2011年6月号『誤訳の構造』を読む 第10回 No.71〜80

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2011年6月号
『誤訳の構造』を読む 第10回 No.71 〜 80
 時間をかけて、英文読解指導書の白眉である『誤訳の構造』(中原道喜、聖文新社)を点検してゆく。
 実に難しい本で、私も最初自分の出来の悪さを棚に上げ「重箱の隅をほじくるような品のない本だ」と思い、途中で放り投げた。あるとき気になって再読し始めると、これが何ともすばらしい。自分が知らなかったこと、教わらなかったこと、がどんどん出てきて、完読したらそれまで曖昧な理解であったものも、目から鱗が落ちるようにくっきり見えるようになった。
 是非当コラムの読者にも読んでいただきたいが、奥が深く、一人で読み通すには相当な忍耐力がいる。そこで主に、著者が自明として端折っていそうなことで、英語中級者以上に裨益するであろうと思われる事柄を、補足する形で筆を執ってゆく。

 構成は、原文、既存訳(下線部が主な間違い)、中原の解説、柴田の補足、の順。本稿だけでも意味が通るようにするつもりだが、『誤訳の構造』を手元において、読みながら本補足を参照して下さると、学習の効果が一層上がるだろう。

(凡例)
下線:中原が訳に問題ありとした箇所 
:正しい訳(中原の訳に少し手を加えた部分もある)
「先行詞」:先行詞 
[カッコ] {カッコ} (カッコ):修飾語句、対立語句などの塊り(大、中、小の順)
斜体:連語
/ :区切り
××:主要語(SVOCなど、文の要素)



71
She pointed to the landscape and said, ‘Isn’t that beautiful out there!’ I looked out, and she was right. ...
And he, too, directed my attention to landscapes.

 彼女は窓外の風景を指さして、「あそこ、きれいじゃない!」といった。外に目をやると、彼女のいうとおりだった。…さらに彼は、さまざまの風景にわたしの注意を向けてくれた


[柴田の補足]

I 単語
point to: (自動詞)指す+to(方向)=他動詞化「…を指す」 cf. (他動詞)「…を向ける」
look out: 「外を見る」
direct: 「注意を向ける」

II 文法
out there:
副詞A(大まかな位置を示す)+副詞B(場所を示す)で、場面が狭まる A<B「外のあちらを」



72
As is well known, the younger the pupil is when he starts to learn a language, the easier the task is for him: he has a greater ability to pick up a language, to acquire it simply by hearing and seeing it used in a normal way.
 よく知られているように、外国語を習いはじめる時、生徒の年齢が若ければ若いほど、学習は生徒にとってやさしくなる。生徒には、言語を自然に覚える能力、つまり言語がふつうに用いられるのを見たり聞いたりすることによって簡単にそれを習得する能力がずっと大きいのだ。


[柴田の補足]

I 単語
task:骨の折れる仕事
pick up:理解する

II 文法
As is well known,:
「よく知られているように」。この
as は関係代名詞で、先行詞は、次にくる本文全体。
a greater ability: ability は本来抽象名詞「能力」だが、ここでは具体的な逐一の能力を意味し可算名詞化されている。




73
These character traits do not simply arise from (or reflect) outside pressures on people.
 右に述べたような性格特性は、人間に加えられる外圧を原因とし(あるいはその反映とし)て簡単に生まれたりはしない。

[柴田の補足]

I 単語
無し

II 文法
arise from (or reflect ) outside pressures:
解説にあるように「外部の圧力から生じる(か、外部の圧力を 反映する)のではない」でよいが、
do not simply arise from or reflect outside pressures on people
とカッコがなければ両方否定(「外圧から生じるのでも外圧を反映するのでもない」)



74
It wasn’t that Helga and I were crazy about Nazis. I can’t say, on the other hand, that we hated them ... They were people.
Only in retrospect can I think of them as trailing slime behind.
 ヘルガやわたしはナチに心酔しているわけではなかった。われわれが彼らを嫌っていたとは言えないだろう。…彼らは人々だった。
 回想してみても、彼らのことはなにかの動いたあとに残るネバネバといったものにしか思えない。

[柴田の補足]

I 単語
crazy about: …に夢中になって
on the other hand: これに反し
people: 世間一般にいる人々
retrospect: 回想
trailing slime: trail は自動詞(這う、伸びる)他動詞(つけてゆく)あるが、ここは自動詞の現在分詞形の形容詞。slime はヘドロ、転じて人間のクズ。「(悪水などを)滴らせるヘドロ」

