[アイディ英文教室連載コラム] 『どこが違っているのかな?!』 第24回『キス・キス』(開高健訳)  イディオムそのⅡ

2017年2月号

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 10年かけてロアルド・ダールの短編集(The Collected Short Stories)を点検し終わった。一字一句精読し、市販訳(早川書房)と比べてゆくのである。
 このシリーズは開高健、田村隆一などの名手が翻訳しているのだが、若い頃読んでいて読みづらいと思った。やはり誤訳・悪訳がボロボロ。
 でも興味を覚えた。一応の英語使いが間違える箇所なら、一般の英語学習者にとっても苦手な箇所のはずだ。ならばそれを列挙し説明をつけて学習者に裨益しようと、当欄の姉妹コラム「誤訳に学ぶ英文法」(アイディのホームページにあり)で連載してきた。
 このコラムでは、それを作品集別、品詞別に分類し、誰もがつまづきそうな箇所でそう複雑でないものを選んで解説してゆく。辛抱強く読んでゆけば、実力向上疑いなし。パズルを解くように楽しんでいただければ幸いです。

①『ビクスビー夫人と大佐のコート』Mrs Bixby and the Colonel’s Coat

原文と市販訳:

So far so good.
それでいままでのところは、うまくいったのである。

背景:

夫に巧みに言い繕い浮気を続ける妻

ヒント:

だらだら訳したら面白味がなくなる

解説:

紋切型の表現

修正訳:

ここまではよかった。

②『ビクスビー夫人と大佐のコート』Mrs Bixby and the Colonel’s Coat

原文と市販訳:

What you lose on the swings you get back on the roundabouts.
ひとがあっさり失うものを、あたしはもってまわったような失いかたをする

背景:

浮気相手の「大佐」から、急につれなくされたビクスビー夫人の述懐

ヒント:

勝手な類推は恥かきの始まり

解説:

元訳では、意味が分からない。辞書を丁寧に引くこと

修正訳:

悪いことがあればよいこともある→苦あれば楽あり、楽あれば苦あり

③『ビクスビー夫人と大佐のコート』Mrs Bixby and Colonel’s Coat

原文と市販訳:

But Mrs Bixby knew better. The plumage was a bluff.
しかし、ビクスビー夫人のほうが、一枚うわてだった。羽毛ははったりなのだ。

背景:

身づくろいに気を使う夫の正体を夫人は知っている

ヒント:

than以下(自分の身につけるものに腐心する夫)が省略されている

解説:

夫人はthan以下より知識・経験などが優れている、ということ。「羽毛」とあるがthe plumeは(夫の)「儀式張った服装」の比喩

修正訳:

(前の部分の直訳)しかしビクスビー夫人は夫より良く物事を心得ていた。
(前の部分の意訳)しかし、ビクスビー夫人はお見通しだった。
(後の部分)凝った服装ははったりなのだ。

④『ビクスビー夫人と大佐のコート』MrsBixby and Colonel’s Coat

原文と市販訳:

‘I’ve got to have this coat!’ she said aloud.
「ぜがひでもこのコートを持っていなければ!」と彼女は思わず大声が出た

背景:

大佐からの別れのプレゼントであるミンクのコートを、良人にどう説明すればよいか夫人は悩む。

ヒント:

loudとaloudは違う

解説:

say aloudは「声に出して言う」。say loudが「大声でいう」

修正訳:

思わず声が出た (または)夫人は思わず口にした

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