「英文をスラスラ読みたければサウナに入りなさい」 執筆者:堀エマソン

皆さん、こんにちは。4月から第4週のブログを担当することになりました、堀エマソンと申します。
突然の自己啓発書のような、あるいは胡乱な健康法のようなタイトルに驚かれた方もいらっしゃるでしょう。
しかし、私は声を大にして言いたい。

全人類はサウナに入るべきであると。

思わず主語とフォントが大きくなりました。

英文教室に通う前と後とでは、英文の読み方がまったく変わってしまいました。もうaとtheの違いを曖昧にしたまま読むことはできませんし、andを「そして」と機械的に訳すこともありません。そのあたりは柴田先生や諸先輩方が書いてくださっていますので、ここでは言及を控えます。これと同じように、サウナの楽しみを知る前と後とでは人生がまるきり変わると言っても過言ではないのです。

きっかけはマンガ『サ道』と、それを読んだ友人がサウナにのめりこんだことでした。
このマンガの作者は「コップのフチ子」の生みの親であるタナカカツキさん。公益社団法人日本サウナ・スパ協会からサウナ大使にも任命されています。作者をモデルにした主人公がサウナの気持ちよさに目覚め、足しげく通い、サウナ道=サ道を探求するお話です。
サウナから出て水風呂に入ったときにできるという「温度の羽衣(冷たい水がほてった身体で中和されうす~い温度の膜ができる)」を初めて体験した主人公が「なるほど!水風呂に肩まで浸かっているオッサンらは皆この繊細な羽衣をまとっていたのか!」と得心し、サウナ後に身体がきわめてリラックスした時に訪れるトランス状態を「ととのった」と表現するなど、ポップな絵と親しみやすいストーリーの中にもパンチの利いたセリフが随所にあるのが面白いと感じました。でもサウナといえば、幼少期のスイミングスクールでプールから上がったあと、暑苦しい思いをしながら入らされた記憶がよみがえり、その時はそういう世界もあるのだと知るのみにとどまっていたのです。
しかし、友人の熱心な布教によって周囲には徐々にサウナ愛好家が増えていきました。『サ道』を改めて全部読むと、「ロウリュ」「アウフグース」といった未知の単語が主人公含むサウナーたちの間で常識のごとく交わされていることに言い知れぬ興奮を覚えますし、「ととのった」瞬間を味わってみたい気持ちになります。近所の銭湯がバスの音声広告を流しており、サウナ・薬草風呂・炭酸泉つき露天風呂があることは知っていました。
そして自らサウナに足を運んで半年も経たぬうち、私はサウナの虜となったのです。

ではサウナに入るとなぜ英文がスラスラ読めるようになるのか。
まず、当然ですがサウナにはタオルと身一つで入らなければなりません。銭湯の場合にはテレビがついているサウナもありますが、本も新聞・雑誌もパソコンもスマホも持ち込むことはできず、照明も薄暗いため、強制的に外からの情報がシャットアウトされます。頭の中で考えごとを始めてはみるものの、とにかく「暑い」ということに意識が引きずられますので、複雑なことは考えにくくなり、おのずと身体のほうに感覚が集中していきます。汗が肌をつたい、熱い空気が鼻の奥をじりじりと焼き、喉の渇きを覚えます。

サウナ内には砂時計や12分計が置かれているので、それを目安にするのもよいですが、十分に身体が温まったら、あるいはこれ以上は無理だと思ったら外に出て、汗を流してから水風呂に入ります。サウナに通うようになって知ったのですが、サウナはサウナ単体では意味がなく、その後の水風呂と休憩が本番でありご褒美なのです。しかし以前の私のように、あの冷たさはとても無理だという方も多いでしょうから、最初は膝や腰までだけ浸かるのもいいですし、冷たい、あるいはぬるめのシャワーを手足にかけるなどでも構いません。ただし経験的に言うと、サウナと水風呂との温度差が大きければ大きいほど(例えば水風呂の代わりにまだ氷の張った3月の湖に入るなど。この話はおいおい書くかもしれません)、容易に「ととのった」状態に達することができますので、勇気を出して入ってみるとよいでしょう。躊躇せずに、浴槽の縁から3歩で肩まで浸かるのがコツです。

水風呂を出たらタオルでしっかりと水気を拭きます。露天風呂など、屋外に座れるところがあれば理想的ですが、そうでない場合は浴室内や脱衣所のイスに座って休憩します。すると「ととのった」、つまり身も心も深いリラックス状態が訪れます。涼しい風が皮膚をなでてピリピリとするのが心地よく、目を閉じてめまいとは違う快い浮遊感に身を任せ、束の間、忘我の境をさまよいます。
これを数回繰り返すと、生まれ変わったかのように頭の中の雑念は消え、思考は非常にクリアに、心持ちは前向きになります。そんなに変わるものかとお疑いの方もいらっしゃるでしょう。しかし、人間の思考や感情は身体の状態によってあんがい左右されるというのが、サウナを愛好するようになった私の個人的な実感です。

英文を読んでいて行きづまってしまい、考え続けても分からないときや、ぴったりの表現が浮かんでこないとき、ふとしたきっかけで答えが見つかることがあります。サウナは身体をリラックスさせ、思考をフラットに戻してくれます。頭がクリアになれば自然と読解の突破口が見つかるはず。そのうえ身体も芯から温まり、疲れが取れ、ぐっすりと眠れます。ほろ酔いで英文を読むことができるかどうかはさておき、そのあとに飲むビールのおいしいことといったら!

平成と令和をまたぐ10日間のゴールデンウイークが来週末から始まります。お出かけをされる方やお仕事の方など、過ごし方はさまざまだと思いますが、遊びや仕事に疲れたら、ぜひお近くのサウナに足を運んでみてください。遠くの温泉を訪れるよりも気軽に、お安くリフレッシュできること請け合いです。

これから月に一度、(筆が続く限りは)サウナの楽しみについて、そして私は如何にして英文読解に悩むのを止めてサウナを愛するようになったかを書いていきたいと思います。
来月は「聖地巡礼 ~静岡の名サウナ・しきじに行ってきた話~」です。
1年間よろしくお願いします。

参考資料:『マンガ サ道~マンガで読むサウナ道~』タナカカツキ(講談社)
「温度の羽衣」のくだりは下記リンク先から試し読みすることができます。
http://morning.moae.jp/lineup/468