第8回 ライヴ授業 U

 ‘Are you sure? You’ve already worked so hard today, keeping an eye on the customers as well as sorting through all the old stock. I don’t like leaving everything to you.’ William Bryant glanced around the shop with faintly troubled grey eyes before darting a frowning look at his watch.
 ‘I’ll be fine and, anyway, there really isn’t a lot more I can do here now. Philip will be along soon to pick me up.’

ここの文法解説です。
keeping an eye
目の機能を象徴した「代表単数」の使い方ですね。
faintly troubled grey eyes
このtroubledは(1)「(顔つきが)困ったような」(2)「(人が)精神を病んでいる」のうち(1)。怪しかったら簡易英英辞書を引くとよいです。ODEにはtroubled: beset by problems or difficulties/ showing distress or anxietyとあります。
次のI’ll be fine
文脈次第でどうにも訳せる表現です。ここは、父親のAre you sure?「お前ひとりで店の片づけができるか」との問いに対する答えでしょう。理屈で言えば「お父さんがいなくても自分一人でこの場はなんとか片づけられるわよ」ということ。fineが多義で皆さん迷うのでしょうが、ここでは相手の質問への返答で「結構な」「存分な」「きちんとした」という意味で使っています。
there really isn’t a lot more I can do here now.
really 〜 notは「絶対に…ない」。a lotは名詞句で「多量のもの」。moreは「今までに比べて」。I can do here nowは、a lotに掛かります。

(川原さんが訳文を読む)
本気で言っているのかい? お客さんに目を配ったり全ての古い在庫を整理したり、今日はもうたくさん働いたじゃないか。全て君に任せるのは気が引けるよ。ウィリアム・ブライアントは衰えた灰色の目で お店 のあちこちをちらりと見たあと、しかめ面で腕時計をにらんだ。
私が今ここでできることはもうないから平気よ。 それに、もうすぐフィリップが私を迎えにここへ来てくれるだろうし

Are you sure?からleaving everything to you.まで、クオテーションで括られた直接話法です。わざわざ中間話法にする必然性はありません。sureの内容はmanage hereだから、日本語なら「大丈夫かい」といったところ。
まあ性格にもよりますが、身内の会話では丁寧な言い方をしないのが普通でしょう。「お客に目を配ったり」でどうですか。
all the old stock「全ての古い在庫を」ではいかにも翻訳臭い。「古い在庫を全部」。
the shopですが、ここ叙述の文なので丁寧さは不要「店内」。
そして、文法解析でさっき言及した箇所。faintly troubled grey eyesのfaintly troubledは、娘の好意にすがってよいものか気にしている様子です。「ちょっともめごとがある」→「目が少し悪い」?ととったのでしょうが、誤り。「ちょっと困ったような目をして」
「…のあちこちをちらりと見たあと」は表現がくどい。皆さんだって最初から日本語で書くなら「…をさっと見てから」とするでしょう。
「私が今ここで…」は硬い。直接話法にしてやわらかく「それに」。理屈っぽく理由を述べる箇所でないでしょ、意識の流れを読んでください。代名詞me、なくても分かるのなら訳さないのが、翻訳の定石です。will be soon along to pick me up。娘のウキウキした気持ちを出さなきゃ、読者も楽しめませんよ。また、ここで直接話法のカッコを閉じる。直すとこんな感じかな。「大丈夫、それに私ができることももうそんなにないのもうすぐフィリップが迎えにくるし」

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