[アイディ英文教室連載コラム] 『どこが違っているのかな?!』 第5回『キス・キス』(開高健訳) 動詞編

2015年7月号

PDFでダウンロード

 10年かけてロアルド・ダールの短編集(The Collected Short Stories)を点検し終わった。一字一句精読し、市販訳(早川書房版)と比べてゆくのである。

このシリーズは開高健、田村隆一などの名手が翻訳しているのだが、若い頃読んでいて読みづらいと思った。やはり誤訳・悪訳がボロボロ。

でも興味を覚えた。一応の英語使いが間違える箇所なら、一般の英語学習者にとっても苦手な箇所のはずだ。ならばそれを列挙し説明をつけ学習者に裨益しようと、当欄の姉妹コラム「誤訳に学ぶ英文法」(アイディのホームページにあり)で連載してきた。

このコラムでは、それを作品集別、品詞別に分類し、誰もがつまずきそうな箇所でそう複雑でないものを選んで解説してゆく。5作品集×12品詞として計60回。5年かかるだろうが、辛抱強く読んでゆけば、実力向上疑いなし。パズルを解くように楽しんでいただければ幸いです。

@『ウィリアムとメアリー』より

原文と市販訳:

But really! You would think a widow was entitled to a bit of peace after all these years.
でも、まったくだわ!未亡人ならば、いままで送ってきた生活のあとで、ささやかな平和をたのしむ資格があると、あなたは考える

背景:

死んだ夫からの細かい戒めが列挙された遺言状を読んで、うんざりした気持ちになる妻。クオーテーションのない中間話法(叙述の形をとった台詞)になっている。

ヒント:

直接話法なら ‘But really! You will think a widow is entitled to a bit of peace after all these years.’となるところ。

解説:

このwouldは、義務をあらわすwillが、中間話法のためwouldになったもの。このreallyは、驚き・失望・不承知などを示す間投詞的な使われ方「まったく、もう!」。butは、発話に勢いをつけるもので、意味はない。
ちなみにwillは大きく分けて次のような役割りがある。文脈依拠の場合が多く、またどちらともとれそうなこともある。
(1)確定的未来:I will be twenty tomorrow. (明日、二十歳になります)―客観的事実
(2)確信的未来:He will come tomorrow. (彼は明日来ますよ)―主観的確信
(3)意志未来:I will study hard. (これからまじめに勉強しよう)
(4)義務:You will leave tomorrow. (明日出発しなさい)
(5)現在の推測:He will be upstairs. (彼は上にいるはずだ)
(6)現在の習慣:Boys will be boys. (男の子は男の子《やんちゃで当然》)

修正訳:

(資格があることぐらい)「考えなさいよ」⇒「思ってみてほしいものだわ」

A『ローヤル・ジェリイ』より

原文と市販訳:

He picked up the magazine that was still lying on his lap and glanced idly down the list of contents to see what it had to offer this week.
彼はひざの上においたままになっている雑誌をとりあげ、今週眼を通しておかねばならないものを探すために、目次をぼんやりと眺めた。

背景:

若き養蜂家が寛いで業界誌に目を通す。

ヒント:

had toは「…しなければならない」でよいのか。

解説:

「…しておかなければならない」ことを「ぼんやりと」するのはおかしい。ここは、hadとtoの間は区切りがあると考えるべき。itは、雑誌のこと。whatの中に含まれる先行詞をthe thingで置き換え、it had the thing to offer this week(雑誌は今週提供するものを有する)と読む。直訳は「雑誌に今週のっているものに目を通すために」。

修正訳:

今週の内容を見ておこうと

B『誕生と破局』より

原文と市販訳:

‘Every day for months I have gone to the church and begged on my knees that this one will be allowed to live.’
何か月も、毎日、教会に行って、この子に永生きさせてくださいとひざまずいておねがいしたの

背景:

今まで生まれた子は三人ともすぐ死んだ。最後の子に望みを託す母。

ヒント:

日本語がヘンではないか。

解説:

「この子」が、何かを「長生きさせる」わけではあるまい。また「永生き」とはふつう書かない。強いて平叙文にすれば、God will allow this one to live. willは許可・命令。

修正訳:

この子を長生きさせて下さいと

前に戻るコラムトップに戻る
ページトップへ