[アイディ英文教室連載コラム] 『どこが違っているのかな?!』 第12回『キス・キス』(開高健訳) 助動詞編

2016年2月号

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 10年かけてロアルド・ダールの短編集(The Collected Short Stories)を点検し終わった。一字一句精読し、市販訳(早川書房)と比べてゆくのである。
 このシリーズは開高健、田村隆一などの名手が翻訳しているのだが、若い頃読んでいて読みづらいと思った。やはり誤訳・悪訳がボロボロ。
 でも興味を覚えた。一応の英語使いが間違える箇所なら、一般の英語学習者にとっても苦手な箇所のはずだ。ならばそれを列挙し説明をつけて学習者に裨益しようと、当欄の姉妹コラム「誤訳に学ぶ英文法」(アイディのホームページにあり)で連載してきた。
 このコラムでは、それを作品集別、品詞別に分類し、誰もがつまづきそうな箇所でそう複雑でないものを選んで解説してゆく。辛抱強く読んでゆけば、実力向上疑いなし。パズルを解くように楽しんでいただければ幸いです。

①『ウィリアムとメアリー』より

原文と市販訳

But really! You would think a widow was entitled to a bit of peace after these years.
でも、まったくだわ!未亡人ならば、いままで送ってきた生活のあとで、ささやかな平和をたのしむ資格があると、あなたは考える

背景:

癌で死んだ夫の遺書に、細かい戒めが列挙されるのを読んで、うんざりした未亡人が発したつぶやき。

ヒント:

中間話法になっているが、直接話法なら? ‘But really! You will think a widow is entitled to a bit of peace after all these years.’ となるところ。

解説:

このwouldは、義務をあらわすwillが、中間話法のためwouldになったもの。reallyは、驚き・失望・不承知などを示す間投詞的な使われ方「まったく、もう!」。butは、発話に勢いをつけるもので、意味はない。
ちなみにwillは大きく分けて次のような役割がある。文脈依拠の場合が多く、またどちらともとれることもある。
(1)確定的未来:I will be twenty tomorrow.(明日、二十歳になります)客観的事実
(2)確信的未来:He will come tomorrow.(彼は明日来ますよ)主観的確信 
(3)意志未来:I will study hard.( これからまじめに勉強しよう) 
(4)義務:You will leave tomorrow.(明日出発しなさい) 
(5)現在の推測:He will be upstairs.(彼は上にいるはずだ) 
(6)現在の習慣:Boys will be boys.(男の子は男の子《やんちゃで当然》) 
(7)能力:This hotel will accommodate five hundred.(このホテルは500人宿泊できる)

修正訳:

考えなさいよ⇒思ってみてほしいものだわ

②『ローヤル・ジェリイ』より

原文と市販訳:

He picked up the magazine that was still lying on his lap and glanced idly down the list of contents to see what it had to offer this week.
彼はひざの上においたままになっている雑誌をとりあげ、今週眼を通しておかねばならないものを探すために、目次をぼんやりと眺めた。

背景:

主人公の若き養蜂家が所在無げに業界雑誌に目を通す。

ヒント:

英語学習初期に習ったせいか、have to「…しなければならない」とパブロフの犬みたいに訳してしまう。いわば助動詞まがいに注意。

解説:

「…おかなければならない」ことを「ぼんやりと」するのはおかしい。ここは、hadとtoの間は区切りがあると考えるべき。whatの中に含まれる先行詞をthe thingと置き換え、it had the thing to offer this week(雑誌は今週提供すべきものを有する)と読む。直訳「雑誌に今週載っているものに目を通すために」。

修正訳:

今週の内容を見ておこうと

③『暴君エドワード』より

原文と市販訳:

No one could possibly be certain about a thing like that.
そういったことを確信をもって言えるひとなんておそらくどこにもいはしない。

背景:

輪廻転生の本を読んで、どうして著者はそう言いきれるのか、訝る女性。

ヒント:

否定が弱いのではないか。

解説:

no=not any。便宜的に書き換えると、Any one could not possibly be certain about like that.
not possiblyは「まず…ない」(柔らかく言っているが「絶対に…ない」の意)

修正訳:

まずどこにも

④『ほしぶどう作戦』より

原文と市販訳:

‘Keep looking!’ Claud shouted, ‘They can’t be far.’
「さがしてみろ!」と、クロードがどなる。
遠くまで行けないんだから

背景:

睡眠薬を飲んだ雉たちが、あちこちにどんどん落ちてくる。二人の密猟者がそれを必死でかき集めようとする。

ヒント:

Theyは雉を指す。

解説:

このcanは能力でなく「論理的可能性」。直訳は「雉たちは遠くに存在し得ない」。

修正訳:

この近くにいるはずだ

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