英文読解 第10回:The Remains of the Day 執筆者:翻訳修行中

Kazuo Ishiguroという作家をご存じでしょうか。日本で生まれ、5歳の時に父親の仕事の都合で渡英、そのままイギリスに帰化した作家です。幼い頃に渡英しているため日本語の作品はなく、そのすべてが英語で書かれています。The Remains of the Dayは彼の代表作とされる小説で、1989年、イギリス最高の文学賞であるブッカー賞を受賞し、のちにアンソニー・ホプキンス主演で映画化されました。老執事の回想のなかから、無駄に生きられた(と言えるかもしれない)人生の悲しさが浮かび上がってきて、不器用な老執事の姿に共感させられます。冒頭部分を見ていきましょう。

①It seems increasingly likely that I really will undertake the expedition that has been preoccupying my imagination now for some days. ②An expedition, I should say, which I will undertake alone, in the comfort of Mr Farraday’s Ford; an expedition which, as I foresee it, will take me through much of the finest countryside of England to the West Country, and may keep me away from Darlington Hall for as much as five or six days. ③The idea of such a journey came about, I should point out, from a most kind suggestion put to me by Mr Farraday himself one afternoon almost a fortnight ago, when I had been dusting the portraits in the library. ④In fact, as I recall, I was up on the step-ladder dusting the portrait of Viscount Wetherby when my employer had entered carrying a few volumes which he presumably wished returned to the shelves.

①increasingly「ますます、だんだん」(more and moreより堅い)
imagination ここでは「想像(力)」ではなく、「頭、脳裏」

②in the comfort of Mr Farraday’s Ford「Farraday氏のフォードの快適さのなかで」→「Farraday氏の快適なフォードに乗って」
;(セミコロン)(1)敷衍、(2)比較、(3)対照、(4)大きなandのうち、(4)。
as I foresee it このasは接続詞で、直前の名詞(expedition)を制限しています。「私が予見するexpeditionなるもの」
the West Country 「(イングランドの)西部地方」

③come about「(事が)起こる、生じる、発生する」
a most kind suggestion a most+形容詞+単数名詞で、「とても、たいそう」(veryより堅く、古い言い方)
himselfは直前のMr Farradayを強調。「Farraday氏みずからが〜」
fortnight「2週間」(古英語の14夜(fourteen nights)から)

④as I recall このasは関係代名詞で、文全体を先行詞として非制限関係詞節を導いています。(例:We had completely misjudged the situation, as we later discovered.)
「そういえば、今思い出すと、たしか」
Viscount Wetherby「ウェザビー子爵」(※架空の人物)
presumably [文修飾]「どうも…らしい、たぶん」

【試訳】(今回、かなり意訳です)
①ここ数日のあいだ、私の頭を占めつづけている旅行の話が、だんだんと現実味を増してきている。②ファラデー氏の快適なフォードを駆って、ひとりきりで旅へ出るのだ。英国のすばらしい田園のなかを西部へと向かう──もしかしたら、ダーリントンホールから5、6日も離れることになるかもしれない。
③旅行に出るという話は、2週間ほど前のある日の午後、ファラデー氏からご提案いただいたのがきっかけだった。そのとき、私は図書室で肖像画のほこりを払っていた。④脚立の上でウェザビー子爵の肖像画を払っていると、わが雇い主が書物を数冊抱えて棚に戻そうと入ってこられたのである。

【参考文献】
Kazuo Ishiguro “The Remains of the Day”(1989、Faber and Faber)
ジーニアス英和大辞典
ランダムハウス英和大辞典

 

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