[アイディ英文教室連載コラム] 『どこが違っているのかな?!』 第22回『キス・キス』(開高健訳)  仮定法 そのⅡ

2016年12月号

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 10年かけてロアルド・ダールの短編集(The Collected Short Stories)を点検し終わった。一字一句精読し、市販訳(早川書房)と比べてゆくのである。
 このシリーズは開高健、田村隆一などの名手が翻訳しているのだが、若い頃読んでいて読みづらいと思った。やはり誤訳・悪訳がボロボロ。
 でも興味を覚えた。一応の英語使いが間違える箇所なら、一般の英語学習者にとっても苦手な箇所のはずだ。ならばそれを列挙し説明をつけて学習者に裨益しようと、当欄の姉妹コラム「誤訳に学ぶ英文法」(アイディのホームページにあり)で連載してきた。
 このコラムでは、それを作品集別、品詞別に分類し、誰もがつまづきそうな箇所でそう複雑でないものを選んで解説してゆく。辛抱強く読んでゆけば、実力向上疑いなし。パズルを解くように楽しんでいただければ幸いです。

①『ジョージ・ポーギー』George Porgy

原文と市販訳:

One would have thought that with all the careful training my mother had given me as a child, I should have been capable of taking this sort of thing well in my stride; …
子供のころ、母が私に与えた慎重な教育をもってすれば、私がこういったことを始末できるのではないかと、ひとは考えるだろう

背景:

女性恐怖症の青年牧師。何でも教えてくれる偉大な母が少年期に目の前で事故死し、マザコンのまま大人になってしまった。

ヒント:

仮定法過去完了には二つの用法がある。

解説:

would have thoughtは、仮定法過去完了(過去における反実仮想)「(考える機会がもしあったとすれば)思ったことだろう」。should have been capable of takingは、仮定法過去完了で、(1)…すべきであったのに(過去の反実仮想) (2)…したことだろうに(過去の推量)のうち、(2)。

修正訳:

たやすく処理することができたはずだ、と誰でもが思っただろう。

②『ジョージ・ポーギー』George Pogy

原文と市販訳:

Had it been a red-hot iron someone was pushing into my face I wouldn’t have been nearly so petrified, I swear I wouldn’t.
もしそれが、私の顔に押しつけようとしている真赤な熱い鉄だったら、私だって我慢できなくなるはずである。

背景:

うぶな青年牧師が豊満な中年女性に接吻されかかる。

ヒント:

時制に注意。

解説:

仮定法過去(現在の反実仮想)ではなく、仮定法過去完了(過去の反実仮想)。それに譲歩の気持ちも含まれている。「…だったとしても、―だったことだろうに」。

修正訳:

自分の顔に真っ赤に燃えた鉄を押し付けられてきたとしても、あれほど驚愕することはまずなかっただろう、誓ってそう思う。

③『暴君エドワード』Edward the Conqueror

原文と市販訳:

‘You like that’ she asked. ‘You like Vivaldi?’
The moment she’d spoken, she felt ridiculous, but not ― and this to her was a trifle sinister ― not quite so ridiculous as she knew should have felt.
「あんたは好きなの?」と彼女は訊いた。「ヴィヴァルディが好きなの?」
そう言った瞬間、彼女はばかばかしい気になったが、といって…これは彼女にとってちょっといやだったが…自分でもそれは承知していたので、そうばかばかしい気はしなかった。

背景:

迷いネコを家に入れてやり。昼食後夫人がピアノ曲を弾くと、ネコが異常な反応を示す。

ヒント:

どうしたらこんな訳になるのか不思議。

解説:

仮定法が分かっていない。she should have feltは、「本来であれば彼女が感じるべきであった」。knewは、認識して(いた)。not quiteは、部分否定。thisは、直前・直後のことを受け得るが、ここでは直後のこと。

直訳:

そう話したとたん、彼女はばかばかしく感じたが、…そして次のことは自分でもいささか不吉だったのだが…本来だったらそう感じて然るべきだと自分で認識しているほどには ばかばかしくはなかった。

修正訳:

自分でも意外だったが、それほどばかばかしいとは実は感じていなかったのだ。

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