and the smoke was drifting back over the garden with a wonderful scent of autumn and burning leaves.
たき火は、オレンジ色の焔をあげ、ミルク色の煙をたなびかせながら、猛烈に燃えさかっていた。煙は秋のすばらしい香りを放ちながら、庭園いっぱいに漂い、木の葉をこがしている
[解説]
drift back over 〜 は、自動詞+副詞+前置詞句の形で、漂う→後ろへ(大まかな位置)→<庭を>覆って(具体的な場所)、と読む。
with以下の掛かり方が次の四つにとれる。
(1)形容詞句としてthe gardenを修飾。
@ a wonderful scent of autumnとburning leavesの並列
A autumnとburning leavesの並列
(2)副詞句としてdriftingを修飾 BC
(1)@「秋の素晴らしい匂いと燃える葉っぱのある庭」
A「秋と燃える葉っぱの素晴らしい匂いのある庭」
(2)B「秋の素晴らしい匂いと燃える葉っぱを伴って漂う」
  C「秋と燃える葉っぱの素晴らしい匂いを伴って漂う」
引用文の前を読むとわかることだが、焚き火は庭を下った敷地はずれで焚いている。そこから斜面の上にある庭に煙がたなびいてゆくのだ。(1)@は、「燃える葉っぱ」が庭にあってはおかしいし、(1)Aは、「煙がそこに漂った」結果として「匂い」がするわけだから不可。(2)Bは、煙が「燃える葉っぱを伴う」はずがないのでダメ。(2)Cが正解。
また、andは(1)autumnと burnigを並列(秋の燃える、葉っぱ) (2)autumnとburning leavesを並列(秋と、燃える葉っぱ)、の二つにとれそうだが、(1)であれば異種の形容詞はandもカンマもなしで並べるのが普通(autumn burnig leaves)であり、andを介在させ両者を強調する必要性もないことから、不可。(2)を採る。
下線部、直訳すると「煙は、秋と燃える葉っぱの素晴らしい匂いを伴って、後ろの庭園を覆うように漂っていった。」
元訳は並列の誤り以外にも、意訳したつもりなのだろうが、「煙」が「木の葉をこがす」ととれるのがよくない。
修正訳:こがした木の葉からでる煙は、秋のすばらしい香りを含みながら、庭園いっぱいに広がっている。
イディオム ***
Had she wanted she could easily have called again and made herself heard, but there was something about a first-class bonfire that impelled her towards it right up close so she could feel the heat and listen to it burn.
そうしようと思えば、もう一度良人を呼んでみるのはたやすいことだし、また今度は気がつかせることもできたのだろうが、そのすばらしいたき火には、なにか彼女をひきつけるものがあったのだ。あまりたき火に近づいたのでその火照りが感じられ、燃える音が彼女の耳に聞こえてきた。
[解説]
so that 〜 can(…できるように)のthatが抜けた形。「それで」のsoではない。
直訳は「しかし、第一級のたき火には、彼女がその熱を感じられ、かつそれが燃える音を聞けるように、彼女をしてそのたき火のほうのもっとずっと近くに駆り立てるなにものかがあった。」
修正訳:そのすばらしいたき火には、なにか彼女をひきつけるものがあり、もっと近づいてその熱気を感じ燃える音を聞きたいという気持ちになった。
形容詞 **
‘It’ll get burnt!’ Louisa cried, and she dropped the dishcloth and darted swiftly in and grabbed it with both hands, whisking it away and putting it on the grass well clear of the flames.
「やけどするわ!」とルイザは叫んで、ふきんをおとすと、軽々と身を走らせ、両手でネコを抱きあげたかと思うと、さっと身をひき、もうすっかり焼きはらわれた草地の上にそれを置いてやった
[解説]
whisk O awayは「Oを(元のところから離して)さっと移動させる」。itは、ネコ。訳はこのままでよいだろう。clearを「きれいになる」ととって「焼きはらわれた」としたのだろうか?clear ofはイディオムで「…から離れて」。
修正訳:焔から十分離れた草地にそれを置いた。
形容詞 **
There was a veiled inward expression about the eyes, something curiously omniscient and pensive, and around the nose a most delicate air of contempt, as though the sight of these two middle-aged persons---the one small, plump, and rosy, the other lean and extremely sweaty ---were a matter of some surprise but very little importance.
眼には、妙にもの思わしげで、わけしりめいた表情をうかべ、鼻のあたりには、ほんのかすかながら、軽蔑の色をただよわせている。まるでこの中年の夫婦---小柄でぽっちゃりした、顔の赤い妻と、やせこけて、汗まみれの良人---が、気をまぎらわすにはまあ恰好の相手だが、大して重要な連中ではないといった風情なのだ。
[解説]
a matter ofは(1)…の問題 (2)わずか、だが(2)は数量名詞を伴うので、ここは(1)。「いくぶん驚きの問題(対象)」→「(いることは)ちょっとした驚きであるにせよ」
イディオム *** 名詞 ***
And after that---well, a touch of Liszt for a change. One of the Petrarch Sonnets. The second one---that was the loveliest---the E major.
そしてそのあとは---そうね、変化をもたせてリストの小品。『ペトラルカのソネット』のなかの一曲。それも二番目---これがいちばんすばらしいから---のホ短調。
[解説]
for a changeはイディオム「気分転換に」。
the second oneは、「ソネット第2番」(one=sonnet)。「二番目のホ短調」でなく、「第2番ホ短調」(第2番=ホ短調)
修正訳:そしてそのあとは---そうね、気分転換にリストの小品。『ペトラルカのソネット』のなかの一曲。ソネット第2番---これがいちばんすばらしいから---ホ短調。
数詞 ***
And lastly, for the encore, a Brahms waltz, or maybe two of them if she felt like it.
そして、おしまいはアンコールとしてブラームスのワルツか、気がむいたら、この作曲家たちの作品から一曲奏く。
[解説]
twoは Brahms waltzのうちの二つ。themはBrahms waltz。
修正訳:そして、おしまいはアンコールにブラームスのワルツを一曲か、気分が乗ったら二曲。
イディオム *** 代名詞 *** 
The animal, who a few seconds before had been sleeping peacefully, was now sitting bolt upright on the sofa, very tense, the whole body aquiver, ears up and eyes wide open, staring at the piano.
 ‘Did I frighten you?’ She asked gently. ‘Perhaps you’ve never heard music before.’
No, she told herself. I don’t think that’s what it is. On second thoughts, it seemed to her that the cat’s attitude was not one of fear.
