[アイディ英文教室連載コラム] 『どこが違っているのかな?!』 第25回『キス・キス』(開高健訳)  イディオムそのⅢ

2017年3月号

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 10年かけてロアルド・ダールの短編集(The Collected Short Stories)を点検し終わった。一字一句精読し、市販訳(早川書房)と比べてゆくのである。
 このシリーズは開高健、田村隆一などの名手が翻訳しているのだが、若い頃読んでいて読みづらいと思った。やはり誤訳・悪訳がボロボロ。
 でも興味を覚えた。一応の英語使いが間違える箇所なら、一般の英語学習者にとっても苦手な箇所のはずだ。ならばそれを列挙し説明をつけて学習者に裨益しようと、当欄の姉妹コラム「誤訳に学ぶ英文法」(アイディのホームページにあり)で連載してきた。
 このコラムでは、それを作品集別、品詞別に分類し、誰もがつまづきそうな箇所でそう複雑でないものを選んで解説してゆく。辛抱強く読んでゆけば、実力向上疑いなし。パズルを解くように楽しんでいただければ幸いです。

①『ローヤル・ジェリー』Royal Jelly

原文と市販訳:

‘Albert, stop pulling my leg.’
「アルバート、ごまかさないでよ

背景:

赤ん坊に何か変な食べ物を与えたのではと、妻が夫を問い詰める。

ヒント:

決まりきった言い方。

解説:

pull one’s legは、イディオムで「からかう」

修正訳:

からかわないで

②『ローヤル・ジェリー』Royal Jelly

原文と市販訳:

They mix a tiny pinch of it into a big jar of face cream and it’s selling like hot cakes for absolutely enormous prices.
連中は大きな美顔クリームのカンの中に、ほんのちょっぴりこいつを混ぜ合わせて、とんでもなく馬鹿高い値段のホット・ケーキみたいに、売るのさ

背景:

ローヤル・ゼリーの効能を妻に説明する夫。

ヒント:

このsellは自動詞で「売れる」。

解説:

like hot cakesはイディオムで「飛ぶように」

修正訳:

馬鹿高い値段で売れているのさ

③『ローヤル・ジェリー』Royal Jelly

原文と市販訳:

I thought that might surprise you a bit. And I’ve been making it ever since right under your very nose.’ His small eyes were glinting at her, and a slow sly smile was creeping around the corners of his mouth.
きみにはちょっとおどろきだったかもしれんが、きみの反対は予想の上で、つくってみたんだ」彼の小さなひとみは、きらきらしながら彼女をみつめ、かすかな微笑みが口の端から、ゆっくりと顔にひろがってゆく。

背景:

問い詰められた夫が、赤ん坊にロイヤル・ゼリーを大量投与していたことを白状する。

ヒント:

under your very noseの訳がないようだが。

解説:

mightはmayの過去形で可能性を示している。ever sinceは副詞句で「以来」。rightは強調の副詞「まさに」。

修正訳:

直訳:君を驚かすかもと思ったんだ。それで以来、君の目と鼻の先でそれを作ってきた
意訳:驚かすといけないと思って、何も言わずに作ってきたんだ

④『暴君エドワード』Edward the Conqueror

原文と市販訳:

Had she wanted she could easily have called again and made herself heard, but there was something about a first-class bonfire that impelled her towards it right up close so she could feel the heat and listen to it burn.
そうしようと思えば、もう一度良人を呼んでみるのはたやすいことだし、また今度は気がつかせることもできたのだろうが、そのすばらしいたき火には、なにか彼女をひきつけるものがあったのだ。あまりたき火に近づいたのでその火照りが感じられ、燃える音が彼女の耳に聞こえてきた

背景:

窪地で茨を焼く夫を、妻が食事のため呼びに来る。

ヒント:

省略要素を補う。

解説:

so that ~ can(…できるように)のthatが抜けた形。「それで」のsoではない。

修正訳:

直訳:しかし、第一級のたき火には、彼女がその熱を感じられ、かつそれが燃える音を聞けるように、彼女をしてそのたき火のほうのもっとずっと近くに駆り立てる何ものかがあった。
意訳:そのすばらしいたき火には、なにか彼女をひきつけるものがあり、もっと近づいてその熱気を感じ燃える音を聞きたいという気持ちになった。

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