2011年3月号(第17回)2011年3月号 *2月は休載です『誤訳の構造』を読む 第7回 no.41〜50

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2011年3月号(第17回)2011年3月号 *2月は休載です
『誤訳の構造』を読む 第7回 no.41 〜 50
 時間をかけて、英文読解指導書の白眉である『誤訳の構造』(中原道喜、聖文新社)を点検してゆく。
 実に難しい本で、私も最初自分の出来の悪さを棚に上げ「重箱の隅をほじくるような品のない本だ」と思い、途中で放り投げた。あるとき気になって再読し始めると、これが何ともすばらしい。自分が知らなかったこと、教わらなかったこと、がどんどん出てきて、完読したらそれまで曖昧な理解であったものも、目から鱗が落ちるようにくっきり見えるようになった。
 是非当コラムの読者にも読んでいただきたいが、奥が深く、一人で読み通すには相当な忍耐力がいる。そこで主に、著者が自明として端折っていそうなことで、英語中級者以上に裨益するであろうと思われる事柄を、補足する形で筆を執ってゆく。

 構成は、原文、既存訳(下線部が主な間違い)、中原の解説、柴田の補足、の順。本稿だけでも意味が通るようにするつもりだが、『誤訳の構造』を手元において、読みながら本補足を参照して下さると、学習の効果が一層上がるだろう。

(凡例)
下線:中原が訳に問題ありとした箇所 
:正しい訳(中原の訳に少し手を加えた部分もある)
「先行詞」:先行詞 
[カッコ] {カッコ} (カッコ):修飾語句、対立語句などの塊り(大、中、小の順)
斜体:連語
/ :区切り
××:主要語(SVOCなど、文の要素)



41
【例】
I only wondered that Poirot had never thought of taking to bird glasses.

 ただ、ポアロは双眼鏡を使うことを、いままで思いつかなかったのではなかろうか
のが不思議に思えた

[柴田の補足]

I 単語
take to: (1)…に没頭する (2)…に頼る、のうちここは(2)。

II 文法
only:
副詞の
only はやっかい。文のどの位置にも置かれうるし、掛かる語句も文脈依拠となる場合が多く、訳語も「ただ」「まさに」「はじめて」「…こそ」「…のみ」などいろいろだからだ。ここは wondered を強調しているものととっていいだろう。)



42
【例】
You disgust me,” she said quietly. Frankly, you always have and probably always will. She didnt know why she said that. It was quite untrue. It was only true that he disgusted her at this moment, ...

 「あなたはわたしを嫌っているわ」彼女は穏やかにいった。「はっきりいわせてもらうけど、あなたはずっとわたしを嫌っていたのよ、たぶんこれからも嫌い続けるわね」なぜそんなことをいうのか、自分にもわからなかった。そんなことはあり得ないことだった。彼がいまこの瞬間の彼女を嫌っていることだけは確かだが、…

あなたが嫌いなの
彼女にとって、いまこの瞬間彼が嫌な

[柴田の補足]

I 単語
untrue: 事実に反する

II 文法
この only も強調。訳はいろいろ付けられる。「まさに確か」「…ということこそ確か」上記訳文のように「…ことだけは確か」など。



43
【例】
She raised her right hand slightly as though shaking hands, looked down the stairs as though to see people coming up it.

 彼女はまるでふるえてでもいるようにちょっと手を上げ、上ってくる人たちが見えるでもするように、階段を見おろしていた。

握手をするかのように

[柴田の補足]

I 単語
it: 語調を整えるだけで意味のないit。例:walk it 徒歩で行く

II 文法
as though の後にはここでみられるように、動名詞や to 不定詞(この場合、副詞用法)がくることができる。



44
【例】
If our assumptions are even partially correct, individuals will vary more vividly tomorrow than they do today. More of them are likely to grow up sooner, to show responsibility at an earlier age, to be more adaptable, and to evince greater individuality.

 以上のようなわれわれの仮定が部分的にでも正しければ、あすの人間は現在よりもはるかに生き生きと変化するだろう。成長は早まり、幼いころから責任感を持ち、適応性が高まり、いっそう個性的になるにちがいない。

あすの人間は現在よりもはるかに生き生きとした多様性を示すだろう

[柴田の補足]

I 単語
age: (c)時期(u)年齢(個々に対してはc)
evince: …を示す
individuality: (u)個性(c)個人

II 文法
to 1, to 2, to 3, and to 4の並列になっている



45
【例】
You thought I was very ladylike, didnt you?
I thought no such thing. You didnt fool me.

