2018年11月号 柴田耕太郎

イアサント:
オクターブ、こんな話を聞いた。あなた方男性は私たち女性より長く愛し続けることはないって。殿方が見せる熱情はそれが生まれたのと同じく簡単に消えてしまう焔のようなものだって。
  『スカパンのわるだくみ』第1幕第3場

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男が追いかけ、女が逃げる。
捕まえてしまえば、もう飽きる。
不実をなじる女と、女はお前一人じゃないと嘯く男。
この世は男と女のバカし合いか…

これが骨身に沁みているのだろうか、モリエールは、
他のヒロインにも似たようなセリフを吐かせている(『守銭奴』第1幕第1場)。
エリーズ:
ええ、千もの不安がどっと押し寄せます。父の激怒、家族の反感、世間の敵意。でも何よりヴァレール、貴方の心変わりを。あなたがた殿方は無垢な魂が一途なのを知ると、手ひどい冷淡さを示すといいますもの。
これに答える、恋人のヴァレール。
ヴァレール:
他の男たちを例に、僕を判断しないでください。エリーズ、君あってこその僕です。気懸りがあると言うなら、最初から愛してくれなかった方がましだ。そんなことをするには貴女に魅かれすぎている。そしてこの愛は僕の生命があるかぎり続きます。

ふたりは障壁を乗り越えて、目出度く結ばれるのだが、どんな堅い誓いも、時の流れとともに忘れ去られる。行く末がどうなるかは誰も知らない。
その男女の心の機微をみごとに描いたのが、ジャン・ジロドウの名作『オンディーヌ』。

オンディーヌは最初に出会った男に恋するよう宿命づけられている。
だがその男が裏切れば死に、オンディーヌは記憶を失い水の世界に戻る。
自分に背いたハンスの最後を見届け、記憶をなくしてしまったオンディーヌ。
叔父である水界の王に、尋ねる。
「綺麗な人。この人、生き返らせることはできないの?」
「だめだ」
幕切れの条件法(英語では仮定法)の台詞が哀しい。
「残念だわ。生きていたらきっと好きになっていたでしょうに!」
Comme c’est dommage. Comme je l’aurais aime!

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