2011年1月号(第16回)『誤訳の構造』を読む 第6回 no.31〜40

PDFでダウンロード
2011年1月号(第16回)
『誤訳の構造』を読む 第6回 no.31 〜 40
 時間をかけて、英文読解指導書の白眉である『誤訳の構造』(中原道喜、聖文新社)を点検してゆく。
 実に難しい本で、私も最初自分の出来の悪さを棚に上げ「重箱の隅をほじくるような品のない本だ」と思い、途中で放り投げた。あるとき気になって再読し始めると、これが何ともすばらしい。自分が知らなかったこと、教わらなかったこと、がどんどん出てきて、完読したらそれまで曖昧な理解であったものも、目から鱗が落ちるようにくっきり見えるようになった。
 是非当コラムの読者にも読んでいただきたいが、奥が深く、一人で読み通すには相当な忍耐力がいる。そこで主に、著者が自明として端折っていそうなことで、英語中級者以上に裨益するであろうと思われる事柄を、補足する形で筆を執ってゆく。

 構成は、原文、既存訳(下線部が主な間違い)、中原の解説、柴田の補足、の順。本稿だけでも意味が通るようにするつもりだが、『誤訳の構造』を手元において、読みながら本補足を参照して下さると、学習の効果が一層上がるだろう。

(凡例)
下線:中原が訳に問題ありとした箇所 
:正しい訳(中原の訳に少し手を加えた部分もある)
「先行詞」:先行詞 
[カッコ] {カッコ} (カッコ):修飾語句、対立語句などの塊り(大、中、小の順)
斜体:連語
/ :区切り
××:主要語(SVOCなど、文の要素)



31
【例】
As he walked down the street towards the palace he was aware that he had drunk more than he had drunk for years at this hour of the day.

 彼はそのストリートを宮殿の方向に歩きだして、この1時間のうちに、数年分の酒量をすごしたことに気がついた。
日中にしては(ここ何年も飲んでいない量を)

[柴田の補足]

I 単語
down: 前置詞。(を)通って
palace: 「宮殿」が一義だが、そこから広がって「宮殿のようなもの」→「大邸宅」となることがあり、要注意。

II 文法
「数年分の」は for years の訳語だと思われるが、まずい。「何年もの間この時間に飲んでいた量以上を飲んだ」→「ここ何年もこの時刻にこれほど酒を飲んだことはなかった」。
この
for は「…の間ずっと、…に渡って」
 例:
I have been ill for years.(何年も病気である)



32
【例】
The boy seemed minuscule behind that desk, today preternaturally neat. Bob had swept away the clutter before leaving in June. In fact, all that was left besides the telephone was a picture of Sheila and the girls.

 今日はすっきりしすぎるくらいよく片づいている机のうしろの少年がはかなく見えた。ボブは六月の休みに入る前、がらくたを整理した。事実、残っているのは電話機のそばの、シーラと娘たちの写真だけであった

事実、残っているのは電話機のほかは、シーラと娘たちの写真だけであった。

[柴田の補足]

I 単語
minuscule: ちっぽけな
preternaturally: 超自然的な
sweep away: 掃き除ける(他動詞+副詞) cf. sweep 掃く(自動詞) clutter: 散乱(したもの)
leaving: 休暇
besides:(1)…のほかに…に加え (2)=except

II 文法
besideが(1)か(2)かは、文脈依拠。本文の場合、どちらでも訳せるが、大まかには次の原則。
肯定文の場合:…に加え=
in addition to
疑問文、否定文の場合:…以外に=
except 
 例:
We know no one besides him.(彼以外誰も知らない)



33
【例】
He could eat twenty rolls during a meal and fast for the next three days.

 彼は食事と食事の間に二十のロールパンを食べて、そのあと三日間断食できると言うのだった。

一回の食事で

[柴田の補足]

I 単語
roll: ロールパン
fast: 断食する



34
【例】
Paints and painting too must have been made for useful ends; and language was developed, from whatever beginnings, for practical communication. Yet you cannot have a man handle paints or language without instantly waking in him a pleasure in the very paints or language, a sense of exploring his own activity. This sense lies at the heart of creation.

 絵の具や絵もまた、実用的な目的のために作られたものにちがいない。また言語も、その発端が何であれ、実用的な伝達のために発達したものである。しかし、絵の具や言語そのものを使う喜びの気持ち、つまり、自分の活動分野を探求しているという意識を直ちに目ざめさせないならば、とても人に絵の具や言語を扱わせることはできないのだ。この意識は創造の仕事の中心をなすのである。

人に絵の具や言語を扱わせれば、たちまちその人の心の中に絵の具や言語そのものに対する喜び、すなわち自分の活動分野を探求しているという意識を目覚めさせないではおかないのである。

[柴田の補足]

I 単語
make: 生み出す
whatever: 複合関係形容詞(what の強調)「どんな…でも」
beginning(s): 発端
sense: (u)感覚 (c)意識
heart: 核心

II 文法
paints and paintingが「絵の具や絵」と訳されているが、厳密には次のごとし。paint (u) 塗料 paints 絵の具、painting (u) 絵を描くこと (c)絵画
have a man handle: have+目的語+原形 …させる



35
【例】
Her paper, owing to a change of proprietor, to her own and to other of her friends great annoyance, now provided articles on mens tailoring, women's dress, female heartthrobs competitions for children, and complaining letters from women and had managed pretty well to shove any real news off any part of it but the front page, or to some obscure corner where it was impossible to find it.