ほんのすこし前までのどかに眠っていたネコはいま非常に緊張して、全身をふるわせ、耳をたてて、大きく見開いた眼でじっとピアノを見ながら、ソファに立っている。
「びっくりしたの?」と彼女はやさしく訊いた。「きっと前に音楽を聞いたことがないのね」
きっとそうなんだわ、と彼女はひとりごちた。そんなところだと思った。だが、ネコの様子から察するに、どうもこわがっているのではないらしい。
[解説]
tell oneselfは「自分に言い聞かせる」。thatは直前に述べられたこと。itは文中で問題になっていること。ここではthatは、ネコが今はじめて音楽を聞いたこと。itは、何でネコがブルブル震えているのかの理由。on second thoughtsは、「考え直して」。
直訳:いや、ちがうわ。と、彼女は自分に言い聞かせた。はじめて音楽を聴いたから、このネコが興奮してブルブル震えているのだ、とは思わない。考え直せば、ネコの態度は恐れの態度ではないように見受けられる。
修正訳:いや、そうじゃない、と彼女は思った。第一、このネコ、恐がっているように見えないもの。
非制限用法 *
The final proof for her that the animal was listening came at the end, when the music stopped.
ネコが聴いているという決定的な証拠は、曲が終ったときやっと訪れた。
[解説]
「やっと」とは言っていない。the end=when the music stopped.
修正訳:曲が終ったときに訪れた。
仮定法 ***
‘You like that’ she asked. ‘You like Vivaldi?’
The moment she’d spoken, she felt ridiculous, but not ---and this to her was a trifle sinister---not quite so ridiculous as she knew she should have felt.
「あんたは好きなの?」と彼女は訊いた。「ヴィヴァルディが好きなの?」
そういった瞬間、彼女はばかばかしい気になったが、といって---これは彼女にとってちょっといやだったが---自分でもそれは承知していたので、そうばかばかしい気はしなかった。
[解説]
仮定法がわかっていない。she should have feltは、「本来であれば彼女が感じるべきであった」。knewは、認識して(いた)。not quiteは、部分否定。thisは、直前・直後のことを受け得るが、ここでは直後のこと。
直訳:そう話したとたん、彼女はばかばかしく感じたが、---そして次のことは自分でもいささか不吉だったのだが---本来だったらそう感じて然るべきだと自分で認識しているほどにはばかばかしくはなかった。
修正訳:自分でも意外だったが、それほどばかばかしいとは実は感じていなかったのだ。
第20回 『暴君エドワード』 Edward the Conqueror そのA
                              by柴田耕太郎
形容詞 *
‘You’re not ill, are you, Louisa?’
「お前はまさか病気じゃないだろうね、ルイザ?」
[解説]
これでも間違いではないが、もうすこし意味範囲を広くとったほうが会話としては良い。
修正訳:君、具合でも悪いのかい?
副詞 *** 
‘Twice,’ the husband said. ‘He’s only done it twice.
‘Twice is enough.’
「2回だろう」と良人はいった。「2回やればわかるだけじゃないか」
「2回で充分よ」
[解説]
onlyは副詞で、twiceに掛かる。「だけ、しか、こそ、すら、ばかり、だに、のみ、はじめて」などの訳語を適宜宛てる。
修正訳:2回しかやっちゃいない。
動詞 ***
‘Come on, then. Let’s see him perform. Let’s see him tell the difference between his own stuff and someone else’s.’
「それじゃ、やってごらん。あいつの演奏するところを拝見しようじゃないか。自分の作曲したものと、ほかの作曲家のもののちがいをあいつに教えてもらおうじゃないか。」
[解説]
前がなくてはわからないだろうが、このperformは「演奏」でなく、「演奏しているときネコが示す動作」のこと。
修正訳:あいつがどんな動きをするか
数詞 ** 
‘You watch. And one thing is certain---as soon as he recognizes it, he’ll refuse to budge off that stool where he’s sitting now.’
「まあ、見てなさい。それに、ひとつだけたしかなことがあるのよ---彼にそれとわかればすぐにも、いま座っているベンチからおりようとしなくなるわ」
[解説]
one thingは「ひとつ」。「ひとつだけ」ならthe one thing。
修正訳:ひとつ
否定 ** 
‘Oh, but I couldn’t possibly go out now. There’s no question of that.’
「あら、そうだったわ。でも、たぶん出かけられないわね。そんなこと問題外よ」
[解説]
「たぶん…でない」だったら、probably notの形になる。例:“Will the operation be successful?” “Probably not.”(「手術はうまくいくだろうか」「うまくいかないでしょう」) 
not possiblyは「まず…ない」(柔らかく言っているが「絶対に…ない」の意)。
修正訳:どうしたって
否定 ** 
No one could possibly be certain about a thing like that.
そういったことを確信をもっていえるひとなんておそらくどこにもいはしない。
[解説]
no= not any。便宜的に書き換えると、Any one could not possibly be certain about likethat.前と同じくnot possiblyの形「まず…ない」。
修正訳:まずどこにも
名詞 *
It didn’t say who Mme Blavatsky had been.
ブラヴァトスキイ夫人がなにものかということは触れていなかった
[解説]
読み方については、一般に流通しているものを優先させる(信頼できる辞書、事典、専門書の表記を採る。ここではジーニアス英和に拠った)。「ブラバツキー夫人」。ロシアの神智学者(1831〜91)。
代名詞 *
Wait a minute! I do believe they’re in the same places!
ちょっと待って!いぼのあり場所も同じだと思うわ!
[解説]
theyは「いぼ」。(他の何かに加え)いぼの「あり場所も同じ」なのではなく、いぼの「ある場所自体が同じ」なのだ。
修正訳:同じ場所にいぼがある
副詞 **
And another on the left, at the top of the nose. That one’s there, too! And one just below it on the cheek.
それから、鼻の上の左にもひとつあるわね。それもあるわ!それからほっぺたすぐ下にひとつ。
[解説]
oneは「いぼ」のこと。itは「鼻の上の左に新しく見つけたいぼ」。「ほっぺすぐ下」だと顎のあたりになってしまうが、言っているのは「鼻の上の左に新しくみつけたいぼのすぐ下のほっぺのところにもうひとつのいぼがある」ということ。焦点が狭まってゆくのが英語の叙述の特徴。just below it →on the cheek。
修正訳:その下のほっぺたのとこに。
動詞 *
‘No,’ he said, without turning round, ‘I’m not having it. Not in this house. It’ll make us both look perfect fools.
「おれはあいつを飼うつもりはない。この家ではいやだ。あいつにかかると、おれたちは完全なばかに見えてくる」
[解説]
make+目的語+原形不定詞で「Oを…のように見せる」。自分でばかと思うわけではない。
直訳:あのネコは我々両人を完全にバカに見えるようにさせてしまうことだろう。
修正訳:あいつのおかげでおれたちはバカ扱いされるようになる。
形容詞 **
‘We’ve been having too many of these scenes just lately, Louisa,’ he was saying. ‘No no, don’t interrupt. Listen to me. I make full allowance for the fact that this may be an awkward time of life for you, and that---‘
「おれたちは、このところ、こんなことばかりくり返しているね、ルイザ」と彼はいっていた。「いやいや、だまっててくれ。おれのいうことも聞いてくれ。こういえばきみにいやな思いをさせるということは、こっちだって百も承知なんだ、それに---」
[解説]
どこから「いやな思い」との訳がでてくるのか。このan awkward timeとは、女性の更年期のことだろう。
直訳:この時期が君にとって人生のやっかいな時期でありうるということは
修正訳:君がいま、大変な時期にいるのは
動詞 *
…I wish I knew what his favourite dishes used to be. What do you think he would like best, Edward?’
