2013年6月号「可算名詞と不可算名詞」

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0 前説

アメリカ合衆国第16代大統領リンカーンの有名なゲティズバーグ演説。
某予備校のモデル授業を見ていたら、講師が
the government of the people by the people for the people
と板書していたのに驚いた。
もちろん原文は
government of the people, by the people, for the people

カンマがないと「[{(人民のための)人民による}人民] との掛かり方になってしまう。
何より、不可算名詞governmentは抽象的な「政治」だが、the governmentとtheを加えることによって可算名詞化され「政府」という意味に転じてしまう。

「不可算名詞の可算名詞化」は、抽象的なものが具体化すること。
「…な物、事、人、状態」のどれかになると覚えておくと便利です。

1 総称用法


「総称用法」とは、当該の種類の全体を括る「…なるもの」といった意味あい。
これには可算名詞の場合と不可算名詞の場合がある。

(1) 可算名詞
 bookだけでは何の意味もない。しいて言えばbookという綴り?bookという音?
 これに帽子(a、the)や靴(-s)がついてはじめて意味がでてくる。
 a bookには二つの顔がある。「ひとつの本」と「本というもの(総称)」。
 the bookにも二つの顔がある。「その本」と「本というもの(総称)。」
 booksには「本というもの(総称)」の意味しかない。
 a bookは、あれもそうだ、これもそうだ、と積み上げていって総称になった感じ。
 the bookは、抽象的に概念を考え、総称になった感じ。
 booksは、広く一般的に使われる総称表現。
 ではthe booksは?これは「お互いに了解されているあれら(the)複数の本」で、総称ではない。
(2) 不可算名詞
 musicは総称で「音楽というもの」
 具体的な音楽にはtheをつける。the music「お互いに了解されている例の音楽」。

例文:
① I never travel without books in peace or in war.
 「戦時でも平時でも本を持たずに旅をしない」
 booksは、可算名詞の総称用法「本というもの」(冊数については言っていない)。
 peace、warは、不可算名詞の総称用法「平和なるもの」「戦争なるもの」(いつの戦争、平和とは言っていない)。
② …I merely wish to break the pace long enough to point out the simple truth life unquestionably teaches anyone who lives into old age; …
 「老いの境地まで生きたものであれば、かならず人生からある明快な真実を学ぶ。…」(市販書の訳文)
 truthは、総称で「真理」、the truthは具体的になり「事実」。
 「真実」は両方に適用可能だが、具体的なものを指す場合、大げさな感じを与えかねない。この例文も「単純な事実」といったところ。
 「ただその歩みをしばし留め、教えたいのだ。老境に達した者であれば誰もが知る単純な事実があることを。…」

2 不可算名詞の可算名詞化


…な人・事・物・状態、といった具体的なものに転化する。

fire ⇒ a fire:火 ⇒ 火事
democracy ⇒ democracies:民主主義 ⇒ 民主主義国家
requirement ⇒ requirements:必要 ⇒ 必需品、必要条件
coffee ⇒ one coffee:コーヒー ⇒ コーヒー一杯
reason ⇒ reasons:理性 ⇒ 理由
government ⇒ the government:政治 ⇒ 政府
alarm ⇒ a n alarm:恐慌 ⇒ 警報

この可算、不可算が論理化されたのは、英語業界でもそう古いことではないらしく、昔の碩学の解説にも混同が見られる。
たとえば、『英文をいかに読むか』(文建書房、朱牟田夏雄)では、suggest alarmを「警報をほのめかす…」とあるが、警報ならan alarmとなるはずで、ここは「恐慌状態を来たしかねない」とでも読むべき箇所。

例文:
government of the people, by the people, for the people
 governmentは不可算名詞で「政治」。ofは目的格。「人民が人民を人民のために治めること」
 の意味だが、語呂の良さを優先させ「人民の人民による人民のための政治」でよいと思う。
② To hold otherwise is to hold that wisdom can be got by combining many ignorances.
 「多くの無知」ではmanyと可算化されている意味が出ない。
 「そうでないというのは、無知な人間を寄せ集めれば智慧が得られるということになってしまう」
③ Beyond the red and violet of the spectrum lies a whole range of light waves to which the senses remain insensible.
 sense「感覚」が、the sensesと複数になっているのに注意。
 「赤と紫のスペクトルの外側に、五感では認識できない広大な光波の世界がある」

