2012年6月号『誤訳の構造』を読む 第19回 No.161〜170

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 時間をかけて、英文読解指導書の白眉である『誤訳の構造』(中原道喜、聖文新社)を点検してゆく。
 実に難しい本で、私も最初自分の出来の悪さを棚に上げ「重箱の隅をほじくるような品のない本だ」と思い、途中で放り投げた。あるとき気になって再読し始めると、これが何ともすばらしい。自分が知らなかったこと、教わらなかったこと、がどんどん出てきて、完読したらそれまで曖昧な理解であったものも、目から鱗が落ちるようにくっきり見えるようになった。
 是非当コラムの読者にも読んでいただきたいが、奥が深く、一人で読み通すには相当な忍耐力がいる。そこで主に、著者が自明として端折っていそうなことで、英語中級者以上に裨益するであろうと思われる事柄を、補足する形で筆を執ってゆく。

 構成は、原文、既存訳(下線部が主な間違い)、柴田の補足、の順。『誤訳の構造』を手元において、読みながら本補足を参照して下さると、学習の効果が一層上がるだろう。

161

I should like to see children taught that they should not say they like things they don’t like, merely because certain other people say they like them, and how foolish it is to say they believe this or that when they understand nothing about it.

ほかの人たちがそれを好きだといったからというただそれだけの理由で、自分が好きでもないものを好きだなどというべきではないし、また、それを少しもわかっていないのに、あれとかこれとかを信ずるというなどはどんなに馬鹿げたことであるか、といったことを教わった子供たちがあれば、お目にかかりたいものだ。

[柴田の補足]
I 単語
なし

II 文法
how:誤用ではないが、由緒正しい並列になっていない。thatは接続詞(「…ということ」)。howは先行詞を含む関係副詞だが、the way in which「…である事の次第」と置き換えられることから、「thatと並んで接続詞的に使われている」と考えてよいだろう。
例:That’s how long it takes.((それは)そのくらい長くかかるのです)

162

Nor could I see yesterday’s paper. True, he probably bought a paper when he went out and left it on the way to work. I don’t have a paper delivered myself; it’s a kind of family thing to do. But there were no magazines either, and I could guess from the books the magazines he was sure to read.

それに、昨日の新聞がどこにも見当たらない。出勤の途中で買って読み捨てる、ということはもちろん考えられる。わたし自身も新聞の配達を受けていない。そんなことは家庭ですることである。しかし、雑誌類もどこにも見当たらない。本の種類から判断して、まちがいなく雑誌は読んでいるはずである。

[柴田の補足]
I 単語
family thing:「家庭的なもの」

II 文法
true:it is true that 〜 (, but ―) の省略形。独立形容詞とも文修飾副詞とも考えられそうだ。「なるほど…だ」。

163

What the blueprint is to the builder the outline is to the writer. After the house has been completed, one no more expects to see the blueprints lying around than to see an outline printed with an essay. But as long as the house is being built, the plans are most important. And so is the outline of great value to the writer until he has completed his paper.

青写真が建築家に対する関係は、概要が著者に対するようなものだ。家が完成されてしまうと、人に青写真(によるプラン)があたりに横たわっているのを見ることを期待しないのは、概要が議論といっしょに印刷してあるのを見ることを期待しないと同様である。しかし、家が建築ちゅうであるかぎりは、計画は最も重要である。そして同様に著者が作品を完成してしまうまでは、概要は非常に価値がある。

[柴田の補足]
I 単語
なし

II 文法
of great value:of+抽象名詞=形容詞で、greatly valuableの意。

164

So far as history shows, civilization precedes culture but a hard and fast line cannot be drawn to show where one leaves off and the other begins; we may conceive of a nation more civilized than another yet less cultured, and we make a mistake in boasting of our high states of civilization if we are lower than others in culture.

歴史の示す限りでは、文明は文化に先行するが、どこまでが文明で、どこからが文化であるかを示すために、画然たる一線をひくことはできない。われわれは、ある国を文化がまだそれほど進んでいない他の国より文明化していると考えることがある、たとえ文化的に他国より劣っていても自国の文明の高さを自慢するあやまちを犯す。

[柴田の補足]
I 単語
show:証明する
precede:…に先行する。cf. proceed 向かう、赴く
hard and fast:絶対正確な
leave off:止める
boast:誇る

II 文法
in:様態を示すin「…する状態で」例:in this way(こんな風に)

165

We must make sure that those causes which we fought for find recognition at the peace table in facts as well as words…It is the victors who must search their hearts in their glowing hours, and be worthy by their nobility of the immense forces that they wield.

