2012年12月号「to不定詞」

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最近話題を呼んだ、田中真紀子大臣による大学新設申請不許可判断。
マスコミは暴挙だと正論を吐くが、確かに少なくとも一校は「どうしようもない学校」だと、大学行政に詳しい友人の某大学教授は言う。
大宅壮一が揶揄した「駅弁大学」どころか、「お江戸八百八町」並みに大学が増えたのは、世界的な高等学歴志向の必然ともいえようが、文部官僚の組織保存意識も、大いに影響しているはずだ。文部省の役人が新設大学の教授や理事に天下る実情を、マスコミも少しは取り上げてはどうか。
だが私からすれば、「審査を厳しくして不設置にする」ことより「正しい審査がなされずできて然るべきものができない」ことの方が、重大ではないかと思う。
数年前神輿に担がれ、学習塾の(株)栄光の後押しで「翻訳大学院」設置に動いたことがあった。文部省への書類は受理されたものの、そこで設置委員からのさまざまな「意見」がついた。意見は匿名でなされ、翻訳の業界を知らぬ素人のものと思われるコメントに、理不尽なものを感じた。おそらくは学会からの反発だったのだろう。それが嫌になって、申請を取り下げてしまったのだが、これで日本の翻訳学・論・業の発展は20年遅れたと思っている(偉ぶって言っているわけではない。いずれ現場を熟知した誰かがやらねばならぬことなのだ)。翻訳は実務であり商品なのである。修羅場を知らぬ学究中心に審査できる筋合いのものではあるまい。
つぎに似たような企画を出される向きには、翻訳の素人たるいわゆる「学者筋」の受けをよくするプログラムを考えるのが良いだろうが、それで翻訳関連諸学が発展するものかいささか疑問だ。

さて今回のテーマはto不定詞。
1 不定詞、動名詞、分詞構文の違い


①不定詞
(1)名詞的用法「…すること」
He wanted to read the book.
(2)形容詞的用法「…するための」
a house to let
(3)副詞的用法「…するために」
I got up early to catch the train.

②動名詞:動詞+名詞の役割「…すること」
I like getting up early.

③分詞
(1)分詞形容詞:動詞+形容詞の役割
・-ing「…する」「…している」
a man reading in the room
・-ed「…される」「…された」
books read in the room
注意:「…する」か「…している」か、「…される」か「…された」か、さらに状態か動作かは文脈依拠となる。
(2)分詞構文:動詞+副詞の役割
時、理由、条件、譲歩、付帯状況
Left to herself, she began to weep. (残されたとき)
Having much to do, she felt depressed. (あったので)
Turning left, you find the building. (回れば)
Admitting what you say, I still think you are in the wrong. (認めたとしても)
He spent the evening reading a novel. (読みながら)
注意:分詞構文はもともと意味を曖昧にする要素があり、どの用法か決めにくいことがある。

*わかりにくいもの
He came running
SVM「走りながら来た」ととれば分詞構文。SVC「走ってきた」ととれば分詞形容詞。
burning fire
「燃え火」と固有名詞的にとるか、「燃えている火」と性質にとるか。
interesting person
他動詞の現在分詞形の形容詞は「人を…する/させる」
人(他人)を面白がらせるひと→面白いひと
falling leaves
自動詞の現在分詞形の形容詞は「…する/している」、過去分詞形は状態を表す
「落ち葉」(落ちてゆく葉) cf. fallen leaves「落ち葉」(散り敷いた葉)
The record of mankind is the story of men living together and making communities.
「人が共に暮らし社会を作ってゆく物語」と読めば動名詞、「共に暮らし社会を作ってゆく人々の物語」と読めば分詞形容詞。

2 不定詞の用法


①形容詞用法か副詞用法かの見分け方

I have always wondered at the passion many people have to meet the celebrated.
「to meet はpassionを修飾する形容詞的用法の不定詞」との説明が複数の英文指南書にあるが、そうだろうか?

これは副詞用法ととるのがよいと思うが、その理由を以下に述べる。

ここ骨組みの箇所だけ抽出すれば、次のようになる。これで考える。
Many people have the passion to meet the celebrated.

