2020年12月号 柴田耕太郎

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伊藤和夫著『英文解釈教室・改訂版』は最も優れた英文読解指南本の一つである。
それでもいくつかの瑕疵があるのを憂え、研究社に働きかけた。
同社の英断で、最低限修正必要な箇所が直され『新装版』として世に出た。
修正時には私のアドヴァイスも多少取り入れてもらっている。
何故どこをどう直したのかを示すことは、過去の百万読者に対する責務であり、故伊藤先生への礼儀でもあろう。
そして未だ直っていないが直すべきである箇所もあり、また直しが不満足な箇所もある。
これらを月一回の連載で点検してゆきたい。
書籍『英文解釈教室・新装版』ならびに、私が研究社HPで連載した『英文解釈教室・新装版ノート』(研究社HP www.kenkyusha.co.jp のWebマガジンLinguaバックナンバー欄にあり)と見比べていただくと、いっそう学習の効果が上がるだろう。
場合により原文は省いてある。上記テキストを参照願いたい。

・凡例
『英文解釈教室・改訂版』=旧版
『英文解釈教室・新装版』=新版
『英文解釈教室・新装版ノート』=ノート
私の考え=意見
英文和訳の試験でも減点される誤訳箇所=×
商品としての翻訳にはなっていない悪訳箇所=△
修正個所=下線 
太字=特に言及する誤訳、悪訳箇所
修正例= ⇒
新版の訂正でおおむねよろしいところ=意見を記していない

Chapter6 同格構文

6.1.2
Few insects enjoy more fame than the glowworm, the curious little animal who celebrates the joy of life by lighting a lantern at its tail end.
旧版)△ △
ホタルという、尾の先に提灯を灯して生の喜びを祝う珍しい小動物ほど、よく知られている昆虫は少ない。
新版)〇 〇
ホタルという、尾の先に提灯を灯して生の喜びを祝う珍しい小さな生物ほど、よく親しまれている昆虫は少ない。
解説)
insectは、広義で虫、狭義で昆虫。これはあっている。animalは、広義で生物、狭義で動物。旧版は意味が狭まりよくない。新版は「生き物」のほうが更によいだろう。
enjoy fameは「名声に恵まれている」が直訳。新版のほうが原文に近いだろう。

6.1.5
“I am a citizen, not of Athens or Greece, but of the world.” These are the words of Socrates, the ancient Greek philosopher, and perhaps the wisest man who ever lived.
新旧版)△
「私はアテネやギリシアの市民でなく、世界の市民である」 これは古代ギリシアの哲学者であり、おそらくかつてないほどの賢者であったソクラテスの言葉である。
解説)
「これまでに存在したうちの最高の賢者」が直訳。新旧版はダメではないが、比較の感じが強い。「古今を通じ一番の賢者」と最高を強調してはどうか。

6.1.8
Good health and physique, cheerfulness and a desire to help others, all play a big part in making happiness and prosperity.
旧版)△
健康と立派な体格、快活さと他人を助けようとする願望、これらすべてが、幸福と繁栄を作り上げる上で大きな役割を果たす。
新版)〇
健康で丈夫な体、快活さと他人を助けようとする願望、これらすべてが、幸福と繁栄を作り上げる上で大きな役割を果たす。
解説)
形容詞+名詞1+名詞2では、形容詞は二つの名詞に掛けるのが順当。それで意味が通じなければ直近の名詞に掛ける。ここも原則に従う。
例:a man of good physique いい体格の持ち主
She is in good health. 彼女は健康だ

6.2.1
The especially human activities which distinguish man from other animals all depend upon the lessening of his bondage to physical nature.
新旧版)△ △
人間を他の動物と区別する特に人間的な活動はすべて、物理的自然に対する人間の隷属を減少させることと関わりがある
解説)
physical natureは、多義で意味を決めにくい。物質(特)性、肉体(特)性、物理的性状(科学用語)などだが、「物理的自然」はあいまい。「物質的なもの」ぐらいでどうか。
depend uponは「…次第」。「させられるかどうかにかかっている」でどうか。

