2014年5月号「アンドとカンマと記号①」

PDFでダウンロード

0 前説

 NHKの朝の連ドラ『花子とアン』にこんなシーンがあった。女学校の授業でともさかりえ扮する英語教師がMy hair is turning grey. That is a long story.に「私の髪は灰色に変わってきました。それは長い物語です」の訳をつける。主人公花子(吉高由里子)は「私は白髪が増えてきました。話せば長いのよ。」としてはいけませんか、と尋ねる。「そんな恣意的な訳は認めません」と教師はたしなめるのだが、これがまさに英文和訳と翻訳の違い。英文和訳の段階では、英語が正しく読めたことにならない。採点しやすい疑似日本語がまかり通るのは、このドラマの明治時代からのことなのですね。精確に読んで、原文と等価の自然な日本語を生むために、今回もしつこくやってゆきましょう。

3回にわたり、アンド、カンマ、句読法、掛かり方、日英語の誤差に関する実際の文例を検討する。
① 列挙


In Mexico, in 1953, a group of enlightened physicians began prescribing minute doses of royal jelly for such things as cerebral neuritis, arthritis, diabetes, autointoxication from tobacco, impotence in men, asthma, croup, and gout.

[解説]
such thing as以下が、1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, and 8の形で並列されている。andは列挙終了のしるし。8つ以外の症例はこの文の筆者の頭にはない。医学文献だから当然。andを省いたら、他にも症例があることを予感させてしまう。
「1953年、メキシコで、進歩的な医者のグループが大脳神経症、関節炎、糖尿病、タバコによる自家中毒、男性の勃起不全、喘息、偽膜性喉頭炎、痛風に微量のローヤルゼリーの投与をはじめた。」

② 比較

How scornful we are when we catch someone out telling a lie; but who can say that he has never told not one, but a hundred?

[解説]
oneが否定されa hundredが肯定される、と考えてはだめ。「一つのウソを言ったことがなく、百のウソはある」のは論理的におかしいだろう。not oneは次のbut a hundredのいわば導入で、「一つどころか百でも」と理解しなければならない。
「我々は誰かがウソをついているのを見破った時、いかに軽蔑することか。だが自分は一つどころか百のウソをついたことがないと、誰が言い得ようか。」

③ 反復

The protective, kindly figure has been replaced by a dangerous and destructive creature.

[解説]
性質・状態を示す形容詞の並列ではカンマがandの代わりをする。dangerous and destructive は、似た意味とdの音を重ね、いわば臨場感を出す対語。
「自分を守ってくれる優しい人物が、ひとに危害を加える獰猛な生き物に成り代わっていたのだ。」

④ 言換え

The best is not good enough for one who has standards, who knows precisely what he wants and insists on getting it.

[解説]
カンマは並列と言い換え両方に使われる。文脈依拠でどちらかに読む。ここはstandardsを持つ人の内容を、カンマ以下で具体的に示している。「すなわち」といった感じ。the bestは最上級の譲歩「どんなによいものといえども」
「自分の価値基準をもつ、つまり何としても手に入れたいものがある人にとっては、どんなにすばらしいものでも充分満足できるとは限らない。」

⑤ リズム

Spaniards are cruel to animals, Italians can do nothing without making a deafening noise, the Chinese are addicted to gambling.

[解説]
三つの節をリズム重視で、andを省いている。Spaniards、Italiansは一般称でtheがないのに、Chinese にthe を付けているは何故だろう。Chineseは単複同形でかつ名詞と形容詞が紛らわしいため。複数の中国人を意味する指標であり、総称と考えないほうがよいだろう。
「スペイン人は動物を虐待する、イタリア人は事あるたびに騒ぎ出す、中国人は賭博に目がない。」

⑥ 並列

A country is as strong really as its citizens and I think that mental and physical health, mental and physical vigor, go hand in hand.

[解説]
reallyは文修飾で強意(実に、本当に)。mental and physical healthとmental and physical vigorは言い換えでなく並列(goesとなっていないことに注目)。後のカンマは主部が終るしるし。
「一国の強靭さはその国民と軌を一にしています。健全な精神と肉体は、活力ある精神と肉体と表裏一体であります。」

前に戻るコラムトップに戻る

ページトップへ