‘Goddamn it, Louisa!’
‘Now, Edward, please. I’m going to handle this my way just for once. You stay here,’ she said, bending down and touching the cat gently with her fingers. ‘I won’t long.’
…彼のお気に入りの料理がどんなものだったかわかればいいのだけれど。なにがいちばん好きだと思う、エドワード?」
「勝手にしろ、ルイザ!」
「まあ、エドワード、よしてよ。こんどだけは、あたしが勝手にお料理するわ。あなたはここにいらっしゃってね」と彼女はいい、身をかがめて、ネコにやさしく指を触れた。「長くかからないわ」
[解説]
thisは「ネコの好む料理を供すること」。my wayは名詞句だが、副詞句的(私流に)にhandle(対処する)に掛かる。
直訳:今度だけは、私はネコのための料理を自分流に按配するつもりです。
修正訳:今度ばかりは、好きにやらせてちょうだい。
動詞 ***
Louisa went into the kitchen and stood for a moment, wondering what special dish she might prepare. How about a soufflé? A nice cheese soufflé? Yes, that would be rather special. Of course, Edward didn’t much care for them, but that couldn’t be helped.
ルイザは台所に入っていくと、しばらくその場に立ちつくして、どんな特別料理をあげようかしらと考えた。スフレはどうかしら?おいしいチーズのスフレは?そうだわ、これなら特別料理になる。もちろん、エドワードは料理には口がうるさくないけれど、だからといってなにを食べさせてもいいというものではない。
[解説]
themは、スフレのいろいろ、のこと。care forは、(否定文で)「好む」。can’t be helpedは「どうしようもない」。
修正訳:もちろん、エドワードはスフレの類は好きでないが、それはしょうがない。
形容詞 ** 
She was only a fair cook, and she couldn’t be sure of always having a soufflé come out well, but she took extra trouble this time and waited a long while to make certain the oven had heated fully to the correct temperature.
ただ彼女の料理の腕前は相当なものだった。スフレがうまくできあがるかどうかは、かならずしも自信がなかったものの、今日は苦心に苦心を重ね、長い時間をかけてオヴンの火が適度の温度でまわっているかどうかをたしかめた。
[解説]
fairは「まあまあの」。onlyはa fair cookを強調する副詞「まずもって、まさに、それこそ、ほんの」などを文脈に合わせ、適宜採用する。
修正訳:腕前はそこそこでしかない
第21回 『暴君エドワード』の気になる表現
              by柴田耕太郎
今回は日本語表現があやしい部分です。
[ストーリー]
ルイザとエドワードは初老の夫婦。あるとき庭仕事をしていて、見慣れぬネコに出会う。
ネコを家に入れたまま、ルイザがピアノの稽古をしていると、ネコは曲によって異常な反応を示す。またあろうことか、ネコの顔には大作曲家リストと同じ位置にホクロがある。
ルイザはこのネコがリストの生まれ変わりに違いないと思い込むが、エドワードはこの話に取り合わない。ルイザがネコいやリストのために晩餐を用意している間、エドワードはネコを伴って庭に出ていたようだ。肝心のリストはどこにいったのか、問い詰めるルイザがエドワードの腕に眼をやると、手首に一条の鋭い傷がある。あなた、まさか…、と逆上しそうになるルイザ。
・表現
代名詞の取り違い
As soon as she began to play, the cat again stiffened and sat up straighter; then, as it became slowly and blissfully saturated with the sound, it relapsed into the queer melting mood of ecstasy that seemed to have something to do with drowning and with dreaming.
彼女が奏きはじめるやいなや、ネコはまたも身体をかたくしてすっと立った。それから、曲がゆるやかな、至福にみちたところまでくると、ネコは例の奇妙な、うっとりした恍惚の表情になった。まるで曲に溺れこみ夢みているような表情だった。
[解説]
訳文では前のitは曲、後のitはネコととれるが、同じ文にある同じ代名詞が違うものを指すのはあまりよろしくない。itはいずれもネコを指す、ととるべきだろう。
直訳:ネコはゆっくりとこの上なく幸せに音響に浸されるようになるにつれ、溺死と夢想に関わる何物かがあるようにみえる恍惚の奇妙なとろっとした気分に再び陥った。
修正訳:音楽が徐々に昂まり、陶酔に満たされそうなところまでくると、…
比喩的な意味
It stayed quite still, with its head on one side and its nose in the air watching the man and woman with a cool yellow eye.
ネコは頭を一方にかしげ、鼻を空中につきだし、冷たい黄色い眼でこの夫婦をじっと見守ったまま、身じろぎもしない。
[解説]
its nose in the airは表の意味では「鼻を空中に突き出し」、裏の意味では「傲慢な態度で」。どちらともとれそうだが、リストの生まれ変わりとヒロインが思い込むネコだ、ツンとした感じを出したほうが、面白いのではないか。
修正訳:ツンとした様子で
事実に即す
The Bach adaptation for organ of the D minor Concerto grosso.
バッハの曲を編曲したオルガンのためのニ短調コンチェルト・グロッソ。
[解説]
ちょっと調べれば、わかること。ヴィヴァルディの曲をバッハが編曲したのだ。
修正訳:バッハによるオルガンのための編曲、ニ短調コンチェルト・グロッソ。
補足すると、アントニオ・ヴィヴァルディ『調和の霊感』作品3.(全12曲から成る協奏曲)の第11番ニ短調『2つのヴァイオリンとデュオのための協奏曲』を、J・S・バッハが『オルガン協奏曲ニ短調BWU596』に編曲した。
日本語のコロケーション
She wasn’t, at that particular moment, watching the cat at all---as a matter of fact she had forgotten its presence---but as the first deep notes of Vivaldi sounded softly in the room, she became aware, out of the corner of one eye, of a sudden flurry, a flash of movement on the sofa to her right.
彼女は、そのときにかぎって、ネコをぜんぜん見ていなかった---正直な話、ネコがいるのを忘れていたのだ---が、ヴィヴァルディの最初の感動的ななん小節かがしずかに部屋にひびくと、彼女は眼のすみから、右手のソファで急にはげしく身動きするものに気がついた
[解説]
「眼のすみから…気がついた」とのコロケーションがおかしい。
修正訳:右手のソファで急にはげしく身動きするものを、眼のすみで捉えた。
原文とのズレ
And what made it more screwy than ever Louisa thought was the fact that this music, which the animal seemed to be enjoying so much was manifestly too difficult, too classical, to be appreciated by the majority of humans in the world.
しかも、ルイザが考えたところでは、このネコを前よりも奇妙な状態にしたこの曲は、実をいうと、ネコには非常にたのしく聞けるのに大多数の聴衆には非常に難解で、また古典的なのでわからない曲なのだ。
[解説]
「曲」がネコを「奇妙」にしたのでなく、「難解な曲」をネコが理解できるのが「奇妙」なのだ。
直訳:ルイザが思ったことに、このネコをさらに一層奇妙に思わせたのは、ネコがとても楽しんでいるように見えるこの音楽は、きわめて難解かつ古典的で、世間の人の大多数には良さがわからないという事実なのであった。
修正訳:このネコ、普通じゃないと、ルイザは改めて思った。なにしろ、世間の人にはあまりよく理解できない難解さを伴った曲を、ネコはいっそう楽しんで聞いているようだったからだ。
ニュアンス
‘I’m quite sure of that.’
