2018年10月号 柴田耕太郎

ヴァレール:
ジャック親方、アンタとアンタの同類もだ。よく覚えておくんだな、ご馳走で満たされた食卓は危険な場所だと。そしてお招きした方々に気づかいを示すには、差し上げる食事が質素であらねばならない、とな。そしてさらに、古人の言葉に従えば「生きるために食べねばならぬ、食べるために生きるのでなく」だ。 ―『守銭奴』より

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 主人公のアルパゴンは裕福な商人だが、息子クレアントと娘エリーズが辟易するほどのケチ。エリーズの恋人であるヴァレールは、アルパゴンに気に入られようと身分を隠し執事として家に入り込む。食事会を催そうとするアルパゴンに、コックのジャック親方がどんな御馳走を出すか尋ねるのに対し、主人に気に入られようと、ジャック親方に意見するヴァレールの台詞が上のもの。
 この言葉に感心したアルパゴンは、「ワシはそれをうちの暖炉の上に金文字でもって刻ませよう」とはしゃぐ。
 古人とはソクラテス(紀元前470頃~399)のこと。人間が他の動物と異なる所以を示す名言として、人口に膾炙されているが、『森の生活』のソローはじめ、諸賢人がこれを本歌としてさまざまなヴァリエーションを編んでいる。

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