JTFスタイルガイドセミナー「プロが教える日本語文章の校正・リライトのテクニック」を受講して 執筆者:川月現大(編集者)

 先日、JTF(日本翻訳連盟)主催のセミナーを受講しました。「プロが教える日本語文章の校正・リライトのテクニック」というセミナーで、講師は磯崎博史さん。磯崎さんは校正者・リライターで、手掛けた書籍は200冊以上というプロフェッショナルです。

JTFスタイルガイドセミナー「プロが教える日本語文章の校正・リライトのテクニック」講師:磯崎博史 2015年4月24日(金)10:30〜12:30 於:明治薬科大学 剛堂会館
http://www.jtf.jp/jp/style_guide/styleguide_seminar.html

 冒頭では、翻訳文においては「日本語として自然」かどうかが非常に重要であるとし、「日本語の運用能力を高める」ことが「選ばれる翻訳者」になるためには重要と指摘。続いて「校正」「校閲」「推敲」「リライト」「ブラッシュアップ」という言葉の定義を解説しました。
 以降は実習中心の講義で、次の4つをテーマとして課題が出されました。

  1. ふさわしい語句の選択
  2. 重複の解消
  3. 適切な表記
  4. 正文に仕上げる

 なお、4. の「正文(せいぶん)」は「正しい文」という意味で使っています。主語と述語が対応しているか(ねじれ文の解消)、語句の修飾関係が適切かどうかが問題となります。

文脈の正確な把握

 ウォーミングアップの最初の課題は次のようなものでした。

  今年のクリスマスイブ、
  相手います!
  お会いできませんか?

 問題は2行目の「相手います!」の箇所です。講師の意図としては、「相手」が誤変換で「空いています!」が正解(1)、ということでした。しかし受講者からは「こういうケースも考えられる」と、講師の意表を突く答えもありました。

 (1)空いています! [話者の宣言]
 (2)相手、います? [聞き手への質問]
 (3)相手します!  [「い」の入力ミス]

 これらの答えのうち、どれが正しいかは文脈に依存します。このため、「文脈の正確な把握」なしには正しい校閲・リライトはできません。
 次に、「文脈の正確な把握」ができない場合について考えてみます。なお、以下の記述は筆者の意見で、磯崎さんが説明されたものではありません。

「文脈の正確な把握」ができない場合

 実務レベルでの問題は「文脈の正確な把握」ができない場合です。実務翻訳(あるいは原稿整理)において、原文(あるいは原稿)がそれほど難しくない内容でしたら文脈の把握も容易でしょう。しかし高度の専門的知識が必要なもの、議論の抽象度が高いもの(思想・哲学分野)だと、文脈の正確な把握が容易ではない箇所が出てきてもおかしくありません。では、その場合、どうすべきか?

 (a)著者に尋ねる
 (b)知人に尋ねる(SNSなども活用)
 (c)専門家に尋ねる
 (d)書籍・雑誌などの紙情報で調べる
 (e)インターネットを検索する
 (f)有料データベースを検索する(「小学館ジャパンナレッジ」など)

 このほかにも情報源はいろいろあるでしょう。結局のところ、「文脈の正確な把握」は個々人の理解力だけではなく「調査力」が必要になるということです。そして効率的な調査を行うには、闇雲に検索するのではなくアタリをつけ、このあたりに“お宝”がありそうだと仮説を立て、実際に人に尋ねたり検索したりしてみます。そこで得られた情報は検証され、もしその情報が“当たり”でなければ、再度仮説を立てて探索を続けます。
 「仮説 − 検証」のループが何度も続いている場合、それは「調査に時間がかかっている」状態です。なぜ時間がかかるのか? いろいろ可能性はありますが、次の3つが思い浮かびます。対処法とともに記します。

  1. 最先端技術であるために情報が少ない
  2. アタリのつけ方が悪い(仮説が間違っている)
  3. 単に検索ベタ(Googleの検索オプションの使い方を知らない)

 これら3つに対する対処法は次のようになります。

  • 1. のケースでは、いくら検索しても情報は出てこないのだから、「専門家に尋ねる」ための方策を立てるべき。
  • 2. のケースでは、当該分野への知識が不十分であるためアタリのつけ方が悪くなっている可能性がある。教科書レベルの文献を数冊、専門書レベルの文献を数冊、それぞれ著者が違うものを通読(めくるだけでもよい)する。
  • 3. のケースでは、Googleの検索オプションのヘルプを眺めて、指定キーワードを除外する演算子「-」や、サイトの指定(政府機関ならsite:go.jp)やワイルドカード( * )を使えるようになる。

 こう考えてみると、「文脈の正確な把握」というのはそれほど簡単ではありません。単に「日本語の運用能力」だけ上げても正解に至らないことがあります。いま取り組んでいる文章の題材に関して、自分はどこまで知っているのか、自分は何を知らないのか、自分の検索リテラシーは十分なのか。これらを見極める能力も必要です。この能力は メタ認知能力 と呼ばれていて、自分のことを客観的に把握する能力のことです。
 なかにはメタ認知能力に限らず、ずば抜けた能力を持っている人がいますが、悲観することはありません。程度の差こそあれ、人間の持つあらゆる能力は鍛えることができるものです。

 最後に二つ、関連記事をご紹介しておきます。
 是非見て頂きたいのは、井口耕二さんのブログです(コメント欄もお忘れなく)。セミナーの最後の演習4について検証していて参考になります。たしかに、書き手の気持ちの流れに沿って記述するのは重要ですね。

● JTFスタイルガイドセミナー「プロが教える日本語文章の校正・リライトのテクニック」: Buckeye the Translator(文=井口耕二)
http://buckeye.way-nifty.com/translator/2015/04/jtf-1688.html

 実はわたくし、このセミナーの書記も仰せつかっていて、受講レポートも間もなく提出予定です。受講レポートはJTFのサイトで公開されるので、あわせてお読みいただければと思います。

● JTFジャーナルWeb[日本翻訳ジャーナル 2015年7月/8月号 #278 に受講レポート掲載予定]
http://journal.jtf.jp/

 

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