 「わたしのことをお上品ぶった女だと思っていたのでしょう」
「そんなことはない。きみはぼくをばかにしなかったもの

君は僕をだまさなかった

[柴田の補足]

I 単語
ladylike: 上品な

II 文法
無し



46
【例】
Somebody said, Hush, and a clergyman began a prayer which I believe he must have composed himself. I had never heard it at any other funeral service, and I have attended a great number in my time.

 だれかが「シーッ!」と言ったかと思うと、牧師は祈りを唱えだしたが、あれはきっとそうすることによって牧師が自分の気を落ち着けようとしたにちがいないと思う。銀行にいた頃私もずいぶんいろいろな葬式に参列したことがあるが、どんな場合でもそんな祈りは聞いたことがないからだ。

牧師はきっと自分で作ったのだと思われる祈り文句を唱えだした。

[柴田の補足]

I 単語
hush: 間投詞「しっ」
prayer: 祈り
compose: 創作する
in one's time: これまで若いころ、のうち

II 文法
, andは付言。前節に情報を付け加えている。



47
【例】
Some men tell us that they never outlive their sense of excitement on seeing the curtain go up at the beginning of a play.

 ある人たちが私たちに言うには、芝居の初めに幕が上がるのを見たときに感ずる興奮の気持ちはいつまでも残っているものではない、ということだ。

興奮の気持ちはどんなに年をとっても変わるものでない、

[柴田の補足]

I 単語
無し

II 文法
oning は「〜するとすぐ」の意。on は接触を示す。



48
【例】
And she had a common accent in her speech. He outdid her a thousand times in coarse language, and yet that cold twang in her voice tortured him with shame that he stamped down in bullying and in becoming more violent in his own speech.

 おまけに彼女の喋り方には下品なアクセントがあった。彼は荒っぽい言葉で千度も妻をやっつけたが、それでもなお彼女の声にある冷ややかな鼻にかかった訛が彼を苦しめ、羞かしさのあまり、彼は足を踏み鳴らして脅かし、言葉遣いはいっそう猛烈になるというふうだった。

彼は荒っぽい言葉にかけては妻より千倍も上手だった

[柴田の補足]

I 単語
common: 下卑た(noble に対する意味からきている)
outdo: …を出し抜く
coarse: 下劣な
twang: 鼻声
torture: 苦しめる
shame: 恥辱
stamp: 踏みつける
bully: 脅す

II 文法
ここの that so that の省略形「…なほど」



49
【例】
The feeling was the strongest he knew. He felt he could kill the bankers ...

 だが彼にあってはこれほど激しい感情を抱いた例は他になかった。彼は銀行家…を殺すことぐらい自分にだってできると思った。

殺してやりたい

[柴田の補足]

I 単語
無し

II 文法
無し



50
【例】
‘I heard what Dr Martin said. Hes right, you know. I shall go at Christmas.
Now, although I could have spoken, I was afraid to do so, lest should hear from the tremor in my voice how much I was moved. She looked anxiously at me.
Or do you think I should go at once? Is that what you think? Do you wish Id gone before? You must have noticed that I was not doing my job as I should.

 「マーチン先生がおっしゃったことは聞きました。間違いないですよ、ね。クリスマスには退職しますわ」
いま、私は何とでも答えられたが、声がふるえて、どんなに感動しているか相手に知られそうだったので、話すのがこわかった。彼女は不思議そうに私を見つめた。
「それとも、すぐやめるべきだと考えていらっしゃるの。そうなの。もっと早く、やめてほしかったの。自分でも仕事ができなくなっていたのに、気がつくべきだったわ

私がやるべき仕事をこなしていないのに気付いてらしたんだわ。

[柴田の補足]

I 単語
go: 去る
move: 感情を掻き立てる

II 文法
Do you wish I’d gone before? d had の縮約形。before は、過去のある時点より以前に。過去の反実仮想に対する願望を示す。直訳は「以前に辞めていたらよかったのにと思うのですか

 

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