「テイル」七変化──動詞百類 その2  執筆者:川月現大(編集者)


■ 4. 「テイル」の用法
 日本語ライティングでは、文末が「〜た。〜た。〜た」と連続するのは避けるべきと言われている。だが日本語の文末は、体言止めなどを除くと「〜(す)る/た」「〜ている」のほかに、「〜である/だ」ぐらいしかない(ほかにも「です・ます」といった丁寧体もあるがここでは除外して考える)。これらをうまく使い分けるには、それぞれの用法がどのようなものか知る必要がある。今回は「テイル」について見ていく。
 テイル形の用法としては、以下のようなものがある。英語対訳も載せておく。

1. 動作の継続 :「進行」とも言う。
(1)ジョンは歌を歌っている。[主体動作の継続]
 John is singing a song.
(2)バスが止まりかけている。[主体動作の変化の継続]
 The bus is stopping.
(3)お客さんが次々と到着している。[異なる主体の動作の断続]
 The guests are arriving.
(4)彼はこの数時間ずっと小説を読み続けている
 He has been reading a novel these few hours.

2. 結果状態(の継続)
(5)スズメがあそこで死んでいる
 There’s a dead sparrow over there.
(6)急いで! バスが(停留所で)待ってくれているよ。
 Hurry up, the bus is waiting.

3. 習慣・繰り返し
(7)彼は朝食前にジョギングをしている
 He goes out to jog before breakfast.
(8)彼女はいつも不満ばかり言っている
 She is always complaining about something.

4. 反復 :瞬間動詞(身体動詞)の進行形。他にjump、knockなど。
(9)その男の子はボールを何べんもけっている
 The boy is kicking a ball.
(10)彼は1時間前からくしゃみをし続けている
 He has sneezed for an hour.

5. 完了:「もう」「すでに」「まだ」などの副詞が使われたとき。
(11)私はもうすでに難しい役割を引き受けているので、その仕事を引き受けるわけにはいかない。[ビジネス英語和英活用辞典]
 As I already have a difficult part to fill, I don’t think I can accept the job.

6. 経験・記録
(12)5年前に彼はカナダを訪れている
 He went to Canada five years ago.
(13)ニューヨーク・タイムズ紙は95のピュリッツアー賞を受賞している(2007年時点)。
 As of 2007, The New York Times has won 95 Pulitzer Prizes.

7. 性質・状態・態度:金田一春彦の「第四種動詞」はここに含まれる。第四種動詞には「そびえる」「すぐれる」「ずば抜ける」「ありふれる」「似る」「面する」などがあり、多くの場合「〜ている」の形で使われる。
(14)スーは母親によく似ている
 Sue resembles her mother very much.
(15)彼は疲れていて退屈している様子だ。
 He looks tired and bored.

8. 所在・所属・職業
(16)(今は)シカゴに住んでいる。[一時的な住所]
 I am living in Chicago.
(17)シカゴに住んでいる。[定住地]
 I live in Chicago.
(18)この1か月、スーのアパートに住んでいる
 I’ve been living in Sue’s flat for the last month.
(19)彼はゴルフ部に属している
 He belongs to a golf club.
(20)私の姉は高校で英語教師をしている
 My sister teaches English in high school.
(21)彼には医者をしている息子が2人いる。
 He has two sons who are doctors.

9. 所有・知識
(22)いろいろな労働者がさまざまな技術を持っている
 Different workers possess different skills.[ロングマン英和辞典]
(23)何年も前から彼を知っている
 I’ve known him for years. [情報動詞の完了形は「完了」の意味を表さない]

10. 関係:2つのものの関係を示す「関係動詞」は状態動詞の一種。詳細については、安藤(2005):78を参照。
(24)この収納箱には家宝が入っている
 This chest contains our family heirlooms.
 
11. 普遍的事実
(25)地球は太陽の周りを回っている
 The earth goes around the sun.

12. 未来
(26)きょうの午後、テニスをすることにしている[すでに準備は整っている]
 I’m playing tennis this afternoon.

