[アイディ英文教室連載コラム] 『どこが違っているのかな?!』 第16回『キス・キス』(開高健訳)  間投詞(ぽいものも含む)編

2016年6月号

PDFでダウンロード

 10年かけてロアルド・ダールの短編集(The Collected Short Stories)を点検し終わった。一字一句精読し、市販訳(早川書房)と比べてゆくのである。
 このシリーズは開高健、田村隆一などの名手が翻訳しているのだが、若い頃読んでいて読みづらいと思った。やはり誤訳・悪訳がボロボロ。
 でも興味を覚えた。一応の英語使いが間違える箇所なら、一般の英語学習者にとっても苦手な箇所のはずだ。ならばそれを列挙し説明をつけて学習者に裨益しようと、当欄の姉妹コラム「誤訳に学ぶ英文法」(アイディのホームページにあり)で連載してきた。
 このコラムでは、それを作品集別、品詞別に分類し、誰もがつまづきそうな箇所でそう複雑でないものを選んで解説してゆく。辛抱強く読んでゆけば、実力向上疑いなし。パズルを解くように楽しんでいただければ幸いです。

①『女主人』 The Landlady

原文と市販訳:

‘Milk?’ she said. ‘And sugar?’
‘Yes. Please. And then all of a sudden…’
「ミルクは」と彼女の声。「お砂糖は?」
「ええ、どうぞ。あの生徒は、突然いなくなって…」

背景:

下宿屋の女主人が、新たな下宿人の若者に飲み物を勧める。

ヒント:

何とかの一つ覚えで通じますか。

解説:

このpleaseは、相手に何かを勧める「どうぞ」ではない。勧められた相手が返答しているのである。

修正訳:

「お願いします」または「すみません」。

②『ウィリアムとメアリイ』William and Mary

原文と市販訳:

Can one refuse to read a letter from the dead?
Yes.
well …
「死人の手紙を読むのを拒絶していいものかしら?
いいわ。
しょうがない…」

背景:

頑固だった夫の遺書を読もうか読むまいか思案する未亡人。

ヒント:

このあと、今でも夫の幻影に怯えることがあるとの叙述があって、初めて手紙を読もうとする。

解説:

このwellは、ためらい、または思案を示すもの。

修正訳:

「さて…」または「でも…」

③『ウィリアムとメアリイ』William and Mary

原文と市販訳:

You know,’ he went on. ‘it’s extraordinary what sometimes happens … ’
わかってるだろうが」と彼は話をつづけた。「ときによっては、とんでもないことが起こる。…」

背景:

余命いくばくもない友人に、脳の献体を勧める医師。
ヒント:
これも、なんとかの一つ覚えで付けてしまう訳語。

解説:

You knowは、相手に同意を求めたり、念を押したりする、間投詞的なもの。その場合、重い訳語をつけぬこと。

修正訳:

「あのね」または「いいかい」

③『ウィリアムとメアリイ』William and Mary

原文と市販訳:

… , and a few minutes later, I might easily get the feeling that my poor bladder―you know me―was so full that if I didn’t get to emptying it soon it would burst.
それから二、三分たって、私の膀胱が―お前は知っているだろう―いっぱいになりすぎて、もし膀胱をからっぽにしなければ、爆発してしまいそうだといった感じをかんたんに持つかもかもしれない。

背景:

死んだあと脳だけ生かされている自分を想像する主人公の手記。尿意を催す気分になったとしても、自分では如何ともしがたい…

ヒント:

これも重い意味ではない。

解説:

はしたないことに言及するので、緩衝的に入れたあまり意味のない言葉。

修正訳:

「いいかい」または「そうだ」または「うん」

④『天国への登り道』 The Way up to Heaven

原文と市販訳:

Will you write to me?’ she asked.
‘I’ll see, ’ he said. ‘But I doubt it. You know I don’t hold with letter-writing unless there’s something specific to say.’
「お手紙はくださいます?」
そのつもりだが」と彼はいった。「どうかな。なにかよほど重要なことでもないかぎり、わたしが手紙を書かんことぐらい、わかっておるはずだろう」

背景:

外国にいる娘の元を訪ねに行く妻が、留守番する夫に尋ねる。

ヒント:

「そのつもり」では流れが繫がらない。

解説:

I’ll seeは、即答をさける言い方。

修正訳:

「考えておこう」

⑤『ほしぶどう作戦』 The Champion of the World

原文と市販訳:

‘I don’t usually approve of new methods,’ he said. ‘Not on this sort of a job.’
Of course.’
‘But by God, Gordon, I think we’re on to a hot one this time.’
「ふつうなら、おれは新しい方法なんて認めないんだがな」と彼はいう。「ことに、こういう仕事のばあいは認めないんだ」
あたり前じゃないか
「しかしだな、ゴードン、こんどというこんどはすげえ名案だと思うんだ」

背景:

雉の密猟を企てる二人。ものすごい名案を見つけたと意気がる一人とその話を聞くもう一人。

ヒント:

of courseは「もちろん」でいいですか。

解説:

このof courseは、(1)もちろん (2)確かに…だが (3)ああ、そうだった(忘れていたことを示唆されて)、のうち(3)。お愛想で打っている相槌。

修正訳:

「なるほど」

前に戻るコラムトップに戻る
ページトップへ