 彼女の購読紙は、所有者が変わったことによって、彼女やその友人たちが大いに困惑したように、今や紳士服とか婦人服、女性感情とか子供コンクールとか婦人からの不満の手紙欄とかいった記事ばかり多くなって、第一面はいうに及ばず、あらゆる隅っこからも、ほんとのニュースというものを追っぱらって、見つけるのが不可能と相なった。

ニュースらしいニュースは、かろうじて第一面にだけ残されるか、どこか見つけにくい片隅に追いやられてしまい、

[柴田の補足]

I 単語
owing to: …のために
tailoring: 仕立て、仕立業
dress: 服(主としてワンピース)
heartthrob: ①情熱的な気持ち②あこがれの人(スター)
shove A off B: AからBを突き落す

II 文法
pretty well: この pretty well を修飾する副詞で「とても」の意味
shove off A or to B:「Aから追い出すか、Bへ追いやる」



36
【例】
They are for the garden; the place is grotty once the roses go.

 バラ園にぴったりだと思うわ。バラが咲いた、きっとみすぼらしくなるにちがいないわ。

バラが散ったら、

[柴田の補足]

I 単語
grotty: みじめな
once: 接続詞「…するや否や」



37
【例】
And after all the weather was ideal. They could not have had a more perfect day for a garden-party if they had ordered it.

 結局、お天気は理想的でした。たとえ人々が完全なお天気になるように命じたところで、これ以上申し分のない園遊会日和は持てなかったことでしょう。

たとえあつらえたとしても、

[柴田の補足]

I 単語
after all: (意に反し)結局、なにしろ…だから
perfect: 申し分ない

II 文法
cf. finally は「最終的に」(中立的)  at last は「(望ましいことが)ついに」
order N:
(1) Nを注文する(普通は
order O1 O2またはO2 to O1)
(2) Nせよと命じる 例:
The chairman ordered silence.



38
【例】
The girls she chose to collect were mystified, usually, by what she saw in them; they humbly perceived that they were very different from her. In private, they often discussed her, like toys discussing their owner, and concluded that she was awfully inhuman. But this increased their respect for her.

 彼女にえらばれる女の子たちは、彼女の考え方感じ方に煙に巻かれるのが常だった。そして結局のところ自分は彼女とはずいぶんちがった人間なのだということを、認めざるをえなくなる。内心では、ちょうど玩具がそれの所有者と議論するように、彼女の意見に逆らい、彼女はひどく非人間的だという結論に達しもしよう。だが、それはこの娘への敬意をいっそう増すだけなのである。

こっそり、仲間内で彼女のことを論じた、ちょうど自分の持ち主のことを論じ合う玩具のように。(そして、彼女はひどく冷酷だと結論付けた)

[柴田の補足]

I 単語
mystified: 当惑させる
humbly: 恐れ入って
in private: こっそり
discuss: …を論じる
inhuman: 残酷な、冷酷な

II 文法
She chose to do: S V O (to do to 不定詞の名詞的用法)



39
【例】
What the headmaster cared about was proficiency in work. This his masters were engaged to produce and sacked for failing to produce.

 校長が最も関心を払ったのは生徒の学力の向上であった。彼の下で働く教師達は、生徒の成績の向上を約束させられ、それが出来ない場合は容赦なく解雇された。

目的で雇われ

[柴田の補足]

I 単語
care about: 関心を持つ
proficiency: 進歩
work: 学業
engaged:「約束で縛る」より、雇う 婚約させる
sack: 首にする



40
【例】
Shes probably quite a good ordinary French bourgeoise, only like all of them shes a colossal snob and moneys gone to her head. She gives these ghastly parties ... She thinks shes a sort of cultural link between England and France ...

 あのひと、ほんとうはたぶんごく善良なフランスのブルジョワ女なんだけど、その例にもれずものすごくスノッブで、お金のことが頭にきちゃってるのよ。しょっちゅういやらしいパーティーをひらいて…あのひと自分ではイギリスとフランスの文化の橋わたしをしているつもりで…

お金があるのでのぼせ上がってるのよ。

[柴田の補足]

I 単語
quite a: かなりの
good: (強意の副詞)たっぷり
bourgeoise: 中産階級で物質本位の俗物
only: …を除いて(=but)
colossal: 膨大な
go to one’s head: 興奮させる、酔わせる
ghastly: すごい

II 文法
「頭にくる」は
lose one’s coolbe highly offendedぐらいか。

 

前に戻る 次へ進む
コラムトップに戻る
ページトップへ