2010年9月10月合併号(第13回)『誤訳の構造』を読む 第3回

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2010年9月10月合併号(第13回)
『誤訳の構造』を読む 第3回
 9月号、書いたデータなくしてしまい、無断休載しました。お詫びします。

 時間をかけて、英文読解指導書の白眉である『誤訳の構造』(中原道喜、聖文新社)を点検してゆく。
 実に難しい本で、私も最初自分の出来の悪さを棚に上げ「重箱の隅をほじくるような品のない本だ」と思い、途中で放り投げた。あるとき気になって再読し始めると、これが何ともすばらしい。自分が知らなかったこと、教わらなかったこと、がどんどん出てきて、完読したらそれまで曖昧な理解であったものも、目から鱗が落ちるようにくっきり見えるようになった。
 是非当コラムの読者にも読んでいただきたいが、奥が深く、一人で読み通すには相当な忍耐力がいる。そこで主に、著者が自明として端折っていそうなことで、英語中級者以上に裨益するであろうと思われる事柄を、補足する形で筆を執ってゆく。

 構成は、原文、既存訳(下線部が主な間違い)、中原の解説、柴田の補足、の順。本稿だけでも意味が通るようにするつもりだが、『誤訳の構造』を手元において、読みながら本補足を参照して下さると、学習の効果が一層上がるだろう。

(凡例)
下線:中原が訳に問題ありとした箇所 
:正しい訳(中原の訳に少し手を加えた部分もある)
「先行詞」:先行詞 
[カッコ] {カッコ} (カッコ):修飾語句、対立語句などの塊り(大、中、小の順)
斜体:連語
/ :区切り
××:主要語(SVOCなど、文の要素)



一 名詞

6
【例】
I’d sent the girl home just after lunch. She wasn’t well. Off colour.
(Having a period, thought Peter with certainty.)


 あの子は昼食のあと、すぐ帰らせたんだよ。彼女は体の具合がわるくて、顔色もよくなかったからね。(これで一巻の終わりだとピーターははっきりそう思った)

きっと生理なんだ、とピーターは思った。

[柴田の補足]

I 単語
send:送り出す
例 
He sent her home by taxi. 彼女をタクシーで帰した
cf.
He took her home. 彼女を家へ送っていった(tookは「持ってゆく」)
off color:(形)色が悪い
have a period:生理中



7
【例】
He was in an ambulance shrieking through the jungle itself, racing uphill past the timberline toward the peak—and this was certainly one way to get there—while those were friendly voices around them,...

 そのことばかりを百回も考えているうちに、いつか愛車は街道にたどりついていた。 そして、そこの角を曲がりかけて、駐車中の黒塗りのメルセデス・ベンツにあやうく衝突するところだった。車のわきで、ダーク・スーツ姿の男が休息をとっていた。彼はその男を見て、バレンシアからマドリードへの長い道筋を走って来たので、ひと息入れているところだなと思ったが

運転席にいるダーク・スーツ姿の男が休息をとっていた。彼はその男を見て、バレンシアからマドリードへの長い道のりの途上、ひと息入れているのだと思ったが

[柴田の補足]

I 単語
shriek:悲鳴をあげる
itselfは、jungleを強調
race:疾走する
uphill:(副)上って
friendly:親しみある、優しい

II 文法
shrieking racing は並列し、an ambulance に掛かる分詞形容詞



8
【例】
Thinking of all this for the hundredth time he nearly ran into a stationary black Mercedes which was parked round the corner on the main road. He assumed that the dark-clothed figure at the wheel was taking a rest on the long drive form Valencia to Madrid...

 そのことばかりを百回も考えているうちに、いつか愛車は街道にたどりついていた。 そして、そこの角を曲がりかけて、駐車中の黒塗りのメルセデス・ベンツにあやうく衝突するところだった。車のわきで、ダーク・スーツ姿の男が休息をとっていた。彼はその男を見て、バレンシアからマドリードへの長い道筋を走って来たので、ひと息入れているところだなと思ったが…

運転席にいるダーク・スーツ姿の男が休息をとっていた。彼はその男を見て、バレンシアからマドリードへの長い道のりの途上、ひと息入れているのだと思ったが

[柴田の補足]

I 単語
run into:…と衝突する
stationary:(形)静止した
cf.
stationery 文房具
assume:決めてかかる(ラテン語 as 接して sume 取る、より)
at the wheel:運転席の(この wheel は「車のハンドル」の意)

II 文法
parked round the corner
round は前置詞で「(角を)曲がったところに」の意。
例:
go round the corner 角を曲がる
on the drive
この
on は経過を示す。drive は、車での小旅行。「車での長い旅の途中に」



9
【例】
To the poet the world appears still more beautiful as he gazes at flowers that are doomed to wither, at springs that come to too speedy an end.

 詩人にとっては、やがてしぼむ運命にある花や、あまりにも早くかれてしまう泉をながめるとき、世の中が、さらにいっそう美しく見えるのである。

あまりにも早く終わってしまう春

[柴田の補足]

I 単語
be doomed to :…の運命にある
wither:しぼむ
come to an end:終わる

II 文法
二つの
at は共に gaze から繋がる。「花をみつめ、春をみつめる時」
still more(さらに一層)は、「as 以下をしない場合」と比べて。



10
【例】
A bank manager is expected to pay his last respects to every old client who is not as we say ‘in the red’, and in any case I have a weakness for funerals. People are generally seen at their best on these occasions, serious and sober, and optimistic on the subject of personal immortality.

 銀行の支配人ともなると、いわゆる「赤字預金者」以外の古いおとくいにはあくまでも敬意を表さねばならないのだが、何はともあれ私は葬式がにがてだった。こうした厳粛かつ真面目きわまる場合、みんなはたいてい一張羅を着用して、人間不滅の問題をのほほんと話したりする。

葬式には目がないのだ。

[柴田の補足]

I 単語
pay one’s last respects :葬儀に参列する/ 死者の冥福を祈る
in any case:とにかく
have a weakness for:…に目がない
at one’s best:最もよい状態に
occasion:儀式

II 文法
・a
s we say(よくいう/ いわゆる)は一塊りで ‘in the red’ に掛かる
似た例:
The child is not put into the hands of parents alone. It is brought at birth into a vast, we may say an infinite, school.(子供は両親の手元にだけ置かれるのではない。生まれるとすぐ、広大な、無限といってもよいような世間という修練の場にさらされるのである。
serious and sober は直訳すれば「真面目でしらふ」だが、これは英語によくある同義語反復。ご丁寧に語頭のs-の字まで揃えてある。二語の違いに苦慮する必要はない。

 

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