2020年8月号 柴田耕太郎

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伊藤和夫著『英文解釈教室・改訂版』は最も優れた英文読解指南本の一つである。
それでもいくつかの瑕疵があるのを憂え、研究社に働きかけた。
同社の英断で、最低限修正必要な箇所が直され『新装版』として世に出た。
修正時には私の助言も多少取り入れてもらっている。
何故どこをどう直したのかを示すことは、過去の百万読者に対する責務であり、故伊藤先生への礼儀でもあろう。
そして未だ直っていないが直すべきである箇所もあり、また直しが不満足な箇所もある。
これらを月一回の連載で点検してゆきたい。
書籍『英文解釈教室・新装版』ならびに、私が研究社HPで連載した『英文解釈教室・新装版ノート』(研究社HP www.kenkyusha.co.jp のWebマガジンLinguaバックナンバー欄にあり)と見比べていただくと、いっそう学習の効果が上がるだろう。
原文は省いてある。上記テキストを参照願いたい。

・凡例
『英文解釈教室・改訂版』=旧版
『英文解釈教室・新装版』=新版
『英文解釈教室・新装版ノート』=ノート
私の考え=意見
英文和訳の試験でも減点される誤訳箇所=×
商品としての翻訳にはなっていない悪訳箇所=△
修正個所=下線 
太字=特に言及する誤訳、悪訳箇所
修正例= ⇒
新版の訂正でおおむねよろしいところ=意見を記していない

2.1 第5文型の意味

2.1.4
訳文部分
旧版:
私は、彼女が歌を歌っているのを聞いた
新版:
私には、彼女が歌を歌っているのが聞こえた
意見:
旧版「聞いた」△。意志を働かせるように取れてしまう。

2.2 目的補語の形態

2.2.3
訳文部分
旧版:
空にほうき星が現れると、昔は国中が恐怖におののいた。
新版:
空にほうき星が現れると、昔は諸国がみんな恐怖におののいた。
意見:
旧版×。全国民、全国土はthe whole nation。

2.2.5
訳文部分
旧版:
親や先生に言ってもらうのでなく、自分でものごとを発見せよ
新版:
親や先生に言ってもらうのでなく、物事は自分でつきとめよ
意見:
旧版△。find outは、ここでは「解答を出す」の意味。

2.2.7
訳文部分
旧版:
歴史の書物の中で詩について書かれていることは少ないが、詩こそわが国民の最大の栄光
である。
新版:
歴史書の中で触れていることは少ないが、詩こそわが国民の最大の栄光である。
意見:
旧版×。新版△。
itはPoetry is the greatest glory of our nationを指す。⇒「歴史書の中では余りこのこと
に触れられていないが、詩こそわが国民の最大の栄光である」

2.2 例題(2)
訳文部分
旧版、新版:
ミシンというこの偉大な発明品は、主として家庭で用いられるものと考えられがちである。
しかし、ミシンが人類の進歩にとってこれほど貴重なものになったのは、このことのため
ではなかった。ミシンの最大の価値は、それが工場で使われることから生じた。女性やそ
の夫と子供がデパートへ行って身につけるもののすべてを既製品で買うことができるよう
になったとき、女性は自由になったのである。
意見:
旧版、新版△。「このこと」が差すものがあいまい。⇒前を「家庭において役立っている」、
もしくは後を「生活の便宜のゆえ」と直す。

2.2 例題(3)
訳文部分
旧版、新版:
…。「私は失敗したが、何も私が悪かったのではない。見てごらん、誰だって失敗するんだ
し、数学ができないのは人間である以上、当たり前のことなんだ」親は子供に時々こうい
う話し方をする。そして親は、自分の威厳を保とうとしながら、子供が親と同様な失敗を
することをきわめて確実なこととしているのに気づかぬことがよくある。なぜなら、失敗
するだろうと思っている人はそのとおり失敗するものだからだ。
意見:
旧版、新版△。
「見てごらん」ここは相手への念押し⇒「分かるだろう」。
「威厳を保とうとしながら」同時性でなく、理由⇒「威厳を保とうとして」。
「失敗することをきわめて確実なこととしている」確実性より可能性をいっている⇒「失
敗をする可能性を極端に高めている」。

2.3 目的補語の識別

2.3.3 
訳文部分
旧版:
数百の人々にとって、当時のヨーロッパで最も重大な出来事は独裁制の勝利であった。
ーロッパの自由の基礎をなしていたと思われる基盤が破壊されてゆくのを私は見守ってい
た。
新版:
数百の人々にとって、当時のヨーロッパで最も重大な出来事は独裁制の勝利であった。
ーロッパの自由の土台をなしていたと思われる基盤が破壊されていくのを私は見守っていた。
意見:
旧版、新版△。「数百の人々」では心細い。数が多い、を表す表現に直す「多くの」。
「ヨーロッパの自由の基礎をなしていた」「ヨーロッパの自由の土台をなしていた」いずれ
も固い⇒「ヨーロッパの自由を支えていた」。

2.3.4
旧版:
あまり旅行をさせすぎたり、あまりに多様な印象を与えすぎたりするのは、子供のために
ならない。そういったなかで育った子供は大人になったとき、実りの多い単調な生活に耐
えることができなくなる。
新版:
あまり旅行をさせすぎたり、あまりに多様な印象を与えたりするのは、子供のため
にならない。そういった中で育った子供は大人になったとき、実りをもたらす単調な生活
に耐えることができなくなる。
意見:
旧版×。fruitfulは、「現在実っている」のでなく「やがて実りをもたらす」の意味。

 

2.3 例題
旧版:
正しい英語の知識に自信が持てない人は、綴りや発音、意味、文法的用法をひとつひとつ
きっぱりと決めてもらって、どれは正しくどれはまちがいかを知ることができたらと思い
いくつかの用法の中から選ぶことが明らかに可能である場合は不安になるのである。ある
一定の基準に照らして慣用のすべての問題を解決できたらと願うせいもあって、そういう
人はこの種の基準が現実に存在して働いているものと思いこむようになり、意見や規則
根拠を調べてもみずにそれらをたえずくり返すようになるのである。
新版:
正しい英語の知識に自信が持てない人は、綴りや発音、意味、文法的用法をひとつひとつ
きっぱりと決めてもらって、どれは正しくどれは間違いかが分かればいいのにと思い、い
くつかの用法の中から選ぶことが明らかに可能である場合は不安になるのである。ある一
定の基準に照らして慣用のすべての問題を解決できたらと願うせいもあって、そういう人
はこの種の基準が現実に存在して働いているものと思いこむようになり、意見や規則の根
拠を調べもせずに、それらをたえずくり返すようになるのである。
意見:
旧版「決めてもらって…できたらと思い」△、新版「決めてもらって…分かればいいのに」
△。ともにコロケーションが悪い⇒「決めてもらえれば…できるのにと思い」
旧版、新版「意見や規則」△。何の意見かと考えてしまう。これはリズムを出すために似
たような意味重ねた同義語反復ととるのがよいだろう⇒「規則」。

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