卒業生 須藤朱美さん

(『翻訳家になろう!』青弓社より抜粋)

[編集者として立つ]

一週間後、わたしは「編集部制作局 須藤朱実」と印刷されたもう一つの名詞を総務の女性から渡された。
(略)

そんな状態を見るに見かねたある編集者が古巣の出版社にいる制作のベテランを紹介してくれた。制作のNさんは開口一番「二十五、六の女性にこの仕事をさせるっていうのも思い切ったというか、酷な話だなあ。みんな、ガンガン文句いってくるだろ」といって笑った。そしてこの仕事が一般的にどんな機能をはたしているかを教えてくれた。いろいろな部署のつなぎになる場所であり、調整役として存在しているのだが、会社会社によってその役割には差があり、編集者の要望によっても仕事内容はつねに変化していくという。また経費やスケジュールの調整などの折衝も多いため相手に合わせて知識が必要になるうえ、クリエイターたちと接しながらも彼らとは違ったビジネスライクな事務処理能力が必要だと教えてくれた。
(略) 


不思議なものでそういう状態になっていくと、編集が頑張ってくれたのがいちばんなのだが、毎月予定通りに校了できるものがふえはじめ、年間刊行スケジュールに見通しを立てることが出来るようになっていった。会社の中にある小さな車輪があちらとこちらとそちらでカラカラ回りはじめ、大きな車輪が動きはじめている実感があった。
(略)


それからの期間、制作部として必要なことをいろいろな人が吸収させてくれるようになっていった。わたしが成長したというのでなく、いい意味であきらめがついて肩の力がぬけたというか、世にいう一皮むけたとかいう状態だったのではないかと思う。「こんなことも知らないで仕事しないでくれ」と怒っていた業者さんが「ちょっとは経験値が上がったとはいえ、まったくいつになっても覚えてくれないんだもんなあ」といっていろいろなことにアドバイスをしてくれるようになり、現場から上がるクリエイティブなアイディアをもらえるようになっていった。今度はそれを編集者にフィードバックすると「そういう方法もあるのか」といってよい循環が生まれはじめていた。なんとなく、もうすぐこの場所からヒットが出てくるような予感がした。


卒業生の実績
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