理由 i
「会うための情熱」(形容詞用法:目的)「会うという情熱」(形容詞用法:同格)「会うに足る情熱」(形容詞用法:充足)
いずれも日本語にしてみておかしい。
形容詞用法として「会うことに示す情熱」「逢いたいという強い気持ち」との訳語を与えている指導書もあるが、どこから「…ことに示す」「…たいという」が導かれるのだろうか。
「会うために情熱を持つ」と読みたい。
cf. He got the driver’s license to travel through the U.S.A.
これは「合衆国を横断するために免許をとった」のであって「合衆国を横断するための免許をとった」のではない。

理由 ii
Many people have the passion in order to meet the celebrated.と言い換えられる。

理由 iii
Many people meet the celebrated.と言えるが、The passion meets the celebrated.とは言えない。to meetの意味上の主語は、文の主語のMany peopleである。
cf. We could find a taxi to take us to the station. (形容詞用法:駅まで連れて行ってくれるタクシー:A taxi takes us …)
We took a taxi to get there in time. (副詞用法:時間通り到着するのに:We get there …)

理由 iv
have a passion to doで「…に情熱を持つ」とのイディオムはあるが、このto不定詞は副詞用法「…の点で」の意味。
cf. And if we had to depend on reason and reproductive technology rather than sexual passion to produce the next generation, we’d be in trouble.
(そして我々が次の世代を生み出すのに性欲でなく理性と生殖技術に頼らねばならないとするなら、困ったことになるだろう)

理由 v
「…への熱中」ならpassion for Nの形になるだろう。
cf. He has a passion for fishing (釣りが好きでたまらない)
 Culture is the passion for sweetness and light. (教養は甘美と光明を求める情熱である)

理由 vi
passionは抽象的な「情熱」であって、具体性を伴わない。
cf. intention to be a nurse
これは「情熱」が具体化された「意図」で、to不定詞の示す(beはこの場合変化動詞で「…になる」)方向と共起しやすい「看護婦になろうという意志」

*どちらととっても意味はあまり変わらないこともあり、あまり詮索しすぎないのがよい。

②形容詞用法のいろいろ
・目的・対象「…するための」
Give me something to drink, please.
・義務・必然「…すべき」
I have some letters to write.
・同格「…という」
his decision to go
・充足「…するに足る」
Tokyo is a good place to live.

*「同格」は名詞用法とする文法書もある。「充足」は私の恣意的な分類である。

③副詞用法のいろいろ
・目的・対象「…するために」
He went to the station to meet her.
・原因・理由「…して」「…するとは」
I am glad to see you.
*前に感情の言葉がくることが多い
・結果「(―して)…になる(する)」
I woke to find all this a dream.
*前後の意外性。to不定詞部分は状態動詞が来ることが多い。

④be to do の意味
予定・運命・義務・可能性・意志をあらわす。be to自体でひとつの助動詞の働きをする。
I am to leave next week. (明日行くことになっている、行かねばならない、行くつもりだ、など文脈により訳し分ける)

形は同じだが、SVCになる場合がある(to不定詞は名詞的用法)
My hobby is to collect old coins. (私の趣味は古銭集めです)

3 演習


To see is to believe.
Seeing is believing.
*「百聞は一見に如かず」だが、不定詞は現在から未来、動名詞は過去から現在を示す傾向がある。その違いを訳せば「見れば分かる」と「見ていて分かる」

I hate to say it, but I don’t like your plan.
I hate saying good-bye.
*共に「言いたくないけど…」だが、不定詞は個人的、動名詞は一般的なニュアンス。「(個人的には)言いたくないが、君のプランはよくないと思う」「(誰でもそうだが)さよならを言うのは嫌なものです」

There is always something to be said for remaining ignorant of worst.
*somethingは「何がしか(の分量)」、said forは「是認」。直訳「最悪なことを知らないままでいることを是として言われるべき何がしかのものが常に存在する」→「知らないままでいることが良いというのも一理ある」

Advice is to be taken thankfully.
Nothing was to be seen in the dark.
If you are to succeed, you must work hard.
He was never to see his mother again.
*「忠告は感謝して聞かれるべきだ」義務「暗闇で何も見えなかった」可能「成功するつもりなら、努力しなければ」if節では意図・目的になる「二度と母には会えないのであった」運命

You must be a fool to believe such a thing.
*「そんなことを信じるなんて馬鹿に違いない」

I am sorry to have hit you yesterday.
*「昨日はぶってごめんなさい」

I got her to cut my hair.
I got my hair cut.
*共に「髪を刈らせた、刈ってもらった」だが、toが入るといわば間接的になるため、上は説得が含意される。「(彼女をなだめすかして)髪を刈ってもらった」「髪を刈らせた」

I helped her to wash the dishes.
I helped her wash dishes.
*これもtoが入るので、脇から手伝う感じ。「(汚れた食器を運ぶなどして)彼女の皿洗いを手伝った」「彼女と一緒になって皿を洗った」

It’s hard to study English.
It’s hard studying English.
*「英語の勉強は大変だ」だが、上は、未だやっていない、自分のこととして考えている。下は、いまやっている、一般論で考えている。

A scholar’s life-work is to add his bucketful of water to the great and growing river of knowledge.
*SVCの構文。to addは名詞用法「加えること」
「学者の生涯を貫く仕事は知識という増量する大河に、自分のバケツ一杯の水を加えることなのです」

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