動詞百類 その1  執筆者:川月現大(編集者)


 動詞の種類は分類の仕方によっていくつもある。 前回は自動詞と他動詞の区別について述べたが、ほかにもさまざまな視点から動詞の姿を見ることができる。

■ 1. 動詞とは何か?
 そもそも動詞とは何か。『新明解国語辞典 第七版』では、次のように説明している。

どうし 【動詞】〔言語学で〕人や事物の何らかの動作・作用や存在などを表わす言葉。日本語では用言の一つで、言い切る時の形が口語では「書く」「着る」のようにウ段の音で終わる言葉。

 語釈の1つ目の文が動詞そのものの説明になっているが、この語釈だけではわかりにくい。そこで、最新の文法事典である『日本語文法事典』(大修館書店)を見てみると次のように書かれていた。

動詞1 1. 動詞の基本的な性格
品詞の1つ。動詞は,名詞とともに基本的な単語類。単語が名詞的な単語と動詞的な単語に分かれることで ,二語文が出来上がり,文法も存するようになったと考えられる。
 典型的で大多数の動詞は,動きや動作を表すという語義を有する。動きを表すことが基因となり,動詞は様々な節の述語になるという文法機能を持つ。そのことと結びついて,日本語の動詞は語形を変化させる。 [仁田義雄]

 動詞の本質を言い表しているように読めるが少々難しい言い方だ。存在物(=名詞)がどのように現実世界(あるいは観念世界)に表れているかを述べているとも言えるだろう。「動き」と「動作」の区別はここからはくみ取れないが、「自ら動く」ことと、何らかの作用が働いて「動作する」こととを区別しているのかもしれない。

■ 2. 動詞のアスペクトによる分類
 英語と日本語とでは、動詞のアスペクトの範疇が異なる。下の表を見てもらいたい。

表1:アスペクトに基づいた動詞分類(英語) 出典:安藤貞雄『現代英文法講義』開拓社:72

分類
動詞 状態的 believe,know,hate,love,belong, have,resemble,etc.
非状態的 完結的 瞬時的 sneeze,cough, blink, explode, hit, jump,nod,notice,press,recognize, start,tap,wake up,wink,etc.
非瞬時的 close,die,drown,fall,forget,go, land,lose,paint,stop,write,etc.
非完結的 build,eat, keep,make, read, sing, write,stay,teach,travel,walk,etc.

 安藤貞雄によると、上記の分類はベンドラー(Vendler, Linguistics in Philosophy, 1967)のものとほぼ対応しているという。ベンドラーの分類は「状態=state、瞬時的=achievement(到達)、非瞬時的=accomplishment(達成)、非完結的=activity(行為)」というものだが、achievement(到達)とaccomplishment(達成)という用語が紛らわしいため上記のように修正したという。
 英文法の参考書では「動作動詞」と「状態動詞」の区別ばかり大きく取り上げるが、動詞にはもっといろいろな種類があって、その振る舞いや意味合いが変わってくる。以下で述べる「含意動詞」などはその最たる例だと言えよう。

表2:アスペクトに基づいた動詞分類(日本語) 出典:『日本語文法事典』大修館書店、村木新次郎「動詞2」:440

分類
動詞 動きを表す動詞 動作動詞 食べる 飛ぶ 話す 照る 歩く
変化動詞 死ぬ 倒れる 寝る 開く 沸く
動きを表さない動詞 存在を表す動詞 ある 存在する 点在する
状態を表す動詞 すぐれる 似る そびえる 違う

 ここには挙がっていないが「立つ」という動詞を考えてみる。
 通常、日本語で「立つ」と言えば、「座っている状態から立ち上がる」ことを指す。教室で先生が児童に向かって「はい、立ってぇ」と言う場面を想像してみるとよい。床に座っている児童たちが立ち上がる姿が思い浮かぶのではないだろうか。一方、英語の「stand」は「立つ」という意味にはならない。英和辞典を引いてみればすぐわかるように stand は「立っている」という意味で、「立ち上がる」という瞬間的な動作を意味しない。同様の例として、英語の「live」と「住む」「住んでいる」の関係がある。
 学習英和辞典や国語辞典には、このようなアスペクトに関わる情報が十分に載っているとは言えない。せいぜい「注意欄」のようなところで「訳し方に気をつけよう」と言うぐらいだ。特にテイル形はさまざまな意味用法があり、もっと明示的に情報を掲載してもよいのではないかと思う。もちろん「用例に語らせる」というやり方もよいが、国語辞典の場合は日本語母語話者以外の人たちにも配慮すべきだろう(実際、英英辞典だと学習者向けの辞典があるぐらいなのだし)。

■ 3. 達成動詞と含意動詞
 かつて G. ライルは 『心の概念』(みすず書房)のなかで 達成動詞 についてこう述べた(同書213ページ)。

 仕事動詞 task verb の論理的な力とそれに対応する達成動詞 achievement verb の論理的な力との間に見られる大きな相違の一つは、達成動詞を適用する際には何ごとかに役立つ作業活動の遂行そのもののほかにさらにある事態が成立しているということをわれわれは主張しているという点にある。たとえば、ある走者が勝つためには、彼が走るということだけでは十分ではなく、彼の競走相手が彼のあとでテープを切るということが必要とされる。医者が病気を治したと主張するためには、患者が治療されて再び健康を回復していなければならない。

 つまり、「治療する」は行為の遂行を表す「仕事動詞」で、「治す」は行為の結果までを意味する「達成動詞」である。知覚動詞の「見える(see)」は達成動詞で、「見つめる(look)」は仕事動詞となる。「見える」が達成動詞であるというのは、「見ているのに見えていない」という事態はあり得ないからである。

 達成動詞のバリエーションとして「含意動詞(implicative verb)」というものがある(柏野健次 『英語語法レファレンス』三省堂:296-298)。
 含意動詞とは、「過去形でしかも肯定文で用いられると、to不定詞で表されている行為が行われたという含意を持つが、否定文で用いられると to不定詞で表されている行為は行われなかったという含意を持つものを指す」。これをよく表しているのが次の例文だ。

(1)Scott managed to persuade her.
  スコットは彼女を何とか説得した。
 [=Scott persuaded her.]

 managed toではなくforget toを過去形かつ肯定文で使うと、to不定詞で表されている行為は行われなかったという含意を持つ。次のようなものだ。

(2)When I went out Kyoto I forgot to take the camera.
  京都に出かけたとき、カメラを持っていくのを忘れた。
 [=I didn’t take the camera.]

 さらに「非含意動詞」と呼ばれるものがある。この場合、過去形で使われると to不定詞で表されている行為の実現性があいまいになる。

(3)Dick didn’t want to look back at her.
  ディックは彼女のほうを振り返りたくはなかった。
 [=Dick looked back at her. or
   Dick didn’t look back at her.]

 
今回見てきたように、動詞の “生態” にはさまざまなものがある。次回もその奥深さを追究していきたい。

 

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