 以上のように、テイル形の用法は多種多様だ。「テイル」は語形としてはル形であり、「現在を表す」ように思われるかもしれないが、上記例文を見ればそうではないことがわかる。「テイル」は、過去・現在・未来を表す。
 たとえば(11)(12)は明らかに「過去」の内容で、(26)は「未来」(より正確には「確定的な推量」)を表している。(25)の「普遍的事実」は「時」を超越しているし、(13)の「記録」は年表などで使われる「年代記的現在」と同等と考えてもいいだろう。

 次に、日本語の例文に並記している英語対訳の時制(テンスとアスペクト)を見てみよう。上記の26個の例文の「テイル」に対して、「現在形、現在進行形、現在完了形、過去形」という4つの時制が使われている。そんなに色々な役割を背負わされてテイル様はまったくもって大変だ。しかし原理的に考えれば、英語の文法システムと日本語の文法システムは異なるのだから、英語の時制と日本語の時制が必ず一致するとは限らない。「現在形は現在形で訳す」といった素朴なルールは通用しないことがあるのだ。

■ 5. ル形/タ形とテイル形で文章にメリハリをつける
 単文レベルでのテイル形についてはここまで見てきたとおりだが、文章レベルで ル形/タ形(テンス)とテイル形(アスペクト)を組み合わせると、文章にメリハリをつけたり、“グルーブ感”を出すことができる。
 前回のエントリー 「「タ」は過去形ではない。」では、「時間関係」を表す「タ」について紹介した。復習しておくと、「ひとまとまりの動作を表す文が続くとき、それぞれの文は出来事を1つずつ進めていく」のである。出来事が次々と起こることを表しているので「継起性」を持つとも言える。
 これに「テイル」や状態を表すル形を組み合わせていくと、出来事の「同時性」を表せる。以下に示している芥川龍之介の「羅生門」冒頭部分で確認してみてほしい(金水敏(2015))。なお引用部分の下線部ではル形が使われておらず、「いる」の否定形の「いない」が使われている。ここでは状態を表す文として使われているので注意してもらいたい。状態を表す文は継起性がないので、出来事を先に進めることはない。

  •  ある日の暮方の事である。一人の下人が、羅生門の下で雨やみを待っていた
     広い門の下には、この男のほかに誰もいない。ただ、所々丹塗の剥げた、大きな円柱(まるばしら)に、蟋蟀(キリギリス)が一匹とまっている。羅生門が、朱雀大路にある以上は、この男のほかにも、雨やみをする市女笠(いちめがさ)や揉烏帽子(もみえぼし)が、もう二三人はありそうなものである。それが、この男のほかには誰もいない
      (芥川龍之介「羅生門」。[一部、現代語読みに修正している])

 最初の「待っていた」で出来事が始まり、次の「いない」は同じ場面での描写。次の「とまっている」も同じ場面で、視点移動している。最後の「いない」も同じ場面での描写。この冒頭の2段落ではこれらの複数のカット(=文)で構成されたシーンが描かれていることになる。
 以下の英文は、ジェイ・ルービンが英訳した「羅生門」(Penguin Classics 『Rashomon and Seventeen Other Stories』所収)から対訳部分を引用した。比較してみてほしい。

  •   Evening, and a lowly servant sat beneath the Rashomon, waiting for the rain to end.
      Under the broad gate there was no one else, just a single cricket clinging to a huge red pillar from which the lacquer was peeling here and there. Situated on a thoroughfare as important as Suzaku Avenue, the Rashomon could have been sheltering at least a few others from the rain─perhaps a woman in a lacquered reed hat, or a courtier with a soft black cap. Yet there was no one besides the man.

 この英訳を和訳しようとすると「過去形を過去形で」訳してしまいそうになる。これこそ学校教育の呪縛というものなのだろう。

【参考文献】
安藤貞雄(2005)『現代英文法講義』開拓社 
金水敏(2015)「日本語文法の諸相:時間表現」、月本雅幸『日本語概説』放送大学教育振興会
久野暲/高見健一(2013)『謎解きの英文法 時の表現』くろしお出版
中村捷(2009)『実例解説英文法』開拓社
日本語文法学会編(2014)『日本語文法事典』大修館書店
益岡隆志/田窪行則(1992)『基礎日本語文法 改訂版』くろしお出版
牧野成一/筒井通雄(1989)『A Dictionary of Basic Japanese Grammar』ジャパンタイムズ
米原幸大(2009)『完全マスター 英文法』語研

 

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