2019年12月号 柴田耕太郎

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フィラント:
そう決めつけるのはちょっと急ぎ過ぎだ、
君に鬱の気が出るにつけ思わず笑ってしまう、
僕らは同じ教育を受けた二人ながら、
「亭主学校」に出てくる兄弟よろしく、
ずいぶんと…
アルセスト:
いや。嬉しくない喩えはよしにしてもらおう。
(『人間嫌い』第一幕第1場)

フィラントとアルセストは親友だが、性格は真反対。台詞にある「亭主学校」は、モリエールの作品。20も年の離れた兄弟が、知人の遺言に従いその遺児姉妹を育てるが、弟は妹娘(イザベル)を厳しく律し、兄は姉娘(レオノール)の自由を尊重する。その結果、弟は裏切られ、兄は(60過ぎ)、姉娘(20前後)に心底愛され、結婚に至る。

レオノール:
…誓って私はいつも変わらずにいます、
ずっと貴方をお慕いしています、
他の方へ気持ちを動かすのは罪と思っていますし
この機会に申し上げます、お情けを賜れるのであれば、
明日にでも私たち二人が聖なる絆で結ばれるようにして下さいませ。
(『亭主学校』第8場)

『女房学校』で中年のアルノルフが、若紫よろしく大事に育てた娘を若者に奪われるのとは対照的。このように作中人物の口を借りて自分の作品や自分自身を語らせるのがモリエールの手法。

ベラルド:
…。モリエールの芝居でもご一緒に楽しめればよいのですが。
アルガン:
不作法な奴だ、あんな芝居を書くモリエールとか言う奴は。実にふざけている。お医者のような真面目な方々を慰み物にするなんて。
(『病は気から』第三幕第3場)

場合によっては対抗劇団を褒め殺しにしたりもする。

カトー:
あら、貴方はそれをどの俳優に充てて書いたのですか?
マスカリーユ:
的を得たご質問です。オテル・ド・ブルゴーニュ座の連中です。彼等しかいません。ほかの役者連中は無知蒙昧で、ただただ台詞を暗唱して喋るだけですからね。詩を朗誦する術を知らないのです。ここぞという箇所で間を置くことをしないのです。俳優が然るべき処で一拍置かねば、聞かせどころが何処か、どこで拍手喝采したらよいか分らないでしょう。(『才女気取り』第9場)

 万事こんな調子で医学界、演劇界、さらには信仰界を敵に回すことになった。似非信仰を嘲弄するモリエールに教会が冷たかったことは、最後のミサも受けられなかったことでも知られよう。

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