[アイディ英文教室連載コラム] 『どこが違っているのかな?!』 第2回 『キス・キス』(開高健訳) 前置詞編

2015年4月号

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10年かけてロアルド・ダールの短編集(The Collected Short Stories)を点検し終わった。一字一句精読し、市販訳(早川書房版)と比べてゆくのである。

このシリーズは開高健、田村隆一などの名手が翻訳しているのだが、若い頃読んでいて読みづらいと思った。やはり誤訳・悪訳がボロボロ。

でも興味を覚えた。一応の英語使いが間違える箇所なら、一般の英語学習者にとっても苦手な箇所のはずだ。ならばそれを列挙し説明をつけ学習者に裨益しようと、当欄の姉妹コラム「誤訳に学ぶ英文法」(アイディのホームページにあり)で連載してきた。

今回からこのコラムでは、それを作品集別、品詞別に分類し、誰もがつまずきそうな箇所でそれほど複雑でないものを選んで解説してゆく。5作品集×12品詞として計60回。5年かかるだろうが、辛抱強く読んでゆけば、実力向上疑いなし。パズルを解くように楽しんでいただければ幸いです。

@「ウィリアムとメアリー」より

原文と市販訳:

… ; and my plan would not involve touching you at all until after you are dead.

きみが死んだあとまで、きみに干渉するといったことは、わしの計画には入っておらん。」

背景:

死後まで脳だけを生かし続ける実験への参加を病人に説得する医師

ヒント:

死んだあとなら何も干渉などできまいが・・・

解説:

「死んだあとまで干渉しない」でなく、「死んでしまうまで干渉しない」→「死ぬまでは一切手をつけない」と言っている。

afterがうるさい感じだが、you are deadだけでは「死んでいる」のか「死んだ」のかがあいまいなので、時間の前後関係をあらわす前置詞afterを前に入れたもの(この場合after以下は名詞句、untilは前置詞ととるのがよいだろう)。例:until after dark(日が暮れてしまうまで)。wouldは仮定法(現在から未来にかけての仮想)で、条件に当る部分が省略されている形。

全文直訳すれば「私の計画は(それがもし実行される場合)、きみが死んでしまうまで、絶対にきみに触れないことを伴うことになるはずだ」。

修正訳(全体)」「君が完全に死んでしまうまで、指一本触れはしないさ」

A「牧師の楽しみ」より

原文と市販訳:

The hawthorn was exploding white and pink and red along the hedges and the primroses were growing underneath in little clumps, and it was beautiful.

山査子は生け垣にそって、白い花、桃色の花、赤い花、が咲き乱れ、桜草は小さな茂みの下で伸びてきて、それがまたなんともいえない。

背景:

牧師の衣装に身を包んだ骨董商が田園風景を眺めやる

ヒント:

生け垣と咲き乱れる花々は別のものか?

解説:

山査子の生け垣なのだから「そって」はおかしい。このalongは(1)…の側を 例:There are trees all along the banks.(両岸に沿って並木がある) (2)…(の中)を(ずっと) 例:sail along the river(川を航行する)、のうち(2)。

修正訳:「生け垣の山査子にはずっと」

ついでに言うと「下に伸びてきて」はunderneath(副詞)、in(前置詞)を共に前置詞ととったためのあやふやな訳(特例を除き、前置詞が重なることはない)。自動詞+副詞+前置詞句+名詞の形は、副詞で大まかな位置、前置詞句以下で具体的な場所・形を示すのが通例。「下の方に」具体的には「小さな塊で」。

修正訳:「小さな茂みとなって、(生け垣の)下に生えてきている」

B「牧師の楽しみ」より

原文と市販訳:

Not many of his Sunday sections had a nice elevation like that to work from.

日曜日に出かけるところで、こんなに見事な眺めの土地はざらにない。

背景:

骨董商は丘の高みから田園を望み、掘り出し物が出そうな旧家を探す

ヒント:

fromの目的語は何か?

解説:

二文に分解してみる。Not many of his Sunday sections had a nice elevation like that. He is to work from the nice elevation. 直訳「彼の日曜の区域の多くが、その場所から作業を始めるべきこのようなよい高度をもっているわけではない」fromは起点を示す。

修正訳(全体)「いつもやる日曜の仕事が、こんなにすばらしい眺めのところから始められることはめったにない」

C「ビクスビー夫人と大佐のコート」より

原文と市販訳:

‘Tally-ho!’ the Colonel would cry each time he met her at the station in the big car.

「タリホウ!」大佐は駅に彼女を出迎えるたびに大型の自動車から叫ぶのだった。

背景:

大佐と呼ばれる地元名士が愛人を駅に迎えにくる

ヒント:

inの多義に注意

解説:

「…から」なら、fromかout ofを使うはずだし、cryと離れた文末には来まい(each timeは接続詞的用法)。このinは、「…に乗って」の意味。交通手段としての乗り物は大まかに言って、立っていられる大きなものならonを、坐ってすっぽり収まるものならinを使う。 大型車に乗って、駅で彼女を迎える、その度に、大佐は「タリホウ!」と叫ぶのを常とした、ということ。

修正訳(全体):「タリホウ!」大佐は大型車を乗りつけ、駅で彼女を出迎えるたび、こう叫ぶのだった。

D「ジョージ・ボーギー」より

原文と市販訳:

She died trying to creep on her berry under the lowest wire, and I must say I thought this a very fair reflection upon the way in which she lived her life.

彼女は、腹を上にしていちばん低い電線の下を通ろうとして死んだ。この死にかたは、彼女が生きた一生の姿をみごとに反映したものだ、と私は思った。

背景:

雌雄の鼠を電線で隔離すると、性欲にかられ一匹の雌が雄のほうに向かった

ヒント:

腹は何と接触しているのか

解説:

前置詞onは、支点を示す。腹の上に体を置いている、腹と地面が触れ合っている、と理解する。例:stand on tiptoe(つま先で立つ)。直訳「腹を支えの起点として(這う)」

修正訳:腹這いで

E「ジョージ・ボーギー」より

原文と市販訳:

I was right inside this enormous mouth, lying on my stomach along the length of the tongue, with my feet somewhere around the back of the throat: …

私はこのばかでかい口のなかに吸い込まれ、胃が長い舌の上に、脚は喉の奥あたりまにあった。

背景:

牧師が女性から逃げようとすると、何故かその女性の口が大きく開き、吸い込まれる。

ヒント:

胃は何と接触しているのか

解説:

lying on my stomch(腹這いになっている)。また、the lengthは「全長」→「端から端まで」。alongは(1)…に沿って (2)…のところをずっと、のうち(2)。

修正訳:舌の上に腹ばいとなり

F「ピッグ」より

Then, holding it by the toe, he flung it hard and straight through the dining-room window on the ground floor.

それから、そいつを爪先にひっかけて、力一杯けりあげ、一階の食堂の窓へぶちあてた。

背景:

自宅から締め出された夫は、窓から中に入ろうとする。

ヒント:

サッカーじゃあるまいし、足先でそいつ(靴)をけりあげるなんてことするか

解説:

hold+物+by+部分「物の部分を掴む」。byは位置を示す前置詞。直訳「靴のつま先部分を掴んで、それを強く投げつけた」。「爪先にひっかけて」としたものだから、苦し紛れに「けりあげる」と続けざるを得なかったのだろう。

修正訳:靴のつま先のところをにぎって力一杯投げつけ

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