2019年7月号 柴田耕太郎

美しい年に
春を愉しみなさい、
愛すべき若者たち。
美しい年に
春を愉しみなさい、
愛に身を捧げなさい

愛は甘い誘惑で
私たちを捉え、
最初の放たれた恋の矢に
いともたやすく
誰もがひれ伏す。
だが心鎮まれば
苦しみと悲しみが
つきものと知り
愛の無情に
皆たじろぐ。

恋人の厳しい仕打ちがあっても
私たちは身を委ねねばならないの?
その通り、恋人の情熱に従いましょう、
相手の愛情のほとばしり、気まぐれのまま。
それは痛みと同時に
恍惚とした喜びを与えてくれる
これこそ全ての恋する者の心を魅了するものとなる。
『気で病む男』第二の幕間劇

PDFでダウンロード

『気で病む男』第二幕と第三幕をつなぐ幕間劇で、ムーア人に扮したジプシー一座の女たちが、掛け合いで愛の無情と素晴らしさを語り合う台詞の一部。
モリエールにこんなロマンティックな詩があったとは意外だが、恋の喜びと苦しみを巧みに謳っている。でもどこかで聞いたような文句に思えるが…。私など、子供のころからませていたので、幼少期に大人の世界を垣間見るような気持ちで、ラジオ(テレビではない)から流れてくる恋の歌に耳を傾けたものだ。上記のモリエールの詩の情念にそっくりだと思ったのが、次の詞。

愛した時から 苦しみがはじまる
愛された時から 別離(わかれ)が待っている
ああ それでもなお 命かけて
誰よりも 誰よりも君を愛す
川内康範作詞 吉田正作曲 「誰よりも君を愛す」

こうした切なさは時代や国を越えて共有できるはずのもの。人の心はいつまでも変わらぬのである。
ページトップへ