2012年2月号『誤訳の構造』を読む 第15回 No.121〜130

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 時間をかけて、英文読解指導書の白眉である『誤訳の構造』(中原道喜、聖文新社)を点検してゆく。
 実に難しい本で、私も最初自分の出来の悪さを棚に上げ「重箱の隅をほじくるような品のない本だ」と思い、途中で放り投げた。あるとき気になって再読し始めると、これが何ともすばらしい。自分が知らなかったこと、教わらなかったこと、がどんどん出てきて、完読したらそれまで曖昧な理解であったものも、目から鱗が落ちるようにくっきり見えるようになった。
 是非当コラムの読者にも読んでいただきたいが、奥が深く、一人で読み通すには相当な忍耐力がいる。そこで主に、著者が自明として端折っていそうなことで、英語中級者以上に裨益するであろうと思われる事柄を、補足する形で筆を執ってゆく。

 構成は、原文、既存訳(下線部が主な間違い)、柴田の補足、の順。『誤訳の構造』を手元において、読みながら本補足を参照して下さると、学習の効果が一層上がるだろう。

121

The greater the threat posed by a test, the less it can measure, far less encourage learning.

 試験による脅迫が強いほど、学力を計るどころか、勉強を奨励することもむずかしくなる。

[柴田の補足]
I 単語
measure:(自)測定する

II 文法
it:test
far less:劣等比較。measure (できにくい) > encourage (もっとできにくい)

122

In the west too it was assumed that marriage was more than a personal affair. The alliance might be made for a variety of reasons, sentiment the least of them, and the parties involved had no cause to complain so long as their partner was suitable in age, rank, health and fortune.

 ヨーロッパでも結婚は個人的な問題以上のことと考えられていた。この組織をつくり上げたのにはいろいろな理由があって、その最低条件は感情だったろうが、両家としては、当人たちの年齢・地位・健康・財産がつりあってさえいれば、それでなんの文句もなかった。

[柴田の補足]
I 単語
affair:問題、事柄
alliance:縁組
a variety of:いろいろな
reason:(c)理由 (u)理性
sentiment:(c)主に複数で「感情」 (u)感傷
party:側
involved:関係させる
cause:理由
so long as:…の限り

II 文法
assume:SVで「ふりをする」「装う」。SVOで①「憶測する」②「責任を引き受ける」③(to be Cで)「…とみなす」。+that節で「(根拠なく)決めてかかる」

123

If you are forced, on careful self-examination, to admit that you do not always show that regard for the feelings of others which you would wish shown to you, why not begin now to try to form a habit of ‘feeling with’ them, and of ‘putting yourself in their place’? There is little to lose by it, except some small selfish pleasure in putting them in the wrong. There is much to be gained―not least, an all-round increase of goodwill.

 綿密に自己を検討したうえで、自分が他人から示してもらいたいと望む敬意を、必ずしも、他人の感情に対しては払っていないことを認めざるを得なくなったら、今からすぐに他人に「同情」し、「他人の立場に身を置く」という習慣をつけ始めねばならない。それによって、失うところはほとんどなく、失うといっても、ただ、人の過ちを認めることによって得られるわずかな利己的な喜びぐらいなものだ。得るところは大きい―善意の最小限の増加ではなく、善意の全般的な増加が得られる。

[柴田の補足]
I 単語
regard:心遣い
feel with:同情する
put O in the wrong:悪いのをOのせいにする
all-around:多方面にわたる

II 文法
that 〜 which ―:このthatは指示性がない。「あの」でなく、次から先行詞がはじまり、そのあと関係詞が来るのを予告する印。theの強調形。

124

He became aware that the world about him was absolutely silent. It was as still as it was dark.

 彼は自分のまわりの世界が、全く静寂であるのに気づいた。暗やみのように静かであった。

[柴田の補足]
I 単語
なし

II 文法
なし

125

The good point was that he was dressed in a week-end way, and not as if he were planning to go anywhere. I liked his clothes, too―better than the suit in which I’d seen him before.

 ありがたかったのは、彼が週末用の衣類を着ていて、外出用の身支度をしていなかったことである。それに、彼の衣類も気に入った―ゆうべ彼が着ていた服より上等である。

[柴田の補足]
I 単語
point:問題点

II 文法
なし

126

According to some of the most distinguished and thoughtful students of the mind, one of the most devastating and damaging things that can happen to anyone is to fail to fulfill his potential. A kind of gnawing emptiness, longing, frustration, and displaced anger takes over when this occurs.

