2019年5月号 柴田耕太郎

スカパン:
ならば私も、死ぬまでの間、お席に連ねさせていただくとしますか。
『スカパンの悪だくみ』第3幕第13

PDFでダウンロード

主人をコケにしたのがバレたスカパンは一計を案じ、落ちてきた金槌に頭を砕かれたフリをし、担架に運ばれてくる。死に際に自分の非道を懺悔するスカパンを、主人のジェロントは渋々許してやる。ほっとして感謝を述べるスカパンに、ジェロントが但し書きをつける。

ジェロント:
ああ、だが許すのは、お前が死んでしまうというからだ。
スカパン:
というと、旦那。
ジェロント:
死ななきゃ、この限りでない。
スカパン:
痛、あ痛。体の痛みがまた増してきた。
アルガント:
ジェロントさん、我らが喜びに免じて、条件なしで許してやってくださらんか。
ジェロント:
うん、まあいいでしょう。
アルガント:
ではご一緒に夕食に参りましょう、この喜びを一層味わうために。

このあと上記の台詞で、幕切れとなる。
伝統的な演出では、スカパンは包帯をとって担架から起き上がり、この台詞をいう。
転んでもただでは起きない「悪だくみ」の英雄、スカパンの面目躍如といったところだ。
あらかじめ台本を読んでいても、この結末には唸らせられる。私が昔、コメディー・フランセーズで観たのは、名優ロベール・イルシュのスカパンだったか。包帯をとり、起き上がり、トンと地上に降りる、その軽快な動作と発声en attendan(タンダン「その間」)が印象に残っている。
「条件なしで」(sans condition)はアルガントでなく、スカパンの機転で救われた娘たちのセリフになっていた。演出の裁量範囲だが、サンコンディオーンと、diとoの伸ばした音に、親たちを丸め込もうとする娘たちの願いが感じられた。

とどめの台詞は、直訳するとこうなる:
Et moi, qu’on me porte au bout de la table, en attendant que je meure.
では私は、自分が死んでしまうのを待つ間に、食事の末席に運んでもらえますれば(ありがたい)。
拙訳は翻訳の裁量範囲で、幕切れらしく訳したつもりだが、如何だろう。

ページトップへ