[アイディ英文教室連載コラム] 『どこが違っているのかな?!』 第20回『キス・キス』(開高健訳)  関係代名詞

2016年10月号

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 10年かけてロアルド・ダールの短編集(The Collected Short Stories)を点検し終わった。一字一句精読し、市販訳(早川書房)と比べてゆくのである。
 このシリーズは開高健、田村隆一などの名手が翻訳しているのだが、若い頃読んでいて読みづらいと思った。やはり誤訳・悪訳がボロボロ。
 でも興味を覚えた。一応の英語使いが間違える箇所なら、一般の英語学習者にとっても苦手な箇所のはずだ。ならばそれを列挙し説明をつけて学習者に裨益しようと、当欄の姉妹コラム「誤訳に学ぶ英文法」(アイディのホームページにあり)で連載してきた。
 このコラムでは、それを作品集別、品詞別に分類し、誰もがつまづきそうな箇所でそう複雑でないものを選んで解説してゆく。辛抱強く読んでゆけば、実力向上疑いなし。パズルを解くように楽しんでいただければ幸いです。

①『牧師の楽しみ』Parson’s Pleasure

原文と市販訳:

The idea behind Mr Boggis’ little secret was a simple one, and it had come to him as a result of something that had happened on a certain Sunday afternoon nearly nine years before, while he was driving in the country.
ボギス氏のささやかな秘密の鍵は簡単なものだった。九年ほど前のある日曜日の午後、田舎をドライヴしていたときに、たまたまあったある事件の結果、思いついたのだった。

背景:

骨董商のボギスは牧師に変装して旧家に入り込み、珍品を探そうとする。

ヒント:

「ある事件」とは、このあと出てくるのだが、車のラジエーターがこわれ、水をもらいに立ち寄った旧家で珍品家具をたまたま目にしたこと。

解説:

関係詞thatを除いて文にすると、something had happened(何かが起こった)。「事件」と言うほどのことは含意されない。

修正訳:

たまたまの巡り合わせから

②『ビクスビー夫人と大佐のコート』Mrs Bixby and the Colonel’ Coat

原文と市販訳:

To support these ladies in the manner to which they are accustomed, the men must work like slaves, which is of course precisely what they are. かねがねやりつけているやりかたでこれらのご婦人連を養っていくために、男性どもは奴隷のごとく働かねばならないのだが、むろん正確にいえば、彼らはけっして奴隷ではない

背景:

夫に隠れてビクスビー夫人は渋い中年の紳士と逢引をしている。

ヒント:

市販訳は逆のことを言っている。先行詞は何か。

解説:

ここ先行詞と、whatの中身(the thing which)の指すものが分裂している(こういうことは、ママある)。先行詞は、like slaves。the thing whichにあたるのはslaves。

修正訳:

(直訳)これらの婦人を彼女たちが慣れ親しんでいるやりかたで扶養するために、男たちは奴隷のように働かねばならないのだが、奴隷状態こそ当然彼らがまさにそうであるところのものなのだ。
(意訳)結婚していたときと同じ生活レベルを維持してやるため、男たちは女のために奴隷のように働かねばならない、いや実際男たちは奴隷そのものなのだ。

③『暴君エドワード』Edward the Conqueror

原文と市販訳:

The final proof for her that the animal was listening came at the end, when the music stopped.
ネコが聴いているという決定的な証拠は、曲が終わったとき、やっと訪れた。

背景:

更年期の妻の妄想に悩む初老の夫

ヒント:

市販訳は、関係副詞when以下を、副詞的に名詞句the endに掛けているようだが。

解説:

カンマはwhenが非制限用法であるしるし。at the end =when the music stopped
「最後に、音楽が終ったときに」

修正訳:

曲が終わった丁度その時に訪れた

④『ほしぶどう作戦』The Champion of the World

原文と市販訳:

Poacher’s arse is nothing to the punishment that a female is willing to endure.
密猟者の尻は、女性が嬉々として耐える罰とはくらべものにならないのだ

背景:

成金の所有する森で雉の密猟を企てる若者二人

ヒント:

この前に、女性は宝石をもらうためならどんなことでもしかねない、といった意味のことが述べられている。先行詞the punishmentのtheが、女性に決まって見られる「あの、例の」との強調になっている。

解説:

密猟者の誇り(後ろから撃たれた名誉の負傷の証しである尻の傷)と、女性が貴金属を男からせしめるための(肉体などの)代償とを比べてほしくない、といった皮肉が原文からは窺われる。意訳が必要だろう。

修正訳:

女が宝石を男からせしめるのに払う犠牲などと比べものにならないほど、誇り高いものなのだ。

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