2011年7月号 『誤訳の構造』を読む 第11回 No.81〜90

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2011年7月号
『誤訳の構造』を読む 第11回 No.81 〜 90
 時間をかけて、英文読解指導書の白眉である『誤訳の構造』(中原道喜、聖文新社)を点検してゆく。
 実に難しい本で、私も最初自分の出来の悪さを棚に上げ「重箱の隅をほじくるような品のない本だ」と思い、途中で放り投げた。あるとき気になって再読し始めると、これが何ともすばらしい。自分が知らなかったこと、教わらなかったこと、がどんどん出てきて、完読したらそれまで曖昧な理解であったものも、目から鱗が落ちるようにくっきり見えるようになった。
 是非当コラムの読者にも読んでいただきたいが、奥が深く、一人で読み通すには相当な忍耐力がいる。そこで主に、著者が自明として端折っていそうなことで、英語中級者以上に裨益するであろうと思われる事柄を、補足する形で筆を執ってゆく。

 構成は、原文、既存訳(下線部が主な間違い)、柴田の補足、の順。『誤訳の構造』を手元において、読みながら本補足を参照して下さると、学習の効果が一層上がるだろう。



81
I would like to restore it and build a spiral staircase and a lofty study room, only contrary to what is commonly believed about me I am not rich. My sea-house took most of my savings.
 ぜひ塔を修復し、螺旋階段をとりつけ、見晴らしのよい書斎を作って、私を金持ちでないと思いこんでいる世間の裏をかいてやりたい。海に臨むこの屋敷に貯えの大方をはたいてしまったのだ。


[柴田の補足]

I 単語
only: 接続詞「しかし」
most of: 大部分
savings: (複)預金

II 文法
無し



82
But I cannot get out and say, Where do you live, give me your number, ring me, can I ring you? In case I am not wanted. In case I am tedious.
 しかし、わたしは思い切って、どこに住んでらっしゃるの?電話番号を教えて、電話をかけて、お電話してもいい?誰も来てくれないときに、わたしが退屈しているときに、とは言えないのだ。


[柴田の補足]

I 単語
get out: (自動詞)(なんとか)述べる

II 文法
Where の大文字:中間話法的処理のしるし




83
The fact that I have written this narrative tells well enough that, unlike Doctor Fisher, I never found the courage necessary to kill myself. ... Courage is sapped by day-to-day mind-dulling routine, and despair deepens so much every day one lives, that death seems in the end to lose its point.
 以上述べてきた事実からでもお判りだろうが、わたしはドクター・フィッシャーのような方法で自殺するだけの勇気を欠いていた。…自殺への渇望は徐々に弱まっていき、毎日の生活が絶望感を心の奥に押し込め、死も最後にはその意味を失うようになった。

[柴田の補足]

I 単語
narrative: 物語、語り口
find: 手に入れる、奮い起こす
sap: 弱める
in the end: ついに、とうとう
point: 目的、意味

II 文法
every day one livesevery day は名詞、one lives との間に関係副詞の働きをする that が省略。全体は副詞的に本文に掛かると読む。



84
Secretly it was a relief his son-in-law was to be “on trial” in this way—if only it could have been in a bed other than that one. ...He had agreed to accept his son-in-law once again into house, if only for a while.
 内心、気が安まるのは、義理の息子が「験される身」
この部屋のベッドを使わずに験されるだけであってもとなることだった。…彼は義理の息子をほんの一時だけにもせよ、もう一度わが家に迎え入れることに同意したのだった。

[柴田の補足]

I 単語
secretly: 内密に、内緒で
on trial: 試験中で

II 文法
into house:「家」が抽象化され the がとれ「家庭」の意味につかわれている。



85
The case for a voluntary as opposed to a compulsory count is hardly a fresh one.
 強制的集計(即ち登録)に反対して自発的登録を弁護する主張は殆んど新しいものとは言えない。

[柴田の補足]

I 単語
case: 弁論、主張
as opposed to:…と対立するものとしての、…と対照的に、の二義あり。ここでは後者
compulsory: 義務的な、強制的な

II 文法
無し



86
“What did you make of her?”
“Not much. I found her a bit intimidating. Rather solemn.”

 「彼女をどう思いました?」
 「そうだな、何だかおどおどしている感じだね。それに少しかたくるしいね」

[柴田の補足]

I 単語
make A of B: BをAとみなす
not much:それほど。much は、形容詞で「たいした」
intimidating:他人を威嚇する

II 文法
rather:しいて言えば、意外なことに、といったニュアンスがある。それで前後関係で「かなり」「わりと」「むしろ」と幅のある訳ができる。



87
Vaguely pissed, I drift away into my study and sit down to look at the galleys.
 ぼんやりとおしっこをして、わたしは書斎に引きこもると机に向かってゲラ刷を見つめる。

[柴田の補足]

I 単語
pissed:うんざりして
drift:あてどもなくゆっくり移動する
galley:ゲラ

II 文法
無し



88
Fanny, wearing her blue shades, had noticed nothing and chattered amiably. The porter pushed with the bags. He was still shaken though he had for the most part recovered his calm when they entered the courtyard of the Hotel Contessa.
 青いサングラスを掛けているファニーは何も気がつかず、かわいい声でべちゃくちゃしゃべっていた。ポーターは先に立って、積み重ねたバッグを押して行く。ホテル・コンテッサの中庭まで来たときには彼もほぼ落着きを取りもどしていたが、震えはまだとまらなかった。

[柴田の補足]

I 単語
amiably: 愛想よく
shaken: 狼狽させる、動揺させる

II 文法
push with the bagspush は自動詞「押し進む」with は付帯状況「…を携えて」だが、手に持っていたのかカートなどに乗せていたのかは不明。



89
I was only sixteen at the time and I was terribly thrilled.
 「その頃、わたしはまだ16だったけど、ほんとうにこわくてね。

[柴田の補足]

I 単語
thrill: 他動詞で「ぞくぞくさせる」ここはそれの過去分詞形の形容詞「わくわくして」。自動詞で「ぞっとする」

II 文法
無し



90
I met a rather maddening woman called Mrs Barlow at the Oxfam office and she told me about it. I suspect she fancies herself as the power behind that particular throne. She seemed quite possessive about the place.
 オックスファムの事務所で、バーロウ夫人とかいう、ちょっと偏執的なところのある婦人に会ったら、わたしにむかってそんなこと言ってたわ。彼女はどうやら自分で、あの玉座の影の支配者を自負しているみたい。あそこを自分の持ち物ぐらいに思ってるらしいの。

[柴田の補足]

I 単語
madding: 他人を発狂させる
suspect: (悪いことで)…であるとひそかに思う
fancy:…だと思いこむ
particular:特にこの
throne:王座
possessive of: 独占したがって

II 文法
doubt if:…であるかどうか疑う
doubt that:…でないと思う

 

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