2021年3月号 柴田耕太郎

PDFでダウンロード

伊藤和夫著『英文解釈教室・改訂版』は最も優れた英文読解指南本の一つである。
それでもいくつかの瑕疵があるのを憂え、研究社に働きかけた。
同社の英断で、最低限修正必要な箇所が直され『新装版』として世に出た。
修正時には私のアドヴァイスも多少取り入れてもらっている。
何故どこをどう直したのかを示すことは、過去の百万読者に対する責務であり、故伊藤先生への礼儀でもあろう。
そして未だ直っていないが直すべきである箇所もあり、また直しが不満足な箇所もある。
これらを月一回の連載で点検してゆきたい。
書籍『英文解釈教室・新装版』ならびに、私が研究社HPで連載した『英文解釈教室・新装版ノート』(研究社HP www.kenkyusha.co.jp のWebマガジンLinguaバックナンバー欄にあり)と見比べていただくと、いっそう学習の効果が上がるだろう。
場合により原文は省いてある。上記テキストを参照願いたい。

・凡例
『英文解釈教室・改訂版』=旧版
『英文解釈教室・新装版』=新版
『英文解釈教室・新装版ノート』=ノート
私の考え=意見
英文和訳の試験でも減点される誤訳箇所=×
商品としての翻訳にはなっていない悪訳箇所=△
修正個所=下線 
太字=特に言及する誤訳、悪訳箇所
修正例= ⇒
新版の訂正でおおむねよろしいところ=意見を記していない

Chapter 9 関係詞

9.1 主格の関係詞

9.1.1
I know no statesman in the world who with greater right than I can say that he is the representative of his people.

旧版:△
自分が国民の代表であると、私よりも大きな権利をもって言うことのできる政治家を私は世界中に知らない
新版:〇
自分が国民の代表であると、私よりも大きな権利をもって言うことのできる政治家は私の知るかぎり世界にもいない
意見:
欧文脈の影響だろうか、祝辞などで「私は彼ほど有能な人物を知りません」といった言い方が聞かれる。このknowは「事実として確信している」の意味。訳文でそれが分かれば結構だが、曖昧な場合は新版のようにするのがよいだろう。いや新版を少し踏み込んで「政治家は世界中にいないと確信する」のほうがよりよいかな。

9.1.2
The modern American schools provide the young of all classes with the common background that in an old, rural society is provided by tradition, by the daily life in each community.
旧版: ☓ ☓ △
現代のアメリカの学校はあらゆる階級の若者に共通の生活体験を与えているが、それは昔の農村社会であれば、伝統によって、つまり、それぞれの地域社会の日常生活によって与えられるものなのである。
新版: ☓ 〇 〇
現代のアメリカの学校はあらゆる階級の若者に共通の素養を与えているが、それは昔の農村社会であれば、ならわしによって、つまり、それぞれの地域社会の日常生活によって与えられるものなのである。
意見:
classには(1)階級 (2)種類、の二義あることに注意。「あらゆる階級」ではどんなと問いたくなるし、background、traditionとの文脈性が(2)に比べ薄い。backgoundは、背景>素養;基礎知識>基礎環境、と意味が狭まる。「生活体験」はズレるのではないか。traditionは「伝統」では意味が広すぎる。「ならわし」「しきたり」がよいだろう。

9.1.5
There are plenty of people who we know quite well are innocent of this crime.
旧版:△
この犯罪とは無関係であることを我々がよく知っている人が多数いる。=我々がよく知っているところでは、この犯罪と無関係な人が多数いる
新版:〇
この犯罪とは無関係であることを私たちがよく知っている人が多数いる。=この犯罪とは無関係だと私たちには分かる人が多数いる
意見:
旧版は読みにくい。新版でよいが、know quite wellは強い言葉なので、「分かる」でなく「断言できる」としてはどうか。

9.1 例題(2)
A schoolmaster recently said that out of the 250 pupils he taught the ones who watches TV were undoubtedly the most intelligent.
We all know the people who sit through any and every programme night after night because they are drugged by TV. But I have yet to meet the child who, allowed to watch as much as he likes, fails to show discrimination.
旧版:△
ある先生が最近、自分が教えている250人の生徒の中で、テレビを見ている子がいちばん知恵が進んでいることはたしかだと言った。
テレビ中毒になっているため、来る夜も来る夜も、ありとあらゆる番組を最後まで見ている大人のことは誰でも知っている。しかし、好きなだけテレビを見てよいと言われて、番組に対する識別力を示さぬ子供には、私はまだ会ったことがない。
新版:〇
ある先生が最近、自分が教えている250人の生徒の中で、テレビを見ている子がいちばん知恵が進んでいることはたしかだと言った。
テレビ中毒になっているため、夜な夜なありとあらゆる番組を最後まで見ている大人のことは誰でも知っている。しかし、好きなだけテレビを見ていいと言われて、番組に対する識別力を示さない子供には、私はまだ会ったことがない。
意見:
旧版は、大げさというか稚拙。

