2011年11月号『誤訳の構造』を読む 第12回 No.91〜100

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しばらくお休み(8、9、10月)し、失礼しました。
 時間をかけて、英文読解指導書の白眉である『誤訳の構造』(中原道喜、聖文新社)を点検してゆく。
 実に難しい本で、私も最初自分の出来の悪さを棚に上げ「重箱の隅をほじくるような品のない本だ」と思い、途中で放り投げた。あるとき気になって再読し始めると、これが何ともすばらしい。自分が知らなかったこと、教わらなかったこと、がどんどん出てきて、完読したらそれまで曖昧な理解であったものも、目から鱗が落ちるようにくっきり見えるようになった。
 是非当コラムの読者にも読んでいただきたいが、奥が深く、一人で読み通すには相当な忍耐力がいる。そこで主に、著者が自明として端折っていそうなことで、英語中級者以上に裨益するであろうと思われる事柄を、補足する形で筆を執ってゆく。

 構成は、原文、既存訳(下線部が主な間違い)、柴田の補足、の順。『誤訳の構造』を手元において、読みながら本補足を参照して下さると、学習の効果が一層上がるだろう。



91
“How come you’re late? More memorable orations from the Colleague?” “Yeah. He was in rare stupefying form.
「どうして遅かったの?例の<同僚>の名演説のせい?」「そうなんだ。奴さん、呆然自失の態だったがね


[柴田の補足]

I 単語
more: ますます…な
memorable: 記憶に残る、忘れられない
oration:演説
in: 状態を示す
rare: すごい
stupefying:他動詞の現在分詞形の形容詞は「人を…させる、する」→人を麻痺させる、ぼーっとさせる→あきれるくらいの

II 文法
How come (that) :How did it come about (that)の略。「どうして…になったのか」
Colleague :大文字は固有名詞化のしるし「例の同僚」



92
And do you know why my brother wouldn’t shake his hand? Because he thought the man was a coward. He saw him tackle high when a low tackle would have been punishing.
 そして、兄貴がどうして前年度のキャプテンと握手しなかったか言おうか?そいつが卑劣漢だと思ったからなんだ。低すぎるタックルをすると反則になるというとき、そいつは決して低いタックルをせずに安全な高いタックルしかしなかった。それを兄貴は見たからだ。

[柴田の補足]

I 単語
なし

II 文法
punishing 他動詞の現在分詞形の形容詞「人を懲らしめる」→「うまく相手をやつける」



93
‘That’s the kind of rubbish errand boys read, always assuming they can read. Board-school boys. Not a lad at Blackfriars Grammar.’
 「そんな本は、いつだって自分は字が読めるんだってふりをするつまらん使い走りの小僧たちが読むものさ。寄宿学校の生徒たちや、ブラックフライヤーズ・グラマー・スクールの生徒が読むもんじゃない」

[柴田の補足]

I 単語
the kind:…のようなもの
rubbish: クズの
errand: 使い走り
board-school:公立小学校
lad: 若者
Blackfriars: ドミニコ会の修道士

II 文法
alwaysassumingを強調
assuming (that): 仮に…として

The more original that discovery is, the more credit we shall give the artist, always assuming that he has technical skill sufficient to make his communication clear and effective.
 画家の構想の展開が独創的であればあるほど、われわれはその画家に信頼を寄せるものなのだ。それは、その画家が伝えようとすることをはっきりと効果的にするだけの技術的熟練をその画家が持っている、とわれわれが常に思うからである


[柴田の補足]

I 単語
discovery:芸術の展開

II 文法
the more A, the more B: Aすればするほど、ますますB



94
My career has always been marked by a strange mixture of confidence and cowardice: almost, one might say, made by it. Take, for instance, the first time I tried spending a night with a man in a hotel.
 わたしのこれまでの人生をみると、いつでも、へんに自信と臆病心が裏表になっていたことがわかる。それだけがわたしの人生だったとさえ言えるのだ。たとえば、はじめて男とホテルに泊まってみようとしたときがそうだ。

[柴田の補足]

I 単語
mark: 記録する→特徴づける、目だたせる

II 文法
なし



95
“I’ve not been happy. What is happiness? Moments! Just moments! All I’ve really liked about my own life has been going to sleep in the sun, afternoons in the summer.”
 「ぼくは幸福ではなかった。いったい幸福とは何かね。瞬間のことだ。ほんの瞬間のことだ。ぼくが自分の人生についてほんとうに夢に描いていたことは、夏の昼下がり、陽向で眠りこけてしまったんだ

