[アイディ英文教室連載コラム] 『どこが違っているのかな?!』 第4回『キス・キス』(開高健訳) 動詞編 そのU

2015年6月号

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 10年かけてロアルド・ダールの短編集(The Collected Short Stories)を点検し終わった。一字一句精読し、市販訳(早川書房版)と比べてゆくのである。

このシリーズは開高健、田村隆一などの名手が翻訳しているのだが、若い頃読んでいて読みづらいと思った。やはり誤訳・悪訳がボロボロ。

でも興味を覚えた。一応の英語使いが間違える箇所なら、一般の英語学習者にとっても苦手な箇所のはずだ。ならばそれを列挙し説明をつけ学習者に裨益しようと、当欄の姉妹コラム「誤訳に学ぶ英文法」(アイディのホームページにあり)で連載してきた。

このコラムでは、それを作品集別、品詞別に分類し、誰もがつまずきそうな箇所でそう複雑でないものを選んで解説してゆく。5作品集×12品詞として計60回。5年かかるだろうが、辛抱強く読んでゆけば、実力向上疑いなし。パズルを解くように楽しんでいただければ幸いです。

@『ジョージ・ポーギー』より

原文と市販訳:

My flock, you understand, contained an inordinate number of ladies.

ご承知のように、私の会衆には途方もなくたくさんの婦人が含まれていた。

背景:

主人公ジョージは、うぶな青年牧師。教区の女性にからかわれている

ヒント:

そんなおおげさな意味ではない

解説:

you knowなどと同じく、間投詞的に使われている。

修正訳:

実は

A『ジョージ・ポーギー』より

原文と市販訳:

Nothing stimulates them quite so much as a display of modesty or shyness in a man. And they become doubly persistent if underneath it all they happen to detect―and here I have a most difficult confession to make―if they happen to detect, as they did it in me, a little secret gleam of longing shining in the backs of the eyes.

男が遠慮や内気を示すほど女性を刺激するものはない。しかもその裏でたまたま―ここで私はもっとも難しい告白をしなければいけないが―たまたま彼女たちが私にいったように、眼の奥に輝く渇望のひそやかな光を発見しようものなら、そのしつこさは倍になる。

背景:

主人公ジョージはうぶな青年牧師。教区の女性にからかわれている

ヒント:

didを「言う」の意味でとっているようだが・・・

解説:

直訳は「彼女たちが私の中に見て取ったごとく」。このdidは代動詞で、detectの代わり。

修正訳:

彼女たちがズバリ私の内面を見抜いたごとく

B『ジョージ・ポーギー』より

原文と市販訳:

I also sing madrigals in the evenings, but I miss my own harpsichord terribly.

私はまた晩になるとマドリガルを歌うけれど、ハープシコードをひくのがひどく下手だ

背景:

主人公ジョージはうぶな青年牧師。教区の女性にからかわれている

ヒント:

missの意味を誤解している

解説:

このmissは「…がなくてさみしく思う」の意味

修正訳:

ハープシコードがそばにないのがとても残念だ。

C『誕生と破局』より

原文と市販訳:

Also there was a rumor that this was the husband’s third marriage, that one wife had died and that the other had divorced him for unsavoury reasons.

前の細君は、ひとりは死に、もうひとりはつまらないことから離婚してしまったというのである。

背景:

ヒットラー誕生のエピソード

ヒント:

誰が誰とどんな理由で離婚したのか

解説:

divorceは「…と離婚する」(彼を離婚したわけではない)。unsavoury reason(s)は「まともな感じのしない」(unpleasant or morally unacceptable)こと。「訳ありの」「よからぬ理由で」など。

修正訳:

これが三度目の結婚で、前の一人とは死に別れ、もう一人とは訳ありの理由で別れた、との噂があった。

D『暴君エドワード』より

原文と市販訳:

‘Come on, then. Let’s see him perform. Let’s see him tell the difference between his own stuff and someone else’s.’

「それじゃ、やってごらん。あいつの演奏するところを拝見しようじゃないか。自分の作曲したものと、ほかの作曲家のもののちがいをあいつに教えてもらおうじゃないか。」

背景:

更年期の妻が、作曲家の生まれ変わりのネコがいると、夫に言い張る

ヒント:

前がなくて分かりにくいが、ネコが作品によって全く違う反応を示すという妻に対して、では何かの曲をかけてその様子を見ようと提案している箇所。 performは演奏でよいですか。

解説:

このperformは「演奏」でなく、「演奏しているときネコが示す動作」のこと

修正訳:

あいつがどんな動きをするか

E『暴君エドワード』より

原文と市販訳:

‘No,’ he said, without turning round, ‘I’m not having it. Not in this house. It’ll make us both look perfect fools.’