6.2 例題(2)
Many people today think it is very wrong of the Government to keep us all short of nice things at home while the beautiful cars and textiles and other high grade goods are sent abord. They think that exports should consist only of the surplus of goods that we don’t want to use ourselves. Yet they do not think it wrong that the mechanic who makes the Rolls-Royce car cannot afford to possess such a car himself.
旧版) △ △ △
国産の美しい自動車や繊維製品その他高級な品物が外国に輸出されているのに、国内では誰も上等な品物が手に入らないように政府がしているのは大きなまちがいだと、現在多くの人々は考えている。輸出するのは、国民が自分では使いたがらない余剰製品だけにかぎるべきだと、その人々は考えるのである。しかし、ロールスロイスの自動車を作る機械工が自分ではその自動車が持てなくても、それがまちがいだとは考えられないのである。
新版)〇 〇 〇
すばらしい国産車や繊維製品その他高級な品物が外国に輸出されているのに、国内では政府が国民全員に上等な品物が手に入りにくいままにしているのは大きな間違いだと、現在多くの人々は考えている。輸出するのは、国民が自分では使いたがらない余剰製品だけにかぎるべきだと、その人々は考えるのである。しかし、ロールスロイスの自動車を作る機械工が自分ではその自動車が持てなくても、それが間違いだとは考えないのである。
解説)
beautifulを「美しい」一本やりでは説得性がなくなる。
旧版「政府がしている」では政府の行為が強調されすぎる。新版のようにした方がよいだろう。
do not thinkは能力を言っているのではない。

6.3 例題
Man is one of the most adaptable of all living things, an honor which he perhaps shares with his constant companions, the dog and the housefly. Man can maintain himself as a population high in the mountains, or in arctic wastes, or in tropical jungles, or in desert desolation. Individually he has penetrated the depths of the ocean and the outer reaches of the atmosphere. Man is marvellously adaptable―except to man.
旧版)△ △
人間はあらゆる生物の中で最も適応性に富んだものの1つであって、その名誉を人間といつもいっしょにいる犬や家バエとおそらくともにしているのである。人間は高山でも、北極の荒地でも、熱帯のジャングルでも、荒涼たる砂漠でも、そこに住みついて生活してゆくことができるし、個人としてなら大洋の深海や大気圏の上層部にまで達している。人間は驚くほど適応性を持っているが、ただ人間に対するときだけは別である。
新版)
ともにしている⇒分かち合っている 〇
北極の⇒極寒の 〇
解説)
share with旧版「ともにしている」では分かりにくい。
arctic wastesは「厳寒の荒地」。北極とは限らない。

6.4 例題
Before the motor age, travel for pleasure was largely restricted to the rich. If they had money enough they would go to Europe. Otherwise they would spend the summer at the seashore or in the mountains, or perhaps they would take the waters at some health resort. People only moderately well to do were likely to confine their travel to matters of business or to such exigencies as family weddings and funerals. Down among the white collars, and those only a notch or two above the under-privileged, travel was usually limited to a honeymoon or perhaps once in a lifetime a flying visit to the World’s Fair or the centennial celebration of some historical event.
旧版)
自動車の時代がくる前は、楽しみのために旅行をするのは大部分金持ちにかぎられていた。金持ちは十分な金があればヨーロッパへ行き、そうでなければ海岸や山で夏を過ごしたり、どこか保養地で湯治したりしたものである。特に裕福とまではゆかない人たちが旅行するのは、仕事のためとか、家族の結婚や葬儀のような特別の場合にかぎられていたようである。下って、サラリーマンとか下層階級よりわずかに上といった人々の場合は、旅行をするのは普通、新婚のときとか、そうでなければたぶん一生に一度万国博覧会とか歴史的な出来事の百年祭とかをあわただしく見物に行くときだけであった。
新版)△ △
がくる前は⇒以前は 〇
とかを⇒などを 〇
解説)
旧版「くる前は」とわざわざ和語にして丁寧にする必要はない。原文をそのまま訳して通じる箇所はいじらない方がよい。どうしても訳文は長くなりがちだ。それを避ける心構えが普段から必要である。
旧版「とかを」口語っぽい。

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