[柴田の補足]

I 単語
in the sun: 日向で

II 文法
moments moment(c)「瞬間」の堆積という意味で複数になっているのだろう(総称的)。ある長さを持ったひと時。



96
There is always something to be said for remaining ignorant of the worst. I have never told a cancer patient yet that there is no hope any longer.
 最悪の事態を知らないままでいるにはつねになにか別のことをしゃべっていなければならない。おれも癌患者にもう希望はないと言ったことはなかった。

[柴田の補足]

I 単語
something : 「なにがしかのもの」→「何か重要性あるもの」→「一理」

II 文法
something to be said for:「…に関し言われるべき何か(がある)」→「…に(も)一理(ある)」
例:
There is something to it. それには一理ある
say something for O:…の言い訳をする
 従って本書で示されている解釈のように「最悪の事態を知らないでいるということは常に望ましい」ではなく、「ことを是として言われるべき何がしかが常にある」→「ことにも常に一理あるものだ」と原文はいっている (
always は「望ましい」ではなく「(何がしかのものが)ある」に掛かる) 。



97
A woman who has had the good fortune or the misfortune to live with a true artist cannot
forgive me the expressiongo to bed with a simple man. Once an artist possesses a woman, she remains his captive forever.
 真の芸術家と一緒に暮して幸福や不幸を味わい尽くした女は、露骨な言い方だけど、普通 の男とはベッドに入れないわ。芸術家の手にかかった女は、永遠にその囚人になるのよ。

[柴田の補足]

I 単語
go to bed with性交する
a simple manありふれた男
once接続詞「いったん…すると」
captive捕虜

II 文法
なし



98
Pearson was sixty-six now; at best he had another five or six years of active work ahead of him. Some people reconciled themselves to change like that, to younger men moving into prominence and taking over leadership. Pearson had not, though, and he made his resentment plain … And yet Joe Pearson, for all his disagreeable ways, had a lot to commend him.
 ピアスンは今66歳だった。この仕事を続けられるのはせいぜいあと5、6年だろう。ある人々はそういった変化を受け入れて、後進に道を譲り渡していた。しかしピアスンはそれを拒み、恨みつらみを隠そうとしない。…しかしジョー・ピアスンには、人を人とも思わぬその態度にもかかわらず、大勢の支持者がいた

[柴田の補足]

I 単語
another:これまでの年月に対し「新たな」
move into:…に進む
prominence:重要、卓越
take over:引き継ぐ
though:=butnevertheless
resentment:憤慨
plain:率直に
for all:にもかかわらず
disagreeable:つきあいにくい
a lot:たくさん
commend:褒める

II 文法
reconcile oneself to N1:…で甘んじる(N1=change like that)
change to N2: N2へのシフト(younger men moving into 〜) 「そんなふうに若い世代への交代に甘んじる」



99
That she had deeply hurt her husband she tried not to remember. Memory was something for which she had little use. But she was too conventional a person not to feel painfully guilty and embarrassed at her situation. She struggled to recapture her gaiety.
 自分が夫をひどく傷つけたということは、思い出さないようにしている。彼女にとって、記憶というのは、役に立たないものなのだ。それに彼女はすこぶるありふれた女なので、こういう立場に置かれても、痛切に罪悪感を感じたり、当惑したりすることはなかった彼女は昔の陽気さを取り戻そうとした。

[柴田の補足]

I 単語
conventional:伝統的な
painfully:苦しんで
guilty:罪の自覚のある
embarrassed:バツの悪い思いをする
recapture:取り戻す

II 文法
なし



100
You are living in an age when ugliness seems to be steadily increasing, when people seem to be more and more content to have ugly things all around them. This makes it all the more necessary that you should aim at knowing and loving beauty wherever it is yet to be found.
 今は、醜悪なものが着々と増えていっているように思われ、人が自分の周囲に醜悪なものを集めてますます満足しているように思われる時代である。このために、美がまだ発見されていないところではどこでも、美を知りこれを愛することを目指すことが、いっそう必要になるのである。

[柴田の補足]

I 単語
content to do: …することに甘んじる

II 文法
This make itit that 以下を指す、仮目的語と真目的語の関係。
all the more
all は強調の副詞、the は副詞で「その分」(前文の have ugly things all around them を指す)、more は やはり have ugly things all around them と比べて「一層」。→「その分だけ一層」

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