「おれはあいつを飼うつもりはない。この家ではいやだ。あいつにかかると、おれたちは完全なばかに見えてくる

背景:

更年期の妻が、作曲家の生まれ変わりのネコがいると、夫に言い張る

ヒント:

誰にとってみえてくるのか?

解説:

make+目的語+原形不定詞で「Oを…のように見せる」。自分でバカと思うのでもネコにバカにされるわけでもない。直訳:あのネコは我々両人を完全にバカに見えるようにさせてしまうことだろう。

修正訳:

あいつのおかげでおれたちはバカ扱いされるようになる。

F『暴君エドワード』より

原文と市販訳:

… I wish I knew what his favourite dishes used to be. What do you think he would like best, Edward?’
‘Goddamn it, Louisa!’
‘Now, Edward, please. I’m going to handle this my way just for once. You stay here,’ she said, bending down and touching the cat gently with her fingers. ‘I won’t be long.’

・・・彼のお気に入りの料理がどんなものだったかわかればいいのだけれど。なにがいちばん好きだと思う、エドワード?」
「勝手にしろ、ルイザ!」
「まあ、エドワード、よしてよ。こんどだけは、あたしが勝手にお料理するわ。あなたはここにいらっしゃってね」と彼女はいい、身をかがめて、ネコにやさしく指を触れた。「長くかからないわ」

背景:

更年期の妻が、作曲家の生まれ変わりのネコがいる、と夫に言い張る

ヒント:

thisは何をさすのか。名詞句my wayはどこに掛かるのか

解説:

thisは「ネコの好む料理を供すること」。my wayは名詞句だが、副詞的(「私流に」の意)にhandle(「対処する」の意)に掛かる。直訳「今度だけは、私はネコのための料理を自分流に按配するつもりです」

修正訳:

今度ばかりは、好きにやらせてちょうだい。

G『暴君エドワード』より

原文と市販訳:

Louisa went into the kitchen and stood for a moment, wondering what special dish she might prepare. How about a souffle? A nice cheese souffle? Yes, that would be rather special. Of course, Edward didn’t much care for them, but that couldn’t be helped.

ルイザは台所に入っていくと、しばらくその場に立ちつくして、どんな特別料理をあげようかしらと考えた。スフレはどうかしら?おいしいチーズのスフレは?そうだわ、これなら特別料理になる。もちろん、エドワードは料理に口がうるさくないけれど、だからといってなにを食べさせてもいいというものではない

背景:

更年期の妻が、作曲家の生まれ変わりのネコがいる、と夫に言い張る

ヒント:

どこからこんな訳が出るのだろう。themもthatも指すものを恣意的に創造してしまっている

解説:

themは、スフレのいろいろ、のこと。care forは、(否定文で)「好む」。thatは、直前のもの、ここでは前節のEdward didn’t much care for them。can’t be helpedは「どうしようもない」。

修正訳:

もちろん、エダワードはスフレの類は好きでないが、それは仕方がない。

H『豚』より

原文と市販訳:

Never undertip a tax inspector or a policeman,’ Mr Zuckermann said.

税官吏やお巡りに袖の下を使うのと、わけがちがいますぞ」とザッカーマン氏はいった。

背景:

天涯孤独となったレキシントンは、財産の相続にニューヨークの弁護士を訪ねる

ヒント:

neverを分解する。undertipの意味を正しく掴む

解説:

never=not ever。ever=at any time。not 〜 or ―は両者否定。undertipは「チップを惜しむ」こと

修正訳:

課税官と警官には決してチップを惜しまんことです

I『ほしぶどう作戦』より

原文と市販訳:

He kept his head moving all the time, the eyes sweeping slowly from side to side, searching for danger. I tried doing the same, but soon I began to see a keeper behind every tree, so I gave it up.

しじゅう頭を動かして、視線をゆっくり左右にくばりながら、油断を怠らなかった。私もおんなじことをやってみたが、まもなく、どの木立のかげにも番人のいることがわかってきて、途中で諦めてしまった

背景:

キジの密猟に成功する二人。だがやがてキジが眠りから覚め、バタバタと…

ヒント:

このseeは「目に入ってくる」こと

解説:

seeは意味範囲が広く「分かる」「理解する」の訳になることもあるが、ここは「(意識せずとも)自然に目に入る」の意味。恐怖感のため、いもしない番人がいるように見えてしまったのである。

修正訳:

どの木の後ろにも番人がいるように見えてきたので、止めた。

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