2013年10月号

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前説

訳はきちんとつけられるが、何か喉に詰まったような感じ。そんな原文にときどき出会う。
文法的理解が曖昧だからだろう。そんな気になる例をいくつか拾って、自分で理屈づけてみた。
他の解釈があれば、ご教示ください。

例題


① theの有無による意味の違いは
There were six of us to dinner that night at Mike Schofield's house in London: Mike and his wife and daughter, and my wife and I, and a man called Richard Pratt. [Dahl]
「我々6人」と読むのか「我々のうち6人」と読むのか?

回答:the six of usなら「我々6人」、six of usなら「我々のうち6人」が原則。例:This meat won't suffice for the six of us.(これだけの肉では我々6人には間に合わない) [Genius]
だがここは、初出現を示すthere is(are, was, were)構文の後のため、必然的にthe six of usの意味になる。there is構文の後は、原則として(ほらほら、と思い出させるものなどの他は)theは来ない。

② 時制、どちらが先か
I had been to dinner at Mike's twice before when Richard Platt was there, … [Dahl]
「私は二度、マイク家の晩餐会で、居合わせたリチャード・プラットと会ったことがあるが、…」と読むのか、「私はマイク邸に二度食事に呼ばれたが、その時リチャード・プラットもそこにいた」と読むのか。

回答:二文に分解すると良く分かる。
I had been to dinner at Mike's twice before.
Richard Platt was there at the time.
ということで、正しいのは後者。

③ 過去形による「大過去」の代用はどう説明するか
He had been working for that company for ten years since he was twenty-four, and then decided to become a singer.

回答:since he was twenty-fourは時や条件を示す副詞節中で時制が省略される、と言う規則。上記文例は「英文法がわからない」(研究社)からいただいた。

④ 過去形の強調の過去完了と読みたいが
When the eating was finished and the coffee had been served, Mr Botibol, who had been unusually grave and thoughtful since the rolling started, suddenly stood up and carried his cup of coffee around to Mrs Renshaw's vacant place, next to the purser. [Dahl]
(食事がおわり、コーヒーが出ると、船が揺れだしてからというもの、いつになくむっつりと黙りこくって考えこんでいたボティボル氏が急に立ちあがって、コーヒーを手に持つと事務長のとなりの、レンショウ夫人が坐っていた椅子にまわってきた)[「あなたに似た人」田村隆一訳]

上記のようにすんなりと訳せるが、従属節で過去形と過去完了形が並列し、主節が過去形…何か気になる。

回答:過去完了を過去のかわりに用いて、意外・不安などの感情を表すことや、ある行為がすぐに終了してしまったことを強調することがある。
Before he could shoot I knocked the gun out of his hand, and the next instant had kicked it into the sea.(彼が撃つよりも早く私は彼の手から銃をたたき落として、次の瞬間にそれを海にけ落としてしまった)[英文法詳解]
*コーヒーは食事が終わる前から供されていたともとれる。

⑤ 可算名詞と不可算名詞の並列は自然か
So he was seeking now to become a man of culture, to cultivate a literary and aesthetic taste, to collect paintings, music, books, and all the rest of it. [Dahl]
(u)musicは音楽?楽譜?

回答:musicは不可算名詞なので、文法的にいえば「音楽」か「楽譜」だが、「音楽」では他と並列しない。「楽譜」でもちよっと不自然。本来なら可算名詞だが翻訳の便法で「レコード」ととるのも可だろう。

Man can maintain himself as a population high in the mountains, or in arctic wastes, or in tropical jungles, or in desert desolation. [Maugham]
「人間は高山でも、北極の荒地でも、熱帯のジャングルでも、荒涼たる砂漠でも、そこに住みついて生活してゆくことができるし、…」
直訳では「砂漠的荒涼」となるが、ひっくり返してよいのだろうか。

回答:このdesertは形容詞的にdesolationに掛かっており、直訳すれば「砂漠的荒涼」→「砂漠のような荒涼とした場所」。「荒涼とした砂漠」とするのは、日本語らしさを優先させる翻訳の便法。

⑥ 「彼の側(そば)のテーブル」か「テーブル上の彼の側」か
She put the spectacles down on the table beside him. [Dahl]

回答:前置詞句が二つ続く場合の規則はないが、視点が狭まってゆくことの方が多い。ここも、テーブルの上→彼の側、ととるのが順当。

「首の襟の内側に滴る」のか「襟の内側の首に滴る」のか
Small globules of sweat were oozing out all over his face and forehead, trickling down his neck inside his collar. [Dahl]