「それはわかっているよ」
[解説]
妻が興奮して、天才的なネコを発見した、とわめいているのに対し、夫はうんざりして、いやみな相槌を打ったところ。それらしく訳さねばならない。
修正訳:「はいはい、そうでしょうとも」
想像力過剰
He had the tight-skinned, concave cheeks of a man who has worn a full set of dentures for many years, and every time he sucked at a cigarette, the cheeks went in even more, and the bones of his face stood out like a skelton’s.
彼は、ながいあいだに、ひとそろいの歯をことごとくすりへらしてしまった男特有の、皮膚がひきつった、くぼんだ頬をしていて、煙草を吸うたびに頬がなおいっそうへっこみ、顔の骨が骸骨のそれのように出てきた。
[解説]
wearは「身に付けている」。a full set of denturesは「総義歯」
修正訳:総義歯を入れている男特有の
語義選択
‘My dear woman! This is a cat---a rather stupid grey cat that nearly got its coat singed by the bonfire this morning in the garden. 
おい、お前!あいつはたかがネコなんだよ---今朝、庭のたき火で危うく火傷しかけた、どちらかといえば、たりないねずみ色の猫なんだぜ。
[解説]
ratherは、よくないことを修飾する場合「かなり」の訳語を得る。「どちらかといえば」となるのは、(1)rather 〜 thanの構文内 (2)前後から「強いてどちらかを選べと言われれば」と読めるとき。
修正訳:かなり
言い習わされている表現
Unskilled labourers
不熟練労働者
The bourgeoisie
中産階級
Those in the Path of Initiation
創造者
[解説]
修正訳:「不熟練労働者」→「未熟練労働者」
    「中産階級」→「有産階級」
    「創造者」→「解脱者」
訳語選択の甘さ
On the other hand, she didn’t think much of the author’s methods of grading.
ところで、彼女は作者の分類法についてあまり考えていなかった。
[解説]
「考えない」のでなく、「顧慮しない」の意味を採る。
修正訳:ところで、彼女は作者の再生格付けに注意を払っていなかった。
誤訳
I don’t like to see you making a fool of yourself like this.
おれは、こんな具合に自分で自分を欺いているお前を見るのがたまらないよ。
[解説]
make a fool of oneselfはイディオム「ばかな真似をして物笑いになる」
修正訳:君がこんな風にばかな真似をして、人に笑われるのを見たくないよ。
訳が稚拙
‘I refuse to get hysterical about it, that’s all.’
「おれは、そんな問題でぜったいにヒステリックになるまいと思っているだけさ」
[解説]
もう少しくだいたらどうだろう。
修正訳:こんなことでヒステリックになりたくない、そうおもっているだけさ。
語義選択
‘Edward, listen. As you insist on being so horried about all this, I’ll tell you what I’m going to do.
「エドワード、よく聞くのよ。あなたがあんまりいやなことだといい張るんなら、あたしがこれからすることを教えてあげるわ。
[解説]
asは条件でなく、理由。
修正訳:エドワード、よく聞いて。あなたがあんまりショックだと言い張るから、私はこれからやろうとすることを教えてあげる。
語義選択
‘Here it is. Oh yes, I remember it. It is rather awful.
「これだわ。ああ、そうだ、思い出したわ。これはひどいわ。
[解説]
awfulは、ネコと作曲家リストに共通する重大な点(ほくろ)を言っている。awfulはこの場合、悪いことでなく素晴らしいという意味。
修正訳:これだわ。そうこれ。思い出した。これってすごいの。
誤訳
‘Now, Louisa. Don’t let’s get hysterical.
「おいおい、ルイザ。ヒステリックになるなよ
[解説]
Let’sだから自分も妻と一体化している。
修正訳:いいかい、ルイザ。ヒステリックになるのは止めよう。
イディオム
but she took extra trouble
、今日は苦心に苦心を重ね
[解説]
take troubleは「骨折る」「尽力する」。「苦心」ではちょっとずれる。
修正訳:だが、彼女はまるで苦労をいとわなかった。
仮定法の訳ヌケ
It would be fun to watch his reaction. It really would.
(それを二ついっしょにサラダにして食べさせることに決めた。)(このあとヌケ)
[解説]
修正訳:彼の反応を見るのは楽しいはずだ。ほんとうに早く反応が見たい。
語義選択
But the way she was staring made him uncomfortable.
しかし、自分を見る彼女の態度が彼の気持を不安にした。
[解説]
ここは、夫が自分の大事なネコをどうにかしてしまったようなのがわかって、妻が怒りを身のうちに蓄えつつある叙景。「見る」「態度」ともに、もっと強くしないと、このあとに来るであろう夫婦の修羅場が想像できない。
修正訳:だが、彼女が自分を見つめる様子が、どうも落ち着かなかった
第22回『豚』Pig
by柴田耕太郎
[ストーリー]
 レキシントンは生後2ヶ月で孤児となり、大叔母のグロスパンに育てられた。菜食主義者のグロスパンの手ほどきで料理を習い、腕前をめきめき上げた。その叔母が死ぬと、遺言に従いレキシントンはニューヨークに出かけた。この地で遺産を相続し、さらに料理修行に励むつもりだった。ところが、菜食しかしていないレキシントンは、はじめて食べた豚肉の旨さにとりつかれる。豚肉の仕入先を求めて、屠殺場に赴くが、どうしたことか豚を絞め殺すためのベルトコンベアーに乗せられてしまう。哀れなレキシントンの運命は…。
形容詞 ***
They had known her for two days, that was all, and she had a thin mouth, a small disapproving eye, and a starchy bosom, and quite clearly she was in the habit of sleeping too soundly for safety.
二人があの女と暮したのはたった二日、たったそれだけ、知っていることといえば、薄い唇、それと認めがたいような小さな眼、骨ばった胸、それに、ぐっすりと実によく眠る女だということぐらいだ。
[解説]
英和辞書を引くとdisapproving:形容詞「不満の、不賛成の」とある。『「小さな不賛成の眼」…「小さい目に対し人が不賛成である、ということか」…「小さくてよく見えない眼」ということだな。』そう考えて「それと認めがたいような小さな眼」との訳にしたのだろう。現在分詞形の形容詞は誤訳の元となることが多い。辞書にでている意味があいまいだからである。おっくうがらずに、次のように考えるくせをつけるとよい。
(1)  他動詞の現在分詞形の形容詞は「人を…させる(する)」。例:interesting person(人《自分も含まれる》を面白がらせるひと《当人》→《自分を含めた一般の人にとって》面白いひと)
(2)  自動詞の現在分詞形の形容詞は「…している」a sleeping baby(眠っている赤ん坊)。
disapproveには自動詞と他動詞両方あるが、ここは他動詞(her eye disapproves others:彼女の眼は他人を認めない、と読める)だから、直訳すれば「小さな、他人を好ましく思わない眼」。ついでにeyeが単数なのは、単数で全体を示す代表単数の使い方。別に、片目なわけでない。
意訳:いつも文句がありそうな小さな眼
前置詞 ***  動詞 *
Then, holding it by the toe, he flung it hard and straight through the dining-room window on the ground floor.
