不適切さ生み出す法 執筆者:鯛焼き

 これは1602年に英国で争われた裁判に関するお話です。
 エリザベス女王の侍従(Groom of the Chamber)あった、エドワード・ダーシーが、女王から、英国におけるすべてのトランプを独占輸入独占販売する特許状を授かったことから、この物語は始まります。特許状は、国の産業の発達を促すためという建前のもとに授けられていたものでした。しかし、当時は、女王が国政を賄う上での有力な収入源の一つになっていたともいわれています。女王がなぜこの侍従にこのような特許状を付与したのかは明らかではありません。しかし、トランプの輸入販売に独占権を付与することで公共の利益に寄与できるとは、女王も考えてはいなかったのではないでしょうか。
 一方、トーマス・アリンは、ロンドンの有力ギルドの一つであるWorshipful Company of Haberdashersのメンバでした。アリンはトランプを自ら製造し販売をしていました。ギルドですから、アリン自身も自由競争をしていたというわけではありません。公正な自由競争や職業選択の自由を前提にはなっていない時代の話なのです。
 そんな中、ダーシーは、トランプを販売したとして、アリンを女王の裁判所に、損害賠償を求める訴えを起こしました。訴状は受理されました。
 そして、裁判所は終結しました。裁判所は、ダーシーの訴えを退け、女王が授けた特許状は無効との判断を下しました。理由は、概略、女王は公共の利益を目的として特許状を与えたはずだが、この独占権は、既存の熟練事業者を排斥し、トランプの価格を高騰させ、トランプの製造知識すら持たないダーシーの私欲をただ満たすだけものであり、結局、女王は騙されたのだ、というものです。
 この事件は女王とギルドの争いとみることもできます。また、女王の裁判所が女王の特許状を無効と判断する。これは、マグナカルタを経た英国政治の在り方の一面をも示していると思います。
 この事件は、現代特許法の源である専売条例(Statute of Monopolies 1624年)の端緒となった判決であると認識されています。専売条例では、国王は既存の産業に特許権は与えてはならいとし、一方、真実かつ最初の発明者には14年間の独占権のみが付与できるとされています。
 エリザベス女王と侍従ダーシーとの間で行われた不適切な特許状付与が、現代特許法の淵源であったというお話でした。

以上