[アイディ英文教室連載コラム] 『どこが違っているのかな?!』 第17回『キス・キス』(開高健訳) 動名詞と不定詞

2016年7月号

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 10年かけてロアルド・ダールの短編集(The Collected Short Stories)を点検し終わった。一字一句精読し、市販訳(早川書房)と比べてゆくのである。
 このシリーズは開高健、田村隆一などの名手が翻訳しているのだが、若い頃読んでいて読みづらいと思った。やはり誤訳・悪訳がボロボロ。
 でも興味を覚えた。一応の英語使いが間違える箇所なら、一般の英語学習者にとっても苦手な箇所のはずだ。ならばそれを列挙し説明をつけて学習者に裨益しようと、当欄の姉妹コラム「誤訳に学ぶ英文法」(アイディのホームページにあり)で連載してきた。
 このコラムでは、それを作品集別、品詞別に分類し、誰もがつまづきそうな箇所でそう複雑でないものを選んで解説してゆく。辛抱強く読んでゆけば、実力向上疑いなし。パズルを解くように楽しんでいただければ幸いです。

①『天国への登り道』 The Way up to Heaven

原文と市販訳:

Arriving at Idlewild, Mrs Foster was interested to observe that there was no car to meet her. It is possible that she might even have been a little amused.
空港に着き、フォスター夫人は迎えの車が来ていないのを見て、どきどきした。いやむしろ、それがうれしい気分だったのかもしれない。

背景:

娘の嫁ぎ先からニューヨークへ戻ったが、出迎えにくるはずの不仲の夫の姿がみえない。

ヒント:

ちょっと訳がズレるのではないか。

解説:

be interested to do(…に興味をもつ)。observe thatは、…ということに気付く。
例1:I’m interested to know more about it.(そのことについてもっと詳しく知りたいと思います) 例2:I was interested to learn the fact.(その事実を知って興味がわいた)。to不定詞が「目的」か「結果」かは文脈による。

修正訳:

来ていないのが分かって、興味がわいた

②『ジョージ・ポーギー』 George Porgy

原文と市販訳:

I remember screaming for help, but I could hardly hear the sound of my own voice above the noise of the wind that was caused by the throat-owner’s breathing.
私は助けを求める悲鳴をいまでも記憶していたが、風の音よりも大きい自分の声のひびきが耳に入ってくるだけだった。

背景:

うぶな青年牧師が中年女性に誘惑され、ついその気になって飲めない酒を飲んだら、あら不思議。自分の身体が空中を浮遊し、その女性の喉に吸い込まれてしまった…。

ヒント:

remember+~ingとremember+to doの違い。

解説:

remember ~ingは「~したことを覚えている」。元訳では誰の悲鳴か分からない。ついでにほかの箇所も。hardlyは、準否定語「ほとんど…ない」。aboveは、優越を示す前置詞(…に勝って)。例:Her voice could be heard above the noise.(彼女の声は騒音の中でも聞き取れた)。

修正訳(全体):

私は助けを求める叫びを上げたのを覚えている。だがその自分の声は、喉の持ち主が呼吸する音にほとんどかき消されてしまっていた。

③『ほしぶどう作戦』 The Champion of the World

原文と市販訳:

‘Nobody ever shoots pheasants, didn’t you know that? You’ve only got to fire a cap-pistol in Hazel’s woods and the keepers’ll be on you.
「雉を鉄砲で撃つやつなんかひとりもいないんだよ、そんなこと知らなかったのか?ヘイズルの森で撃てるのは玩具のピストルだけだ。それに番人が見張ってるじゃねえか

背景:

若者二人が、成金のヘイゼル氏に一泡吹かせようと、氏の森で雉の密猟を企む。

ヒント:

直訳すれば「君はおもちゃのピストルを発砲しさえすればよい。すると番人たちが君の側にいるようになる」

解説:

have only to はイディオムで「…しさえすればよい」。gotは、動きを強調するが、虚字のようなもので特に意味はない(have to=have got to)。andは「そうすれば」。onは、接近を示す前置詞「…の側に」。

修正訳:

おもちゃのピストルでも撃ってみろ、すぐさま番人が飛んでくるぞ。

④『ほしぶどう作戦』 The Champion of the World

原文と市販訳:

He kept his head moving all the time, the eyes sweeping slowly from side to side, searching for danger. I tried doing the same, but soon I began to see a keeper behind every tree, so I gave it up.
しじゅう頭を動かして、視線をゆっくり左右にくばりながな、油断を怠らなかった。私もおんなじことをやってみたが、まもなく、どの木立ちのかげにも番人のいることがわかってきて、途中で諦めてしまった

背景:

密猟を仕掛けるふたり。番人の隙を狙おうとするが、恐怖感からやたらに番人がいるように思えてしまう。

ヒント:

seeは無意志動詞。なんで「わかって」の訳になるのだろう。

解説:

seeは意味範囲が広く「わかる」「理解する」の訳になることもあるが、ここは「(意識せずとも)自然に目に入る」の意味。恐怖感のため、いもしない番人がいるように見えてしまったのである。

修正訳:

どの木のうしろにも番人がいるように見えてきたので、止めた。

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