初めに③:主宰者 柴田耕太郎

40年ほど前は難関大学に落ちるとその足で駿台に行くのが慣いだった。午前部には試験があり、某都立有名高の連中などは徒党をなして受験、解答を回しあったのがばれ、以後ばらばらの座席で受けさせられたことも。

それほど人気があったのは、教授陣の質の高さだろう。特に英語では、サマセット・モームのシニカルな文章を絶妙な語り口で解きほぐす奥井潔(東洋大教授)。受験の神様と称されユーモアたっぷりに教える鈴木長十(英語科主任)。そして精緻に文法的な迫り方をする伊藤和夫(専任講師)。

伊藤と鈴木の授業を較べる機会があった。リンカーンのゲティズバーグ演説government of the people, by the people, for the people「人民の人民による人民のための政治」。伊藤はofを目的格、byを行為主、forを目的ととり「人民を人民が人民のために治めること」と解説した。なるほど論理的、高校の英語と違うなと感心した。そのあと偶々友人のいる別のクラスで鈴木の授業を聞いた。長十先生によればofは関連、カンマ以下は言い換え。「人民の政治」といって、これでは分かりにくいかと感じたリンカーンがとっさに、「すなわち人民による人民のための政治」としたという。英語の正解は一つとは限らないのを知って、ほっとしたのを覚えている。

謹厳な伊藤が授業中珍しく雑談をしたことがある。頼まれて入社試験の採点をしていたとき、一流企業に応募する学生にしては出来の悪い答案に出会った。どこかその名前に憶えがあるので気になって調べて見ると…何と自分が予備校で教えていた、ずば抜けて出来る学生だったではないか!大学に入るといかに勉強しなくなるか、よほど印象に残っていたのだろう。今は少しは変わっているのだろうか?

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