[アイディ英文教室連載コラム] 『どこが違っているのかな?!』 第28回『キス・キス』(開高健訳)  比較

2017年6月号

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 10年かけてロアルド・ダールの短編集(The Collected Short Stories)を点検し終わった。一字一句精読し、市販訳(早川書房)と比べてゆくのである。
 このシリーズは開高健、田村隆一などの名手が翻訳しているのだが、若い頃読んでいて読みづらいと思った。やはり誤訳・悪訳がボロボロ。
 でも興味を覚えた。一応の英語使いが間違える箇所なら、一般の英語学習者にとっても苦手な箇所のはずだ。ならばそれを列挙し説明をつけて学習者に裨益しようと、当欄の姉妹コラム「誤訳に学ぶ英文法」(アイディのホームページにあり)で連載してきた。
 このコラムでは、それを作品集別、品詞別に分類し、誰もがつまづきそうな箇所でそう複雑でないものを選んで解説してゆく。辛抱強く読んでゆけば、実力向上疑いなし。パズルを解くように楽しんでいただければ幸いです。

①『牧師のたのしみ』

原文と市販訳:

… ; and often, at the end of an unusually good performance, it was as much as he could do to prevent himself from turning aside and taking a bow or two as the thundering applause of the audience went rolling through the theatre.
そして、われながら稀にみる名演技にこたえて、思わず傍らを向いて、一、二度頭を下げる役者みたいな苦労を味わった

背景:

実直な牧師に変装して、田舎の旧家に残っているお宝をさがす骨董商のボギス。

ヒント:

muchは「たくさん」でなく「同量」の意味。

解説:

前のasは指示副詞「その分だけ」、後のasは接続詞「…と同じく」。muchは(後のas以下と)「同量」(名詞扱い)。could>canは可能性を示す。as much as ~ can で「…の最大限」の意味となる。
訳全体もちょっとずれている。

修正訳:

(直訳)
そしてしばしば、いつになくうまくいった演技の最後には、観客の歓呼の轟きが劇場中をゆるがす時、脇にのいて一、二度お辞儀することから自らを阻むことが、彼ができうる最大限であった。
(意訳)
そしてうまくいった時などは、劇場の万呼の声に応え脇により頭を下げる役者よろしく、あいさつをしたい衝動を抑えるので精一杯だった。

②『牧師の楽しみ』

原文と市販訳:

The men were staring at this queer moon-faced clergyman with the bulging eyes, not quite so suspiciously now because he did seem to know a bit about his subject.
三人の男はこのおかしな、お月さまみたいな顔をした牧師を、だいぶ疑惑の色のうすれた、いまにもとびだしそうな眼で凝視している。というのも、ボギス氏が家具の世界に少々明るいように思われてきたからだ。

背景:

実直な牧師に変装して、田舎の旧家に残っている珍品を探す骨董商のボギス。

ヒント:

because以下の掛かり方を間違ったので、not … so … が曖昧になっている。

解説:

not quite so suspiciously nowの分析:
not quite 部分否定「全く…というわけではなく」
so 先ほどまでと比べて今ではさほど
「いまにもとびだしそうな眼」をしているのは、牧師。withは「…を持った」。カンマは以下情報を付け加えるしるし(主体はthe men)。

修正訳:

(全文)
三人は、おかしな奴だなとこの出目で丸顔の牧師を見つめていたが、家具について一家言あるのがわかったので、胡散臭さそうに見る態度は消えていた。

③『ローヤル・ジェリイ』

原文と市販訳:

‘You can’t tell me it’s natural for a six-week-old child to weigh less, less by more than two whole pounds than she did when she was born! Just look at those legs! They’re nothing but skin and bone!’
もう六週間もたっているのに、二ポンドにも充たないなんて、生まれた時より目方がへってるなんて、あたりまえじゃないじゃありませんか!あの足をごらんなさいな!まるで骨と皮だわ!

背景:

ようやく授かった一粒種の食が進まず、体重をどんどん減らしている。

ヒント:

byを誤読しているようだ。

解説:

比較については、次の視点をつねに持つことが大切。
何と何を、何の点で比較しているか。
ここでは、赤ん坊について、その生まれた時と六週間たった現在の体重を、増減の点で比較している。
該当部分だけ抜き出して一文にすると、She(the six-week-ols chils) weighs less (by more than two whole pounds) than she did when she was born.
つまり、「生後6週間の赤ん坊」について(she)、その生まれたときの体重(did 《=weighed》 when she was born)と、現在の体重(weighs)を、増減(less than)の点で比較。
by more than two whole poundsが挿入的に入って(前のlessに掛かる副詞句)、わかりにくくしているが、ここのbyは単位を示す前置詞で「…分」、more than two whole poundsは「まるまる2ポンド以上」で、by以下の全体は「まるまる2ポンド以上分」が直訳。

修正訳:

2ポンド以上も

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