2012年9月号『誤訳の構造』を読む 第21回 No.181〜188

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 時間をかけて、英文読解指導書の白眉である『誤訳の構造』(中原道喜、聖文新社)を点検してゆく。
 実に難しい本で、私も最初自分の出来の悪さを棚に上げ「重箱の隅をほじくるような品のない本だ」と思い、途中で放り投げた。あるとき気になって再読し始めると、これが何ともすばらしい。自分が知らなかったこと、教わらなかったこと、がどんどん出てきて、完読したらそれまで曖昧な理解であったものも、目から鱗が落ちるようにくっきり見えるようになった。
 是非当コラムの読者にも読んでいただきたいが、奥が深く、一人で読み通すには相当な忍耐力がいる。そこで主に、著者が自明として端折っていそうなことで、英語中級者以上に裨益するであろうと思われる事柄を、補足する形で筆を執ってゆく。

 構成は、原文、既存訳(下線部が主な間違い)、柴田の補足、の順。『誤訳の構造』を手元において、読みながら本補足を参照して下さると、学習の効果が一層上がるだろう。

181

“I’ll see you home.”
“You won’t.” She was so fair and good-looking that I almost lost heart, though not enough to stop me answering: “You might drop your purse again.”

「家まで送ってやるよ」
「だめよ」あまり色白の美人なので、ぼくはもう少しで気を失いそうになったが、やっとのことで言った――「また財布を落とすかもしれないからな」

[柴田の補足]
I 単語
see:①送り届ける ②見送る、のうち①
fair:①(広義で)白い、明るい ②(狭義で)白い肌+青い眼+金髪
lose heart:意気消沈する、がっかりする

II 文法
so ~ that:前からも後ろからも訳せる

182

Zee:You begged me, you asked me ……
Robert:In my cups.
Zee:You crossed your heart.
Robert:Well, I’m uncrossing it.

ズィー:「私に向かって哀願したくせに」
ロバート:「酔いのせいだ」
ズィー:「あなたは自分の決心を裏切ったのよ
ロバート:「そうかい。じゃ、もう一度裏切るよ」

[柴田の補足]
I 単語
in one’s cups:酔っているときに、一杯機嫌で
uncross:交差を解く

II 文法
中原の解説ではWell, I’m uncrossing it.を「じゃ、誓い直すよ」としているが、それでは「改めて誓う」の意味になってしまう。ここは「誓いの交差を解く」→「誓いを元に戻す」→「誓いは止めだ」の意味だろう。そのほうが「酔いのせいだ」ともつながる。

183

“He was very disappointed,” I said when I got back upstairs. “He hardly spoke two words.”
Oh the silent type!” she said, making a long face.
“You can imagine what an evening with him would be like! Get your mink on, we’re going to a hop.”

「あのひと、とてもがっかりしていたわよ」二階へ戻って、わたしは言った。「だって、ほんのふたことぐらいしかしゃべらなかったのよ」
まあ、無口なタイプ!」彼女はあごをつき出した
「あんな人とデートしたら、どんな退屈な晩になると思って?あなたいちばんいい服を着なさいよ、踊りに行かない?」

[柴田の補足]
I 単語
on:副詞「身につけて」
hop:ダンス、ダンスパーティー

II 文法
なし

184

The elderly woman sat nervously on the edge of one of the chairs in a drawing-room that looked as if it were furnished from dismal relics of dismal homes, and there was a little straggling attempt at conversation.

女は神経質そうに居間の椅子の一つに浅く腰をかけた。この居間は、陰鬱な家の陰鬱な遺跡から家具を持って来たといった風情だった。会話には些か苦しい努力が必要だった

[柴田の補足]
I 単語
nervously:そわそわ、いらいら
dismal:陰鬱な
relic:残留品
straggle:ばらばらに進む

II 文法
as if:as it would do so ifの省略形「…であればそうなるように」→「あたかも…のように」

185

Every day the stores are filled with women who are apparently in no hurry to return home, since they migrate from one department to another in the most leisurely fashion.

いかにもひまそうにデパートを転々として、家路を急ぐでもない婦人たちが毎日店にあふれている。

[柴田の補足]
I 単語
leisurely:ゆっくりした

II 文法
なし

186

It is the test of great literature that it should be found to have endured.

長く続いたことが認められるのは、偉大なる文学のテストである。

[柴田の補足]
I 単語
なし

II 文法
should:that節の内容について価値判断を示す

187

The boy puts down his coffee mug, approaches him with a beam.

彼はコーヒーカップを置き、ビームを持ったまま近づく。

[柴田の補足]
I 単語
mug:とって付ジョッキ型コップ
beam:晴れやかさ

II 文法
なし

188

Galvin respected the old man greatly. Which explainted Moe's daughter. If he had not taken advantage of Rhonda, a real knockout, it had been only partly a matter of honor.
When it came to sex Galvin had very little honor.

ギャルヴィンはモウを大いに尊敬しており、これがモウの娘とのことの説明になった。 彼はロンダの恋情につけこまなった。完全にはノックアウトしなかった。その理由の中で名誉はごく一部を占めるに過ぎない。 セックスに関して、ギャルヴィンはほとんど名誉心を持ち合わせていなかったのである。

[柴田の補足]
I 単語
なし

II 文法
なし

*『誤訳の構造』を読む、は今回で終了です。次回からは、自分でも曖昧のまま放っておいた文法事項を取り上げるつもりです。

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