2014年10月号

PDFでダウンロード

NHK連続テレビ小説『花子とアン』が終った。このシリーズ、第1回作品は川端康成原作の『たまゆら』だった。ヒロインに抜擢された亀井光代の地味な美しさと、なまりの多い下手くそな老優の印象が残っている。老優は笠智衆。亡くなったときは名優と、どのマスコミもほめそやしたが、映画監督の溝口健二はずっと以前「国なまりをそのまま引きずって演技するだけの役者は使わない」旨のことを言っていた。子供の私もきっと同じ感懐を抱いていたのだろう。味があっていいという意見も勿論あるだろうが。

『花子とアン』では、地味な翻訳家の花子一人では持たないと思ったのか、やたらに「親友」の柳原白蓮を登場させ、「腹心の友」を強調していた。前にも書いたが「腹心の友」という使い方はないと思う。腹心の部下、といったように、自分の意を挺してなにかやってくれる相手のことを言うのが筋だ。このドラマのせいで、「腹心の友」と言った誤用が広まらないことを祈る。

今回は「読者からの質問へのお答え」です。

質問:

いま、The Coldest Winter (David Halberstam)を少しずつ読んでいます。どうも日本語になりにくいフレーズがあります。
To the degree that the Korean War ever had a niche in popular culture, it was through the Robert Altman antiwar movie (and the sitcom) M*A*S*H about a mobile surgical hospital operating during that war.

当該部分は翻訳書「朝鮮戦争」(文芸春秋:山田耕平・山田侑平訳)では、「戦時中の陸軍移動外科病院をあつかったロバート・アルトマン監督の反戦映画『マッシュ』」となっており、To the degree that … がすっぽり訳抜けになっていて参考になりません。to the degree that … をどう理解したらいいでしょうか?私は「朝鮮戦争は少なくとも大衆文化の中にわずかな位置をしめることになったが、それはロバート・アルトマン監督の反戦映画『マッシュ』を通してであった」と解釈したいのですが、それでよいでしょうか。

回答:

@To the degree that the Korean War ever Ahad a niche in Bpopular culture, it was through the Robert Altman antiwar movie (and the Csitcom) DM*A*S*H about a mobile surgical hospital operating during that war. *下線部は柴田によるもの

文例と語義:

@To the degree that I yearn for any food, it is Japanese food.
とにかく何が何でも日本食を食べたい
AIn spite of the increase in the number of women workers, men will continue to have a niche in this line of business.
女性労働者が増加したけれども、この職業では男性がある地位を保ち続けるだろう
Bpopular culture
大衆文化(大衆に愛される音楽・書物・映画など)
Csitcom=situation comedy
連続ホームコメディー、シットコム(sitcom)
《登場人物と場面設定とのからみのおもしろさで笑わせる》
状況喜劇
DMASH
mobile army surgical hospital 陸軍移動外科病院 *本文ではarmyが抜けている?

語釈:

to:限界・程度を示す前置詞⇒to the degree that 〜: 〜という程度(に至る)まで ever:強調を示す副詞⇒とにもかくにも

through:手段を示す前置詞⇒…を通して→…のおかげで(肯定的)、…のせいで(否定的) operating:自動詞operateの現在分詞形の形容詞で前の名詞に掛かる⇒作動する→活躍していた

it:広くは状況を示す代名詞⇒@の場合「自分の心中にあること」→「自分が望むもの」、本文の場合「to以下の句で示される事実」→「この結果を生んだもの」

直訳:

とにもかくにも朝鮮戦争が大衆文化においてある地位を保っている(と言える)程度まで、(現実となっている)状況はあの戦争のあいだ作動していた陸軍移動病院に関するロバート・アルトマン監督の反戦映画(かつ状況喜劇)MASHを通しての[のせいによる]ものであった。

意訳:(前後関係不明なので、ずれるかもしれないが、一応この文の範囲の理解で)

朝鮮戦争当時活動していた陸軍移動病院を描く、ロバート・アルトマン監督作品「マッシュ」は反戦映画でありながら、大衆に親しまれる状況喜劇となり、この戦をある面でよく知られたものにしている。

論評:

質問者の解釈「朝鮮戦争は少なくとも大衆文化の中にわずかな位置をしめることになったが、それはロバート・アルトマン監督の反戦映画『マッシュ』を通してであった」で概ねよいと思います。

市販訳(文芸春秋、山田耕介・山田侑平訳)は「戦時中の陸軍移動外科病院をあつかったロバート・アルトマン監督の反戦映画『マッシュ』」となっていて、たしかにto以下の句の訳がぬけていますね。面倒な箇所は誤魔化すのも翻訳のテクニックの一つ、目くじらを立てるには及ばないでしょう、ただしこの箇所が全体のキーワードになっている場合は別です。

前に戻るコラムトップに戻る
ページトップへ