[アイディ英文教室連載コラム] 『どこが違っているのかな?!』 第36回『キス・キス』(開高健訳)  表現そのⅧ

2018年3月号

PDFでダウンロード

 10年かけてロアルド・ダールの短編集(The Collected Short Stories)を点検し終わった。一字一句精読し、市販訳(早川書房)と比べてゆくのである。
 このシリーズは開高健、田村隆一などの名手が翻訳しているのだが、若い頃読んでいて読みづらいと思った。やはり誤訳・悪訳がボロボロ。
 でも興味を覚えた。一応の英語使いが間違える箇所なら、一般の英語学習者にとっても苦手な箇所のはずだ。ならばそれを列挙し説明をつけて学習者に裨益しようと、当欄の姉妹コラム「誤訳に学ぶ英文法」(アイディのホームページにあり)で連載してきた。
 このコラムでは、それを作品集別、品詞別に分類し、誰もがつまづきそうな箇所でそう複雑でないものを選んで解説してゆく。辛抱強く読んでゆけば、実力向上疑いなし。パズルを解くように楽しんでいただければ幸いです。

今回も日本語表現がおかしい部分を取り上げます。

『ローヤル・ジェリイ』Royal Jellyの気になる表現

アルバート・テイラーは若き養蜂家。子宝に恵まれたばかりだが、その乳飲み児の娘の食が細くて、妻ともどもとても心配している。アルバートの案じた一計で、目出度く娘の食欲を回復させることができた。ローヤル・ジェリイを大量に飲ませたのだ。これで一安心と喜んだのも束の間、よくよく見ると、乳児であるはずの娘は、女王蜂さながらに変身中!?…。

①表現

She lifted the bottle out of the saucepan of hot water and shook a few drops of milk on to the inside of her wrist, testing for temperature.
彼女はお湯の入っているシチューなべから、壜をとりだすと、二、三滴ミルクをふりだして、手首の内側にかけ、熱さをみた。

解説:

「振って中から出す」のが「ふりだす」の意味だから、よさそうな気になるが、これはコロケーション(言葉と言葉の親和性)の問題。「ふりだす」だと、ずいぶん力が加わる感じだし、対象が固形物のようだ。例:瓶から味の素をふりだし…。

修正訳:

ミルクをたらして

②表現

But the mother said it was a gift given him by God, and even went so far as to compare him with St. Francis and the birds.
けれども、母親は、これはこの子が神からもらったさずかりものだといい、彼を聖フランシスコと小鳥たちにたとえたりまでしたのだった

解説:

このcompare A with Bは、「喩える」より「比較する」のほうがよいだろう。慈愛あふれる人柄から、説教に小鳥までもが集まってきたという、イタリアはアッシジの聖フランチェスコ(名前は現地語読みが原則)と小鳥の親密さを、若き養蜂家ロバートと蜂の親密さを比べたのだ。

修正訳:

彼を小鳥に好かれる聖フランチェスコと比べたりもするのだった。

③表現

‘And we just finished the last feed ten minutes ago. …
「それで、十分なほど前に最後のお乳を終ったところだ。…」

解説:

「最後の」では、もうお乳は永久にあげないみたいだ。「直近の」の意味がはっきりわかるように訳す。

修正訳:

すぐ前のお乳は十分前に終った。…

④表現

‘It’s curing her, isn’t it?’
‘I’m not so sure about that, now.
「あの子は元気になったじゃないか、そうだろ?」
それがもう、何だかあやしい気持ちになってきたわ

解説:

「あやしい気持ち」では、気分が危険なほうへ傾くみたいだ。be sure aboutは「…を確信する」。赤ん坊が本当に元気になったのかどうか、わからなくなったといっている。

修正訳:

もう、わからなくなったわ。

⑤表現

‘Don’t be a fool, Albert! You think it’s normal for a child to start putting on weight at this speed?
「へんなこといわないで、アルバート!こんなに、体重をふやして、それで子供には正常だと思っているの?

解説:

主語がねじれている。体重を増やしたのは、子供。「それで」は、前の節を受けにくい。

修正訳:

子供がこんなに体重を増やすことが、あっておかしくないって思っているの?

前に戻るコラムトップに戻る
ページトップへ