2011年4月号 『誤訳の構造』を読む 第8回 No.51〜60

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2011年4月号
『誤訳の構造』を読む 第8回 No.51 〜 60
 時間をかけて、英文読解指導書の白眉である『誤訳の構造』(中原道喜、聖文新社)を点検してゆく。
 実に難しい本で、私も最初自分の出来の悪さを棚に上げ「重箱の隅をほじくるような品のない本だ」と思い、途中で放り投げた。あるとき気になって再読し始めると、これが何ともすばらしい。自分が知らなかったこと、教わらなかったこと、がどんどん出てきて、完読したらそれまで曖昧な理解であったものも、目から鱗が落ちるようにくっきり見えるようになった。
 是非当コラムの読者にも読んでいただきたいが、奥が深く、一人で読み通すには相当な忍耐力がいる。そこで主に、著者が自明として端折っていそうなことで、英語中級者以上に裨益するであろうと思われる事柄を、補足する形で筆を執ってゆく。

 構成は、原文、既存訳(下線部が主な間違い)、中原の解説、柴田の補足、の順。本稿だけでも意味が通るようにするつもりだが、『誤訳の構造』を手元において、読みながら本補足を参照して下さると、学習の効果が一層上がるだろう。

(凡例)
下線:中原が訳に問題ありとした箇所 
:正しい訳(中原の訳に少し手を加えた部分もある)
「先行詞」:先行詞 
[カッコ] {カッコ} (カッコ):修飾語句、対立語句などの塊り(大、中、小の順)
斜体:連語
/ :区切り
××:主要語(SVOCなど、文の要素)



51
【例】

Americans are hysterically anxious to have the good opinion of others.

アメリカ人は他人をよく思うことをヒステリー的に切望する。


[柴田の補足]

I 単語
histerically: 病的に
are anxious to do: しきりに…したがる

II 文法
なぜhave a good opinion of 〜 が「〜をよく思う」で、have the good opinion of 〜 が 「〜によく思われる」なのか。
以下はわたしの仮説。
不定冠詞
a には(1)類別(そうした類のもの) (2)数(ひとつ)、を示す働きがあり、ここは(1)。
前置詞
of には(1)関連(〜に関し) (2)所有(〜が持つ)、その他を示す働きがあり、ここは(1)。
S
have a good opinion of others だと(Sは)「他人に関し(関連)なにがしかの(類別)良い意見 を持つ」→「他人をよく思う」。
定冠詞
the of 以下(主体)に規定される(後方照応)。意味としては所有、格としては主格。
S
have the good opinion of others では(Sは)「他人の持つ良い意見を獲得する」→「他人が(自分に対し)良い意見をもつ」→「他人からよく思われる」。



52
【例】
The man is mad!” exclaimed Adela tragically. A moment later it was Adela herself who appeared to go mad.
って気違いだわ!」とアデラは悲劇的に叫んだ。そして、すぐその後で気が狂ったように見受けられたのは、アディラの方であった。

[柴田の補足]

I 単語
tragically: 悲痛に(悲劇的、は大げさ)
go: …(悪い状態)になる

II 文法
man は解説とは別の分け方もできそう。
man: (1)(u)集合的に、女に対する男 (2)人(特にManで)→PCで personhuman being となる傾向 a man: (c)成人の男




53
【例】
It means that part of Tessies pitch is that women arent given a fair chance in this business.
テシーの観点からすれば、その女は映画界で正当なチャンスを与えられていないということさ。

[柴田の補足]

I 単語
part: 要素
pitch: 口上

II 文法
なし



54
【例】
In the outer office, the telephone rang and Lucille picked it up. “Mr. Winters office.” An unfamiliar voice said, “Hello there. Is the great man in?
外側の事務室で電話が鳴り、ルシールが受話器をとった。「はい、ミスター・ウィンターズ の事務所です」
聞きなれない声がいった。「もしもし、その偉い人はいらしゃる?

[柴田の補足]

I 単語
outer office: (1)出張所 (2)秘書室、のうち(2)
Hellow there: 間投詞「やあ」「こんにちは」

II 文法
なし



55
【例】
Most of the trouble he had brought upon himself, he saw, had come from his being the slave of his emotions. Very well, he would look before he leaped hereafter. The trick was to get his reason and his emotions pulling together in double harness, instead of letting them fly off in opposite directions, tearing him apart between them. He would try to give his head command and see what happened: then if head said, “Leap!” hed leap with all his heart.
これまでわが身に招いたわざわいは、大てい、感情のどれいとなることから起こった、と かれは考えた。よし、これからはことわざ通り「よく見てから跳ぶ」ことにしよう。こつ は、理性と感情に手綱をつけて両方一しょに引っぱらせることだ。お互いに二つが別の 方向へ逃げ出して、自分がその間で引き裂かれることのないようにする。頭の方に命令を 出して、自分がその間で引き裂かれることのないようにする。頭の方に命令を出して事態 を見きわめ、頭が「跳べ」と言ったら、心の方を総動員して跳ぶのだ。

[柴田の補足]

I 単語
look: 眺める
hereafter: 今後
reason: (c)理由 (u)理性、のうち後者
in double harness: 協力して(harnessは馬具一式)
tear apart: 引き裂く
command: (c)命令 (u)指揮(権)
with all his heart: 心を込めて

II 文法
emotions: (u)「感動、感覚」の可算名詞化で「感情」
get O doing: Oをdoさせる(する)



56
【例】
He felt he was being rude, and turned to one of the book cases.
彼は心が荒々しくふるえるのを感じ、急いで本棚のほうに向きを変えた。

[柴田の補足]

I 単語
rude: 無作法な

II 文法
なし



57
【例】
She is eating the grapes and spitting the pips into an envelope. Her aim is accurate.
彼女はぶどうを食べながら種を封筒の中へはき出す。彼女の目的は明らかである。

[柴田の補足]

I 単語
spit: 吐く

II 文法
なし



58
【例】
I hope he doesnt lose, hes a bad loser.
彼負けなければよいけど。下手なのよ!

[柴田の補足]

I 単語
なし

II 文法
では「悪い船員」は何と言うのだろうか。
evil とか wicked を使うはず。



59
【例】
He woke up feeling good. There was no reason for him to wake up feeling anything else.
He was an only child. He was twenty years old. He was over six feet tall and weighed 180 pounds and had never been sick in his whole life. He was number two on the tennis team ...

彼はいい気分で目をさました。いい気分以外の気分で目をさます理由がなかった。
彼はほんの子供だった。20歳だった。身長6フィート以上、体重180ポンド、生まれてか ら今まで一度も病気をしたことがなかった。テニスのチームではナンバー2であり…

[柴田の補足]

I 単語
foot: =30.48cm
pound: =373g

II 文法
「一人っ子」が何人もいたら何と表現するのだろう。only children
「クラスで唯一の一人っ子」は?
the only only child in the class
[参考]に
Andrew fell in love with Fraces. (アンドルーはフランシスと恋におちた)とあるが、 この with は対象を示すものであって「…とともに」ではない。二人が相思相愛かどうかはわからない。「(互いに)恋におちた」のなら、each other が必要だろう。


60
【例】
You poke fun of me. Thats mean, thats not worthy of you, Piet. Piet?
私をからかうのね。からかうってのはあなたと踊る値打ちがない女っていうこと。ピエット、ピエット?

[柴田の補足]

I 単語
poke fun of: = make fun of からかう
mean: (動)意味する (形)いやしい (名)中間 (名)-s で資産
worthy of: …にふさわしい

II 文法
なし

 

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