[アイディ英文教室連載コラム] 『どこが違っているのかな?!』 第13回『キス・キス』(開高健訳) 冠詞編

2016年3月号

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 10年かけてロアルド・ダールの短編集(The Collected Short Stories)を点検し終わった。一字一句精読し、市販訳(早川書房)と比べてゆくのである。
 このシリーズは開高健、田村隆一などの名手が翻訳しているのだが、若い頃読んでいて読みづらいと思った。やはり誤訳・悪訳がボロボロ。
 でも興味を覚えた。一応の英語使いが間違える箇所なら、一般の英語学習者にとっても苦手な箇所のはずだ。ならばそれを列挙し説明をつけて学習者に裨益しようと、当欄の姉妹コラム「誤訳に学ぶ英文法」(アイディのホームページにあり)で連載してきた。
 このコラムでは、それを作品集別、品詞別に分類し、誰もがつまづきそうな箇所でそう複雑でないものを選んで解説してゆく。辛抱強く読んでゆけば、実力向上疑いなし。パズルを解くように楽しんでいただければ幸いです。

①『女主人』The Landlady より

原文と市販訳

Briskness, he had decided, was the one common characteristic of all successful businessman.
てきぱきした態度こそは、成功した実業家すべてに共通した、ひとつの性格なのだと心に決めていた。

背景:

新任地に着いて張り切る青年社員。何事もキビキビやろうと考えている。

ヒント:

theが斜体になっているのは何故だろう。

解説:

one+名詞は、「ひとつの…」。the one+名詞は、「唯一の」。これ、混同されがちだが、大きな違い。

修正訳:

考えなさいよ⇒思ってみてほしいものだわ

②『ジョージ・ポーギー』Georgy Porgy より

原文と市販訳:

It always ends at precisely the same place, no more and no less, and it always begins in the same peculiarly sudden way, with the screen in darkness, and my mother’s voice somewhere above me, calling my name; …
それはつねに正確におなじところで終り、多くなることも少なくなることもなく、また始まるときはいつも、闇のなかのスクリーンのように妙に唐突で、どこか私の頭上あたりから母の声が私の名前を呼んでいるのだ。

背景:

青年牧師に浮かぶ、母親を突然の交通事故で失うときの記憶。

ヒント:

「闇のなかのスクリーン」では何も見えまいが…。

解説:

inは状態を示す前置詞、darknessは総称用法で「暗闇(であること)」。「闇のなかのスクリーン」なら闇は特定化されるので、the screen in the darkness。the screen in darknessは、「暗闇状態にあるスクリーン」(直訳)。
ここでは取り上げないが、preciselyは強調的にthe same placeに掛かっている。

修正訳:

真っ暗なスクリーン

③『ジョージ・ポーギー』Georgy Porgy より

原文と市販訳:

A Miss Montgomery-Smith came next, a small determined woman who had once tried to make me believe that she had been engaged to a bishop.
次はモントゴメリイ・スミスとかいう雌だった。これは自分が僧正と婚約していることをかつて私に信じこませようとした小柄な頑固女である。

背景:

女性の好色性を立証しようと、青年牧師が、ネズミに旧知の教区の中年女性の名をつけ実験する。

ヒント:

「…とかいう」では、知り合いでなかったようだが…。

解説:

自分みずから、旧知の女性の名前をネズミに名づけたのだ。「…とかいう」ではおかしいだろう。

修正訳:

次はモントゴメリイ・スミスと名づけた雌だった。

④『豚』Pig より

原文と市販訳:

He knew from experience that women like very much to be kissed in this position, with their bodies held tight and their legs dangling in the air, so he went on doing it for quite a long time, and she wiggled her feet, and made loud gulping noises down in her throat.
こういうふうに、お互いが固く抱きあい、両脚をだらんとしてキスするのが、この女性は大好きなのだということを、経験上ようく知っていたから、彼のキスは入念をきわめ、長かった。

背景:

子供の誕生祝にしこたま酒を飲み、路上でじゃれ合う若夫婦。

ヒント:

that womanと読み違ったか。

解説:

womenは可算名詞の総称用法で「女なるもの」(女性というもの)。前のthatはknewの目的語となる名詞節を導く接続詞。

修正訳:

女性は

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