 

②目的格の関係詞(1)

9.2.3
Parenthood is capable of producing the greatest happiness that life has to offer.
旧版:×
親であることは、人生が与えうる最大の幸福を与えてくれることができる
新版:△
親であることは、人生が与えうる最大の幸福を与えうる
意見:
旧版は、主語がねじれている。新版は、「与えうる」が重なりうるさい。
「親になることで、人生が与えてくれる最大の幸福を手にすることができる」でどうか。

9.2.9
The thing about her which I knew I would never forget was the look in her eyes.
旧版:△ 〇
彼女のことで、決して私が忘れないと分かっているのは、彼女の目つきだった
新版:△ 〇
彼女のことで、決して私が忘れないと分かるのは、彼女の目の表情だった
意見:
通例、過去の出来事は、文末だけ過去形にすれば済む。文中も過去形にすると日本語では大過去になってしまうことが多い。だがここは、know that「…ということをはっきり自覚している」との強い意味なので、セオリとは逆にした方が過去が引き立つだろう。「分かっていたのは、彼女の目つきである」。「目つきが悪い」は否定的なイメージだと、新版は「目の表情」としたのだろうが、この文では「悪さ」は感じられないので元のママでよいのでないか。

 

③目的格の関係詞(2)

9.3.6
No man can accurately determine the condition of the society of which he forms a part.
新版、旧版:×
どんな人も、自分が一部となっている社会の状況を正確に決定することはできない。
意見:
determineは「決定する」だけではない。ここは「意味を正確に定める」の意味。「状態を正確に判断する」に直す。

9.3.9
While the citizens of Great Britain and Northern Ireland are British, so are the citizens of other members of the British Commonwealth, outstanding among which are Canada, Australia, and New Zealand.
旧版:×
グレート・ブリテンと北アイルランドの国民もブリティッシュであるが、他の英連邦構成国の国民も同様である。他の構成国の中で特に目立つのは、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドである。
新版:〇
グレート・ブリテンと北アイルランドの国民もブリティシュであるが、他の英連邦構成国の国民も同様である。それらの構成国の中で特に目立つのは、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドである。
意見:
旧版「他の」だと「それ以外の」ととれてしまう。

 

9.3 例題(3)
Beyond the red and violet of the spectrum lies a whole range of light waves to which the senses remain insensible. But with the help of the ingenious instruments which he has contrived for himself, modern man has become aware of all sorts of light waves of the existence of which he would otherwise have been ignorant.
旧版:☓ △ 〇
スペクトルの赤と紫に外にも、感覚によっては知覚しえぬ光波の広大な領域が存在している。しかし、みずから作り出した精巧な道具の助けを借りて、現代人はあらゆる種類の光波について知るにいたったが、もしそれらの道具の発明がなかったら、それらの光波の存在について人間は無知のままでいたであろう
新版:☓ 〇 〇
スペクトルの赤と紫の外にも、感覚では認識できない光波の広大な領域が存在している。しかし、みずから作り出した精巧な道具の助けを借りて、現代人はあらゆる種類の光波について知るにいたったが、もしそれらの道具の発明がなかったら、それら全光波の存在について人間は無知のままでいただろう
意見:
せっかく不可算名詞の可算名詞化、などという規則があるのだから、使わない手はない。「五感では認識できない」。旧版「それらの」とすると「知覚しえない光波」だけを指すのかと思ってしまう。新版「それら全光波」は正しいが、くどい感じになるのは致し方ないか。

 

④関係詞の省略

9.4.2
Although the action of this novel begins when George the Fourth was still the King of England, we say to ourselves that this is the sort of thing we know life to be.
旧版:☓ 〇
この小説に出てくる活動は、ジョージ4世がまだ英国王だった時代にはじまっているけれども、我々は、これが我々が知っている人生そのままだと考えるのである。
新版:〇 〇
この小説の展開は、ジョージ4世がまだ英国王だった時代に始まっているけれども、私たちは、これが自分たちが知っている人生そのままだと考えるのである。
意見:
ここのactionは「筋の運び」の意味。

9.4.4
Science can give us things we want; or things we do not know we want until it presents us with them.
旧版:〇 △
科学は、我々がほしがるもの、科学に与えられてはじめてほしいと思うものを与えてくれる。
新版:〇 〇
科学は、私たちがほしがるもの、科学に与えられてはじめてほしいと分かったものを与えてくれる。
意見:
人称はどちらでも可。旧版「ほしいと思う」では、その時急に思ったみたいだ。

9.4.5
Who is the woman you were talking to when I saw you this morning?
旧版:〇
けさ会った時、あなたが話しかけていた婦人は誰ですか。
新版:〇
けさ会ったとき、あなたが話しかけていた女性は誰ですか。
意見:
好みの問題。

ページトップへ