II 文法
behind: 副詞で前の名詞 trailing slime を限定する「後ろに伸びてゆく(ヘドロ)」
cf.
car behind 後ろの車
it is not that ....: だからと言って…というわけでもない。I would not say that ...の略形



75
When she disembarked from the plane she was feeling no better. She had not arranged for any one to meet her and she took a taxi to her apartment. In the late afternoon, the telephone rang. ...
She was asleep five minutes after she had replaced the receiver.
 飛行機をおりたときも気分はすこしもよくなっていなかった。彼女は誰にも出迎えをたのんでいなかったので、タクシーでアパートへ帰った。
 夕方ちかくになって電話がかかってきた。…
 彼女は電話を切ってから、5分間眠った。

[柴田の補足]

I 単語
arrange:「取り決める」「手配する」
meet: ここでは「出迎える」

II 文法
take A to B:
Bまで Aに乗った。移動を表す動詞(ここでは
take)とともに to がBまでの継続を表す



76
City life, as we know it, is at present unnatural and becomes increasingly so in modern conditions.
 周知のとおり、都会生活は現在では不自然であり、現在の状態ではますますそうなっている。

[柴田の補足]

I 単語
無し

II 文法
[注意]にある
(a)
Industry, as you know, begin in 1765, when ... (関係代名詞用法)
(b)
Industry, as we know it, began in 1765, when ... (接続詞用法)
とあるが、どう認識するのだろうか。
(a)は、文全体を先行詞として非制限関係詞節を導く
(b)は、直前の名詞を制限する接続詞
(a)の例:
we had completely misjudged the situation, as we later discovered.
(b)の例:
the origin of schools as we know them, ...



77
The girl was silent for a moment. When she spoke, it was as though she knew exactly what he had been thinking of. “Murphy says your wife is a very beautiful woman.”
“Was," Craig said. “Is, perhaps. Yes.”
“It is a friendly divorce?”
As divorces go.
“The divorce in my family was silent and polite.”

 彼女はしばし沈黙していた。次に口をひらいたとき、彼女はまるで彼が考えていたことを残らず知っているみたいだった。「マーフィーがあなたの奥さんはとても美人だと言っていたわ」
「昔はね」とクレイグは言った。「いや、今もかな。うん」
「憎み合った上での離婚ではなかったんでしょう」
ごく普通の離婚さ
「私の両親の場合は静かで礼儀正しい離婚だったのよ」

[柴田の補足]

I 単語
friendly: 「敵意のない」

II 文法
無し



78
Do not allow yourselves to be misled by the common notion that an hypothesis is untrustworthy simply because it is an hypothesis. ...... You may have hypotheses and hypotheses.
 仮説はそれが仮説であるという理由だけで信用できない、という世間一般の考え方にまどわされてはならない。......仮説の上に更に仮説をたててもよろしい。

[柴田の補足]

I 単語
mislead: 「逆方向に導く」「ごまかして…させる」
common: 「俗な」
untrustworthy: 「信用できない」

II 文法
無し



79
“I’ve never come across such a clumsy girl. And if you can’t take an interest in what I am saying, please try to look as if you do.”
 「あなたみたいな不器用な子ははじめてだわ。わたしの言うことにすこしでも関心があるのならせめてそんな様子でもみせなさいよ」

[柴田の補足]

I 単語
clumsy: 不器用な
take an interest in: …に興味を持つ

II 文法
無し



80
I did not relish the thought of all the spare evenings I would be left with if I disposed of them both. It was difficult enough to keep myself from getting depressed as it was, without having even more solitary time on my hands.
 彼ら二人と別れてしまったのちに一人ぼっちで過ごさなくてはならない晩のことを考えるのも情けなかった。これ以上孤独な時間がふえなくてさえ、今のように沈んだ気持ちがからみついてくるのだ

[柴田の補足]

I 単語
relish: 「好む」「楽しむ」
spare: 「手すきの」
dispose of: 「処分する」
on my hands: (1)手に余って (2)自分の責任となって、のうち(1)

II 文法
difficult enough: 副詞の enough は後ろから形容詞、副詞を修飾する。意味は「十分」だが「たっぷり」ではなく「基準を超えていること」
even more: この even は「more 以下が十分な量あるのに、それより更に」の意味

 

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