われわれは、そのために戦ったもろもろの大義が、平和な状態において、言葉だけではなく事実においても、すぐそれとわかることを確かめねばならない。…栄光のときにその心をさぐり、その巨大な武力を気高く行使することによって、尊敬に値する者こそ、真の勝利者なのである。

[柴田の補足]
I 単語
table:会議・交渉の席
search one’s heart:心に聞いてみる、反省する

II 文法
recognition:漢語でもそうだが(例:愛顧「可愛がること」「可愛がられること」) 英語の抽象名詞には受動的意味が含まれることがある「認められること」。
it is 〜who:強調構文。この三つの単語を省いても文は成立する。強調されるのはwhoの先行詞。

166

Of course in the olden days people used to deliver them (=letters) and wait for an answer under the casement.

もちろん、昔は手紙を相手に届けて、返事が開き窓の下におかれるのを待ったものなのよ。

[柴田の補足]
I 単語
olden:昔の
casement:開き窓のワク

II 文法
なし

167

The men had stopped having careers and the women had stopped having babies. Liquor and love were left.

男たちは出世をあきらめていたし、女たちはもう子供を生むのをやめていた。酒はあっても愛はなくなっていた。

[柴田の補足]
I 単語
career:出世

II 文法
なし

168

He felt his audience was bored, because they were eating again, so he said, as a punch, ‘I know when we have kids I’m certainly not going to kiss my wife in front of them.’
It was too harsh a thing to say, too bold; he was too excited. His wife said nothing, did not even look up, but her face was tense with an accusatory meekness.
‘No, I don’t mean that,’ he said. ‘It’s all lies, lies, lies, lies. My family was very close.’
She said to the friend softly, ‘Don’t you believe it. He’s been telling the truth.’

彼はきき手が退屈しているなと思った。二人は食べはじめたからだ。それで、パンチを繰出すように言った。「ぼくら子供が生まれたら、子供たちの前で妻にキスする気はまるでないね」
こんなことを言うのはあまりに荒っぽい、大胆すぎることだった。彼の妻は何も言わず、顔さえあげなかったが、その顔には控え目ではあったが、非難をこめた緊張がただよっていた。
「いや、実際にそこまでやる気はないさ」と彼は言った。
「みんな嘘、嘘だよ。ぼくの家族はとってもつよく結ばれているんだからね」
妻は友人にそっと言った。「あなたは信じないの。この人はほんとうのことを言ってるのよ」

[柴田の補足]
I 単語
punch:話などの効果
harsh:どぎつい
accusatory:非難の
meekness:辛抱強さ
mean:…のつもりで言う

II 文法
certainly not:notの前に副詞が来ると全文否定、後に来ると部分否定。ここは「絶対に…ない」。

169

The affectionate son used what little strength he had left to tie the medicine that he had received from the doctor around the dog’s neck, and sent him home with it.

その愛情深い息子は、医者からうけとった薬を犬の首のまわりにくくりつけるのに、少ないながら残しておいたすべての体力を使った。そして薬をもたせて犬を帰したのだった。

[柴田の補足]
I 単語
affectionate:やさしい

II 文法
had left:中原は「残されていた」ととっていて、それで正しいのだが、前後の文脈によっては「残しておいた」ともとれるだろう。

170

Universities should hold up for admiration the intellectual life. The most precious gift they have to offer is to live and work among books or in laboratories and to enable the young to see those rare scholars who have put on one side the world of material success, both in and outside the university, in order to study with single-minded devotion some topic because that above all seems important to them.

大学は知的生活を賛美されるように掲げるべきである。大学の与えなければならない最も貴重な贈りものは、書物や実験室の中で生活し研究することであり、ある問題が何よりも重要と思われるが故にそれを専門に研究するために、学内および学外において、物質的な成功の世界を無視してきたすぐれた学者に若い学生が接する機会を与えてやることである。

[柴田の補足]
I 単語
hold up:掲げる
admiration:称揚の対象
put:身を置く
on one side:傍らに
single-minded:目的がただ一つの

II 文法
should:義務か必然か迷うことがある。ここもどちらにとってもよいだろう。ただし、義務は日本語の「すべき」ほど強い意味ではなく、「…したらどうですか」ぐらいの感じ。

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