[アイディ英文教室連載コラム] 『どこが違っているのかな?!』 第14回『キス・キス』(開高健訳) 接続詞編

2016年4月号

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 10年かけてロアルド・ダールの短編集(The Collected Short Stories)を点検し終わった。一字一句精読し、市販訳(早川書房)と比べてゆくのである。
 このシリーズは開高健、田村隆一などの名手が翻訳しているのだが、若い頃読んでいて読みづらいと思った。やはり誤訳・悪訳がボロボロ。
 でも興味を覚えた。一応の英語使いが間違える箇所なら、一般の英語学習者にとっても苦手な箇所のはずだ。ならばそれを列挙し説明をつけて学習者に裨益しようと、当欄の姉妹コラム「誤訳に学ぶ英文法」(アイディのホームページにあり)で連載してきた。
 このコラムでは、それを作品集別、品詞別に分類し、誰もがつまづきそうな箇所でそう複雑でないものを選んで解説してゆく。辛抱強く読んでゆけば、実力向上疑いなし。パズルを解くように楽しんでいただければ幸いです。

①『牧師の楽しみ』Parson’s Pleasureより


原文と市販訳:

It was the comparatively isolated places, the large farmhouses and the rather dilapidated country mansions, that he was looking for; …
比較的に人里離れた地方や、大きな農家、かなり荒れ果てた田舎屋敷といったところこそ彼が求めているものだった。

背景:

信用されるよう牧師に変装した骨董商が、掘り出し物を求めて田舎を巡り歩く。

ヒント:

並列がおかしい。

解説:

1, 2 and 3 の並列。「地方」という抽象的なものと建物のように具体的なものは並列できない。するとこのplaceは、farmhouses、mansionsと同義語の「屋敷」ととるべき。またisolatedは「人里離れた」でなく「孤立した」。comparativelyは「比較的」との訳がつくが、比較の対象がみられぬときは「割と」の感じになる(ここもそう)。またandが列挙終了を意味し、筆者が言いたいのはこの三つだけ。

修正訳:

ぽつんとある邸宅、大きな農家、かなり荒れ果てた田舎屋敷

②『ビクスビー夫人と大佐のコート』Mrs Bixby and the Colonel’s Coat より

原文と市販訳:

As it turned out, however, the aunt was little more than a convenient alibi for Mrs Bixby.
しかし、やがて、伯母さんはビクスビー夫人に都合のいいアリバイだということがわかった

背景:

ボルチモアまで伯母さんの介護に行くと妻は夫に言っていた。

ヒント:

間違いとまでいえないが、力点が異なる。

解説:

時制を現在にずらせて考えるとよく分かる。As it turns out, however, the aunt is little more than a convenient alibai for Mrs Bixby.(しかしながら、判明するように、伯母というのはビクスビー夫人にとってのほとんど都合のよいアリバイなのである)。「アリバイ」が重要なのであって、「わかった」ことが重要なのではない。
例:As it turned out, she was never there.(結局のところ彼女はそこにいなかった)

修正訳:

あとでわかるのだが(…アリバイ)なのであった  または
結局のところ(…アリバイ)なのであった

③『ほしぶどう作戦』The Champion of the World より

原文と市販訳:

As he flashed by, we would sometimes catch a glimpse of the great glistening brewer’s face above the wheel, pink as a ham, all soft and inflamed from drinking too much beer.
その車がさっと走りすぎるとき、ハンドルの上の大きな脂ぎった顔をときたまちらっと見ることがあった。その顔ときたら、ハムのようにあかく、あんまり肉を食べすぎたために、ぶよぶよして、その上、いまにも火を噴きそうだった

背景:

成金のビール醸造業者が自分の店の前を傲然と通り過ぎる。いつかこいつに一泡吹かせてやろうと考える主人公。

ヒント:

何で「火を噴きそう」なのか。誤読と並列の誤り。

解説:

pink as a hamとall soft and inflamed from drinking too much beerがカンマで並列。softとinflamedはandで並列、from 以下はこの二つに掛かると読むのが順当。
直訳は「ハムのように血色よく、あまりに多量のビールを飲むことによりすっかりぶよぶよで赤く腫れていた」

修正訳:

その顔ときたら、ハムのようなピンク色で、ビールの飲みすぎでぶよぶよと腫れていた。

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