リーディングあれこれ  執筆者:北川知子(出版翻訳者)

今回は、リーディングの仕事について、日頃感じていることを簡単に書いてみたい。ご存知かと思うが、リーディングについては、原田勝先生の「原田勝の部屋 リーディングのディテール」に詳しい。
https://e-honyakusquare.sunflare.com/shuppan.sunflare.com/harada/dai_16.htm

リーディングの仕事は、ちょうど今読んでいるものが今年に入って4本目になる。昨年は合計8本。すべてノンフィクションで、ここ数年はこれくらいのペースでやっている。

●レジュメの作成

リーディングでは、出版社から提示された本の概要と読後感をまとめたレジュメを作成する。出版社では、そのレジュメを参考に、邦訳を出版するか否かの判断をされる。

原書の概要、著者について、各章ごとのあらすじ、所感を、特に指定がなければA4で3~4枚にまとめる。

著者については、原書に簡単な略歴が記されているが、研究者であれば所属する大学のサイトなどで履歴を確認し、レジュメに盛り込む。原書が既刊であれば、主要紙の書評なども参考にする。

その著者の他の邦訳書がすでに刊行されていれば、購入するか図書館で借りてざっと内容を確認し、原書との比較を簡単に記すこともある。

所感では、読後感、類書との比較、その本の特徴などを中心にまとめるが、なるべく長所と短所の両方をあげたうえで、全体としての判断を記すようにしている。

作業期間としては、2週間から1か月程度を提示されることが多い。

●リーディングを通して感じること

自分で原書を探し、企画を持ち込みたいという方もおられるだろう。「洋書の森」のように版権フリー(出版未契約)の新刊洋書を常設展示しているところもある。
http://www.shuppan-club.jp/wp/wp-content/uploads/2014/07/yousho1.pdf

リーディングでは、原書が出版される前の段階の最終稿(PDF)を読む場合が多い。まだ原稿になっていない段階の要約書のようなものを読んでレジュメを作成したこともある。その本はたしか2年後に出版予定のもので、これほど早い段階で邦訳出版の検討がなされていることに驚くとともに、翻訳者が書店や書評誌でみつけた新刊書の企画を持ち込んだとしても、たいていの場合は検討済みなのだろうと感じた。

しかし、昨年から今年にかけて、刊行後1~2年経過している原書のリーディングが続き、編集者の方がどういう経緯でそれらに目を留められたのかはわからないが、新刊であっても、何らかの理由で邦訳書が出版されていない場合もあるようだ。

これまでのところ、リーディング後に邦訳の出版が決まったものは3分の1程度。リーディングは楽しいがむずかしい。新しい本を開くときは、どんな内容なのか早く読みたくてワクワクする。その一方で、あらかじめ伝えられた情報と中身が大違いという場合も少なくなく、そういうときは最後まで読み通すのに苦労する。

リーディング後に邦訳出版が決まれば、翻訳を依頼されることが多い。転職したばかりの頃は、喉から手が出るほど仕事がほしかったので、リーディングをした本に対する評価も甘かったような気がする。今ももちろん仕事はほしいが、仮に邦訳出版が決まったとしても、自分のスケジュールと合うかどうかわからないし、別の方に翻訳を依頼される場合もある。むしろ、自分が邦訳書の読者だとしたら、この本を買うだろうか、と問いかけ、読者としての率直な感想を書くよう心がけている。

最後に、新しい訳書のご案内を。
『戦時ストライキ』(マーティン・グラバーマン著、こぶし書房)
http://www.kobushi-shobo.co.jp/book/b199733.html
第二次世界大戦時、デトロイトの自動車労働者は戦時総動員体制への協力を表明していたが、その一方で山猫ストが頻発していた。著者は、労働者の意識と行動の矛盾に着目し、インタビューや入手可能な資料をもとに矛盾の奥にあるものを描き出している。

 

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