2012年7月号『誤訳の構造』を読む 第20回 No.171〜180

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 時間をかけて、英文読解指導書の白眉である『誤訳の構造』(中原道喜、聖文新社)を点検してゆく。
 実に難しい本で、私も最初自分の出来の悪さを棚に上げ「重箱の隅をほじくるような品のない本だ」と思い、途中で放り投げた。あるとき気になって再読し始めると、これが何ともすばらしい。自分が知らなかったこと、教わらなかったこと、がどんどん出てきて、完読したらそれまで曖昧な理解であったものも、目から鱗が落ちるようにくっきり見えるようになった。
 是非当コラムの読者にも読んでいただきたいが、奥が深く、一人で読み通すには相当な忍耐力がいる。そこで主に、著者が自明として端折っていそうなことで、英語中級者以上に裨益するであろうと思われる事柄を、補足する形で筆を執ってゆく。

 構成は、原文、既存訳(下線部が主な間違い)、柴田の補足、の順。『誤訳の構造』を手元において、読みながら本補足を参照して下さると、学習の効果が一層上がるだろう。

171

She had two summer dresses and she washed one every second evening, so that she was always clean and neat and scrubbed looking. She told me that she would be a nun when she grew up.

彼女は夏服を2枚もっていて、二日おきに洗濯するので、いつも清潔で、こざっぱりしたようすをしていた。大人になったら尼さんになるのだ、とわたしに言っていた。

[柴田の補足]
I 単語
scrub:汚れをごしごし洗い落す
nun:修道女

II 文法
なし

172

A booksellers’ convention in Chicago in early June. There were thousands of people surging through the lobby of the Sheraton and every third one seemed to know my face. I was grabbed by the hand, jostled, yoohooed, asked for advice, and solicited to read the budding literary efforts of nephews in Schenectady.

6月上旬、シカゴのある書店の会合。おびただしい人の波がシェラトンのロビーを行き交い、第三者の誰もかもがわたしの顔を知っているようだった。私は手を握られ、押しのけられ、ヤァーと声をかけられ、助言を求められ、スケネクタディにいる甥たちの幼い文学修業の成果を読んでくれとせがまれた。

[柴田の補足]
I 単語
surge:波のように押し寄せる
jostle:押す
solicit:せがむ
efforts:労作

II 文法
a third partyは説明にあるように「第三者」だが、a third partは「三分の一」

173

He was reading at twenty-eight and thirty literature which, when it is read at all, is as a rule read ten years younger because the taste is there and is greedy for satisfaction, ――as a young and vigorous animal for its meals.

彼は58歳で、かりに読まれるにしても10歳も若いころ読まれるような文学を読んでいた。10歳も若いころ読まれる、というのは、その年代の好みがそういうところにあり――若くて活力のある動物が食べ物をどん欲に求めるように――どん欲に満足感を求めるからである

[柴田の補足]
I 単語
be greedy for:…を渇望する

II 文法
at twenty-eight and thirty:at twenty-eight and at thirtyと書き替えられる。
著者の中原は「28歳から30歳の年ごろで」と解説している。

174

During my last year at college there are times when the phone actually goes dead at the other end after I announce who is calling, and the few nice girls who are still willing to take their chances and go out alone with me are, I am told (by the nice girls themselves), considered nearly suicidal.

大学生活最後の年には、かかってきた電話に「どなたですか?」と聞くと、何も言わずにプツンと切れることが何回かある。また、運を天に任せてぼくと二人きりで外出するのをものともしない、少数の話のわかる子は、自殺する気も同然と思われている、と(当の女の子たちから)聞いている。

[柴田の補足]
I 単語
actually:現に
take one’s chances:一か八かやってみる

II 文法
be willing to:消極的賛成をしめす「まあやってもよいかと」

175

She cried, “You’ll cut your nose!”
He lowered the bottle and squinted at her. He said of the wine, “It kind of swings.”
She smiled and said, “You did.” She touched the bridge of his nose and showed him a pink blot of blood on her white finger-tip. “Now,” she said, “when I see you normally, I’ll see the little cut on your nose, and only I will know how you got it.”

「それじゃ、鼻の所けがするわよ!」彼女が大きな声をだした。
彼は瓶を口から離し、彼女を見つめた。「なかなかいかすぜ」と、彼はワインのことをさして言った。
彼女は笑い、「ほら、けがしちゃった」と言った。彼女は彼の鼻梁にそっとふれ、白い指先についた淡いピンクの血の色を見せた。「あなたに会うとき、いつも鼻に小さな傷があるのに気づいていたの。でもこれで、どうしてそんな傷をつけるのか、わたしわかったと彼女は言った。

[柴田の補足]
I 単語
squint:目を細めて見る
kind of:副詞的に「なかなか、けっこう」
swing:律動、調子
bolt:しみ

II 文法
なし

176

His brother had played fullback on the football team, but the brothers had rarely been seen together.

彼の兄はフットボール・チームのフルバックだったのだが、その兄と彼はめったに会っていないようだった。

[柴田の補足]
I 単語
なし

II 文法
なし

177

As long as we can deal with the Negro as something to be manipulated, something to be fled from, or something to be given something to, ……

われわれが黒人を、利用できる存在として、放っておけば逃げ出してしまう存在として、あるいは、何かを与えてやらなければならない存在として扱うことが可能なかぎりは、……

[柴田の補足]
I 単語
manipulate:操る

II 文法
なし

178

I saw a chapel all of gold
That none did dare to enter in,
And many weeping stood without,
Weeping, mourning, worshipping.

だれもが入ろうとしない黄金の
礼拝堂を、わたしは見た。
そして、懺悔に来る多くの人々が、悔いもせず、悲しみもせず
礼拝もせず、立っていた。


[柴田の補足]
I 単語
mourn:悼む

II 文法
all of:強調の副詞「たっぷり」

179

In England the mother will usually leave the infant to amuse itself for most of the time. It is considered bad for its education to give too much attention. “Little children should be seen, and not heard” is a saying often in the mouth of an English mother.

英国では、母親はふつう、大部分の時間、幼児が自分で遊ぶのを放っておくであろう。子どもをかまいすぎるのは、子どもの教育に悪いと考えられている。『親は子供の世話をしなければいけないが、子どもの言いなりになってはいけない』というのは、英国の母親がよく口にすることわざである。

[柴田の補足]
I 単語
see to:引き受ける
be up to:…しようとして

II 文法
なし

180

Nothing succeeds, they say, like success, and certainly nothing fails like failure. I was successful in my work, so I suppose other successes were too much to hope for. My attempts at anything other than my work have always been abortive.

非の打ちどころのない成功などありはしないという、そして完全な挫折などというものもありはしないのだ。わたしは仕事では成功したのだから、そのほかの成功まで望むのは欲ばりだ。仕事以外でわたしがしようとしたことは、いつも挫折してしまった。

[柴田の補足]
I 単語
Nothing succeeds like success.:ことわざ「一事成れば万事成る」
abortive:不成功の

II 文法
なし

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