それから、そいつを爪先にひっかけて力一杯けりあげ、一階の食堂の窓へぶちあてた。
[解説]
hold物by部分「物の部分をつかむ」。byは位置を示す前置詞。
修正訳:それ(靴を指す)のつま先のところをにぎって
「爪先にひっかけて」としたものだから、「けりあげる」と続けざるをえなかったのだろう。
修正訳:力いっぱい投げつけた
冠詞 ***
He knew from experience that women like very much to be kissed in this position, with their bodies held tight and their legs dangling in the air, so he went on doing it for quite a long time, and she wiggled her feet, and made loud gulping noises down in her throat.
こういうふうに、お互いが固く抱きあい、両脚をだらんとしてキスするのが、この女性は大好きなのだということを、経験上ようく知っていたから、彼のキスは入念をきわめ、長かった。
[解説]
womenは可算名詞の総称用法で「女なるもの」(女性というもの)。前のthatはknewの目的語となる名詞節を導く接続詞。
修正訳:女性は
名詞 ***
The news of this killing, for which the three policemen subsequently received citations, was eagerly conveyed to all the relatives of the deceased couple by newspaper reporters, and the next morning the closest of these relatives, as well as a couple of undertakers, three lawyers, and a priest, climbed into taxis and set out for the house with the broken window.
二人が殺されたというニュースは、三人の警官がつづいて感状をもらったことから、新聞記者たちの手によって、直ちに故人の親類すべてに伝わり、その翌朝、特に近親の者たちは、二、三の葬儀屋、三人の弁護士、それに一人の牧師ともども、タクシーに乗って、この窓の破れた家へ馳せつけた。
[解説]
無実の市民を殺して「感謝状」をもらえるはずがあるまい。このcitationは(1)引用(文) (2)感状 (3)召還、のうち(3) 。
修正訳:召還された
名詞 ***
She was a strict vegetarian and regarded the consumption of animal flesh as not only unhealthy and disgusting, but horribly cruel.
厳格な菜食主義者である彼女は、動物たちの病気も、ただ具合が悪いとか元気がないということばかりではなく、ひどく凶暴になるということまで、きちんと始末するのだった
[解説]
consumptionを「体力の消耗」ととったようだ。でもそれでは意味が続かない。ここは「動物の肉を食べること」
修正訳:肉食は不健康でおぞましいばかりでなく、とても無慈悲なことだと考えていた。
名詞 **
Then take this certificate to my lawyer, a man called Mr Samuel Zucker-mann, who lives in New York City and who has a copy of my will.
そして、その死亡診断書をわたしの弁護士、サミュエル・ザッカーマンさんという人の所へ持ってお行き。その人はニューヨークに住んでいて、わたしの遺書をあずかっているはずだからね。
[解説]
「遺書」では自殺でもするみたいだ。死後のため、あらかじめ言い遺すことをまとめた書付だから「遺言」のほうがよいだろう。
修正訳:遺言
動詞 ***
Never undertip a tax inspector or a policeman,’ Mr Zuckermann said.
税官吏やお巡りに袖の下を使うのと、わけがちがいますぞ」とザッカーマン氏はいった。
[解説]
undertipは「チップを惜しむ」こと。never=not ever。ever=at any time。not 〜 or ―
 は両者否定。
修正訳:課税官と警官には決してチップを惜しまんことです。
イディオム
The youth, who by this time was delighted to be getting anything at all, accepted the money gratefully and stowed it away in his knapsack. Then he shook Mr Zuckermann warmly by the hand, thanked him for all his help, and went out of the office.
いまはもう何でも手に入る気になって、すっかり浮き浮きしている少年は、大喜びで金をもらい、それを背負い袋の中へしまいこむと、ザッカーマン氏の手を暖かくにぎりしめ、氏の援助に心から礼をいって、オフィスから出た。
[解説]
be gettingは確実な近未来「手に入る」。anythingは「何でも」(all)ではなく、「どんなものであれ」(何がくるか分からないが、とにかく手に入りさえすればよい、といった感じ)。at allは肯定文で「とにもかくにも」。
直訳:少年はこの頃までには、もう兎に角手に入る確実性があるものは何であろうと喜んで受け入れるつもりになっていて
意訳:少年は今はもう、何でもいいから早く手にしたいという気になっていて
第23回 『豚』Pig  の気になる表現
            by柴田耕太郎
[ストーリー]
 レキシントンは生後2ヶ月で孤児となり、大叔母のグロスパンに育てられた。菜食主義者のグロスパンの手ほどきで料理を習い、腕前をめきめき上げた。その叔母が死ぬと、遺言に従いレキシントンはニューヨークに出かけた。この地で遺産を相続し、さらに料理修行に励むつもりだった。ところが、菜食しかしていないレキシントンは、はじめて食べた豚肉の旨さにとりつかれる。豚肉の仕入先を求めて、屠殺場に赴くが、どうしたことか豚を絞め殺すためのベルトコンベアーに乗せられてしまう。哀れなレキシントンの運命は…。
接続詞の訳
So that evening they both dressed themselves up in fancy clothes, and leaving little Lexington in the care of a trained infant’s nurse who was costing them twenty dollars a day and was Scottish into the bargain, they went out to the finest and most expensive restaurant in town.
そこで、その夜二人はすっかりおめかしすると、一日に二十ドルも給料をとり、おまけに、スコットランド人の乳児専門の看護婦にレキシントンをまかせて、町中で一番豪華なレストランへ出かけていった。
[解説]
この訳では、何で「おまけに」なのかがわからない。Scottishには、俗語で「けちな」の意味がある。二十ドルもの日当(作品が書かれた数十年前としては高額)と、締まり屋のスコットランド人の対照をandが示している。多少の説明訳にする必要があるだろう。
修正訳:…日給二十ドルもとるくせに、締り屋で有名なスコットランド人の乳児専門看護婦に…
語義選択
What a fabulous place this is!’ he cried as he stood at the corner of Fifty-seventh Street and Fifth Avenue, staring around him.
わあ、ここは、なんてすばらしい所なんだろう!」五番街と五十七丁目の角に立って、あたりを見まわしながら、彼はこう叫んだ。
[解説]
fabulousには二義あり(1)とてもよい→すばらしい (2)壮大→ものすごい。このあと「どこにも牝牛や鶏なんかいない」との台詞が続くことからも、(2)ととるのが順当だろう。
修正訳:何て凄いとこなんだろう!
一般人称  語義選択
In fact, the whole business affected him profoundly, almost as profoundly, one might say, as the birth of Christ affected the shopkeeper.
