[アイディ英文教室連載コラム] 『どこが違っているのかな?!』 第11回『キス・キス』(開高健訳) 副詞編 そのU

2016年1月号

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 10年かけてロアルド・ダールの短編集(The Collected Short Stories)を点検し終わった。一字一句精読し、市販訳(早川書房)と比べてゆくのである。
 このシリーズは開高健、田村隆一などの名手が翻訳しているのだが、若い頃読んでいて読みづらいと思った。やはり誤訳・悪訳がボロボロ。
 でも興味を覚えた。一応の英語使いが間違える箇所なら、一般の英語学習者にとっても苦手な箇所のはずだ。ならばそれを列挙し説明をつけて学習者に裨益しようと、当欄の姉妹コラム「誤訳に学ぶ英文法」(アイディのホームページにあり)で連載してきた。
 このコラムでは、それを作品集別、品詞別に分類し、誰もがつまづきそうな箇所でそう複雑でないものを選んで解説してゆく。辛抱強く読んでゆけば、実力向上疑いなし。パズルを解くように楽しんでいただければ幸いです。

@『ジョージ・ポーギー』より

@)原文と市販訳
It always ends at precisely the same place, no more and no less, and it always begins in the same peculiarly sudden way, with the screen in darkness, and my mother’s voice somewhere above me, calling my name; …
それはつねに正確に同じところで終り、多くなることも少なくなることもなく、また始まるときはいつも、闇のなかのスクリーンのように妙に唐突で、どこか私の頭上あたりから母の声が私の名前を呼んでいるのだ。
背景:
ウブな青年牧師が、女性嫌いになった過去を回想する。
ヒント:
「正確に」と読むには前の前置詞atが邪魔だが。
解説:
preciselyは強調的に、the same placeに掛かる。また以前名詞編で指摘したが「闇のなかのスクリーン」は「真っ暗なスクリーン」。
修正訳:
まさに

A)原文と市販訳
We creep back around the cage to keep the baby in view.
私たちは赤ん坊から眼をはなさずに、檻のまわりを這うようにして元の位置にもどった
背景:
ウブな青年牧師の幼児期に起きたウサギ観察にまつわるアクシデント。
ヒント:
自動詞+副詞+前置詞句の形
解説:
「元の位置に」とは書かれていない。creep back aroundは、副詞で大状況を、前置詞句で小状況を示す。creepは(1)這う (2)忍び足で歩く、のうち(2)のほうがよいだろう。忍び足する→後ろにさがって→檻の周りを
修正訳:
私たちは赤ん坊が見えるように、檻を後ずさりしてそっと回り込んだ。

A『誕生と破局』より

His voice was miles away in the distance and he seemed to be shouting at her.
なんマイルも遠くからつたわってくる声だが、そのくせ彼は、女をどなりつけているような気がした。
背景:
ヒトラーの誕生にまつわるエピソード。
ヒント:
milesはただの名詞ですか。
解説:
milesは名詞だが副詞的に働き「遥かに」。awayは「離れて」。in the distanceは「遠くに」。意味の似た言葉を重ねて気分的な遠さを示しているので、実際に遠方から声がしたわけではない。また「彼が自分自身で女をどなりつけている気がした」のでなく「彼が女をどなりつけているように傍からは見えた」と言っている。
修正訳:
彼の声はずっと離れたところにあって、彼女をどやしつけているかのようだった。

B『暴君エドワード』より

And another on the left, at the top of the nose. That one’s there, too! And one just below it on the cheek.
それから、鼻の上の左にもひとつあるわね。それもあるわ!それからほっぺたのすぐ下にひとつ。
背景:
更年期の妻が夫に、迷いネコをリストの生まれ変わりだと言い出す。
ヒント:
oneは、イボのこと。itは「鼻の上の左に新しく見つけたいぼ」。
解説:
「ほっぺたのすぐ下」だと顎のあたりになってしまうが、言っているのは「鼻の上の左に新しくみつけたイボのすぐ下のほっぺたのところにもうひとつのイボがある」ということ。焦点が狭まってゆくのが英語の叙述の特徴。just below it→on the cheek。
修正訳:
その下のほっぺたのところに。

C『ほしぶどう作戦』より

The lane ran right up to the wood itself and then skirted the edge of it for about three hundred yards with only a little hedge between.
小道は森までまっすぐにのびていて、それから森のへりを三百ヤードばかりつづいているが、そこは道の両側に生垣がまばらにあるだけだ
背景:
成金の所有する森へとキジの密猟に向かう若者ふたり。
ヒント:
道の両側でよいですか。onlyの意味は?
解説:
betweenは副詞で「間に」。小道が森のところまでまっすぐに伸び、突き当たったところで300ヤードばかり森の縁を回り込んでいる。onlyは次の名詞句を強調「ごく」。一続きの低い生垣が、森と小道の間を隔てていることになる。
修正訳:
ごく低い生け垣がずっと境目をつくっていた。

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