3 指標なく不可算名詞が具体化する場合


文法書をいくら紐解いてもこの解説はない。認知言語学からすると、きちんと英文を読んだ上でその言葉から具体的なイメージが広がるなら、そう解釈してよいということだ。
日本語でも「今夜は鍋にしようか」と言って、「鍋から連想される食事」を意味するのに似ている。

excess:過激 ⇒ 過激な行動
genius:天分 ⇒ 天才

例文:
Excess, it seems to me, may justly be praised if we do not praise it to excess.
 「過激な行動は、過度に褒めるのでなければ、褒められて然るべきものだと思う」
② All genius, whether religious or artistic, is a kind of excess.
 文字通りに読めば「天分」。「天才」と本来読ませるにはgeniusesとなってほしいところ。
 あとのexcess「過激」も「過激な人物」と読みたい。
 「あらゆる天才は、それが芸術上であれ宗教上であれ、一種の過激な人物なのである」

4 それ以外


(1) the+形容詞の名詞化
 the good
 「善人」
 the true
 「真実」
(2) 抽象名詞の固有名詞化
 beauty ⇒ Beauty
 語頭の大文字が「美の女神、美の化身」と読む指標となる。
(3) 普通名詞の集合名詞化
 All the village know(s) it.
 村の中身を含意「村人皆がそのことを知っている」。knowにsがつくかつかないかは、構成員を全体で一つとみるか、個別にみるかによる。
(4) 具象名詞の抽象化
 He gave up the sword for the plow.
 そのまま「刀を犂に替えた」でも意味が通ればよし。分かりにくいと思えば「軍を退き帰農した」などとする。

5 演習


①It is a protest against virtues that sail among the shallows of caution and timidity.
 a protest:protest「抗議」が具体的な「抗議の活動」に転化。
 virtures:virtue抽象的な「美徳」が具体的な「美点」に転化。
 shallows:慣用的。-sがついて「浅瀬」。
 「それ(過激な行動)は用心深くびくびくと浅瀬を漕ぎまわるいわゆる美徳に対する抗議なのである」*理解と訳は、ずれることがあります。
② It is hard not to regard circumstances as pure chance.
 circumstances:通例複数で「周辺状況」。
 chance:不可算名詞「偶然」 cf. a chance「機会」chances「可能性」
 「純粋な偶然とみなさないことは難しい」
③ Style cannot be distinguished from matter.
 matter:不可算名詞「内容」 cf. a matter「問題、事柄」
 「文体と内容は区別できない」
④ There is generally some reason to be found in him.
 reason:不可算名詞「理性」 cf. a reason「理由」*ここは文脈から
 「人間には何がしかの理性がみられるのが普通だ」
⑤ In a society of any complexity culture is supplemented by other conduits of transmission.
 society:不可算なら「人間社会」 ここは可算化(a society)されて「地域、仕事、国別、階級」などなんらかの、人間社会の一部を構成する社会が含意される。
 「何らかの複雑性を有する社会であれば、文化は他の伝達経路から伝えられてゆくものなのである」
⑥ He has a value in society.
 a value:普遍的な「価値」valueが、目に見えるもの(実績)に可算名詞化。
 society:不可算名詞で「人間社会」
 「彼が社会で認められるものになる」
⑦ Philosophers are concerned with the true, the good, and the beautiful.
 the+形容詞が抽象名詞に転化。
 「哲学は真・善・美にかかわっている」
⑧ He addressed audiences on his tour.
 audience:集合名詞で「聴衆」だが、-sとなり、いろいろな場所が含意される。
 「彼は旅行先のあちこちで講演した」
⑨ In any event Jelks was a nuisance all evening; and so was Lady Tuton who was constantly called to the phone on newspaper business.
 (誤訳)とにかく、ジェークスは、一晩中ずっと不機嫌だった。そして、タートン卿夫人も、新聞関係の仕事で、しょっちゅう電話に呼びだされるので、不機嫌そうだった
 a nuisance:不可算名詞「わずらわしさ」nuisanceが可算名詞化され「わずらわしい人間」。
 so V S:Sに力点があり「Sもそうです」
 「ともかくジェイクスはその晩ずっと目障りだった。そして、タートン卿夫人もしょっちゅう新聞事業のことで電話に呼び出されるので、私たちをいらいらさせた

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