実際すべてのビジネスは彼に深い感動をあたかも、ある人がいったように、クリスト誕生が小売商人に与えるような、深い感動を与えるのであった。
[解説]
affectは(1)[SVOの形で]…に影響する。例:A damp, cold day affects his health.(じめじめした寒い日は彼の健康に悪い) (2)[通例be 〜edで]…で感動する。例:I was much affected by her excellent performance.(私は彼女のすばらしい演奏に深く感動した)。ここは(1)。
one might sayのoneは一般人称(人間全般を指す)であって、特定の誰かを指すものではない。
「クリスト誕生が小売商人に与える」ものは「感動」でなく「影響」。ここ、皮肉っぽく言っている。キリストが生まれ、クリスマス・プレゼントで小売商が潤い嬉しい悲鳴をあげる、のと同じ効果を、生命ビジネスはザッカーマン氏にもたらしている(人が死ねば葬儀で儲かる)、ということ。
修正訳(全文):それどころか、ザッカーマン氏の関わる葬式ビジネス全体は、氏に深い影響を及ぼした。キリストの生誕記念日で小売商が大いに潤いうれしい悲鳴をあげるのとほとんど同じ深い影響を氏にもたらした、といえるかも知れない。
第24回ほしぶどう作戦The Champion of the World  その@
                               by柴田耕太郎
[ストーリー]
クロードとゴードンはガソリンスタンドの共同経営者。ヘイゼル氏が所有する森で密猟をすることに決めた。ヘイゼルは成金で、上流階級に入り込むための手段として、年に一度、自分の森で、雉の狩猟会を催している。その前に、ほしぶどうを使った新式の狩猟法でごっそり雉をせしめ、ヘイゼルの鼻を明かしてやろうというわけだ。ことは予定通り進んだはずだったが、思わぬ計算違いが生じた。ほしぶどうに注入した睡眠薬の量が少なく、仮死状態になっていたはずの雉が隠していたところから大量に飛び出し、二人の目論見は泡と消える始末に。
間投詞 **
‘I don’t usually approve of new methods,’ he said. ‘Not on this sort of a job.’
Of course.’
‘But by God, Gordon, I think we’re on to a hot one this time.’
「ふつうなら、おれは新しい方法なんて認めないんだがな」と彼はいう。「ことに、こういう仕事のばあいは認めないんだ」
あたり前じゃないか
「しかしだな、ゴードン、こんどというこんどはすげえ名案だと思うんだ」
[解説]
of courseは、(1)もちろん (2)確かに…だが (3)ああ、そうだった(忘れていたことを示唆されて)、のうち(3)。無神経に(1)を機械的に充てると会話の流れがおかしくなることがある。
修正訳:なるほど
イディオム ***
‘Nobody ever shoots pheasants, didn’t you know that? You’ve only got to fire a cap-pistol in Hazel’s woods and the keepers’ll be on you.
「雉を鉄砲で撃つやつなんかひとりもいないんだよ、そんなこと知らなかったのか?ヘイズルの森で撃てるのは玩具のピストルだけだ。それに番人が見張ってるじゃねえか
[解説]
ここ、直訳すると「君はおもちゃのピストルを発砲しさえすればよい。すると番人たちが君の側にいるようになる」。have only toはイディオムで「…しさえすればよい」。gotは動きを強調するが、虚字のようなもので特に意味はない(have to = have got to)。andは「そうすれば」。onは、接近を示す前置詞「…の側に」。
修正訳:おもちゃのピストルでも撃ってみろ、すぐさま番人が飛んでくるぞ。
間投詞 **
Do you know,’ he said, ‘my dad used to keep a whole flock of prime cockerels in the back yard purely for experimental purposes.’
知ってるだろうが」と彼はいった。「親父は純粋に実験の目的から、裏庭に雄のひよこを飼っていたものだった」
[解説]
これも、重い意味でないことが多い。「あのね」「でね」「…ね」といった感じ。
修正訳:あのな。
名詞 **
We had been walking steadily for about forty minutes and we were nearing the point where the lane curved round to the right and ran along the crest of the hill towards the big wood where the pheasants lives.
もう四十分も休まずに歩いていたので、小道が右にカーヴして、丘の頂上を、雉子が棲息している大きな森へとつづいているあたりに近づいていた。
[解説]
andはcurved round toとran alongを並列。crestは(1)頂上 (2)尾根、だがran alongするのだ、(2)をとる。
直訳すると「野道が右に回りこみ、雉が生息している大きな森のほうへ丘の尾根沿いに走っている地点、に近づいていた」
修正訳:野道が右に折れて雉のいる森に向かって尾根沿いに進む地点がまもなくだった」
イディオム ***
I don’t suppose by any chance these keepers might be carrying guns?’ I asked.
万が一にも番人どもが銃を持ってないってことがあるかな」と私は訊いた。
[解説]
I don’t suppose (that) 〜 は、いらつきや不安、怒りを含意する。例:I don’t suppose she’ll come.(彼女は来ないんじゃないかな)。by any chanceはイディオムで「ひょっとして」「万が一にも」だが、前のnotと結び「どうあっても(…ない)」。平叙文にクエスチョン・マークがあるのは、驚き・不安を含意。例:You are not going yet?(まだ行かないんですか)。
直訳すると「万が一にも、番人たちが鉄砲を携えているなんて思えないよね」
修正訳:番人が鉄砲を持ってるなんてこと、絶対にないよね。
第25回『ほしぶどう作戦』The Champion of the World  そのA
                       by柴田耕太郎
[ストーリー]
 クロードとゴードンはガソリンスタンドの共同経営者。ヘイゼル氏が所有する森で密猟をすることに決めた。ヘイゼル氏は成金で、上流階級に入り込むための手段として、年に一度、自分の森で、雉の狩猟会を催している。その前に、ほしぶどうを使った新式の狩猟法でごっそり雉をせしめ、ヘイゼルの鼻を明かしてやろうというわけだ。ことは予定通り進んだはずだったが、思わぬ計算違いが生じた。ほしぶどうに注入した睡眠薬の量が少なく、仮死状態になっていたはずの雉が隠していたところから大量に飛び出し、二人の目論見は泡と消える始末に。
副詞 ***
The lane ran right up to the wood itself and then skirted the edge of it for about three hundred years with only a little hedge between.
小道は森までまっすぐにのびていて、それから森のへりを三百ヤードばかりつづいているが、そこは道の両側に生垣がまばらにあるだけだ
[解説]
betweenは副詞で「間に」。小道が森のところまでまっすぐに伸び、突き当たったところで300ヤードばかり森の縁を回りこんでいる。一つづきの低い生け垣が、森と小道の間を隔てていることになる。
修正訳:低い生け垣がずっと境目をつくっていた。
動詞 *** 
He kept his head moving all the time, the eyes sweeping slowly from side to side, searching for danger. I tried doing the same, but soon I began to see a keeper behind every tree, so I gave it up.