回答:これどちらでも意味は変わらないが、「首の下へ滴る」→「襟の内側に」ととるのが順当。

「舌の下でワインを転がす」のか「舌の下にワインを転がす」のか
He held the breath, blew it out through his nose, and finally began to roll the wine around under the tongue, and chewd it, actually chewed it with his teeth as though it were bread. [Dahl]

回答:動きをあらわす動詞+場所の前置詞句は、動きは前置詞句方向になる。ここもそう。
転がす、あたりに(副詞around)→舌の下に。
方向を逆にするには、さらに前置詞を前に置く 例:take a box from under the table(テーブルの下から箱を取り出す)[Genius]

⑦ 文修飾か語修飾か
But whether that gift be present in greater or in lesser degree, the character and ideas of a statesman are best studied through his own words. [百題]

回答:best < well 平叙文ならWe study the character well.となるところ。語修飾でstudiedに掛かる。文修飾で「学ぶのが一番」ととるには、助動詞can, could, may, mightなどが必要。

⑧ 抽象名詞の具象化と読んでよいか
Excess, it seems to me, may justly be praised if we do not praise it to excess. [百題]
「過激な行動は、ほめ過ぎさえしなければ褒められて然るべきであると思う」

回答:文法的には総称「過激なるもの」だが、文脈から発話者の頭に具体的なものが含意されていると読めれば「過激な行動」としても構わない。

⑨ 前置詞の前後を形容詞化、副詞化して読んでいい根拠は
It is a protest against virtues that sail among the shallows of caution and timidity and never venture among the perils of the high seas. [百題]
用心深くびくびくと浅瀬を動き回り、けっして危険な外海に船出しないいわゆる美徳に対する異議申し立てといえる」

回答:the shallows of caution and timidityでは、of+抽象名詞で「性質」を示している。「用心と臆病の性質を有する浅瀬」だが、この形容詞句は転移修辞の一種で(例:poor boy:可哀そうに少年は)、浅瀬を漕ぎまわる人の様子が「用心と臆病」ととる。
the perils of the high seasでは、「外海がもつ危険」だが、日本語の読みやすさを優先させて「危険な外海」とする。

From the clapping has been evolved the whole art of instrumental music, down to the entranching complexities of the modern symphony.[英文解釈教室]
「拍手から器楽芸術の全体が発達して人を恍惚とさせるほどの複雑さを待った現代の交響楽が生まれた」

回答:「現代交響曲のもつ人を恍惚とさせる複雑さ」が直訳。強調の力点が変わるが、これも日本語としての読みやすさを優先させたもの。

Now if we inquire as to the primary cause of the Industrial Revolution which we are about to study, the answer is: science and inventions, and the rapid multiplication of power-driven machines.[英文解釈教室]
科学と発明および動力によって動く機械の急激な増加」⇒「科学が進み発明が生まれたことと、動力駆動の機械が急速に増加したこと」

回答:並列を因果に読み替えた例。「科学」という抽象的なものの具体的な成果として「発明」があるのだから、こう読んでも構わない、というか、こう読んだ方が原文の言わんとするところを正しく伝えることになる。

⑩ aとtheで主格か目的格か自ずと決まるのか
government of the people, by the people, for the people[Lincoln]
回答:他動詞の名詞化なら目的格「…を」、自動詞の名詞化なら主格「…が」となることが多い。また、a+名詞+ofだと「…を」(目的格)、the+名詞+ofだと「…が」(主格)となることが多い。この傾向と文脈で判断する。
He has a love of learning(彼は学ぶことを好む)[Genius]
the invention of America(アメリカが発明したもの)[Genius]
the love of God(神の愛:「神が愛する」「神を愛する」)[Genius]
上から「人民を統治する」govern the people 「学習を好む」love learning 「アメリカが発明する」America invents 「神が愛する」love God 「神を愛する」God loves

⑪ 語順転倒は必ず文末強調か
Down came the rain.

回答:書き言葉では、文頭が「主題、既知情報」文末が「焦点、新情報」が原則。話し言葉では、先に言いたいこと(新情報)が来ることが往往ある。

⑫ 視点が狭まる場合と広がる場合の規則はあるのか
One fine spring morning, a great many years ago, five or six young men met together in a large hall.
遠い昔のある晴れた春の朝、5,6人の若者が大きなホールに集まった」[英文解釈教室] A < B

回答:これは話者の気分の問題でどちらにもなりうる。文例ではAとBは一体感が強い「遠い昔のある晴れた春の朝に」。B, AにするとB/ Aの感じになる「随分昔のことになるが、ある晴れた朝に…」。

High above the city, on a tall column, stood the statue of Happy Prince. [幸福の王子]
(町の空高く、背の高い柱の上に、幸福の王子の像が立っていました) A > B

回答:これはカメラワークがズームインしてゆく感じ。語順を入れ替えたらおかしいだろう。

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