 一部のきわめて著名で思慮深い心理学者の説によると、どんな人の場合にも起こる可能性があるのだが、何よりも心を荒廃させ傷つけることの一つは潜在能力を充分に発揮できないことである。そのような事態になると、一種の心をさいなむ虚脱感、あこがれ、欲求不満、八つ当たり的な怒りなどが強くなる。


The six year old is about the best example that can be found of that type of inquisitiveness that causes irritated adults to exclaim, “Curiosity killed the cat.”

 考えられるところでは、6歳という年頃は、何かというと質問をしては、いらいらした大人を「好奇心は身を誤らせる」と叫ばせる典型のまずは好例といえる。

[柴田の補足]
I 単語
distinguished:すぐれた
thoughtful:思慮に富んだ
student:研究者
devastated:破壊的な
fulfill:実現する
potential:可能性
gnawing:食い入るような
displaced:正当な場所から置き換えられた
take over:広まる
type:類型
inquisitiveness:詮索

II 文法
that 〜 that ― :これも先行詞を予告するthatと、関係詞の組み合わせ。

127

People are liable to confuse leisure with pleasure and pleasure with idleness. They show little discretion in the use of their increasing freedom from work. Often the best use the working man can make of his spare time is to spend his money in it.

 人々は余暇と楽しみ、楽しみと怠惰とを混同しがちである。彼らは増加する余暇の利用にほとんど分別を示さない。しばしば働く人が余暇を利用できる最良の利用法は、それにお金を使うことである。

[柴田の補足]
I 単語
discretion:思慮分別

II 文法
confuse A and B:「AとBを混同する」。confuse A withでも「AとBを混同する」の意 味になるからやっかい。このwithは「…に対する、…のついた」の意。
it:spare time

128

Most children do not like to hear stories about when they were younger. Infancy is not a blessed state to them, but something to be grown out of and escaped from as quickly as possible. To them, their littleness, helplessness, and clumsiness is not cute, but humiliating, and they want to be reminded of it as little as possible. (1)They don’t mind, once in a while, if we don’t overdo it, our telling them that they were very nice when they were little, but that is about as much about it as they want to hear. (2)Whatever mistakes they have made, in their growing and learning, are best forgotten.

 たいていの子供は自分が小さかったころの話を聞きたがらない。幼年時代は子供にとっては喜ばしい状態ではなく、そこからできるだけ早く抜け出してのがれるべきものなのである。自分の小さいこと、無力なこと、不器用なことなどは子供たちにとっては、かわいいことではなくて屈辱的なことなので、そんなことはできるだけ思い出したくないのである。(1)たまには誇張しすぎなければ、子供たちに小さいときはとてもかわいかったよと話しても彼らは気にかけない。しかし、それも子供たちが聞きたいと思う程度までである。(2)成長の過程や物を覚える過程で彼らがおかしたどんな間違いも、とてもうまい具合に彼らは忘れているのである。

[柴田の補足]
I 単語
be grown out of: …から脱皮する
clumsiness:不器用
cute:かわいい
humiliating:屈辱的な
once in a while:ときどき
overdo:やりすぎる

II 文法
なし

129

The wife knows that she is capable, as a woman, of two major experiences: marriage and childbirth. To have had both makes her the equal, in this respect, of any other woman, but to have had only the one may leave her dissatisfied; more so, perhaps, than if she had neither.

 妻は女としてのふたつの大きな体験、すなわち結婚することと出産することができることを知っている。このふたつの経験をしてこそ、かの女はほかの女たちと対等になるのであって、片一方だけでは不満足であり、その両方ともしないのでは大不満足のことだろう。

[柴田の補足]
I 単語
equal:対等物

II 文法
perhaps:ここでは頻度をいうのでなく、「そういう事もありうる」という意味。


130

I should tell you that though you have your freedom to go in and out as you like you have no more chance of getting away from Thonon than if you were chained by the leg in a prison cell.

貴女は出入りも好き勝手にご自由ですが、貴女がトノンから逃げる機会はありません。そんなことをすれば、監房にほうり込まれて、鎖の足枷をはめられるくらいが落ちですよ。

[柴田の補足]
I 単語
cell:独房

II 文法
なし

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