しじゅう頭を動かして、視線をゆっくり左右にくばりながら、油断を怠らなかった。私もおんなじことをやってみたが、まもなく、どの木立のかげにも番人のいることがわかってきて、途中で諦めてしまった。
[解説]
seeは意味範囲がひろく「わかる」「理解する」の訳になることもあるが、ここは「(意識せずとも)自然と目に入る」の意味。恐怖感のため、いもしない番人がいるように見えてしまったのである。
修正訳:どの木のうしろにも番人がいるように見えてきたので、止めた。
イディオム ** 
Poacher’s arse is nothing to the punishment that a female is willing to endure.
密猟者の尻は、女性が嬉々として耐える罰とはくらべものにならないのだ
[解説]
この前に、女性は宝石をもらうためならどんなことでもしかねない、といった意味のことが述べられている。密猟者の誇り(後ろから撃たれた名誉の負傷の証しである尻の傷)と、女性が貴金属を男からせしめるための(肉体などの)代償とを比べてほしくない、といった皮肉が原文からは窺われる。意訳が必要だろう。
修正訳:女が宝石を男からせしめるのに払う犠牲などと比べものにならないほど、誇り高いものなのだ。
イディオム ***
Claud had told me that the clearing was the place where the young birds were introduced into the woods in early July, where they were fed and watered and guarded by the keepers, and where many of them stayed from force of habit until the shooting began.
「その空地で、ひなは餌を与えられ、水浴びをさせてもらい、番人に守られながら、ひなの多くは狩猟が解禁になるまでに習性からぬけだすのだ
[解説]
from force of habitは「習慣の力で」「習慣の力によって」→「習慣になっているので」。人間にあれこれ世話されるのが習慣になって、そのままシーズンまでその場所に留まる、のだ。
修正訳:そこでそのままぬくぬくするのが習慣となるのだ
代名詞 ***
Both birds turned their heads sharply at the drop of the raisin. Then one of them hopped over and made a quick peck at the ground and that must have been it.
と、一羽が跳んできて、急いで地面をついばんだが、ほしぶどうにちがいなかった
[解説]
thatは直前のことを、itは文中で問題になっていることを指す。ここではthatは「一羽が跳んできて、急に地面をついばんだ」こと。itは、上掲部分だけでは分からないだろうが「鳥の密猟に役立つ方法」。直訳すれば、「鳥が一羽跳んできて急いで地面をついばんだことが、自分たちが模索している一番効果的な密猟法であるにちがいなかった」
修正訳:これこそまさに求めていた密猟法だった
名詞 ** 
His lips were thin and dry, with some sort of a brownish crust over them.
唇がうすく、かわいていて、茶色のパンの皮みたいなものがくっついている
[解説]
crustには確かに「パンの皮」の意味もあるが、overとある以上「くちびる全体を覆って」いるのだ。withは状態を示す前置詞。「くちびる全体を覆ったある種の茶色っぽい堅い外皮をともなって」くちびるはうすく乾いていた、のだ。
例:A crust had formed on his lips.彼のくちびるはかさかさになっていた。
修正訳(全体):うすい唇は表面が茶色っぽくかさかさに乾いていた。
名詞 *
Claud was in a whirl of ecstasy now, dashing about like a mad ghost under the trees.
クロードは、すっかり有頂天になって、気ちがいの幽霊そこのけに木の下をかけずりまわっている。
[解説]
「有頂天」(in a whirl of ecstasy 直訳は「有頂天の旋回状態」)から「気ちがい」の連想が浮かばない。madは多義だが、ここは「陽気な」「浮かれた」の語義を採るべきだろう。
修正訳:浮かれた幽霊
名詞 ** 
He spoke the name proudly and with a slight proprietary air, as though he were a general referring to his bravest officer.
まるで、勇猛果敢な部下の将校のことを口にした将軍のように、誇らしげに、ちょっと財産家らしい様子をみせて、名前をいった。
[解説]
proprietaryを「所有者の」の原義から「物持ち」ととり、「財産家」の訳をあてたのだろう。だがこの将軍が所有するものは「将校」。つまり「有能な部下」を持っていることを誇りに思っているのだ。
修正訳:有能な手下を抱えている余裕を見せ
動詞 *** 
But they were too dopey still to take any notice of us and within half a minute down they came again and settled themselves like a swarm of locusts all over the front of my filling-station.
しかし、まだ薬が効いているので、私たちにはいっこうに気がつかない。それどころか、三十分としないうちに、雉子どもはまたやってきて、ガソリン・スタンドの前に、バッタの群のように、落ちついてしまった。
[解説]
half a minuteは「三十秒」。
修正訳:一分と経たないうちに
第26回『ほしぶどう作戦』The Champion of the World の気になる表現
                            by柴田耕太郎
[ストーリー]
 クロードとゴードンはガソリンスタンドの共同経営者。ヘイゼル氏が所有する森で密猟をすることに決めた。ヘイゼルは成金で、上流階級に入り込むための手段として、年に一度、自分の森で、雉の狩猟会を催している。その前に、ほしぶどうを使った新式の狩猟法でごっそり雉をせしめ、ヘイゼルの鼻を明かしてやろうというわけだ。ことは予定通り進んだはずだったが、思わぬ計算違いが生じた。ほしぶどうに注入した睡眠薬の量が少なく、仮死状態になっていたはずの雉が隠していたところから大量に飛び出し、二人の目論見は泡と消える始末に。
名詞の意味がわかりにくい
On his head he wore a brown cloth cap with the peak pulled down low over his eyes, and he looked like an apache actor out of a nightclub.
上のとんがった茶色いラシャの帽子をまぶかにかぶった彼は、まるでナイトクラブから抜けだしてきたアパッシュ・ダンサーそっくりだった。
[解説]
「アパッシュ・ダンサー」では、例えがわからない。apache actorは「悪役」。
修正訳:ナイトクラブから抜けだしてきた悪役そのもの
間投詞のニュアンス
‘But it’s over three miles up to that wood.’
Yes,’ he said. ‘And I suppose you realize we can get six months in the clink if they catch us.’
「でも、あの森まで三マイルじゃきかないよ」
そうだとも」と彼はいった。「それに、お前だって百も承知だと思うが、つかまったら最後、六ヶ月くさい飯を食わされるんだ」
[解説]
この前に「車でいこう」「いや、見つかる危険がある」とのやりとりがある。Yes以下は相手の台詞の全面肯定でなく「たしかに…だが」の感じ。
修正訳:「なるほど」と彼はいった。「だがな、…」
コロケーション
Mr Victor Hazel was a local brewer with an unbelievably arrogant manner. He was rich beyond words, and his property stretched for miles along either side of the vally.
ヘイゼル氏はパイとソーセージの製造業者で、態度のおよそ横柄な男である。お話にならないほどの大金持で、その地所は谷の両側のなんマイルにもわたっていた。
[解説]
「お話にならないほどの」ときたら、次には悪いものが続く(例:お話にならないほどのケチ)のが普通。「大金持ち」の形容は、驚きを表しこそすれ肯定的なものでなければなるまい。
修正訳:言葉では尽くせないほどの大金持ちで
同じ表現による日英語意味の誤差
Claud cried, rubbing his hands together hard.
クロードはえらいいきおいでもみ手をしながら叫んだ。
[解説]
日本語で「もみ手する」といえば、頼みごとでもするようだ。英語のrub one’s handsは、満足のしぐさ。
修正訳:嬉しそうに両手を合わせ
訳しすぎ
‘You never invited my opinion,’ I said.
ぼくの意見を聞くきみか」と私はいった。
[解説]
この前に「何で早くその名案を教えてくれなかった」と相棒が僕を責める台詞がある。それを受けてだから、直訳すれば「君は僕の意見を求めなかった」。元訳は間違いとはいえないが、素直に訳したほうが、理解しやすい。
修正訳:「僕の意見なんか聞いたことないじゃないか」
ことば足らず
When she had gone, he remained standing in the middle of the driveway squinting anxiously up at the sun which was now only the width of a man’s hand above the line of trees along the crest of the ridge on the far side of the vally.
女が行ってしまっても、クロードは車道のまんなかに突ったったまま、眼を細めて心配そうに太陽を見た。その太陽も、いまや谷のむこう側の尾根に沿った森の上まで落ちて、おとなの手の大きさぐらいしかなかった。
[解説]
訳文では、尾根にびっしりと木が植わった森があるかのようだ。直訳は「尾根の馬の背づたいにずっと木々が連なっているその上に」
修正訳:尾根を飾る木々の上に
分かりにくい表現
As he flashed by, we would sometimes catch a glimpse of the great glistening brewer’s face above the wheel, pink as a ham, all soft and inflamed from drinking too much beer.
その車がさっと走りすぎるとき、ハンドルの上の大きな脂ぎった顔をときたまちらっと見ることがあった。その顔ときたら、ハムのようにあかく、あんまり肉を食べすぎたために、ぶよぶよして、その上、いまにも火を噴きそうだった
[解説]
何で「火を噴きそう」なのかわからない。直訳は「ハムのように血色よく、あまりに多量のビールを飲むことによりすっかりぶよぶよで赤く腫れていた」
修正訳:その顔ときたら、ハムのようなピンク色で、ビールの飲みすぎでぶよぶよと腫れていた
誤植
‘The shooting-season opens Saturday and the birds’ll be scattered all over the place after that---if there’s any left.
「猟の解禁は土曜日だし、そうなったら、鳥どもはほうぼうらじゅうに散らばっちまって---もっとも雉子がいればの話だがな」
[解説]
「ほうぼう」と「そこらじゅう」が混じってしまったのだろう。
修正訳:そこらじゅうに
コロケーション
Claud paused and glanced over his shoulder as though to make sure that there was nobody listening.
クロードは話をやめて、まるで聞いている人間がほかにいないのを確かめるみたいに、肩ごしにふり返ってみた
[解説]
「肩越し」は他人の、が含意される。「自分の肩越し」とはまず言わない。
修正訳:首を後ろに向けた
コロケーション
‘I know it,’ he said. ‘Many’s the night when I was a nipper I’ve gone into the kitchen and seen my old dad lying face downward on the table and Mum standing over him digging the grapeshot out of his buttocks with a potato knife.’
「餓鬼のころ、しょっちゅうあったことだが、夜、おれが台所に入っていってみると、親父がテーブルに顔をうなだれ、その前におふくろが立って、ポテトナイフで親父の尻から葡萄弾をえぐりだしてたっけ」
[解説]
「(親父が)うなだれ、…」のつながりでは、…の箇所には、親父の行為がつづくものと予期して読者は読んでゆく。それが読点のあと主語が変わってしまうため、文の流れがすっきりしない。
修正訳:テーブルに顔を落とした親父がいて、
強調しすぎ
‘Follow me,’ Claud whispered. ‘And keep down.’ He started crawling away swiftly on all fours, like some kind of a monkey.
「かがんだままでだぞ」彼はある種の猿みたいに四つん這いになって、すばやく這っていった。
[解説]
どんな種類の猿なのか、と思ってしまう。「ある種の」は不要だろう。
修正訳:猿
コロケーション
This one was a tall bony man about forty with a swift eye and a hard cheek and hard dangerous hands.
この番人は、四十がらみの上背のある骨ばった男で、目つきが鋭くて、顔のつくりがごつく、いかにも腕っぷしの強そうな手をしていた。
[解説]
「顔のつくり」に対し「ごつい」という形容はあまりしない。「手」が「腕っ節強い」とも言いかねる。
修正訳:頬が厚く締まって、一発食らわされたらヤバそうな腕をしていた
目的語が不明
‘Keep looking!’ Claud shouted. ‘They can’t be far.
「さがしてみろ!」と、クロードがどなる。
遠くまで行けないんだから
[解説]
睡眠薬を飲んだ雉たちが、あちこちにどんどん落ちてくる。それをかき集めようとする件が、この前にある。Theyは、雉をさす。canは論理的可能性。直訳は「雉たちは遠くに存在しようがない」。探していたほうの視点で述べているところ。
修正訳:この近くにいるはずだ
訳ヌケ
One hundred and twenty birds! It’s an all-time record!’
I didn’t doubt it for a moment.
‘The most my dad ever got in one night was fifteen and he was drunk for a week afterward.’
‘You’re the champion of the world,’ I said. ‘Are you ready now?’
「百二十羽だぞ!世界新記録だ!」
(ヌケ)
「きみは世界選手権をとったんだ」と私はいった。「もういいか?」
[解説]
ここ、大事な箇所。訳抜け箇所を埋める。not 〜 for a momentで「ちっとも…ない」。
修正訳:私はまるで疑わなかった。「親父が一番捕ったときでさえ、一晩十五羽だ。それから一週間、ドンちゃん騒ぎだったぜ。」
原文とのズレ
Bessie ignored him and flew on, and she was so close now I could see her big red face with the mouth wide open, painting for breath. I noticed she was wearing white gloves on her hands, very prim and dainty, and there was a funny little white hat to match perched right on the top of her head, like a mushroom.
ベッシイのほうは知らん顔をして、走っているのだが、すぐ近くまで来ていたので、口を大きく開けて、あえぎながら息をしているベッシイの大きな赤い顔が見えた。私は、彼女が両手にまっ白な手袋をはめていることに気がついた。それがまた、ひどくとりすまして、気むずかしく見える。それに、頭の上には、マッシュルームみたいな、妙なかたちの、小さな白い帽子をのせているのだ。
[解説]
, andの前後で、映画でいえば視点が変わる。
prim and daintyが示す「優雅に気取った装身具」と、慌てふためく様の対比を訳に出してほしいところ。
funnyとあるが、帽子自体が「奇妙」なのでなく、この修羅場(ベッシイが引く乳母車の中から雉が飛び出しそうなこと)と、かわいい帽子の取り合わせを、筆者がfunnyと感じているのだ。
修正訳(全体):ベッシイのほうは知らん顔をして走りつづけていたが、近づくにつれ、口を大きく開け、顔を真っ赤にして喘いでいる様が目に入った。気取ったオシャレな白い手袋と何か不釣合いだ。おまけに、頭にちょこんと乗せた小さな白い帽子がやけに可笑しく見える。
   (了)
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